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千載和歌集卷第四 秋歌上
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
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4. 千載和歌集卷第四
秋歌上

侍從乳母

秋立つ日よみ侍りける

秋たつときゝつるからに我宿の荻の葉風のふき變るらむ

二品法親王

淺芽生の露けくも有か秋來ぬと目には清かに見えける物を

待賢門院堀川

百首の歌奉りける時秋立つ心をよめる

秋の來るけしきの杜の下風にたちそふ物は哀れなりけり

皇太后宮大夫俊成

八重葎さしこもりにし蓬生に爭でか秋のわけてきつらむ

寂然法師

初秋の心をよめる

秋はきぬ年も半にすぎぬとや荻ふく風のおどろかすらむ

讀人志らず

木葉だに色づくほどはある物を秋かぜふけばちる涙かな

賀茂重政

社頭立秋といへる心をよめる

神山の松吹く風もけふよりは色はかはらで音ぞ身にしむ

大藏卿行宗

郁芳門院の前栽合に荻をよめる

物毎に秋のけしきはしるけれどまづ身にしむは荻の上風

源俊頼朝臣

初秋の心を

秋風や涙もよほすつまならむ音づれしより袖のかわかぬ

攝政前右大臣

七夕の心をよみ侍りける

棚機の心のうちやいかならむまち來し今日の夕暮のそら

大納言隆季

百首の歌奉りける時七夕の心をよめる

棚機の天つひれふく秋風に八十のふなづを御船いづらし

ニ條太皇太后宮肥後

堀川院の御時百首の歌奉りける時よみ侍りける

七夕の天の羽衣かさねてもあかぬちぎりやなほ結ぶらむ

前齋宮河内

こひ/\て今宵ばかりや七夕の枕に塵のつもらざるらむ

源俊頼朝臣

棚機の心をよめる

七夕の天の河原のいは枕かはしもはてずあけぬこの夜は

崇徳院御製

百首の歌の中に七夕の心をよませ給うける

棚機に花ぞめ衣ぬぎかせばあかつき露のかくすなりけり

土御門右大臣

七夕の後朝の心をよみ侍りける

天の川心をくみておもふにも袖こそぬるれあかつきの空

大納言師頼

堀川院の御時百首の歌奉りける時刈萱をよみ侍りける

秋くれば思ひみだるゝ刈萱の下葉や人のこゝろなるらむ

親王家甲斐

題志らず

おしなべて草葉の上を吹く風にまづ下をるゝ野べの苅萱

藤原道經

雲居寺の瞻西上人の房にて歌合志侍りける時よめる

ふみしだぎ朝ゆく鹿や過ぬ覽しどろに見ゆる野路の刈萱

法印靜賢

草花告秋といへる心をよめる

秋きぬと風もつげてし山里に猶ほのめかす花ずゝきかな

讀人志らず

題志らず

いかなれば上葉をわたる秋風に下をれぬらむ野べの苅萱

和泉式部

人もがな見せもきかせも萩がはな咲く夕かげの蜩のこゑ

藤原伊家

秋山の麓をこむるうす霧はすそ野の萩のまがきなりけり

藤原基俊

宮城野の萩や牡鹿の妻ならむ花さきしよりこゑの色なる

長覺法師

心をば千草の色にそむれども袖にうつるは萩がはなずり

大納言師頼

堀川院の御時百首の歌奉りける時よみ侍りける

露しげきあしたの原の女郎花一えだをらむ袖はぬるとも

前中納言雅兼

法性寺入道太政大臣の家に女郎花隨風といへる心をよめる

女郎花靡くを見れば秋風のふきくる末もなつかしきかな

前左衞門督公光

歎くこと侍りける時女郎をみてよみ侍りける

女郎花泪に露や置きそふるたをればいとゞ袖のしをるゝ

藤原行家

題志らず

吹く風にをれふしぬれば女郎花まがきぞ花の枕なりける

藤原盛方朝臣

攝政前右大臣の家にて歌合志侍りける時野徑秋夕といへる心をよめる

夕されば萱が茂みに鳴交す虫のねをさへ分けつゝぞゆく

源俊頼朝臣

堀川院の御時百首の歌奉りける時よめる

樣々に心ぞとまるみやぎ野の花のいろ/\虫のこゑ%\

野花留客といへる心をよめる

秋くれば宿にとまるを旅ねにて野べこそ常の住處也けれ

藤原季通朝臣

百首の歌奉りける時秋の歌とて詠める

野分する野べの景色を見る時は心なき人あらじとぞ思ふ

皇太后宮大夫俊成

夕されば野べの秋風身にしみて鶉なくなりふかぐさの里

源俊頼朝臣

題志らず

何となく物ぞかなしきすが原やふしみの里の秋の夕ぐれ

攝政前右大臣

百首の歌よませ侍る時草花の心をよみ侍りける

さま%\の花をば宿に移しうゑつ鹿のね誘へ野べの秋風

二品親王

野花露といへる心をよみ侍りける

秋の野の千草の色に移ろへば花ぞかへりて露をそめける

