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千載和歌集卷第十七 雜歌中
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
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17. 千載和歌集卷第十七
雜歌中

鳥羽院御製

五十の御賀過ぎて又のとしの春鳥羽殿の櫻のさかりに御前の花を御らんじてよませ給うける

心あらば匂をそへよ櫻ばなのちの春をばたれか見るべき

仁和寺後入道法親王覺性

落花の心をよみ侍りける

はかなさを恨みもはてじ櫻花うき世はたれも心ならねば

僧正尋範

僧都頼實身まかりて後又の年の春禅定院の花盛りなるを見てよみ侍りける

宿もやど花も昔に匂へどもぬしなきいろは寂しかりけり

前中納言基長

かしらおろして後東山の花見ありき侍りけるに圓城寺の花おもしろかりけるを見てよみ侍りける

古にかはらざりけり山ざくら花は我をばいかゞ見るらむ

皇太后宮大夫俊成

遁世の後はなのうたとてよめる

雲のうへの春こそ更に忘られね花は數にも思ひいでじを

東三條院

清水のもとに御車とゞめてこのたびばかりやと心ぼそく御らんじてよませ給うける

あまたゝび行きあふ坂の關水にいまは限の影ぞかなしき

前大納言公任

山にのぼりて志ばし行ひなど志侍りける時よみ侍りける

今はとて入りなむ後ぞ思ほゆる山路を深みとふ人もなし

春のころあはだにまかりてよめる

うき世をば峯の霞や隔つらむなほ山里は住みよかりけり

和泉式部

歎く事侍りける比よめる

花さかぬ谷の底にもすまなくに深くもものを思ふ春かな

法性寺入道前太政大臣

前大納言公任長谷といふ所にこもりゐける時つかはしける

谷の戸をとぢやはてつる鶯のまつに音せで春のくれぬる

道命法師

山寺にこもりて侍りける比雨降りて心ぼそかりけるに人のまうできて歌などよみけるついでによめる

かくてだになほ哀なる奥山に君こぬよゝを思ひ志らなむ

大江公資

除目の比つかさ給はらで歎き侍りける時範永がもとに遣はしける

年毎に涙の川に浮べども身はなげかれぬ物にぞありける

源仲正

寄霞述懷の心をよめる

思ふ事なくてや春をすぐさましうき世隔つる霞なりせば

圓位法師

世をのがれて後白川の花をみてよめる

ちるを見て歸る心や櫻花むかしにかはる志るしなるらむ

花の歌あまたよみ侍りける時

花にそむ心のいかで殘りけむ捨果てゝきと思ふわが身に

佛には櫻のはなをたてまつれわが後の世を人とぶらはゞ

寂然法師

世をそむきて又の年の春花を見てよめる

この春ぞおもひはかへす櫻花むなしきいろにそめし心を

題志らず

世中を常なき物と思はずばいかでか花のちるに堪へまし

讀人志らず

都うつりなどきこえける又のとしのはる白川の花ざかりにをんなの手にて花の下におとしおきて侍りける

かくばかり憂世の末にいかにして春は櫻のなほ匂ふらむ

皇太后宮大夫俊成

花ざかりに法性寺にまゐり金堂のまへの花のちるを見てよみ侍りける

ふりにけむ昔を志らば櫻花ちりの末をもあはれとは見よ

源定宗朝臣

依花待客といへる心をよめる

山櫻花をあるじと
[_]
[11]おもはずば
人をまつべき志ばの庵かは

[_]
[11] SKT reds おもはずは.

