University of Virginia Library

5. 金葉和歌集卷第五
賀歌

堀河院御製

長治二年三月五日内裏にて竹不改色といへることをよませ給うける

世々ふれど面變りせぬ河竹はながれての世の例なりけり

六條右大臣

郁芳門院の根合に祝の心をよめる

萬代はまかせたるべし石清水ながき流れを君によそへて

大納宮俊實

堀河院の御時中宮はじめて遷御の時松契遐年といへる事をよめる

水の面に松の志づえのひぢぬれば千歳は池の心なりけり

中納言實行

禁中翫花といへる心をよめる

九重に久しくにほへ八重櫻のどけき春のかぜと志らずや

源師俊朝臣

花契遐年といへる事をよめる

萬代とさしてもいはじさくら花かざゝむ春の限なければ

藤原國行

橘俊綱の朝臣の家の歌合に祝の心をよめる

自ら我身さへこそ祝はるれ君が千世にも逢はまほしさに

源俊頼朝臣

百首の歌の中に祝の心をよめる

君が代は松の上葉におく露の積りて四方の海となるまで

大納言經信

祝の心をよめる

君が代の程をば志らで住吉の松をひさしと思ひけるかな

永成法師

後一條院の御時弘徽殿の女御の歌合に祝の心をよめる

君が代は末の松山はる%\とこす白浪のかずも志られず

堀河院御製

嘉承二年三月鳥羽殿の行幸に池上花といへる事をよませ給ひける

池水の底さへ匂ふ花ざくらみるともあかじ千世の春まで

藤原行盛

大甞會の主基方、辰の日參入音聲に皷山をよめる

音たかき皷の山の打ちはへて樂しき御代となるぞ嬉しき

藤原敦光朝臣

悠紀方の朝日の里をよめる

曇りなき豐のあかりに近江なる朝日のさとは光さしそふ

巳日の樂の破に雄琴の里をよめる

松風の雄琴の里にかよふにぞをさまれる世の聲は聞ゆる

藤原家經朝臣

後冷泉院の御時の大甞會の主基方、備中國二萬郷をよめる

みつぎ物はこぶよぼろを數ふればにまの里人數そひに鳬

高階明頼

同じ國いな井のさとを人にかはりてよめる

苗代の水はいな井に任せたり民やすげなる君が御代かな

皇后宮肥後

祝の心をよめる

いつとなく風ふく空にたつ塵の數も志られぬ君が御代哉

太宰大貳長實

花契遐年といへる事をよめる

花もみな君が千年をまつなれば何れの春か色もかはらむ

周防内侍

攝政左大臣、中將にて侍りける頃春日祭の使にくだりけるに周防内侍女使にてくだりけるに爲隆卿行事の辨にて侍りけるがもとにつかはしける

いかばかり神も哀れと三笠山二葉の松の千代のけしきを

藤原道經

題志らず

君が代はいく萬代かさぬべきいつぬき川のつるの毛衣

中納言通俊

宇治前太政大臣の家の歌合に祝の心をよめる

君が代は天つ兒屋根の命より祝ひぞ初めし久しかれとは

大藏卿匡房

君が代はくもりもあらじ三笠山みねに明日のさゝむ限は

大夫典待

新院の北側にて藤花久匂といへる事をよめる

藤浪は君が千年を松にこそかけて久しくみるべかりけれ

源忠季

祝の心をよめる

君が代は富のを川の水すみて千年をふ共絶えじとぞ思ふ

藤原爲忠

實行卿の家の歌合に祝の心をよめる

瑞がきの久しかるべき君が代を天照神やそらにしるらむ

宇治前太政大臣

前の中宮始めて内へまゐらせ給ひける夜

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[1]雲
のふりて侍りければ六條右大臣のもとへ遣はしける

雪積る年のしるしにいとゞしく千年の松の花さくぞみる

六條右大臣

かへし

つもるべし雪積るべし君が代は松の花さく千度みるまで

後冷泉院御製

天喜四年皇后宮の歌合に祝の心をよませ給うける

長濱の眞砂の數も何ならずつきせずみゆる君が御代かな

源頼家朝臣

松上雪をよめる

萬代の例とみゆる松の上に雪さへつもる年にもあるかな

源俊頼朝臣

前齋宮伊勢におはしましける頃石などりのいしあはせといへる事をせさせ給ひけるに祝のこゝろをよめる

曇りなく豐さかのぼる朝日には君ぞつかへむ萬代までに
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[1] Shinpen kokka Taikan (Tokyo: Kadokawa Shoten, 1983, vol. 1; hereafter cited as SKT) reads 雪.