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金葉和歌集卷第三 秋歌
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
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3. 金葉和歌集卷第三
秋歌

春宮大夫公實

百首の歌の中に秋立つ心をよめる

とことはにふく夕暮の風なれど秋立つ日社凉しかりけれ

太宰大貳長實

野草帶露といへる事をよめる

まくずはふあだの大野の白露を吹きなはらひそ秋の初風

皇后宮美濃

待草花といへることをよめる

藤袴はや綻びてにほはなむあきのはつ風ふきたゝずとも

土佐内侍

後冷泉院の御時皇后宮の春秋の歌合に七夕の心をよめる

萬代に君ぞみるべき棚機のゆきあひの空を雲のうへにて

能因法師

七夕の心をよめる

棚ばたの苔の衣を厭はずば人なみ/\にかしも志てまし

橘元任

七月七日父のぶくにて侍りける年よめる

藤衣いみもやすると棚機にかさぬにつけてぬるゝ袖かな

前齋宮河内

七夕の心をよめる

こひ/\て今宵ばかりや棚機の枕にちりの積らざるらむ

三宮

あまの河別に胸のこがるればかへさの舟は梶もとられず

中納言國信

棚機にかせる衣の露けさにあかぬけしきを空に志るかな

内大臣

七夕後朝のこゝろをよめる

かぎりありて別るゝ時も棚機の涙の色はかはらざりけり

皇后宮權大夫師時

棚機のあかぬわかれの涙にやはなの桂もつゆけかるらむ

内大臣家越後

天の河かへさの舟に浪かけてのり煩はゞほどもふばかり

源俊頼朝臣

歸るさはあさ瀬も志らじ天の河あかぬ涙に水しまさらば

源雅兼朝臣

草花告秋といふ事をよめる

咲初むる旦の原の女郎花秋を志らするつまにぞありける

源縁法師

おなじ心をよめる

咲きにけり梔子色の女郎花いはねど志るし秋のけしきは

大納言經信

秋のはじめのこゝろをよめる

おのづから秋はきにけり山里の葛はひかゝる槇の伏屋に

右兵衛督伊通

田家早秋といへる事をよめる

稻葉ふく風の音せぬ宿ならば何につけてか秋を知らまし

藤原行盛

山家秋といへる事をよめる

山深みとふ人もなき宿なれど外面の小田に秋はきにけり

大納言經信

師賢の朝臣の梅津の山里に人々まかりて田家秋風といへる事をよめる

夕されば門田のいなば音づれて芦のまろやに秋風ぞふく

大江公資朝臣

三日月の心をよめる

山の端にあかで入りぬる夕月夜いつ有明にならむとす覽

藤原忠隆

攝政左大臣の家にて夕月夜の心をよませ侍りけるによめる

風ふけば枝やすからぬ木の間より仄めく秋の夕月夜かな

大納言經信

後冷泉院の御時殿上の歌合に月の心をよめる

月影のすみわたるかな天の原雲ふき拂ふ夜半のあらしに

法橋忠命

月はたびの友といへる事をよめる

草枕このたびねにぞ思ひしる月よりほかの友なかりけり

顯仲卿女

志づかに月をみるといへる事をよめる

もろともに草葉の露のおきゐずは獨や見まし秋の夜の月

前中納言伊房

翫明月といへる事をよめる

僞になりぞしぬべき月影をこの見るばかり人にかたらば

春宮大夫公實

鳥羽殿にて旅宿月といへる事をよめる

我こそはあかしのせとに旅寐せめ同じ水にも宿る月かな

院御製

寛治八年八月十五夜鳥羽殿にて池上翫月といへることをよませ給ひける

池水に今宵の月をうつしもて心のまゝにわがものと見る

大納言經信

てる月の岩間の水に宿らずば玉ゐる數をいかでしらまし

民部卿忠教

明月をよめる

いづくにも今宵の月をみる人の心や同じそらにすむらむ

藤原隆經

後冷泉院の御時皇后宮の歌合に駒迎のこゝろをよめる

ひく駒の數より外にみえつるは關の清水の影にぞ有ける

源仲正

駒迎の心をよめる

東路をはるかに出づるもち月の駒にこよひや逢坂のせき

源親房

八月十五夜の心をよめる

さやけさは思做しかと月影を今宵としらぬ人にとはゞや

春宮大夫公實

閏九月のある年八月十五夜によめる

秋は猶のこり多かる年なれど今夜の月の名こそをしけれ

前齋院六條

水上月といへる心をよめる

雲のなみかゝらぬさ夜の月影をきよ瀧川に映してぞみる

源俊頼朝臣

九月十三夜しづかに月を見るといへる事をよめる

すみのぼる心や空を拂ふらむ雲のちりゐぬあきの夜の月