藤原定家

圓位法師がすゝめ侍りける百首の歌の中に花の歌とてよめる

いづくにて風をも世をも恨みまし吉野の奥も花はちり鳬

源季廣

花の歌とてよめる

深く思ふ事し叶はゞこむ世にも花見る身とや成むとす覽

源師教朝臣

家に櫻をうゑてよみ侍りける

老が世にやどに櫻を移植ゑて猶こゝろみに花をまつかな

權中納言實守

高倉院春宮の御時權亮に侍りけるを參議にてほどへ侍りける比賀茂の社の歌合とて人々よみ侍りけるに述懷の歌とてよみ侍りける

位山花をまつこそ久しけれ春のみやこにとしはへしかど

右兵衛督公行

崇徳院の御時十五首の歌奉りける時述懷の心をよみ侍りける

春日山まつに頼みをかくるかな藤の末葉の數ならねども

前左衛門督公光

歎く事侍りける比よみ侍りける

物思ふ心や身にも先だちて憂世をいでむしるべなるべき

俊惠法師

述懷の歌とてよめる

數ならで年へぬる身は今更に世をうしとだに思はざり鳬

道因法師

いつとても身のうきことは變らねど昔は老を歎きやはせし

藤原家基法名素覺

述懷の歌よみ侍りける時昔白川院につかうまつりける事を思ひ出でゝよめる

古も底に志づみし身なれどもなほ戀しきは志らかはの水

藤原盛方朝臣

廣田の社の歌合によめる

哀てふ人もなき身をうしとても我さへいかゞ厭果つべき

中原師尚

右大將實房中將に侍りける時十首の歌よませ侍りけるに述懷の歌とてよめる

數ならぬ身を浮雲の晴れぬ哉さすがに家の風はふけども

大江匡範

學文料申し侍りけるをたまはらず侍りける時人のとぶらへるかへり事によみてつかはしける

思ひやれとよにあまれる燈火のかゝげかねたる心細さを

藤原公重朝臣

題志らず

世のうさを思忍ぶと人も見よかくてふるやの軒の氣色を

菅原是忠

ひく人もなくて捨てつる梓弓心づよきもかひなかりけり

一條院内侍參河

いかでわれひまゆく駒を引止めて昔に歸るみちを尋ねむ

源師光

攝政右大臣のとき家の歌合に述懷の歌とてよめる

今は唯いけらぬ物に身をなして生れぬ後の世にもふる哉

源俊重

つかさめしに伊勢になりけるを辭し申しける時大僧正行尊がもとに遣はしける

いかにせむいせの濱荻水隱れて思はぬ磯の浪にくちなば

源俊頼朝臣

たながみの山ざとに住み侍りける比風はげしかりける夜よめる

眞木の戸をみ山颪に叩かれてとふにつけてもぬるゝ袖哉

橘盛長

山田の庵にけぶりのたちけるをみてよめる

小山田の庵に焚く火のありなしにたつ煙もや雲となる覽

二條太皇太后宮肥後

堀川院の御時百首の歌奉りける時山家の心をよめる

山里の柴をり/\に立つけぶり人稀なりと空に志るかな

藤原基俊

長月のつごもりがたに煩らふことありてたのもしげなく覺えければ久しくとはぬ人につかはしける

秋はつる枯野の虫の聲たえば有や無しやを人のとへかし

藤原道信朝臣

女のもとにまかりて月のあかく侍りけるに空のけしき物心細く侍りければよみ侍りける

此世には住むべき程や盡ぬらむ世の常ならず物の悲しき

和泉式部

題志らず

命あらばいか樣にせむ世を志らぬ虫だに秋はなきに社なけ

紫式部

かずならで心に身をばまかせねど身に隨ふは心なりけり

藤原兼房朝臣

つねよりも世間はかなく聞えける頃さがみがもとに遣はしける

哀とも誰かは我を思出でむある世をだにもとふ人もなし

中納言定頼

前大納言公任ながたにゝ住み侍りける比風はげしかりける夜の朝つかはしける

故郷の板間の風にねざめして谷のあらしを思ひこそやれ

前大納言公任

かへし

谷風の身に志むごとに故郷のこの本をこそ思ひやりつれ

法成寺入道前太政大臣

前大納言公任入道志侍りてながたにゝ侍りけるとき僧の裝束法服などおくるとて遣はしける

古は思ひかけきやとりかはしかくきむものとのりの衣を

入道大納言公任

かへし

同じとし契りしあれば君がきる法の衣をたちおくれめや

おなじとしの人になむ侍りける。

辨のめのと

三條院かくれさせ給うて後かの院のまへを過ぎけるに松の梢はおなじさまにてついがき所々くづれたるにむぐらの茂りたるをみて其うちに江侍從が侍りけるに遣はしける

