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千載和歌集卷第六 冬歌
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
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6. 千載和歌集卷第六
冬歌

大納言公實

堀川院の御時百首の歌奉りける時初冬の心をよみ侍りける

昨日こそ秋はくれしかいつの間に岩まの水の薄氷るらむ

源俊頼朝臣

いかばかり秋の名殘を眺めましけさは木葉に嵐ふかずば

藤原仲實朝臣

いづみ川水のみわだのふしづけに岩間の氷る冬はきに鳬

崇徳院御製

百首の歌めしける時初冬の心をよませ給うける

ひまもなくちる紅葉に埋もれて庭の景色も冬ごもりけり

大炊御門右大臣

樣々の草葉も今は霜がれぬ野べより冬は立ちて來つらむ

大納言隆季

澄むみづを心なしとは誰かいふ氷ぞ冬のはじめをも志る

前參議教長

秋の内は哀志らせし風の音の烈しさ添ふる冬は來にけり

花薗左大臣家小大進

我せこが上裳の裾の水波にけさこそ冬は立ちはじめけれ

藤原孝善

山家初冬をよめる

いつのまに筧の水のこほるらむさこそ嵐の音のかはらめ

和泉式部

題志らず

外山ふく嵐の風の音きけばまだきに冬のおくぞ志らるゝ

大炊御門右大臣

百首の歌奉りける時初冬の歌によみ侍りける

初霜やおきはじむらむ曉の鐘のおとこそほのきこゆなれ

前中納言匡房

堀川院の御時百首の歌奉りける時よめる

高砂の尾上の鐘の音すなりあかつきかけて霜やおくらむ

藤原基俊

楸生る小野の淺茅におく霜の白きをみればよや更けぬ覽

藤原定家

冬の始の歌とて

冬來ては一夜ふたよをたま笹の葉わけの霜の處せきまで

藤原もとゝし

題志らず

霜さえて枯行く小野の岡べなる楢の廣葉に時雨ふるなり

馬内侍

寐覺して誰かきくらむこの頃の木葉に變る夜半の時雨を

源定信

法性寺入道前太政大臣、内大臣に侍りける時家の歌合に時雨をよめる

音にさへ袂をぬらす時雨かな眞木の板屋の夜半の寐覺に

皇太后宮大夫俊成

崇徳院に百首の歌奉りける時落葉の歌とてよめる

まばらなる槇の板屋に音はしてもらぬ時雨や木葉なる覽

仁和寺後入道法親王

時雨の歌とてよめる

木葉ちると計り聞きてやみなましもらで時雨の山廻せば

攝政前右大臣

曉更時雨といへる心をよみ侍りける

獨ねの泪やそらにかよふらむ時雨にくもるありあけの月

藤原隆信朝臣

うたゝねの夢や現に通ふらむ覺めても同じ時雨をぞ聞く

從三位攝政

時雨の歌とてよめる

やま廻る雲の下にやなりぬらむ裾野の原に時雨すぐなり

源師光

志ぐれゆく遠の外山の峯續き移りもあへず雲かゝるらむ

道因法師

嵐ふく比良の高嶺のねわたしに哀れ志ぐるゝ神無月かな

中納言國信

堀川院の御時百首の歌奉りける時の時雨の歌

深山べの志ぐれてわたる數毎にかごとがましき玉柏かな

源俊頼朝臣

木葉のみちると思ひし時雨には涙もたへぬ物にぞ有ける

ニ條太皇太后宮肥後

振りはへて人も訪來ぬ山里は時雨計りぞ過ぎがてにする

藤原定家

圓位法師人々にすゝめて百首の歌よませ侍りけるとき時雨の歌とて

