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13. 千載和歌集卷第十三
戀歌三

藤原實方朝臣

題志らず

契りこし事の違ふぞ頼もしきつらさも斯や變ると思へば

相模

志らじかし思ひも出ぬ心にはかく忘られず我なげくとも

藤原長能

つれもなくなりぬる人の玉章をうき思出の形見ともせじ

柔かにぬる夜もなくて別れぬるよゝの手枕いつか忘れむ

小大君

ふん月の七日の夜大納言朝光物いひ侍りけるを又の日心あるさまに人のいひ侍りければつかはしける

棚機にかしつと思ひし逢事を其夜なき名の立ちにける哉

宇治前太政大臣

枇杷どのゝ皇太后宮にまゐりて侍りけるに辨のめのとのはかまのこしのいでたるを御まへなる硯を引きよせてそのこしにかきつけ侍りける

恨めしやむすぼゝれたる下紐のとけぬや何の心なるらむ

辨のめのと

かへし

下紐は人の戀るにとくなればたがつらきとか結ぼゝる覽

大納言公實

堀川院の御時百首の歌奉りける時戀の心をよめる

獨ぬるわれにて志りぬ池水につがはぬをしのおもふ心を

中納言師時

戀をのみ志づのをだ卷くるしきはあはで年ふる思なり鳬

源俊頼朝臣

あまでほすあづま處女の萱莚志き志のびてもすぐす頃哉

修理大夫顯季

中院右大臣、中將に侍りける時歌合志侍りけるによめる

世と共に行方もなき心かな戀は道なきものにぞありける

僧都覺雅

旅戀の心をよめる

旅衣涙のいろの志るければ露にもえこそかこたざりけれ

大納言公實

堀川院の御時艷書の歌をうへのをのこどもによませさせ給うて歌よむ女房のもとにつかはしけるを大納言公實は康資の王の母につかはしけるを又すはうの内侍にもつかはしけると聞きてそねみたる歌を送りて侍りければ遣はしける

みつ潮の末葉を洗ふながれ芦の君をぞ思ふうきみ沈みゝ

權中納言俊忠

中將に侍りける時歌合志侍りけるに戀の歌とてよめる

我戀はあまのかる藻に亂れつゝかわく時なき浪のした草

藤原時昌

法性寺入道内大臣に

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[4]侍りる時の
歌合に尋ねうしなふ戀といへる心をよめる

等閑に三輪の杉とは教へおきて尋ぬる時はあはぬ君かな
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[4] SKT reads 侍りける時の.

