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短歌
源俊頼朝臣
堀川院の御時百首の歌奉りける時述懷の歌とてよみてたてまつりける
もがみがは 瀬々の岩かど わきかへり 思ふこゝろは おほかれど 行く方もなく せかれつゝ 底のもくづと なることは 藻にすむ蟲の われからと 思ひしらずは なけれども いはではえ社 なぎさなる かたわれ舟の うづもれて ひく人もなき なげきすと 浪のたち居に あふげども むなしき空は みどりにて 云ふ事もなき かなしさに 音をのみなけば からごろも 抑ふるそでも くちはてぬ なに事にかは あはれとも 思はむひとに あふみなる 打出での濱の うちいでゝ いふとも誰か さゝがにの いか樣にても かきつかむ ことを軒端に ふくかぜの はげしき頃と 志りながら うはの空にも をしふべき あづさの杣に みや木ひき 御垣がはらに せりつみし 昔をよそに きゝしかど 我が身の上に なりはてぬ 流石に御代の はじめより 雲のうへには かよへども なにはのことも ひさかたの 月のかつらし をられねば うけらが花の さきながら 開けぬことの いぶせさに よもの山邊に あくがれて 此面かのもに たちまじり うつぶし染の あさごろも 花のたもとに ぬぎかへて 後の世をだに と思へども 思ふひと%\ ほだしにて ゆくべき方も まどはれぬ 斯る憂き身の つれもなく 經にける年を かぞふれば いつゝの十に なりにけり いまゆく末は いなづまの 光の間にも さだめなし たとへば獨 ながらへて 過ぎにし計り すぐすとも 夢にゆめ見る こゝちして ひまゆく駒に ことならじ 更にもいはじ ふゆがれの 尾花がすゑの つゆなれば 嵐をだにも またずして 本のしづくと なりはてむ 程をばいつと 知りてかは 暮にとだにも たのむべき かくのみ常に あらそひて なほふる里に すみの江の 汐にたゞよふ うつせがひ 現しごゝろも うせはてゝ あるにも非ぬ 世のなかに また何ごとを みくま野の うらの濱木綿 かさねつゝ 憂に堪へたる ためしには なる尾の松の つれ%\と いたづら事を かきつめて 哀れ志られむ ゆくすゑの 人のためには おのづから 忍ばれぬべき 身なれども はかなきことも くもとりの あやに叶はぬ くせなれば 是もさこそは 實なしぐり くち葉が下に うづもれめ 其につけても 津のくにの 生田のもりの いくたびか 海士のたく繩 くりかへし 心にそはぬ 身を怨むらむ
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