昔見し松の梢はそれながらむぐらの門をさしてけるかな

輔仁のみこ

一品聰子内親王仁和寺に住み侍りける冬比かけひのこほりを三のみこのもとにおくられて侍りければ遣はしける

山ざとの筧の水の氷れるは音きくよりもさびしかりけり

聰子内親王

かへし

やま里のさびしき宿の住かにも筧の水のとくるをぞまつ

太皇太后宮

大納言實家のもとに三十六人集をかりて返しつかはしけるなかに、故大炊御門右大臣のかきて侍りけるさうしにかきておしつけられて侍りける

この本にかき集めたる言の葉を別れし秋の形見とぞ見る

權大納言實家

かへし

この本にかく言の葉を見る度に頼みし蔭のなきぞ悲しき

仁和寺法親王守覺

高野にまうで侍りける時山路にてよみ侍りける

あとたえて世を遁るべき道なれや岩さへ苔の衣きにけり

述懷の心をよみ侍りける

思ひ出のあらば心もとまりなむ厭ひやすきは憂世なり鳬

前大僧正覺忠

大峰とほり侍りける時笙の岩屋といふ宿にてよみ侍りける

やどりする岩屋の床の苔莚幾夜になりぬいこそねられぬ

大納言宗家

述懷の歌とてよみ侍りける

身の程をしらずと人や思ふ覽かく憂ながら年をへぬれば

右近中將忠良

背かばやまことの道はしらずとも憂世を厭ふしるし計に

二條太皇太后宮別當

杣川におろす筏のうきながら過ぎゆく物はわが身なり鳬

藤原定家

百首の歌の中に述懷の歌とてよめる

自からあればある世に長らへて惜むと人に見えぬべき哉

攝政家丹後

うしとても厭ひもはてぬ世間をなか/\何に思知りけむ

法印倫圓

題志らず

のぼるべき道にぞ迷ふ位山これより奥のしるべなければ

中納言長方

十月に重服になりて侍りける又のとしの春傍官どもかゝいし侍りけるを聞きてよめる

諸人の花さく春をよそに見て猶しぐるゝは椎しばのそで

藤原顯方

題志らず

憂き世にもうれしき世にも先にたつ涙は同じ涙なりけり

前右兵衛督惟方

遠き國に侍りける時

[_]
[12]なおじ
さまなる物どもことなほりてのぼると聞えける時そのうちにもれにけりときゝて都の人のもとに遣はしける

此瀬にも沈むときけば涙川ながれしよりもぬるゝ袖かな
[_]
[12] SKT reads おなじ.

空人法師

世を背かむと思立ちける比よめる

かく計憂身なれども捨果てむと思ふになれば悲しかり鳬

平康頼

心の外なることにてしらぬ國にまかりけるをことなほりて京にのぼりて後日吉のやしろにまゐりてよみ侍りける

思ひきや志賀の浦浪立返り又あふみともならむものとは

登蓮法師

述懷の歌よみ侍りける時

かく計憂世の中を忍びてもまつべきことの末にあるかは

覺禅法師

修行にまかりありきける時よめる

思兼ねあくがれ出てゆく道はあゆぐ草葉に露ぞこぼるゝ

權僧正永縁

世のつねなきことを思ひてよめる

夢とのみ此世の事の見ゆる哉さむべき程はいつとなけれど

良暹法師

わづらふことありて雲林院なる所にまかりけるに人のとぶらへりければ遣はしける

此世をばくもの林に首途して煙とならむゆふべをぞ待つ

讀人志らず

題志らず

憂事のまどろむ程は忘られてさむれば夢の心地こそすれ

紫式部

孰く共身を遣方のしられねばうしと見つゝも長らふる哉

皇太后宮大夫俊成

述懷百首の歌の中に夢の歌とてよめる

うき夢は名殘までこそ悲しけれこの世の後も猶や歎かむ

藤原季通朝臣

百首の歌奉りける時無常の心をよめる

現をも現といかゞ定むべき夢にも夢をみずばこそあらめ

厭ひても猶忍ばるゝ我身かな再び來べきこの世ならねば

上西門院兵衛

これや夢いづれか現儚さを思ひわかでもすぎぬべきかな

花薗左大臣家小大進

明日しらぬみ室の峯の根無草何あだし世に生ひ始めけむ

前大納言成道

前大僧正覺忠御たけより大峯にまかり入りて神仙といふ所にて金泥法花經の書奉りて埋み侍るとて五十日ばかりとゞまりて侍りけるに房覺熊野のかたよりまかり侍りけるにつけて云ひおくりける