皇太后宮大夫俊成

法性寺殿にて五月の御供花の時をのこども歌よみ侍りけるに契後隱戀といへる心をよみ侍りける

憑めこし野邊の道芝夏ふかしいづくなるらむ鵙の草ぐき

法性寺入道前太政大臣

題志らず

冬の日を春よりながくなす物は戀つゝくらす心なりけり

院御製

位の御とき皇太后宮はじめてまゐり給へりける後の朝につかはしける

萬世を契染めつる志るしにはかつ%\けふの暮ぞ久しき

おなじ御時忍びてはじめてまうのぼりて侍りける人に朝まつりごとの程まぎれさせ給ふことありて暮れにけるゆふつかた遣はされける

今朝とはぬつらさに物は思知れ我もさこそは恨兼ねしか

待賢門院加賀

花園左大臣につかはしける

かねてより思ひしことぞふし柴のこる計なる歎きせむとは

前參議教長

百首の歌奉りける時戀の心をよめる

戀しさは逢ふを限と聞しかどさてもいとゞ思添ひけり

左京大夫顯輔

よそにしてもどきし人に早晩と袖の雫をとはるべきかな

待賢門院のほりかは

長からむ心も志らず黒髮の亂れてけさはものをこそ思へ

上西門院兵衛

よひのまもまつに心や慰むと今こむとだに頼めおかなむ

待賢門院のあき

磯馴木のそなれ/\てむす苔のまほならず共逢見てしがな

從三位頼政

後朝戀の心をよめる

人はいさあかぬ夜床に留めつる我心こそわれをまつらめ

權中納言通親

忍びたる所にまかりて有明の月に夜ふかく歸りてつかはしける

思へたゞ入りやらざりし有明の月よりさきにいでし心を

皇嘉門院別當

攝政、右大臣の時の家の歌合に旅宿逢戀といへる心をよめる

難波江の葦のかりねの一夜故みをつくしてや戀渡るべき

藤原公衡朝臣

初逢戀の心をよめる

こひ/\てあふ嬉しさを包むべき袖は泪に朽果てにけり

藤原隆信朝臣

君やたれありしつらさは誰なれば恨けるさへ今は悔しき

參議俊憲

夢中契戀といへる心をよめる

姿こそね覺のとこに見えずとも契りしことの現なりせば

前齋院新肥前

中納言國信志のびてもの申して後つかはしける

東屋のあさきの柱我ながらいつふしなれて戀しかるらむ

久我内大臣

寄枕戀といへる心をよみ侍りける

包めども枕は戀を志りぬらむ泪かゝらぬ夜半しなければ

前中納言雅頼

夏戀の心をよめる

戀すればもゆる螢もなく蝉もわが身の他の物とやはみる

右大臣

題志らず

引きかけて泪を人につゝむまに裏や朽ちなむ夜半の衣は

前參議親隆

百首の歌奉りける時戀の歌とてよめる

鹽たるゝ伊勢をの蜑の袖だにもほすなる隙はありと社きけ

藤原清輔朝臣

歌合志侍りける時よめる

暫しこそぬるゝ袂も志ぼりしか涙に今はまかせてぞ見る

顯昭法師

よしさらば泪にくちねから衣ほすも人目を忍ぶかぎりぞ

道因法師

題志らず

思侘びさても命はあるものをうきにたへぬは泪なりけり

遊女戸々

藤原仲實朝臣備中守にまかれりける時ぐしてくだりたりけるを思ひうすくなりて後月を見てよみ侍りける

數ならぬ身にも心のありがほに獨も月をながめつるかな

中原清重

契日中戀といへる心をよめる

涙にやくちはてなまし唐衣袖のひるまとたのめざりせば

藤原成親

鳥羽院の御時藏人所に侍りける時をんなにかはりてよめる

枯果つる小笹がふしを思ふにも少かりけるよゝの數かな

藤原伊經

寄催馬樂戀といへる心をよめる

分けきつる小笹が露の繁ければ逢ふ道にさへぬるゝ袖哉

讀人志らず

旅戀といへる心をよめる

おきて行く泪のかゝる草枕つゆ志げしとや人のあやめむ

月前戀といへるこゝろを

泪をもしのぶる比のわが袖にあやなく月の宿りぬるかな

内大臣

稱他人戀といへる心をよみ侍りける

忍兼ね今はわれとやなのらまし思捨つべき氣色ならねば

左近中將良經

知られても厭れぬべき身ならをば名をさへ人に包まゝしやは

左近衛督隆房

女に忍びてかたらふこと侍りけるを聞ゆることの侍りければ遣はしける

いづくより吹くる風の散らしけむ誰も忍の森のことの葉

從三位頼政

題志らず

思かね夢に見ゆやと返さずばうらさへ袖は濡さゞらまし

源師光

繰返しくやしきものは君にしも思ひよりけむ賤のをだ卷

藤原隆親

厭はるゝ身をうしとてや心さへ我を離れて君にそふらむ

源光行

あぢきなくいはで心を盡すかなつゝむ人めも人の爲かは

皇太后宮若水

紅にしをれし袖もくちはてぬあらばや人に色もみすべき

皇嘉門尾張

命こそ己が物からうかりけれあればぞ人をつらし共見る

右近中將忠良

契る事侍りけるを忘れたる女につかはしける

何とかや忍ぶにはあらで故郷の軒端に茂る草の名ぞうき

太皇太后宮小侍從

夢中契戀といへる心をよめる

見し夢の覺めぬ頓ての現にてけふと頼めし暮を待たばや

二條院御製

人につかはしける

志るらめやおつる泪の露ともに別の床にきえて戀ふとは

讀人志らず

御返事

まだ志らぬ露おく袖を思遣れかごとばかりのとこの涙に

攝政前右大臣

右大臣に侍りける時百首の歌よませ侍りける時後朝の歌とてよみ侍りける

かへりつる名殘の空をながむれば慰めがたきあり明の月

皇太后宮大夫俊成

忘るなよ世々の契をすが原やふし見の里のありあけの空