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金葉和歌集卷第十 雜部下
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  

10. 金葉和歌集卷第十
雜部下

藤原基俊

公實卿かくれ侍りてのちかの家にまかりたりけるに梅の花さかりにさきけるをみて枝にむすびつけて侍りける歌

昔見しあるじ顏にも梅がえの花だにわれに物がたりせよ

中納言實行

かへし

ねにかへる花の姿の戀しくば唯この本をかたみとはみよ

平基綱

人々あまたぐして花見ありきてかへりてのち風おこりて臥したりけるにぐして花見ける人のもとよりなに事にかなど尋ねて侍りければつかはしける

櫻ゆゑ厭ひし風の身にしみて花より先にちりぬべきかな

藤原有祐朝臣

後三條院かくれおはしまして後五月五日一品宮の御帳にさうぶ葺かせ侍りけるにさくらのつくり花のさゝれたりけるを見てよめる

菖蒲草ねをのみかくる世の中にをりたがへたる花櫻かな

六條右大臣

北の方うせ侍りて後天王寺にまゐりけるみちにてよめる

難波江の芦の若根の志げゝれば心もゆかぬ舟出をぞする

康資王母

郁芳門院かくれおはしまして又のとしの秋知陰がりつかはしける

うかりしに秋は盡ぬと思ひしを今年も虫の音社なかるれ

藤原知陰

かへし

虫の音はこの秋しもぞ鳴きまさる別の遠くなる心地して

源俊頼朝臣

下臈にこえられて歎き侍りけるころよめる

せきもあへぬ涙の川は早けれど身のうき草は流れざり鳬

讀人志らず

律師實源がもとにしらぬ女房の佛供養せむとて

[_]
[1]よばぜ
侍りければまかりてみればこともかなはずげなるけしきをみてかたのごとくいそぎくやうして立ちける程にすだれの内より女ばう手づからきぬ一へとまきゑの手箱をさし出したりければ從僧してとらせ歸りてみれば志ろがねの箱のうちにかきて入れたりける歌

玉匣かけごに塵もすゑざりし雙親ながらなき身とをしれ

大路に子をすてゝ侍りけるおしくゝみにかきつけ侍りける歌

身に勝る物なかりけり嬰子はやらむ方なく悲しけれども

藤原知陰母

阿波守知綱におくれ侍りけるころながされたりける人のゆるされて歸りたりけるを聞きてよめる

流れてもあふせありけり涙河きえにし沫をなにゝ譬へむ

讀人志らず

心地例ならず侍りけるころ人のもとよりいかゞなど申したりければよめる

呉竹のふし沈みぬる露の身もとふ言の葉に起ぞゐらるゝ

藤原通宗朝臣

範永の朝臣出家しぬときゝて能登守にてはべりけるころ國よりいひ遣はしける

よそ乍世を背きぬと聞くからに越路の空は打時雨れつゝ

律師長濟かくれてのち母の其あつかひをしてありける夜の夢にみえける歌

垂乳めの歎きをつみて我はかく思ひの下になるぞ悲しき

大藏卿匡房

顯仲卿女子におくれてなげき侍りけるころ程經てとひに遣はすとてよめる

その夢をとはゞ歎きや勝るとて驚かさでも過ぎにける哉

藤原賢子

從三位藤原賢子れいならぬ事ありてよろづ心ぼそくおぼえけるに人の許よりいかゞなど言ひて侍りければよめる

古は月をのみこそ眺めしに今は日をまつわが身なりけり

權僧正永縁

身まかりてのち久しうなりにける母を夢にみてよめる

夢にのみ昔の人をあひみれば覺むる程こそ別れなりけれ

讀人志らず

人のむすめ母ものへまかりたりける程におもき病を志てかくれなむと志ける時かきおきて身まかりにける歌

露の身の消も果てなば夏草の母いかにして逢はむとす覽

和泉式部

小式部内侍うせてのち上東門院より年ごろ給はりけるきぬをなき跡にも遣したりけるに小式部内侍と書き附けられたるを見てよめる

諸共に苔の下には朽ちずして埋もれぬ名をみるぞ悲しき

平忠盛朝臣

志たしき人におくれてわざのことはてゝ歸り侍りけるによめる

今ぞ志る思ひの果は世中のうき雲にのみまじるものとは

藤原資陰

陽明門院かくれまして後御わざの事果てゝ又の日雲のたなびけるをみてよめる

定なき世をうき雲ぞあはれなるたのみし君が烟と思へば

僧正行尊

白河院の女御かくれ給ひて後かの家の南面の藤の花さかりに咲きたりけるをみてよめる

草木まで思ひけりともみゆるかな松さへ藤の衣きたれば

橘元任

兼房の朝臣重服になりてこもりゐて侍りけるに出??辨がもとよりとぶらひたりけるを是が返しせよと申しければよめる

悲しさの其夕暮の儘ならばあリへて人に問はれましやは

能因法師

範國の朝臣にぐして伊豫國に罷りたりけるに正月より三四月までいかにも雨のふらざりければなはしろもせでよろづに祈りさわぎけれどかなはざりければ守、能因歌よみて一宮にまゐらせて雨祈れと申しければまゐりて祈り申しける歌