志ぐれつる山の軒端の程なきに頓てさしいる月の影かな

讀人志らず

玉章に涙のかゝる心地して志ぐるゝそらに雁のなくなり

源仲頼

山家時雨といへる心を

峯ごえに楢の葉傳ひ音づれて頓て軒端に志ぐれ來にけり

紀康宗

題志らず

曉のねざめに過ぐる時雨こそもらでも人の袖ぬらしけれ

藤原盛雅

落葉の心をよめる

ちりはてゝ後さへ風を厭ふかな紅葉をふけるみ山べの里

中納言定頼女

中納言定頼世をのがれて後山里に侍りける頃遣し侍りける

都だにさびしさまさる木枯に峰の松かぜおもひこそやれ

中納言定頼

宇治にまかりて侍りける時よめる

朝ぼらけ宇治の川ぎり絶々にあらはれ渡る瀬々の網代木

藤原仲實朝臣

堀川院の御時百首の歌奉りける時鷹狩をよめる

矢形尾のましろの鷹を引据ゑて宇陀の鳥立を狩暮しつる

隆源法師

ふる雪に行方も見えずはし鷹の尾房の鈴の音ばかりして

源俊頼朝臣

夕まぐれ山かたつきて立つ鳥の羽音に鷹をあはせつる哉

藤原ながたふ

傳大納言道綱の家の歌合に千鳥を

妹許と佐保の川べを分行けばさ夜か更けぬる千鳥鳴く也

皇太后宮大夫俊成

千鳥をよめる

須磨の關有明の空になく千鳥かたぶく月やなれも悲しき

道因法師

岩こゆるあら磯なみにたつ千鳥心ならずや浦づたふらむ

右大臣

曉になりや志ぬらむ月影のきよきかはらに千鳥なくなり

法印靜賢

霜さへて小夜も長居の浦寒み明遣らずとや千鳥なくらむ

賀茂成保

霜枯の難波のあしのほの%\とあくる湊に千鳥鳴くなり

源親房

水鳥をよめる

形見にや上毛の霜を拂ふらむともねの鴛のもろ聲になく

紫式部

題志らず

水鳥を水の上とやよそに見む我もうきたる世を過しつゝ

前中納言匡房

堀川院の御時百首の歌奉りける時よめる

水鳥のたま藻のとこのうき枕ふかき思はたれかまされる

崇徳院御製

百首の歌めしける時よませ給うける

このごろのをしのうきねぞ哀なる上毛の志もよ下の氷よ

左京大夫顯輔

難波潟入江をめぐるあしがもの玉藻の床の浮寐すらしも

權中納言經房

氷初結といへることを

鴛鳥の浮寐の床やあれぬらむつらゝゐにけるこやの池水

道因法師

水鳥の歌とてよめる

鴨のゐる入江の葦は霜がれておのれのみこそ青ばなりけれ

賀茂重保

おく雲を拂兼ねてや萎れふすかつみが下に鴛のなくらむ

前左衛門督公光

月前水鳥といへる心をよめる

芦がものすだく入江の月かげは氷ぞ波のかずにくだくる

平實重

冬月といへる心をよめる

夜をかさね結ぶ氷の志たにさへ心ふかくもすめる月かな

左大辨親宗

氷の歌とてよめる

いづくにか月は光をとゞむらむやどりし水も氷ゐにけり

藤原成家朝臣

冬くればゆくて人はくまねども氷ぞむすぶ山の井の水

道因法師

月のすむ空には雲もなかりけりうつりし水は氷へだてゝ

崇徳院御製

百首の歌めしける時氷の歌とてよませ給うける

氷柱ゐてみがける影の見ゆるかなまことに今や玉川の水

皇太后宮大夫俊成

月さゆる氷のうへに霰ふりこゝろくだくるたまがはの里

左近中將良經

閑居聞霰といへる心をよみ侍りける

さゆる夜の眞木のいたやの獨ねに心くだけと霰ふるなり

大納言經信

山家雪朝といへる心をよめる

朝戸あけて見るぞ寂しき片岡のならの廣葉にふれる白雪