法印慈圓

題志らず

くさきまで秋の哀を忍べばや野にも山にも露こぼるらむ

待賢門院堀川

崇徳院に百首の歌奉りける時よめる

はかなさをわが身の上によそふれば袂にかゝる秋の夕露

藤原清輔朝臣

龍田姫かざしの玉の緒を弱み亂れにけりとみゆる志ら露

藤原季經朝臣

題志らず

夕まぐれ荻ふく風の音きけば袂よりこそつゆはこぼるれ

圓位法師

おほ方の露にはなにのなるならむ袂におくは涙なりけり

道命法師

法輪寺にまうで侍りけるにさが野の花をみてよめる

花薄招くはさがと志りながらとゞまるものは心なりけり

前大納言公任

ひさしくすまず侍りける所に秋ごろまかりわたりてよみ侍りける

時しもあれ秋故郷にきてみれば庭は野べ共なりにける哉

小辨

住み侍りける山里をしばし外に侍りて歸りたりけるに前栽のいたくしをれたりければよめる

宿かれて幾かもあらぬに鹿のなく秋の野べ共成にける哉

藤原伊家

思野花といへる心をよめる

今はしもほに出でぬらむ東路の岩田の小野のしのゝを薄

攝政前右大臣

秋の歌とてよみ侍りける

夕されば小野のあさぢふ玉ちりて心くだくる風の音かな

前大僧正覺忠

常磐なる青葉の山も秋くれば色こそかへね寂しかりけり

權大納言實家

月の歌數多よみ侍りける時よめる

秋の夜の心を盡すはじめとてほのかにみゆる夕月夜かな

法性寺入道前太政大臣

月の歌三十首よませ侍りけるときよみ侍りける

秋の月高嶺の雲のあなたにて晴行く空のくるゝまちけり

源俊頼朝臣

堀川院の御時百首の歌奉りける時よめる

木枯の雲ふき拂ふ高嶺よりさえても月のすみのぼるかな

隆源法師

何處にも月はわかじをいかなればさやけかる覽更科の山

藤原隆信朝臣

攝政前右大臣の家に百首の歌よませ侍りける時月の歌とてよめる

いでぬより月見よとこそさえにけれ姨捨山の夕ぐれの空

前中納言雅頼

月の歌とてよみ侍りける

くまもなきみ空に秋の月すめば庭にはふゆの氷をぞしく

右大臣

皇太后宮大夫俊成十首の歌よみ侍りける時よみて遣しける

月みれば遙に思ふさらしなの山も心のなかにぞありける

源俊頼朝臣

權中納言俊忠の桂の家にて水上月といへる心をよみ侍りける

あすもこむ野路の玉川萩こえて色なる浪に月やどりけり

崇徳院御製

百首の歌の中に月の歌とてよませ給うける

たまよする浦わの風に空はれて光をかはす秋の夜のつき

大炊御門右大臣

さ夜ふけて富士の高嶺にすむ月は烟ばかりや曇るなる覽

皇太后宮大夫俊成

石ばしる水の白玉かずみえて清たき川にすめるつきかげ

藤原清輔朝臣

しほがまの浦ふく風に霧はれて八十島かけてすめる月影

源俊頼朝臣

法性寺入道前太政大臣、内大臣に侍りける時月毎秋友といへる心をよませ侍りける時よめる

思ひぐまなくても年のへぬる哉物いひかはせ秋の夜の月

藤原基俊

題志らず

山の端に眞澄の鏡かけたりとみゆるは月の出づるなりけり

藤原道經

秋の夜や天の川瀬はこほるらむ月の光のさえまさるかな

太宰大貳重家

法性寺入道前太政大臣の家にて月の歌よませ侍りける時よめる

遠ざかる音はせねども月きよみ氷とみゆる志がのうら波

右衛門督頼實

百首の歌よみ侍りける時月の歌とてよみ侍りける

常よりも身にぞ志みける秋の野に月すむ夜はの荻の上風

俊惠法師

海邊月といへる心をよめる

眺めやる心のはてぞなかりけるあかしの沖にすめる月影

權中納言長方

賀茂の社の後番の歌合とて神主重保歌よませ侍りける時よめる

八百日ゆく濱の眞砂を敷變へて玉になしつる秋の夜の月

藤原公時朝臣

岩間ゆくみたらし川の音さえて月やむすばぬ氷なるらむ

藤原顯家朝臣

湖上月といへる心をよめる

月影はきえぬ氷と見えながらさゞなみよする志がの唐崎

頼圓法師

月前虫といへる心をよめる

てる月の影さえぬれば淺茅原雪のしたにも蟲はなくなり

藤原親盛

月照草露といへる心をよめる

あさぢ原葉末にむすぶ露ごとに光をわけてやどる月かな

藤原清輔朝臣

題志らず

ふけにける我世の秋ぞ哀れなる傾ぶく月は又もいでけり

刑部卿頼輔

身のうさの秋は忘るゝ物ならば泪くもらで月は見てまし

紫式部

おほかたの秋の哀をおもひやれ月に心はあくがれぬとも

前大納言成通

類なくつらしとぞ思ふあきの夜の月を殘してあくる東雲

源俊頼朝臣

法性寺入道前太政大臣の家にて澗底月といへる心をよみ侍りける

てる月の旅寐の床や志もとゆふかつらぎ山の谷川のみづ