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金葉和歌集卷第七 戀歌
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
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7. 金葉和歌集卷第七
戀歌

小一條院御製

五月五日はじめたる女のもとに遣はしける

志らざりき袖のみぬれて菖蒲草斯る戀路に生ひむ物とは

大江公資朝臣

女のもとにつかはしける

篠薄上葉にすがくさゝがにのいかさまにせば人靡きなむ

神祇伯顯仲

曉のこひをよめる

さりともと思ふ限は忍ばれて鳥と共にぞねはなかれける

春宮大夫公實

つれなかりける女のもとにつかはしける

これにしく思ひはなきを草枕たびにかへすはいな莚とや

俊よりの朝臣

後朝の心をよめる

我戀はおぼろの清水いはでのみせき遣る方も無て暮しつ

藤原顯輔朝臣

顯李卿の家にて人々戀の歌よみけるによめる

あふとみて現のかひはなけれども儚きゆめぞ命なりける

源雅光

女のもとに遣はしける

逢ふ迄は思もよらず夏引のいとほしとだにいふと聞ばや

宣源法師

從二位藤原親子の家の雙紙合に戀の心をよめる

今は唯ねられぬいをぞ友にする戀しき人の縁りと思へば

太宰大貳長實

思遣れ須磨のうらみてねたる夜の片しく袖にかゝる涙を

津守國基

ものいひける女の髮をかきこして見けるをよめる

朝ね髮誰が手枕にたばつけてけさは形見に振越してみる

讀人志らず

題志らず

戀すてふ名をだに流せ涙河つれなき人もきゝやわたると

なにせむに思ひかけゝむ唐衣戀しき事はみさをならぬに

中納言雅定

あふ事はいつと渚の濱千鳥なみの立居にねをのみぞなく

春宮大夫公實

ある宮ばらに侍りける人の忍びて宮をいでゝあやしの小家にてもの申して後、日ごろありて遣はしける

思ひいづやありし其よの呉竹は淺ましかりしふし所かな

少將公教母

顯李卿の家にて寄織女戀といふこゝろをよめる

棚機は又こむ秋も頼むらむ逢夜も志らぬ身をいかにせむ

源師俊朝臣

寄水鳥戀といへることをよめる

水鳥の羽風に騒ぐさゞ浪のあやしきまでもぬるゝ袖かな

左兵衞督實能

寄夢戀といへる事をよめる

夢だにあふとは見えよさもこそは現につらき心なり共

中納言顯隆

題志らず

白雲のかゝる山路をふみゝてぞいとゞ心は空になりける

源顯國朝臣

中納言俊忠卿の家にてたのめてあはぬ戀といへる心をよめる

逢見むと頼むればこそ呉機織怪しやいかゞたち歸るべき

中納言實行

忍戀の心をよめる

谷川のうへは木葉にうづもれて下に流ると人志るらめや

藤原基光

月前戀といへる事をよめる

眺むれば戀しき人のこひしきに曇らばくもれ秋の夜の月

讀人志らず

題志らず

つらし共愚なるにぞ言はれけるいかに恨むと人に知せむ

藤原知房朝臣

もの申しける人の、前の中宮にまゐりにければなごりを戀ひて月のあかゝりける夜いひつかはしける

面影は數ならぬ身にこひられて雲居の月を誰とみるらむ

讀人志らず

さはる事ありて久しう音づれざりける女のもとよりいひ送り侍りける

淺ましやなどかきたゆる藻鹽草さ社は蜑のすさびなり共

内大臣家小大進

文ばかりおこせていひたえにける人のもとにいひつかはしける

ふみそめて思ひ歸りし紅の筆のすさびをいかで見せけむ

長實卿母

實行卿の家の歌合に戀の心をよめる

志るらめや淀の繼橋よと共につれなき人を戀ひ渡るとは

藤原道經

戀わびておさふる袖や流れ出づる涙の川の井堰なるらむ

少將公教母

流れての名にぞ立ちぬる涙川人め包みをせきしあへねば

皇后宮右衛門佐

題志らず

涙川袖のゐせぎもくちはてゝ淀むかたなき戀もするかな

源顯國朝臣

かくとだにまだ岩代の結び松むすぼゝれたるわが心かな

藤原顯輔朝臣

女のもとにつかはしける

戀すてふもじの關守いくたびか我かきつらむ心づくしに

左兵衛督實能

命だにはかなからずば年ふとも逢見む事をまたまし物を

源行宗朝臣

後朝の心をよめる

つらかりし心ならひにあひみても猶夢かとぞ疑はれける

春宮大夫公資

堀河院の御時の艷書合によめる

思ひあまりいかでもらさむ奧山の岩がきこむる谷の下水

藤原顯輔朝臣

こひの心をよめる

年ふれど人もすさめぬわが戀や朽木の杣の谷のうもれぎ

讀人志らず

あるまじき人をおもひかけてよめる

いかにせむ數ならぬ身に從はで包むそでより落つる涙を

太宰大貳長實

院の熊野にまゐらせおはしましける時御迎にまゐりてたびの床の露けかりければよめる

夜もすがら草の枕におく露はふるさとこふる涙なりけり

神祇伯顯仲

忍戀の心をよめる

志らせばやほのみしま江に袖ひぢて七瀬の淀に思ふ心を

相模