崇徳院御製

百首の歌の中に雪の歌とてよませ給うける

夜をこめて谷の戸ぼそに風寒みかねてぞ志るき嶺の初雪

藤原季通朝臣

さえ渡る夜半の景色に深山べの雪の深さを空に志るかな

藤原清輔

きゆるをや都の人はをしむらむけさ山ざとにはらふ白雪

藤原資隆朝臣

雪の歌とてよめる

霜がれの籬のうちの雪見れば菊よりのちの花もありけり

仁和寺後入道法親王

題志らず

たとへてもいはむかたなし月影に薄雲かけてふれる白雪

前參議教長

み山路はかつちる雪に埋れていかでか駒のあとを尋ねむ

治部卿通俊

京極前太政大臣の高陽院の家の歌合に雪の歌とてよめる

おしなべて山の白雪積れども志るきは越の高嶺なりけり

藤原顯綱朝臣

外山には柴の下葉もちりはてゝ遠の高ねに雪降りにけり

源俊頼朝臣

ふる雪に谷のかけはしうづもれて梢ぞ冬の山路なりける

二條院御製

うへのをのこども百首の歌奉りける時雪の歌とてよませ給うける

雪つもる嶺にふゞきや渡るらむ越のみ空にまよふ志ら雲

二品法親王

遍照寺にて池邊雪といへる心をよみ侍りける

浪かけば汀の雪もきえなましこゝろありても氷る池かな

右のおほいまうち君

雪の歌とてよみ侍りける

山里の垣ねは雪に埋れて野べとひとつになりにけるかな

右近大將實房

跡もたえ志をりも雪に埋れてかへる山路に迷ひぬるかな

從三位頼政

越兼ねて今ぞ越路へ歸る山雪ふる時の名にこそありけれ

顯昭法師

浪間より見えしけしきぞ變りぬる雪ふりにけり松が浦島

藤原良清

攝政、右大臣に侍りける時百首の歌よませ侍りける時雪の歌とてよめる

ふゞきする長柄の山を見渡せば尾上をこゆる志賀の浦波

讀人志らず

醍醐の清瀧のやしろに歌合志侍りける時よめる

ふる雪に軒ばの竹もうづもれて友こそなけれ冬の山ざと

西住法師

行路雪といへる心をよめる

駒の跡はかつふる雪に埋れておくるゝ人や道まどふらむ

坂上明兼

題志らず

呉竹の折れふす音のなかりせばよ深き雪を爭で志らまし

藤原爲季

雪の歌とてよめる

眞柴かる小野の細道跡たえて深くも雪のなりにけるかな

俊惠法師

雪ふれば木々の梢も咲初むる枝よりほかの花もちりけり

内大臣

關路滿雪といへる心をよみ侍りける

ふる儘に跡たえぬれば鈴鹿山雪こそ關のとざしなりけれ

天臺座主明快

年の内に梅の花の咲けるを見て詠み侍りける

山里の垣ねの梅はさきにけりかばかりこそは春も匂はめ

前大納言實長

雪中歳暮といへる心をよみ侍りける

かき暮し越路も見えずふる雪に爭でか年の歸りゆくらむ

前左衞門公光

籠居て侍りける年の暮によめる

さりともと歎き/\て過しつる年も今宵に暮果てにけり

相模

年の暮の心をよめる

哀にも暮れゆく年の日數かな歸らむ事は夜のまと思ふに

惟宗廣言

歳暮述懷のこゝろをよめる

數ならぬ身には積らぬ年ならば今日の暮をも歎ざらまし

源光行

をしめども儚く暮れてゆく年の忍ぶ昔にかへらましかば

前律師俊宗

歳暮の心をよみ侍りける

一年は儚き夢の心地して暮れぬるけふぞおどろかれぬる

民部卿親範

かしらおろして後大原に籠りゐて侍りけるに閑中歳暮といへる心を上人どもよみ侍りけるによみ侍りける

都にて送り迎ふと急ぎしを志りてや年の今日は暮るらむ