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金葉和歌集卷第八 戀歌下
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
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8. 金葉和歌集卷第八
戀歌下

良暹法師

始めたる戀のこゝろをよめる

かすめては思ふ心をしるやとて春の空にも任せつるかな

藤原範永朝臣

公任卿の家にて紅葉、海の橋立、戀と三つの題を人によませ侍りけるにおそくまかりて人々みなかきけるほどなりければ三つの題を一つによめるうた

こひわたる人にみせばや松の葉も下もみぢする天の橋立

源師俊朝臣

後朝戀の心をよめる

東雲の明けゆく空も歸るさは涙にくるゝ物にぞありける

内大臣

月増戀といへる事をよめる

いとゞしく面影にたつ今宵哉月見よとしも契らざりしを

藤原顯輔朝臣

戀の心を

戀侘びてねぬ夜積れば敷妙のさへこそうとくなりけれ

藤原仲實朝臣

鳥羽殿の歌合にこひの心をよめる

夜と共に袖のかわかぬ我が戀やとしまが磯によする白浪

中納言雅定

晩のこひといへる事をよめる

逢事を今宵と思はゞ夕づく日いる山のはも嬉しからまし

右兵衛督伊通

戀の心をよめる

山の井の岩もる水に影みれば淺ましげにもなりにける哉

太宰大貳長實

皇后宮にて人々こひの歌つかうまつりけるによめる

陸奧の思ひしのぶにありながら心にかゝるあふの松ばら

皇后宮權大夫師時

戀の心をよめる

人しれぬ戀をしすまの浦人は泣き潮垂れて過すなりけり

權僧正永縁

奈良の人々百首の歌よみけるに恨の心をよめる

思はむと頼めし人の昔にもあらずなるみの恨めしきかな

隆源法師

戀の歌とてよめる

くるゝまも定めなき世に逢事をいつ共志らで戀ひ渡る哉

前中宮越後

藏人家時かれ%\になりけるを恨みていひ遣はしける

人心あさ澤水のね芹こそかるばかりにもつまゝほしけれ

修理大夫顯季

俊忠卿の家にて戀の歌十首人々よみけるにたち聞きて戀ふといへる事をよめる

わぎも子が聲たちきゝし唐衣その夜の露に袖はぬれけり

讀人志らず

我をばかれ%\になりてこと人の許へまかると聞きてつかはしける

ことわりや思ひくらぶのやま櫻匂まされる花をめづるも

周防内侍

郁芳門院の根合に戀のこゝろをよめる

戀ひわびて眺むる空の浮雲や我が志たもえの烟なるらむ

前齋宮河内

人をうらみて五月五日につかはしける

逢事のひさしにふける菖蒲草唯かりそめの妻とこそ見れ

太宰大貳長實

戀の心をよめる

つらきをも憂をも志らぬ身の程に戀しさ爭で忘れざる覽

前中宮上總

題志らず

さきの世の契を志らで儚くも人をつらしと思ひけるかな

源俊頼朝臣

戀の歌よみける所にてよめる

忘草志げれる宿をきてみれば思の木よりおふるなりけり

讀人しらず

人をうらみて

今よりは思ひも出でじ恨めしといふも頼みのかゝる契は

左兵衞督實能

逢不遇戀をよめる

思ひきや逢見し夜はの嬉しさに後のつらさの勝るべしとは

讀人志らず

人をうらみける頃心地例ならずおぼえければよめる

あはず共なからむ世には思ひ出よ我ゆゑ命絶えし人かと

藤原永實

女のがり遣はしける

する墨も落つる涙に洗はれて戀しとだにもえ社かゝれね

中納言國信

家の歌合に初戀を

色みえぬ心ばかりは靜むれど涙はえこそ志のばざりけれ

讀人志らず

題志らず

逢事は夢計にてやみにしをさこそみしかと人にかたるな

大納言經信

芦垣の隙なくかゝるくものいの物むつかしく繁るわが戀

藤原忠隆

おさふれどあまる涙はもる山の歎きにおつる雫なりけり

橘俊宗女

なき名たちける頃月をみてよめる

如何にせむ歎の杜は茂けれど木の間の月の隱れなき世を

前齋院肥後

もの申しける人の久しう音もせざりければ遣はしける

芦ぶきのこや忘らるゝつまならむ久しく人の音信もせぬ

左兵衛督實能

戀の心をよめる

