University of Virginia Library

6. 金葉和歌集卷第六
別離歌

大納言經長

兼房の朝臣丹後守にてくだりけるにつかはしける

君うしや花のみやこの花をみて苗代水にいそぐこゝろは

藤原兼房朝臣

かへし

よそにきく苗代水に哀れわがおりたつ名をも流しつる哉

堀川右大臣

重尹、帥になりてくだり侍るに人々うまのはなむけし侍りける時よめる

かへるべきたびの別となぐさむる心にたがふ涙なりけり

讀人志らず

題志らず

後れゐて我がこひをれば白雲のた靡く山を今日やこゆ覽

前太宰大貳長房朝臣

經輔卿つくしへくだり侍りけるにぐしてくだりけるに道より上東門院に侍りける人につかはしける

かたしきの袖に獨はあかせどもおつる涙ぞ夜を重ねぬる

上東門院

是を御覽じてかたはらにかきつけさせ給ひける

別路をげにいか計歎くらむ聞く人さへぞそでは濡れける

源爲成

源公定が大隈守になりてくだりける時月あかゝりける夜わかれを惜みてよめる

はるかなる旅の空にもおくれねば羨ましきは秋の夜の月

共政朝臣妻

對馬守にて小槻のあきみちが下りける時つかはしける

おきつ島雲居のきしをゆき返りふみかよはさむ幻もがな

參議師頼

としよりが伊勢へまかることありてくだりけるとき人々うまのはなむけし侍りける時よめる

伊勢の海をのゝふるえに朽果てゞ都の方へ歸れとぞ思ふ

源行宗朝臣

待ちつけむ我身なりせば歸るべき程を幾度君にとはまし

中納言國信

百首の歌の中に別の心をよめる

今日はさは立別るとも便あらばありやなしやの情忘るな

藤原基俊

秋ぎりの立別れぬる君によりはれぬ思にまどひぬるかな

藤原實綱朝臣

橘爲仲朝臣みちのくにゝくだりけるに人々うまのはなむけし侍りけるによめる

人はいさ我世は末に成りぬれば又逢坂もいかゞまつべき

藤原有定

戀しさは其人數にあらずとも都をしのぶうちにいれなむ

中納言通俊

經平卿にぐして筑紫へくだるとて遣はしける

さしのぼる朝日に君を思ひ出むかたぶく月に我を忘るな

春宮大夫公實

かへし

朝日とも月ともわかず束のまも君を忘るゝ時しなければ

橘則光朝臣

みちのくにへまかりけるにあふさかの關よりみやこへつかはしける

われ獨いそぐと思ひし東路に垣根の梅はさきだちにけり