惜からぬ命ぞ更にをしまるゝ君がみやこに歸り來るまで

前大僧正覺忠

かへし

憂世をば捨て入にし山なれど君がとふにやいでむとす覽

仁和寺法親王守覺

閑居水聲といへる心をよみ侍りける

岩そゝぐ水よりほかに音せねば心一つにすましてぞきく

權大納言實國

高野にまゐりて侍りけるに奥院の靜蓮法師が庵室にまかりたりけるに哀に見えければ歸りてつかはしける

誰も昔露の身ぞかしと思ふにも心とまりしくさの庵かな

藤原公衡朝臣

秋の比山に昇りて横川の安樂の五僧の許にまかれりけるに正法房の障子に書き付け侍りける

なほざりに歸る袂はかはらねど心ばかりぞすみ染のそで

法印慈圓

題志らず

おほけなく浮世の民におほふかなわがたつ杣に墨染の袖

寂蓮法師

さびしさに憂世をかへて忍ばずば獨聞くべき松の風かは

殷富門院大輔

つく%\と思へば悲し曉の寐覺も夢をみるにぞありける

西住法師

まどろみて偖も止みなば如何せむ寐覺ぞあらぬ命也ける

六條院宣旨

先だつを見るは猶社悲しけれ後れ果つべき此世ならねば

二條太皇太后宮式部

さまかへむと思ひたつ人の物あはれなる夕ぐれに箏の琴ひくをきゝて

今はとてかきなす琴のはての緒の心細くもなりまさる哉

空仁法師

題志らず

大井川となせの瀧に身をなげて早くと人にいはせてしがな

大江公景

病ありて東山なる所に侍りけるをよろしくなりて後いかゞと人のとひて侍りける返りごとによめる

鳥邊山君たづぬとも朽ちはてゝ苔の下には答へざらまし

法眼兼覺

題志らず

分け侘びて厭ひし庭の蓬生も枯れぬと思へば哀なりけり

寂蓮法師

賀茂の社の歌合に述懷の歌とてよめる

世中のうきは今こそ嬉しけれ思ひしらずばいとはましやは

覺俊上人

山寺にこもりゐ侍りけるに房にとゞまりたる人のいつかいでむずるといひて侍りければ遣はしける

世をそむき草の庵にすみ染の衣のいろはかへるものかは

源通清

源清雅九月ばかりにさまかへて山寺に侍りけるを人のとひて侍りける返事せよと申し侍りければよみて遣はしける

思ひやれならはぬ山に墨染のそでに露おく秋のけしきを

圓位法師

題志らず

あかつきの嵐にたぐふ鐘の音を心のそこに答へてぞきく

孰くにか身を隱さまし厭ひ出て浮世に深き山なかりせば

皇太后宮大夫俊成

述懷百首の歌よみ侍りける時鹿の歌とてよめる

世中よ道こそなけれ思ひ入る山の奥にもしかぞなくなる

藤原良清

秋比山寺にてよみ侍りける

思ふこと有明方の鹿の音はなほ山ふかくいへゐせよとや

藤原宗隆

題志らず

見る夢のすぎにし方をさそひきてさむる枕も昔なりせば

藤原有家朝臣

太宰大貳重家入道身まかりて後山寺懷舊といへる心をよめる

初瀬山入あひの鐘を聞くたびに昔の遠くなるぞかなしき

權中納言通親

春比久我にまかれりけるついでに父のおとゞの墓所のあたりの花ちりけるを見てむかし花をしみ侍りける心ざしなど思ひ出でゝよみ侍りける

ちりつもる苔の下にも櫻花をしむこゝろやなほ殘るらむ

入道前中納言雅兼

かしらおろし侍りて後前中納言雅頼まだ小男に侍りける時はじめて昇殿申させ侍りけるをゆるされて侍りければよみて奏せさせ侍りける

嬉しさを返す%\も包むべき苔の袂のせばくもあるかな

藤原季經朝臣

還昇して侍りける人のもとに遣はし侍りける

嬉しさをよその袖までつゝむかなたち歸りぬる天の羽衣

今上の御時五節の程侍從定家あやまちあるさまに聞しめすことありて殿上のぞかれて侍りけるそのとしも暮れにける又の年の彌生のついたち比院におほむけしき給ふべきよし左少辨定長がもとに申し侍りけるにそへて侍りける

あしたづの雲路迷ひし年暮て霞をさへやへだてはつべき

藤原定長朝臣

この由を奏し申し侍りければいとかしこく哀れがらせおましまして今ははや還昇位を下すべきよし御けしきありて心はるゝよしのかへし仰せつかはせと仰せ出されければよみて遣はしける

蘆たづは霞をわけて歸るなり迷ひし雲路けふやはるらむ

この道の御あはれびむかしの聖代にもことならずとなむときの人申し侍りける。