我戀の思ふ計の色にいでばいはでも人にみえましものを

春宮大夫公實

もろともに敦公をまちけるにさはる事ありていりにける後鳴きつやなどたづねけるを聞きてよめる

郭公雲居のよそになりしかば我ぞなごりの空に泣かれし

藤原成通朝臣

冬戀といへる事を

水の上にふる白雪の跡もなく消や志なまし人のつらさに

權僧正永縁

多聞といへる童をよびに遣はしたりけるに見えざりければ月のあかゝりける夜よめる

まつ人の大空わたる月ならばぬるゝ袂にかげはみてまし

攝政左大臣

寄水鳥戀

あふ事も渚にあさる蘆鴨のうきねをなくと人志るらめや

盛經母

人を恨みてよめる

さのみやは我身の憂に爲果てゝ人のつらきを恨みざるべき

源雅光

攝政左大臣の家にて戀の心をよめる

名に立るあはでの浦の蜑だにもみるめは潜く物と社きけ

前齋宮甲斐

うらめしき人のあるにつけて昔思ひ出でらるゝ事ありて

今人の心をみわの山にてぞすぎにしかたは思ひ志らるゝ

橘俊宗女

忘れたる人のおもひ出でゝ音づれたるによめる

めづらしや岩間に淀む忘水いく世をすぎて思ひいづらむ

左京大夫經忠

皇后宮にて山里戀といへる事をよめる

山里の思ひかけぢにつらゝゐてとくる心のかたげなる哉

讀人志らず

山の歌合にこひの心をよめる

たまかさに逢ふ夜は夢の心地して戀しもなどか現なる覽

中原章經

いかでかと思ふ人のさもあらぬさきにさぞなど人の申しければよめる

こひわぶる君にあふてふ言の葉は僞さへぞ嬉しかりける

前中納言資仲

伊賀少將がもとへつかはしける

よもの海の浦々毎にあされ共怪しやみえぬいけるかひ哉

伊賀少將

かへし

邂逅に浪の立寄る浦々はなにのみるめのかひかあるべき

源親房

忍戀の心をよめる

物をこそしのべばいはぬ岩代の森にのみもるわが涙かな

橘俊宗女

ものおもひ侍りけるころ月のあかゝりける夜あかざりし面影つねよりもたへがたくてよめる

つれ%\と思ぞ出づるみし人をあはで幾月詠めしつらむ

上總侍從

題志らず

あさましや涙の浮ぶわが身かな心かろくは思はざりしを

源縁法師

ものへまかりける道にはした物のあひたりけるをとはせ侍りければ上東門院に侍るすまひこそとなむ申すといひけるを聞きていひ遣しける

名聞くより兼ても移る心哉いかにしてかはあふべかる覽

民部卿忠教

戀の心をよめる

こひわびてたえぬ思の煙もやむなしき空の雲となるらむ

大納言經信

女のもとへ遣はしける

逢事はいつともなくて哀れわがしらぬ命に年をふるかな

藤原顯綱朝臣

ある所にて女房のながき髮を打ちいだして見せければよめる

人しれず思ふ心を叶へなむかみ顯はれて見えぬとならば

中納言俊忠

堀河院の御時艷書合によめる

人しれぬ思ありその浦風に浪のよるこそいかまほしけれ

一宮紀伊

かへし

音にきく高師の浦の仇波はかけじや袖のぬれもこそすれ

攝政家堀川

くれには必とたのめたりける人のはつかの月出づるまで見えざりければよめる

契りおきし人も梢の木間よりたのめぬ月の影ぞもりくる

江侍從

心かはりたる人のもとへ遣はしける

目のまへにかはる心を涙河ながれてやとも思ひけるかな

源兼昌

國信卿の家の歌合に初戀の心をよめる

けふ社は岩瀬の杜の下紅葉色に出づれば散りもしぬらめ

出羽辨

雪の朝に出羽辨がもとよりかへり侍りけるにこれよりおくりて侍りける

送りては歸れと思ひし魂の行きさすらひてけさはなき哉

大納言經信

かへし

冬の夜の雪げの空にいでしかど影より外に送りやはせし

前齋院六條

住みかをしらせぬ戀といへる事をよめる

行方なくかき籠るにぞひき繭のいとふ心の程はしらるゝ

讀人志らず

よにあらむ限はわすれじと契りたりける人の久しう音もせざりければよめる

人はいざありもやす覽忘られて問れぬ身社なき心地すれ

源俊頼朝臣

寄關戀をよめる

勿來といふ事をば君が言草を關の名ぞとも思ひけるかな

讀人志らず

としごろもの申しける人のたえて音づれざりければつかはしける