天の河苗代水にせきくだせあま降りますかみならばかみ

神惑ありて大雨ふりて三日三夜やまずと家集にみえたり。

攝政左大臣

心經供養してその心を人々によませ侍りけるに

色もかも空しととける法なれど祈る驗はありとこそきけ

三宮

注文のありけるをさとなる女房のもとより宮に申さずとも忍びてあからさまにとりてなど申したりけるをほのきゝてよませ給ひける

見し儘に我は悟をえてしかば知せでとると知ざらめやは

僧正行尊

月のあかゝりける夜瞻西上人のもとへ遣はしける

いさぎよき空の景色を頼むかなわれ惑はすな秋の夜の月

源行宗朝臣

例ならぬ事ありけるころいかゞなどおもひつゞけて心細さに

いかにせむ憂世の中にすみ竈の果は煙となりぬべき身を

靜嚴法師

實範聖人山寺にこもりゐぬと聞きてつかはしける

心には厭ひはてつと思ふらむあはれ何處も同じうき世を

選子内親王

八月ばかりに月あかゝりける夜あみだの聖のとほりけるを呼びよせてさとなる女房にいひ遣しける

あみだ佛といふなる聲に夢さめて西へ傾ぶく月を社みれ

皇后宮肥後

依釋迦遺教念阿彌陀といふ事をよめる

教へおきて入りにし月の微りせば爭で心を西にかけまし

清海上人後生を猶おそり思ひてねぶり入りたりけるに枕がみに僧の立ちてよみかけゝる歌

かく計りこちてふ風のふくをみて塵の疑を殘さずもがな

覺樹法師

普賢十願の文に願我臨欲命終時といへる文をよめる

命をも罪をも露に譬へけり消えば共にや消えむとすらむ

覺譽法師

衆罪如霜露といへる文をよめる

罪はしも露も殘らず消えぬらむ長き夜すがらくゆる思に

僧正靜圓

弟子品の心をよめる

吹き返すわしの山風なかりせば衣のうらの玉をみましや

瞻西上人

提婆品の心をよめる

法の爲擔ふ薪にことよせてやがて浮世をこりぞ果てぬる

皇后宮權大夫師時

けふぞ志るわしの高嶺にてる月を谷川くみし人の影とは

勝超法師

龍女成佛をよめる

渡つ海の底の藻屑と見し物をいかでか空の月となるらむ

權僧正永縁

涌出品の心をよめる

垂乳根は黒髮ながらいかなれば此まゆ白き糸となるらむ

覺雅法師

不輕品の心をよめる

ありがたき法をひろめし聖にぞ打ちみし人も導かれける

懷尋法師

藥王品の心をよめる

憂身をし渡すときけば蜑小舟のりに心をかけぬ日ぞなき

權僧正永縁

人のもとにて經供養志けるに五百弟子授記品の心を説きけるに寶珠のことのたふとかりけるよしをよみてかづけものにむすびつけて侍りけるをみてかへしによみ侍りける

いかにして衣の玉を志りぬ覽思ひもかけぬ人もあるよに

懷尋法師

依他の八つのたとひを人々よみけるに此身如幻といへる事をよめる

いつをいつと思たゆみて陽炎のかげろふ程の世を過す覽

澄成法師

常住心月輪といへる事をよめる

世と共に心の中にすむ月をありと志るこそはるゝ也けれ

源俊頼朝臣

極樂をおもふといへる事を

よもの海の波に漂ふ水屑をも七重の綱にひきなもらしそ

海法師母

醍醐の舎利會に花のちるをみてよめる

けふも猶惜みやせまし法の爲ちらす花ぞと思ひなさずは

和泉式部

地獄の繪に劔のえだに人のつらぬかれたるをみてよめる

淺ましや劔の枝の撓むまでこは何のみのなれるなるらむ

田口重如

人のもとに侍りにけるに俄にたえいりて失せなむとしければ志とみのもとにかきいれて大路におきたりけるに草の露のあしにさはる程郭公のなくを聞きていきのしたによめる

草の葉にかどでは志たり郭公志での山路もかくや露けき

かくてつひにおちいるとてよめる

たゆみなく心をかくる彌陀ぼとけ人遣ならぬ誓たがふな

源俊頼朝臣

障子のゑに天王寺の西門にて法師の舟にのりてにしざまにこぎ離れてゆくかたかける所をよめる

阿彌陀佛と唱ふる聲を楫にてや苦しき海を漕ぎ離るらむ

連歌
永成法師

ゐたりける所の北のかたに聲なまりたる人のものいひけるを聞きて

あづま人の聲こそ北に聞ゆなれ

律師慶範