皇后宮肥後

月をよめる

月をみて思ふ心の儘ならば行へもしらずあくがれなまし

源師俊朝臣

人のもとにまかりて物申しけるほどに月の入りにければよめる

いかにしてしがらみかけむ天の川流るゝ月や暫し淀むと

大納言經信

經長卿の桂の山庄にてしづかに月をみるといへる事をよめる

今宵わが桂の里の月を見ておもひ殘せることのなきかな

春宮大夫公實

承暦二年内裏の歌合に月をよめる

曇りなき影を留めば山のはに入るとも月を惜まざらまし

皇后宮攝津

宇治前太政大臣の家の歌合に月をよめる

照る月の光さえゆく宿なれば秋の水にもこほりゐにけり

源俊頼朝臣

山のはに雲の衣をぬぎ捨てゝひとりも月の立ち昇るかな

攝政左大臣

水上月

蘆根はひかつみも茂き沼水にわりなく宿る夜半の月かな

一宮紀伊

宇治前太政大臣の家の歌合に月をよめる

鏡山みねより出づる月なれば曇る夜もなき影をこそみれ

參議師頼

秋なにはの方にまかりて月のあかゝりければよめる

いにしへの難波の事を思出でゝ高津の宮に月のすむらむ

藤原隆經

秋月如晝といへることをよめる

草の上の露微りせばいかにして今宵の月を夜と知らまし

源行宗朝臣

翫明月といふ事をよめる

なごりなく夜半の嵐に雲晴れて心のまゝにすめる月かな

平師季

八月十五夜に人々歌よみけるによめる

三笠山光をさして出でしよりくもらで明けぬ秋の夜の月

讀人志らず

宇治入道前太政大臣の三十講の歌合に月の心をよめる

宿からぞ月の光もまさりけるよの曇りなくすめば也けり

藤原忠隆

月をよめる

眺むれば更けゆく儘に雲晴れて空も長閑にすめる月かな

權僧正永縁

奈良の花林院の歌合に月をよめる

いかなれば秋は光のまさるらむおなじ三笠の山の端の月

藤原顯輔

月の歌とてよめる

みかさ山もりくる月の清ければ神の心もすみやしぬらむ

大納言經信

太皇太后宮の扇合に月の心をよめる

三笠山みねより出づる月かげはさほの河瀬の氷なりけり

太宰大貳長實

顯季卿の家にて九月十三夜人々月の歌よみけるに

くまもなき鏡とみゆる月かげに心うつらぬ人はあらじな

源俊頼朝臣

村雲や月のくまをばのごふらむ晴れゆくたびに照増る哉

藤原家經朝臣

月の心をよめる

今よりは心ゆるさじ月影の行くへも志らず人さそひけり

三宮

月照古橋といへる心をよませ給へる

と絶して人も通はぬたな橋は月ばかりこそ澄み渡りけれ

藤原實光朝臣

水上月をよめる

月影のさすにまかせて行く舟は明石の浦や泊りなるらむ

太宰大貳長實

題志らず

さらぬだに玉に紛ひておく露をいとゞ磨ける秋の夜の月

藤原家經朝臣

永承四年殿上の歌合に月の心をよめる

よとゝもに曇らぬ雲の上なれば思ふ事なく月をみるかな

修理大夫顯季

月前旅宿といへることをよめる

松がねにころもかたしき終夜眺むる月をいもや見るらむ

藤原有教母

ひとり月をながめてよめる

眺むればおぼえぬ事もなかりけり月や昔の形見なるらむ

權僧正永縁

行路曉月といへる事をよめる

諸共にいづとはなしに有明の月のみおくる山路をぞ行く

土御門左大臣

山にむかひて月を待つといへることをよめる

有明の月まつ程のうたゝねは山のはのみぞ夢にみえける

中納言顯隆

山家曉月といへる事をよめる

山里の門田の稻のほの%\とあくるも志らず月をみる哉

平忠盛朝臣

月のあかゝりけるころ明石にまかりて月をみてのぼりたりけるに都の人々月はいかにと尋ねければよめる

有明の月もあかしの浦風に波ばかりこそよるとみえしか

源俊頼朝臣

月前落葉といへる事をよめる

嵐をや葉守の神もたゝるらむ月に紅葉のたむけしてけり

前齋院六條

きり%\すをよめる

露繁きのべに傚ひてきり%\す我が手枕の下になくなり

顯仲卿女

はたおりといへる虫をよめる

さゝがにのいと引きかくる叢にはたおる虫の聲ぞ聞ゆる

讀人志らず

雁をよめる

玉草はかけてきつれど雁がねのうはの空にも聞ゆなる哉

春宮大夫公實

歌合に雁を

いもせ山みねの嵐やさむからむ衣かりがね空に鳴くなり

三宮大進

鹿をよめる

妻こふる鹿ぞ鳴くなる獨寐のとこの山風身にや志むらむ

皇后宮右衛門佐

曉聞鹿といへる事をよめる

思ふこと有明がたの月影にあはれをそふるさをじかの聲

内大臣家越後

夜聞鹿聲といふ事をよめる

夜はになく聲に心ぞあくがるゝ我身は鹿の妻ならねども

源雅光

