University of Virginia Library

10. 千載和歌集卷第十
賀歌

院御製

みこにおはしましける時鳥羽殿に渡らせ給へりける頃八條院内親王と申しける時かの御かたにて竹遐年友といへる心を講ぜられけるによませ給うける

幾千世とかぎらざりける呉竹や君が齡のたぐひなるらむ

後三條内大臣

うゑて見る籬の竹の節ごとにこもれる千よは君ぞ數へむ

皇太后宮大夫俊成

わが友に君がみかきの呉竹は千よに幾よの影をそふらむ

大宮前太政大臣

祝の心をよみ侍りける

君が代は天のかご山出づる日のてらむ限は盡じとぞ思ふ

源俊頼朝臣

堀川院の御時立春の朝に今日の心つかうまつるべきよし侍りければ奏し侍りける

君がためみたらし川を若水にむすぶや千代の始なるらむ

堀川院御製

同じ御時后の宮にて花契遐年といへる心を上のをのこどもつかうまつりけるによませ給うける

千年まで折りて見るべき櫻花梢はるかにさきそめにけり

大納言忠教

鳥羽院位おりさせ給うての頃庭花年久といへる心をかれこれつかうまつりけるによみ侍りける

ほり植ゑし若木の梅にさく花は年も限らぬ匂ひなりけり

權中納言俊忠

堀川院の御時鳥羽殿に行幸の日池上藤といへる心をよみ侍りける

千とせすむ池の汀の八重櫻かげさへそこに重ねてぞ見る

源俊頼朝臣

白川院鳥羽殿におはしましける時松契遐年といふ心をよめる

神代より久しかれとや動きなき岩ねに松の種を蒔きけむ

京極の前のおほきおほいまうち君の高陽院の家の歌合に祝の心をよみ侍りける

落瀧つやそ宇治川のはやき瀬に岩こす波は千代の數かも

京極前太政大臣

二條太皇太后宮賀茂のいつきと申しける時本院にて松枝映水といへる心をよみ侍りける

千早振いつきの宮のありす川松とともにぞ影はすむべき

二條太皇太后宮肥後

堀川院の御時百首の歌奉りける時子日の心をよめる

行末をまつぞひさしき君がへむ千代の始の子日と思へば

藤原基俊

祝の心をよめる

奥山のやつをの椿君が世にいくたび蔭をかへむとすらむ

法性寺入道前太政大臣

保延二年法金剛院に行幸ありて菊契多秋といへる心をよみ侍りける

君が代を長月にしも白菊の咲くや千歳の志るしなるらむ

花薗左大臣

八重菊の匂に志るし君が世はちとせの秋を重ぬべしとは

八條前太政大臣

千早振神代のことも人ならばとはましものを白菊のはな

崇徳院御製

百首の歌めしける時祝の心をよませ給うける

吹く風も木々の枝をばならさねど山は久しき聲ぞきこゆる

左のおほいまうち君

二條院の御時大内におはしまして始めて花有喜色といへる心をよませ給ひけるによみ侍りける

千世ふべき始の春としりがほにけしきことなる初櫻かな

二條院御製

うへのをのこども百首の歌奉りける時祝の心をよませ給うける

白雲にはねうちつけてとぶ鶴の遙に千世の思ほゆるかな

式子内親王

百首の歌よみ給ひける時の祝の歌

うごきなきなほ萬世ぞ頼むべきはこやの山のみねの松風

皇太后宮大夫俊成

攝政、右大臣に侍りける時百首の歌よませ給ひけるに祝の歌五首が中によみ侍りける

百千たび浦島が子は歸るともはこやの山は常磐なるべし

大炊御門右大臣

二條院の御時おほ炊の御門高倉の内裏に侍りけるに同じ西の町の家にて初めて詩歌講じ侍りけるに鶴契遐年といへる心をよみ侍りける

幾千世と限らぬたづの聲すなり雲ゐの近き宿の志るしに

入道前關白太政大臣

閑院の家にてはじめて對松爭齡といへる心をよみ侍りける

千年ふる尾上の小松移し植ゑて萬代までの友とこそ見め

源通能朝臣

萬代もすむべき宿にうゑつれば松こそ君が影をたのまめ

右のおほいまうち君

高倉院の御時内裏にまゐり侍りけるにうへの御笛に萬歳樂ふかせ給ひけるをはじめて承りて又の日女房の中に申し侍りける

笛のねの萬代までと聞えしを山もこたふる心地せしかな

修理大夫顯季

入道右大臣はじめて中院の家に住み侍りける時祝の心をよめる

群れてゐるたづのけしきに著き哉千年すむべき宿の池水

賀茂成助

橘俊綱の朝臣の伏見の家にかつらをほりうゑさせ給ひけるによめる

瑞垣の桂をうつす宿なればつき見むことぞ久しかるべき

藤原孝善

俊綱の朝臣さぬきの守にまかりける時祝の心をよめる

君が代に較べていはゞ松山の松の葉數はすくなかりけり

善滋爲政朝臣

後一條院の御時長和五年大甞會主基方の御屏風に備中國長田山の麓に琴ひき遊びしたる所をよめる

千世とのみ同じことをぞ調ぶなる長田の山のみねの松風

前中納言匡房

白川院の御時承保元年大嘗會主基方の稻春歌神田の郷をよめる

千早振神田の里のいねなれば月日とともに久しかるべし

宮内卿永範

院の御時の久壽二年大甞會悠紀方の風俗歌近江國わか松の森をよめる

すべらぎの末さかゆべき印には木高くぞなる若松のもり

參議俊綱

平治元年大甞會悠紀方の風俗歌近江國千坂の森をよめる

君か代の數にはしかじ限なき千坂の浦のまさごなりとも

刑部卿範兼

同じ御時大甞會主基方の稻春歌丹波國雲田村をよめる

天地の極めも知らぬ御代なれば雲田の村の稻をこそつけ

宮内卿永範

高倉院の御時仁安三年大甞會悠紀方の御屏風の歌

霜ふれどさかえこそませ君が世に逢坂山のせきのすぎ村

藤原季經朝臣

今上の御時元暦元年大甞會悠紀方の風俗歌、三神の山をよめる

ときはなるみ神の山の杉村や八百萬代のしるしなるらむ