University of Virginia Library

わくらば

わくらばに人となれるを
打ちなびきやまふのとこに
ふしこやし癒ゆとはなしに
いたづきの日にけにませば
そこ思ひみをおもそふに
思ふそら安からなくに
なげく空苦しきものを
あからひく晝はしみらに
水鳥の息つき暮し
ぬばだまの夜はすがらに
人のぬる安いもいねず
たらちねの母がましなば
かい撫でてたらはさましを
わかくさの妻がありなば
とりもちてはぐくまましを
家とへば家もはふりぬ
はらからもいづちいぬらん
うからやもひとりも見えず
つれもなく荒れたる宿を
うつせみのよすがとなせば
うづら鳴くふる里すらを
くさ枕旅ねとなせば
一日こそ堪へもしつらめ
二日こそ忍びもすらめ
あらたまの長き月日を
いかにして明かし暮さん
うちつけに死なめともへど
たまきはるさすが命の
をしければかにもかくにも
すべをなみ音をのみぞ泣く
ますらをにして
あらたまの長き月日をいかにしてあかしくらさんあさで小ぶすま