万葉集 (Manyoshu) | ||
春相聞
1448
[題詞]大伴宿祢家持贈坂上家之大嬢歌一首
[原文]吾屋外尓 蒔之瞿麥 何時毛 花尓咲奈武 名蘇經乍見武
[訓読]我がやどに蒔きしなでしこいつしかも花に咲きなむなそへつつ見む
[仮名],わがやどに,まきしなでしこ,いつしかも,はなにさきなむ,なそへつつみむ
1449
[題詞]大伴田村家<之>大嬢與妹坂上大嬢歌一首
[原文]茅花抜 淺茅之原乃 都保須美礼 今盛有 吾戀苦波
[訓読]茅花抜く浅茅が原のつほすみれ今盛りなり我が恋ふらくは
[仮名],つばなぬく,あさぢがはらの,つほすみれ,いまさかりなり,あがこふらくは
1450
[題詞]大伴宿祢坂上郎女歌一首
[原文]情具伎 物尓曽有鶏類 春霞 多奈引時尓 戀乃繁者
[訓読]心ぐきものにぞありける春霞たなびく時に恋の繁きは
[仮名],こころぐき,ものにぞありける,はるかすみ,たなびくときに,こひのしげきは
1451
[題詞]笠女郎贈大伴家持歌一首
[原文]水鳥之 鴨乃羽色乃 春山乃 於保束無毛 所念可聞
[訓読]水鳥の鴨の羽色の春山のおほつかなくも思ほゆるかも
[仮名],みづどりの,かものはいろの,はるやまの,おほつかなくも,おもほゆるかも
1452
[題詞]紀女郎歌一首 [名曰小鹿也]
[原文]闇夜有者 宇倍毛不来座 梅花 開月夜尓 伊而麻左自常屋
[訓読]闇ならばうべも来まさじ梅の花咲ける月夜に出でまさじとや
[仮名],やみならば,うべもきまさじ,うめのはな,さけるつくよに,いでまさじとや
1453
[題詞]天平五年癸酉春閏三月笠朝臣金村贈入唐使歌一首[并短歌]
[原文]玉手次 不懸時無 氣緒尓 吾念公者 虚蝉之 <世人有者 大王之> 命恐 夕去者
鶴之妻喚 難波方 三津埼従 大舶尓 二梶繁貫 白浪乃 高荒海乎 嶋傳 伊別徃者 留有
吾者幣引 齊乍 公乎者将<待> 早還万世
[訓読]玉たすき 懸けぬ時なく 息の緒に 我が思ふ君は うつせみの 世の人なれば 大
君の 命畏み 夕されば 鶴が妻呼ぶ 難波潟 御津の崎より 大船に 真楫しじ貫き 白波
の 高き荒海を 島伝ひ い別れ行かば 留まれる 我れは幣引き 斎ひつつ 君をば待た
む 早帰りませ
[仮名],たまたすき,かけぬときなく,いきのをに,あがおもふきみは,うつせみの,よのひ
となれば,おほきみの,みことかしこみ,ゆふされば,たづがつまよぶ,なにはがた,みつの
さきより,おほぶねに,まかぢしじぬき,しらなみの,たかきあるみを,しまづたひ,いわか
れゆかば,とどまれる,われはぬさひき,いはひつつ,きみをばまたむ,はやかへりませ
1454
[題詞](天平五年癸酉春閏三月笠朝臣金村贈入唐使歌一首[并短歌])反歌
[原文]波上従 所見兒嶋之 雲隠 穴氣衝之 相別去者
[訓読]波の上ゆ見ゆる小島の雲隠りあな息づかし相別れなば
[仮名],なみのうへゆ,みゆるこしまの,くもがくり,あないきづかし,あひわかれなば
1455
[題詞]((天平五年癸酉春閏三月笠朝臣金村贈入唐使歌一首[并短歌])反歌)
[原文]玉切 命向 戀従者 公之三舶乃 梶柄母我
[訓読]たまきはる命に向ひ恋ひむゆは君が御船の楫柄にもが
[仮名],たまきはる,いのちにむかひ,こひむゆは,きみがみふねの,かぢからにもが
1456
[題詞]藤原朝臣廣嗣櫻花贈娘子歌一首
[原文]此花乃 一与能内尓 百種乃 言曽隠有 於保呂可尓為莫
[訓読]この花の一節のうちに百種の言ぞ隠れるおほろかにすな
[仮名],このはなの,ひとよのうちに,ももくさの,ことぞこもれる,おほろかにすな
1457
[題詞]娘子和歌一首
[原文]此花乃 一与能裏波 百種乃 言持不勝而 所折家良受也
[訓読]この花の一節のうちは百種の言待ちかねて折らえけらずや
[仮名],このはなの,ひとよのうちは,ももくさの,ことまちかねて,をらえけらずや
1458
[題詞]厚見王贈久米女郎歌一首
[原文]室戸在 櫻花者 今毛香聞 松風疾 地尓落良武
[訓読]やどにある桜の花は今もかも松風早み地に散るらむ
[仮名],やどにある,さくらのはなは,いまもかも,まつかぜはやみ,つちにちるらむ
1459
[題詞]久米女郎報贈歌一首
[原文]世間毛 常尓師不有者 室戸尓有 櫻花乃 不所比日可聞
[訓読]世間も常にしあらねばやどにある桜の花の散れるころかも
[仮名],よのなかも,つねにしあらねば,やどにある,さくらのはなの,ちれるころかも
1460
[題詞]紀女郎贈大伴宿祢家持歌二首
[原文]戯奴 [變云 和氣] 之為 吾手母須麻尓 春野尓 抜流茅花曽 御食而肥座
[訓読]戯奴 [變云 わけ] がため我が手もすまに春の野に抜ける茅花ぞ食して肥えませ
[仮名],わけ[わけ],がため,わがてもすまに,はるののに,ぬけるつばなぞ,めしてこえませ
1461
[題詞](紀女郎贈大伴宿祢家持歌二首)
[原文]晝者咲 夜者戀宿 合歡木花 君耳将見哉 和氣佐倍尓見代
[訓読]昼は咲き夜は恋ひ寝る合歓木の花君のみ見めや戯奴さへに見よ
[仮名],ひるはさき,よるはこひぬる,ねぶのはな,きみのみみめや,わけさへにみよ
1462
[題詞]大伴家持贈和歌二首
[原文]吾君尓 戯奴者戀良思 給有 茅花手雖喫 弥痩尓夜須
[訓読]我が君に戯奴は恋ふらし賜りたる茅花を食めどいや痩せに痩す
[仮名],あがきみに,わけはこふらし,たばりたる,つばなをはめど,いややせにやす
1463
[題詞](大伴家持贈和歌二首)
[原文]吾妹子之 形見乃合歡木者 花耳尓 咲而盖 實尓不成鴨
[訓読]我妹子が形見の合歓木は花のみに咲きてけだしく実にならじかも
[仮名],わぎもこが,かたみのねぶは,はなのみに,さきてけだしく,みにならじかも
1464
[題詞]大伴家持贈坂上大嬢歌一首
[原文]春霞 軽引山乃 隔者 妹尓不相而 月曽經去来
[訓読]春霞たなびく山のへなれれば妹に逢はずて月ぞ経にける
[仮名],はるかすみ,たなびくやまの,へなれれば,いもにあはずて,つきぞへにける
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