良寛歌集 (Kashu) | ||
月の兎
天雲のむか伏すきはみ
たにぐくのさ渡る限り
國はしもさはに有れども
里はしも數多あれども
御佛の生れます國の
あきかたの其の古の
事なりき猿と兎と
狐とが言をかはして
朝には野山にかけり
夕には林に歸り
かくしつつ年のへぬれば
ひさがたの天のみことの
きこしめし僞誠
しらさんと旅人となりて
あしびきの山行き野行き
なづみ行きをし物あらば
給へとて尾花折り伏せ
憩ひしに猿は林の
ほづえより木の實をつみて
まゐらせり狐はやなの
あたりより魚をくはへて
來りたり兎は野べを
走れども何もえせずて
有りしかばいましは心
もとなしと戒めければ
はかなしや兎うからを
たまくらく猿は柴を
折て來よ狐はそれを
焚きてたべまけのまに/\
なしつれば炎に投げて
あたら身を旅人のにへと
なしにけり旅人はこれを
見るからにしなひうらぶれ
こひまろび天を仰ぎて
よよと泣き土にたふれて
ややありて土うちたゝき
申すらくいまし三人の
友だちに勝り劣りを
いはねども我れは兎を
愛ぐしとて元の姿に
身をなしてからを抱へて
ひさがたの天つみ空を
かき分けて月の宮にぞ
葬りけるしかしよりして
つがの木のいやつぎ/\に
語りつぎ言ひつぎ來り
ひさがたの月の兎と
言ふことはそれが由にて
ありけりと聞く我れさへに
白たへの衣の袖は
とほりて濡れぬ
たにぐくのさ渡る限り
國はしもさはに有れども
里はしも數多あれども
御佛の生れます國の
あきかたの其の古の
事なりき猿と兎と
狐とが言をかはして
朝には野山にかけり
夕には林に歸り
かくしつつ年のへぬれば
ひさがたの天のみことの
きこしめし僞誠
しらさんと旅人となりて
あしびきの山行き野行き
なづみ行きをし物あらば
給へとて尾花折り伏せ
憩ひしに猿は林の
ほづえより木の實をつみて
まゐらせり狐はやなの
あたりより魚をくはへて
來りたり兎は野べを
走れども何もえせずて
有りしかばいましは心
もとなしと戒めければ
はかなしや兎うからを
たまくらく猿は柴を
折て來よ狐はそれを
焚きてたべまけのまに/\
なしつれば炎に投げて
あたら身を旅人のにへと
なしにけり旅人はこれを
見るからにしなひうらぶれ
こひまろび天を仰ぎて
よよと泣き土にたふれて
ややありて土うちたゝき
申すらくいまし三人の
友だちに勝り劣りを
いはねども我れは兎を
愛ぐしとて元の姿に
身をなしてからを抱へて
ひさがたの天つみ空を
かき分けて月の宮にぞ
葬りけるしかしよりして
つがの木のいやつぎ/\に
語りつぎ言ひつぎ來り
ひさがたの月の兎と
言ふことはそれが由にて
ありけりと聞く我れさへに
白たへの衣の袖は
とほりて濡れぬ
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