攝政左大臣の家にて旅宿鹿といへる事をよめる

さもこそは都戀しき旅ならめ鹿の音にさへぬるゝ袖かな

藤原顯仲朝臣

鹿の歌とてよめる

世中をあきはてぬとやさをじかの今は嵐の山に鳴くらむ

藤原行家

秋ならで妻よぶ鹿を聞しかな折から聲の身には志むかと

皇后宮肥後

野花帶露といへる事をよめる

白露と人はいへども野べみればおく花毎に色ぞかはれる

僧正行尊

太皇太后宮の扇合に人にかはりて萩の心をよめる

小萩原匂ふさかりは白露のいろ/\にこそみえ渡りけれ

太宰大貳長實

萩をよめる

志らすげの眞野の萩原露ながらをりつる袖ぞ人な咎めそ

隆源法師

女郎花をよめる

女郎花さける野べにぞ宿りぬる花の名立に成や志ぬらむ

中納言俊忠

顯隆卿の家に歌合し侍りける時をみなへしをよめる

ゆふ露の玉かづらして女郎花野原の風にをれやふすらむ

藤原顯輔朝臣

女郎花をよめる

白露や心おくらむ女郎花いろめく野べにひとかよふとて

攝政左大臣

女郎花夜のまの風にをれふしてけさ志ら露に心おかるな

源忠季

攝政左大臣の家にて歌合し侍りけるに蘭をよめる

佐保川の汀にさける藤袴なみのよりてやかけむとすらむ

右兵衞督伊通

藤ばかまをよめる

狩にくる人もきよとや藤ばかま秋の野毎に鹿のたつらむ

神祇伯顯仲

さゝがにの糸のとぢめやあだならむ綻びわたる藤袴かな

春宮大夫公實

鳥羽殿の前栽合に女郎花のこゝろをよめる

あだし野の露吹きみだる秋風になびきもあへぬ女郎花哉

藤原伊家

思野花といへることをよめる

今はしもほにいでぬらむ東路の岩田の小野の志のゝを薄

平忠盛朝臣

野花留人といへることをよめる

行く人を招くか野邊のはな薄今宵もこゝに旅寐せよとや

源俊頼朝臣

堀河院の御時御前にておの/\題をさぐりて歌つかうまつりけるに薄をとりてつかうまつれる

うづらなく眞野の入江の濱風に尾花なみよる秋の夕ぐれ

藤原基光

河霧をよめる

宇治川のかは瀬もみえぬ夕霧にまきの島人舟よばふなり

藤原行家

河霧のたちこめつれば高瀬舟わけゆく掉の音のみぞする

中納言通俊

郁芳門院の歌合に菊をよめる

盛なる籬の菊を今朝みればまだ空さえぬゆきぞふりける

修理大夫顯季

鳥羽殿の前栽合に菊をよめる

千年迄君がつむべき菊なれば露も仇には置かじとぞ思ふ

藤原仲實朝臣

攝政左大臣の家にて隣家紅葉といへることをよめる

もずのゐるはじの立枝の薄紅葉たれ我宿の物とみるらむ

源師賢朝臣

承暦二年内裏の歌合にもみぢをよめる

箒木の梢やいづこおぼつかなみなその原は紅葉志にけり

大納言經信

[_]
[1]宇治前太政太臣
大井河にまかりたりけるともにまかりて水邊紅葉といへる事をよめる

大井河いはなみたかし筏士よ岸の紅葉にあからめなせそ

源俊頼朝臣

太皇太后宮の扇合に人にかはりてもみぢの心をよめる

音羽山もみぢ散るらしあふさかの關の小川に錦おりかく

藤原伊家

落葉をよめる

谷川に志がらみかけよ立田姫みねのもみぢに嵐ふくなり

修理大夫顯季

大井河の行幸につかうまつれる

大井河ゐせきの音のなかりせば紅葉を志ける渡とやみむ

大納言經信

深山紅葉といへる事をよめる

山守よ斧の音高く聞ゆなり峯のもみぢはよきてきらせよ

神祇伯顯仲

紅葉をよめる

よそにみる峯のもみぢや散り來ると麓の里は嵐をぞ待つ

藤原伊家

大井河の逍遙に水上落葉といへる事をよめる

柞ちる岩間をくゞる鴨どりは己があを羽も紅葉しにけり

修理大夫顯季

落葉埋橋といへる事をよめる

小倉山みねの嵐の吹くからに谷のかけ橋もみぢしにけり

大中臣公長朝臣

落葉藏水といへる心をよめる

大井河ちるもみぢ葉に埋れてとなせの瀧は音のみぞする

太宰大貳長實卿母

落葉隨風といへる事をよめる

色深きみ山がくれのもみぢ葉を嵐の風のたよりにぞみる

中原經則

九月盡の心をよめる

あすよりはよもの山邊の秋霧の面影にのみたゝむとす覽

源俊頼朝臣

草の葉に儚くきゆる露をしも形見におきて秋の行くらむ

春宮大夫公實

九月盡の日大井にまかりてよめる

惜めどもよもの紅葉は散果てゝとなせぞ秋の泊なりける
[_]
[1] Shinpen kokka Taikan (Tokyo: Kadokawa Shoten, 1983, vol. 1; hereafter cited as SKT) reads 宇治前太政大臣.