みちの國よりこしにやあるらむ

頼經法師

もゝぞのゝ花をみて

桃園のもゝの花こそさきにけれ

公資朝臣

うめ津のうめはちりや志ぬらむ

神主成助

賀茂の御社にてものつく音の志けるをきゝて

志めの内に杵の音こそ聞ゆなれ

行重

いかなる神のつくにかあるらむ

僧正源覺

宇治にて田の中に老いたる男のふしたりけるをみて

春の田にすきいりぬべき翁かな

宇治入道前太政大臣

かのみなくちにみづをいればや

觀暹法師

日の入るを見て

日のいるは紅にこそ似たりけれ

平爲成

あかねさすともおもひけるかな

永源法師

田中に馬のたてるをみて

田にはむこまは畔にぞありける

永成法師

苗代の水にはかげとみえつれど

讀人志らず

かはらやをみて

瓦屋の板ぶきにてもみゆるかな

助成

つちくれしてやつくりそめけむ

爲助

志かの島をみて

つれなくたてる志かのしまかな

國忠

弓張の月のいるにもおどろかで

頼綱朝臣

宇治へまかりけるみちにて日頃雨のふりければ水の出でゝ賀茂川を男のはかまをぬぎて手にさゝげてわたるをみて

かも川をつる脛にても渡るかな

信綱

かりばかまをばをしとおもひて

讀人志らず

あゆをみて

なにゝあゆるをあゆといふらむ

匡房卿妹

鵜舟にはとりいれし物を覺束な

神主忠頼

和泉式部がもにまゐりけるにわらうづにあしをくはれてかみをまきたりけるをみて

千早振かみをばあしにまく物か

和泉式部

これをぞしものやしろとはいふ

源頼光朝臣

源頼光が但馬守にてのぼりける時舘の前にけた川といふ川あり。かみより舟のくだりけるを蔀あくるさぶらひ志てとはせければ蓼と申すものかりてまかるなりといふをきゝて口ずさびにいひける

たでかるふねのすぐるなりけり

相摸母

これを連歌にきゝなして

朝まだきからろの音の聞ゆるは

讀人志らず

花莖はちるてふことぞなかりける

前太政大臣家木綿四手

かぜのまに/\うてばなりけり

讀人志らず

すまひぐさといふ草のおほかりけるをひきすてさせけるをみて

ひくにはよわきすまひぐさかな

とる手には儚くうつる花なれど

鳥を籠に入れて侍りけるが横雨にぬれけるをみて

雨ふれば雉も志とゞになりに鳬

かさゝぎならばかゝらましやは

律師慶

簔むしのうめの花咲きたる枝にあるをみて

うめのはながさきたるみのむし

まへなるわらはのつけゝる

雨よりは風ふくなとや思ふらむ

頼算法師

鵜の水にうかべるをみて

あらふとみれどくろきとりかな

讀人志らず

さも社は住の江ならめよと共に

讀人志らず

たきの音のよるまさりけるをきゝて

よるおとすなりたきのしらいと

くり返し晝も夜とはみゆれども

成光

柱をみて

おくなるをもやはしらとはいふ

觀暹法師

見渡せば内にも戸をばたてゝ鳬

源俊頼朝臣

七十になるまでつかさもなくて萬にあやしき事をおもひつゞけて

なゝそぢに滿ちぬる潮の濱楸久しくよにも埋れぬるかな

卷第七 戀歌上
藤原爲眞朝臣

攝政左大臣の家にて戀の心をよめる

逢ふことの無きを浮田の杜に住む呼小鳥こそ我身なりけれ

藤原親隆朝臣

頼めて逢はぬ戀

戀ひ死なで心づくしに今までも頼むればこそいきの松原

在水鳥下夢にだに上

隆覺法師

山の歌合に戀の心を

身の程を思ひ知りぬる事のみやつれなき人の情なるらむ

在面影下淺ましや上

淋賢法師

戀の心を

あゝといふこともしらばや紅の泪に染まるそでやかへると

在逢見ての下、いつとなく上

讀人志らず

卷第八 戀歌下

題志らず

最攻て戀しき時は播磨なる飾磨に染むるかちよりぞくる

在逢ふ事の下、逢ふ事は上

右之歌在異本

[_]
[1] Shinpen kokka Taikan (Tokyo: Kadokawa Shoten, 1983, vol. 1; hereafter cited as SKT) reads よばせ.