University of Virginia Library

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[題詞]悲傷死妻高橋朝臣作歌一首[并短歌]

[原文]白細之 袖指可倍弖 靡寐 吾黒髪乃 真白髪尓 成極 新世尓 共将有跡 玉緒乃 不絶射妹跡 結而石 事者不果 思有之 心者不遂 白妙之 手本矣別 丹杵火尓之 家従裳 出而 緑兒乃 哭乎毛置而 朝霧 髣髴為乍 山代乃 相樂山乃 山際 徃過奴礼婆 将云為 便 将為便不知 吾妹子跡 左宿之妻屋尓 朝庭 出立偲 夕尓波 入居嘆<會> 腋<挾> 兒 乃泣<毎> 雄自毛能 負見抱見 朝鳥之 啼耳哭管 雖戀 効矣無跡 辞不問 物尓波在跡 吾妹子之 入尓之山乎 因鹿跡叙念
[訓読]白栲の 袖さし交へて 靡き寝し 我が黒髪の ま白髪に なりなむ極み 新世に ともにあらむと 玉の緒の 絶えじい妹と 結びてし ことは果たさず 思へりし 心は遂 げず 白栲の 手本を別れ にきびにし 家ゆも出でて みどり子の 泣くをも置きて 朝 霧の おほになりつつ 山背の 相楽山の 山の際に 行き過ぎぬれば 言はむすべ 為む すべ知らに 我妹子と さ寝し妻屋に 朝には 出で立ち偲ひ 夕には 入り居嘆かひ 脇 ばさむ 子の泣くごとに 男じもの 負ひみ抱きみ 朝鳥の 哭のみ泣きつつ 恋ふれども 験をなみと 言とはぬ ものにはあれど 我妹子が 入りにし山を よすかとぞ思ふ
[仮名],しろたへの,そでさしかへて,なびきねし,わがくろかみの,ましらかに,なりなむ きはみ,あらたよに,ともにあらむと,たまのをの,たえじいいもと,むすびてし,ことはは たさず,おもへりし,こころはとげず,しろたへの,たもとをわかれ,にきびにし,いへゆも いでて,みどりこの,なくをもおきて,あさぎりの,おほになりつつ,やましろの,さがらか やまの,やまのまに,ゆきすぎぬれば,いはむすべ,せむすべしらに,わぎもこと,さねしつ まやに,あしたには,いでたちしのひ,ゆふへには,いりゐなげかひ,わきばさむ,このなく ごとに,をとこじもの,おひみむだきみ,あさとりの,ねのみなきつつ,こふれども,しるし をなみと,こととはぬ,ものにはあれど,わぎもこが,いりにしやまを,よすかとぞおもふ
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[左注](右三首七月廿日高橋朝臣作歌也 名字未審 但云奉膳之男子焉)
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[校異]舎 → 會 [紀] / 狭 → 挾 [紀][京] / 母 → 毎 [万葉考]
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[KW],挽歌,作者:高橋,古老,老麻呂,亡妻挽歌,京都,枕詞,地名,天平16年7月20日 ,年紀