University of Virginia Library

4. 金葉和歌集卷第四
冬歌

源師賢朝臣

承暦二年御前にて殿上のをのこども題を探りて歌つかうまつりけるに時雨をとりて

神無月志ぐるゝまゝに暗部山下てるばかり紅葉志にけり

修理大夫顯季

從二位藤原親子の家の草子合に志ぐれをよめる

志ぐれつゝかつちる山の紅葉をいかに吹く夜の嵐なる覽

權僧正永縁

ならにて人々の百首の歌よみけるに時雨をよめる

山河の水はまさらで志ぐれには紅葉の色ぞ深くなりける

源定信

おとにだに袂をぬらす時雨かな槇の板屋のよるの寐覺に

攝政家三川

時雨をよめる

神無月時雨の雨のふる儘にいろ/\になるすゞか山かな

前中納言資仲

後朱雀院の御時御前にて霧藏紅葉といへる事をよめる

紅葉ちる山は秋霧はれせねば立田の川のながれをぞみる

源致親

大井河にまかりてもみぢの心をよめる

大井河もみぢをわくる筏士はさをに錦をかけてこそみれ

大納言經信

落葉をよめる

三室山もみぢちるらし旅人の菅の小笠にしきおりかく

前中納言基長

竹風似雨といへるこゝろをよめる

なよ竹の音にも袖を被きつゝぬれぬに社は風と知りぬれ

法印光清

十月十日ごろに鹿のなきけるをきゝてよめる

何事にあきはてながらさを鹿の思ひ返して妻をこふらむ

源俊頼朝臣

百首の歌のなかに紅葉をよめる

立田川志がらみかけて神なびのみ室の山の紅葉をぞみる

皇后宮肥後

あじろをよめる

氷魚のよる川瀬にみゆる網代木はたつ白浪の上にや有覽

大納言經信

月照網代といへる事をよめる

月清みせゞの網代によるひをは玉藻にさゆる氷なりけり

旅宿冬夜といへる事をよめる

旅ねする夜床さえつゝ明けぬらしと方ぞ鐘の聲聞ゆなる

源兼昌

關路千鳥といへる事をよめる

淡路島かよふ千鳥のなく聲にいくよねざめぬ須磨の關守

神祇伯顯仲

風早みとしまが崎をこぎゆけば夕なみ千鳥立居なくなり

藤原隆經朝臣

氷をよめる

高瀬舟掉のおとにぞ志られぬる芦間の氷ひとへ志にけり

内大臣

谷水結氷といへる事をよめる

たにがはのよどみに結ぶ氷こそみる人もなき鏡なりけれ

藤原仲實朝臣

百首の歌の中に氷をよめる

志ながどりゐなのふし原風さえてこやの池水氷しにけり

神祇伯顯仲

冬月をよめる

冬寒み空にこほれる月影は宿にもるこそとくるなりけれ

大納言經信

氷滿池上といへる事をよめる

水鳥のつらゝの枕隙もなしむべさえけらしとふのすが菰

大藏卿匡房

深山霰をよめる

箸鷹の志らふに色やまがふらむとかへる山に霰ふるなり

大中臣公長朝臣

水邊寒草といへる事をよめる

高嶺には雪ふりぬらしま柴川岸のかげ草たるひ志にけり

源頼綱朝臣

宇治前太政大臣の家の歌合に雪をよめる

衣手によごの浦風さへ%\てこだかみ山に雪ふりにけり

前齋院尾張

橋上初雪といへる事をよめる

白浪の立渡るかとみゆるかなはま名の橋にふれる志ら雪

大納言經信

初雪をよめる

初雪はまきの葉白くふりにけりこや小野山の冬の寂しさ

源道濟

雪中鷹狩のこゝろをよめる

ぬれ/\も猶かりゆかむはし鷹の上毛の雪を打拂ひつゝ

俊頼朝臣

鷹狩の心をよめる

はし鷹をとりかふ澤に影みれば我身も共にとや返りけり

内大臣家越後

理や交野の小野に鳴く雉子さこそはかりの人はつらけれ

大藏卿匡房

百首の歌のうちに雪の心をよめる

いかにせむ末の松山なみこさば峯の初雪きえもこそすれ

皇后宮攝津

宇治前太政大臣の家の歌合に雪の心をよめる

ふる雪に杉の青葉も埋れて志るしもみえず三輪の山もと

中納言女王

岩代の結べる松にふる雪は春もとけずやあらむとすらむ

藤原行盛

大甞會の主基方、備中國彌高山をよめる

雪ふればいやたか山の梢にはまだ冬ながら花さきにけり

源俊頼朝臣

雪の歌とてよめる

衣手のさえゆくまゝに志もとゆふ葛城山に雪はふりつゝ

六條右大臣

雪の御幸におそくまゐりければ志きりにおそきよし御使をたまはりてつかうまつれる

朝ごとの鏡の影に面なれてゆきみむとしも急がれぬかな

皇后宮權太夫師時

すみがまをよめる

炭がまにたつ烟さへ小野山は雪げの雲とみゆるなりけり

隆源法師

百首の歌の中に雪をよめる

都だに雪ふりぬれば志がらきの槇の杣山あと絶えぬらむ

皇后宮肥後

道もなくつもれる雪に跡たえて古里いかに寂しかるらむ

藤原兼房朝臣

選子内親王いつきにおはしましける時雪ふりたるに月のあかゝりける夜參りたりけれど女房達ねたりけるにや、月もみざりければ、殿上の御簾にむすびつけゝる歌

掻暮し雨ふる夜はやいかならむ月と雪とはかひなかり鳬

源雅光

冬月をよめる

あらち山雪ふり積る高嶺よりさえてもいづる夜はの月哉

康資王母

家經の朝臣が桂の山庄のさうじのかべに神樂志たるかた書ける所をよめる

榊葉や立ちまふ袖の追風になびかぬ??はあらじとぞ思ふ

皇后宮權大夫師時

神樂をよめる

神なびの三室の山に霜ふればゆふしでかけぬ榊葉ぞなき

三宮

氷をよませ給へる

つながねど流れもやらずたかせ舟むすぶ氷のとけぬ限は

前齋院六條

水鳥をよめる

中々に霜の上着をかさねてもをしの毛衣さえまさるらむ

前齋宮内侍

池水鳥をよめる

浪枕いかにうきねを定むらむこほる益田のいけのをし鳥

修理大夫顯季

題志らず

さむしろに思ひこそやれ笹の葉のさゆる霜夜の鴛の獨寐

内大臣

依花待春といふこゝろを

何となく年のくるゝは惜けれど花のゆかりに春をまつ哉

藤原成通朝臣

としのくれの心をよめる

人志れず暮行く年を惜むまに春いとふ名の立ちぬべき哉

藤原永實

霜月の十日ごろに攝政左大臣の家にて冬の題どもをさぐりてよみ侍りけるに年のくれをとりてよめる

數ふるに殘少なき身にしあればせめても惜しき年の暮哉

この歌よみて後としの内に身まかりにけるとぞ。

三宮

としの暮の心をよませ給ひける

いかにせむ暮行く年を知べにて身を尋ねつゝ老は來に鳬

中原長國

年くれぬと計こそは聞かましか我身の上に積らざりせば

中納言國信

何事を待つとはなしに明暮れて今年もけふに成にける哉