野わきしたりけるにいかゞなどおとづれたりける人の其の後又音もせざりければつかはしける

荒かりし風の後より絶ぬるはくもでにすがく糸にや有覽

源俊頼朝臣

國信卿の家の歌合に夜戀の心をよめる

よとともに玉ちる床のすが枕見せばや人に夜のけしきを

相模

五月五日わりなくもていでたる所にこもといふものをひきたりけるを忘れがたさにいひ遣はしける

菖蒲にもあらぬ眞菰を引きかけし假の夜殿の忘られぬ哉

橘季通

閏五月侍りけるとし人をかたらひけるが後の五月すぎてなど申しければよめる

なぞもかくこひぢに立ちて菖蒲草餘り長くも五月なる覽

神祇伯顯仲

人のもとにつかはしける

おのづから夜がるゝ程のさ莚は涙の憂になるとしらずや

相模

そら事いひて久しうおとせぬ人のもとにいひつかはしける

ありふるも憂世なりけりながゝらぬ人の心を命ともがな

藤原惟規

人をうらみてつかはしける

池にすむ我名ををしのとり返す物にもがなや人を恨みじ

藤原正家朝臣

女のもとにまかりたりけるに今夜はかへりねとまうしければ歸りにける後ひと日はいかに思ひしなど申しければいひ遣はしける

秋風に吹き返されて葛の葉のいかに恨みし物とかはしる

藤原有教母

かたらひ侍りける人のあながちに申さする事のありければ遣はしける

從へば身をば捨てゝむ心にも叶はでとまる名社惜しけれ

藤原忠隆

長實卿の家の歌合に戀の心をよめる

包めども涙の雨のしるければ戀する名をもながしつる哉

春宮大夫公實

人にかはりて

白菊のかはらぬ色も頼まれず移ろはでやむ秋しなければ

藤原惟規

人を恨みてつかはしける

島風にしばたつなみのたちかへり恨みても猶頼まるゝ哉

前齋宮内侍

なき名立てける人のもとにつかはしける

淺ましや逢瀬も志らぬ名取川まだきに岩間洩すべしやは

左京大夫經忠

逢不遇戀といへる事をよめる

一夜とはいつか契りし河竹の流れてとこそ思ひそめしか

皇后宮式部

俊忠卿の家にて戀歌十首人々によませ侍りけるにちかひてあはずといへる事をよめる

逢見ての後つらからばよゝをへて此より勝る戀に惑はむ

源俊頼朝臣

實行卿の家の歌合にこひの心をよめる

いつとなく戀に焦るゝ我身よりたつや淺間の煙なるらむ

藤原成通朝臣

戀の歌とてよめる

後の世と契りし人もなき物をしなばやとのみいふぞ儚き

攝政左大臣

いはぬまは下はふ芦の根を繁み隙なき戀を君志るらめや

白河女御越中

かたらひける人のかれ%\になりてうらめしかりけるにつかはしける

まちし夜のふけしを何と歎き劔思絶えても過しける身を

律師實源

戀の心を人々よみけるによめる

命をしかけて契りし中なればたゆるはしぬる心地社すれ

皇后宮美濃

かきたえて程はへぬるを笹蟹の今は心にかゝらずもがな

攝政左大臣

旅宿戀を

みせばやな君しのびねの草枕玉ぬきかくる旅のけしきを

皇后宮肥後

堀河院の御時艷書合によめる

思ひやれとはで日をふる五月雨に獨やどもるそでの雫を

美濃

皇后宮にて人々戀の歌つかうまつりけるに被返書戀といへる事を

こふれども人の心のとけぬにはむすばれながら歸る玉章

攝政左大臣

人々に戀の歌よませ侍りけるに人にかはりて

心ざし淺ぢが末におく露のたまさかにとふひとは頼まじ

藤原爲忠

寄三日月戀をよめる

宵のまに仄かに人をみか月のあかで入りにし影ぞ戀しき

よみ人志らず

忍戀をよめる

忍ぶれどかひも渚のあま小舟浪のかけてもいまは恨みじ

三宮大進

雲居寺の歌合に人にかはりて戀の心をよめる

なぞもかく身にかふ計思ふらむ逢見む事も人のためかは

攝政左大臣

寄花戀

あだなりし人の心に較ぶれば花もときはの物とこそみれ

修理大夫顯季

百首の歌の中に戀の心をよめる

わが戀は烏ばにかく言の葉のうつらぬ程はしる人もなし

源雅光

攝政左大臣の家にて戀のこゝをよめる

あやにくに焦るゝ胸もある物をいかに乾かぬ袂なるらむ

大中臣公長朝臣

寄山戀といへる事をよめる

戀侘びて思ひ入るさの山の端にいづる月日の積りぬる哉

藤原公教

つれなかりける人のもとにあふよしの夢を見てつかはしける

轉寐にあふと見つるは現にてつらきを夢と思はましかば

源雅光

攝政左大臣の家にて寄花戀といへる事をよめる

吹く風にたへぬ梢の花よりもとゞめがたきは涙なりけり

源俊頼朝臣

權中納言俊忠卿の家にて戀の歌十首人々よみけるに來不留戀といへる事をよめる

おもひ草葉末に結ぶ白露のたま/\きては手にも溜らず

春宮大夫公實

女を恨みて遣はしける

芦根はふ水の上とぞ思ひしを憂はわが身にありける物を

橘俊宗女

重服になりたる人の立ちながらまうでこむと申しければつかはしける

立ち乍きたりとあはじ藤衣ぬぎ捨てられむ身ぞと思へば

前中宮上總

戀の心を人にかはりてよめる

石走る瀧の水上はやくより音にきゝつゝこひわたるかな

皇后宮女別當

たのめおく言の葉だにもなき物を何にかゝれる露の命ぞ