はやくよりあさき心を見てしかば思ひたえにき山川の水

題志らず

もらさばや細谷川のうもれ水かげだに見えぬ戀に沈むと

男の今日は方たがへにものへまかるといはせ侍りければ遣はしける

君こそは一夜廻りの神ときけなにあふ事の方たがふらむ

藤原顯輔朝臣

後朝戀の心を

梓弓かへるあしたの思には引きくらぶべき事のなきかな

皇后宮少將

人のもとよりせめて袖ぬらす樣をみせばやなゝどいはせたりければよめる

恨むともみるめもあらじ物ゆゑに何かは蜑の袖濡すらむ

修理大夫顯季

旅宿戀といへることをよめる

戀しさをいもしるらめや旅ねして山の雫に袖ぬらすとは

一宮紀伊

人の夕方まうでこむと申したりければよめる

恨むなよ影みえ難き夕月夜おぼろげならぬ雲間まつ身ぞ

藤原永實

くら人にて侍りける頃内をわりなく出でゝ女のもとにまかりてよめる

三日月の朧げならぬ戀しさにわれてぞ出づる雲の上より

源信宗朝臣

周防内侍したしくなりて後ゆめ/\この事もらすなゝど申しければよめる

逢はぬ夜は睡ろむ程のあらば社夢にもみきと人に語らめ

左京大夫經忠

なき名たつといへる事をよめる

人志れぬなき名はたてど唐衣かさねぬ袖はなほぞ露けき

大中臣輔弘女

人をうらみてよめる

味氣なく過ぐる月日ぞ恨めしき逢見し程を隔つと思へば

僧都公圓

三井寺にて人々戀の歌詠けるに詠る

つらしとも思はむ人は思はなむ我なれば社身をば恨むれ

讀人志らず

かたらひける女のもとにまからむなど申しけれどさはる事ありてまからざりければ五月雨のころおくりて侍りける

梅雨の空頼めのみ隙なくて忘らるゝ名ぞ世にふりぬべき

左兵衞督實能

返し

忘られむ名はよにふらじ梅雨も爭でか暫し小休ざるべし

讀人志らず

題志らず

あま雲のかへしの風の音せぬは思はれじとの心なるべし

足曳の山のまに/\倒れたるからきは獨ふせるなりけり

津の國のまろやは人を芥河君こそつらきせゞはみえしか

あふみてふ名は高島に聞ゆれどいづらはこゝに栗本の里

笠とりの山によをふる身にしあれば炭燒きもをる我心哉

み熊野に駒の躓く青つゞら君こそまろがほだしなりけれ

こりつむる歎をいかにせよとてか君に逢期の一節もなき

逢期なき物と志る/\何にかは歎を山とこりはつむらむ

うとましや木の下蔭の忘れ水いくらの人の影をみつらむ

謀るめる言のよきのみ多けれど空歎をばこるにやある覽

逢事の今は形見のめをあらみもりて流れむ名こそ惜けれ

逢事は片ねぶりなるいそ額ひねりふす共かひやなからむ

近江にかありといふなる餉山君は越えけり人とねくさし

逢事の交野に今は成ぬれば思ふがりのみゆくにや有る覽

逢事はながめふる屋の板廂さすがにかけて年のへぬらむ

かしがまし山の下行くさゞれ水あなかま我も思ふ心あり

盗人といふもことわりさ夜中に君が心をとりにきたれば

はな漆こやぬる人のなかりけるあなはらぐろの君が心や

前齋院六條

寄石戀といへる事をよめる

あふ事をとふ石神のつれなきにわが心のみ動きぬるかな

源雅光

攝政左大臣の家にて戀の心を詠る

數ならぬ身をうぢ川のはし/\といはれ乍も戀渡るかな

修理大夫顯季

戀の歌十首人々よみけるに來不留といふ事をよめる

玉津島きしうつ浪の立ち歸りせないでましぬ名殘久しも

春宮大夫公實

戀の歌とてよめる

逢事は舟人よわみこぐ舟のみをさかのぼる心地こそすれ

顯仲卿母

心からつきなき戀をせざりせば逢はで闇には惑ざらまし

内大臣家小大進

斯ばかり戀の病は重けれどめにかけさげてあはぬ君かな

源顯國朝臣

攝政左大臣の家にて、時々あへりといへる事をよめる

我戀は志づの志げ糸すぢよわみ絶間は多く來るは少なし

源俊頼朝臣

戀の歌人々よみけるによめる

淺ましやこは何事の樣ぞとよ戀せよとても生れざりけり

源行宗朝臣

寄夢戀をよめる

つらかりし心ならひに逢見てもなほ夢かとぞ疑はれける

源俊頼朝臣

俊忠卿の家にて戀の歌十首人々よみけるにおとしめてあはずといへる事をよめる

怪しきも嬉しかり鳬卑しむる其言の葉にかゝると思へば