University of Virginia Library

Search this document 

collapse section1. 
千載和歌集卷第一 春歌上
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
 2. 
 3. 
 4. 
 5. 
 6. 
 7. 
 8. 
 9. 
 10. 
 11. 
 12. 
 13. 
 14. 
 15. 
 16. 
 17. 
expand section18. 
 19. 
 20. 

1. 千載和歌集卷第一
春歌上

源俊頼朝臣

春たちける日よみ侍りける

春のくるあしたの原を見渡せば霞も今日ぞ立ち始めける

中納言國信

堀河院の御時百首の歌奉りける時よめる

み室山たにや春の立ちぬらむ雪の下みづ岩たゝくなり

待賢門院堀河

百首の歌たてまつりける時初春の心をよめる

雪深き岩のかげ道跡たゆるよし野のさとも春はきにけり

前中納言匡房

堀川院の御時百首の歌奉りける時殘雪をよめる

道たゆと厭ひし物を山里に消ゆるは惜しきこぞの雪かな

藤原顯綱朝臣

承暦二年内裏の後番の歌合に鶯をよめる

春たてば雪のしたみづうちとけて谷の鶯いまぞなくなる

大納言隆國

後冷泉院の御時皇后宮の歌合によみ侍りける

やまざとの垣根に春や志らるらむ霞まぬさきに鶯のなく

源俊頼朝臣

法性寺入道前太政大臣、内大臣に侍りける時十首の歌よませ侍りけるによめる

烟かと室の八島を見しほどにやがても空の霞みぬるかな

攝政前右大臣

右大臣に侍りける時家に歌合志侍りけるに霞の歌とてよみ侍りける

霞志く春の志ほ路を見わたせばみどりを分くる沖つ白波

前中納言匡房

堀川院の御時百首の歌のうち霞の歌とてよめる

わぎも子がそでふる山も春きてぞ霞の衣たちわたりける

刑部卿頼輔

霞の歌とてよめる

春くれは杉の志るしも見えぬかな霞ぞたてる三輪の山本

左兵衛督隆房

見渡せばそこと志るしの杉もなし霞のうちや三輪の山本

待賢門院堀川

百首の歌奉りける時子日の心をよめる

常磐なる松もや春を志りぬらむ初子を祝ふ人にひかれて

治部卿通俊

家に侍りける女房のもとに正月七日前中宮の女房若菜を遣はしたりけるを聞きてつかはしける

羨まし雪の下草かき分けてたれをとぶひの若菜なるらむ

源俊頼朝臣

堀川院の御時百首の歌奉りけるうち若菜の歌とてよめる

春日野の雪を若菜につみそへてけふさへ袖の萎れぬる哉

權中納言俊忠

睦月の廿日頃雪の降りて侍りける朝に家の梅を折りて俊頼の朝臣につかはしける

咲初むる梅の立枝に降る雪の重なる數をとへとこそ思へ

源俊頼朝臣

かへし

梅がえに心もゆきて重なるを志らでや人のとへといふ覽

左京大夫顯輔

梅の木に雪のふりけるに鶯のなきければよめる

うめがえに降りつむ雪は鶯の羽風にちるも花かとぞみる

久我の前の太政大いまうち君

永保二年二月后の宮にて梅花久薫といへる心をよみ侍りける

薫る香の絶えせぬ春は梅の花吹來る風やのどけかるらむ

大納言師頼

堀川院の御時百首の歌奉りける時梅の花の歌とてよめる

今よりは梅さく宿は心せむまたぬに來ます人もありけり

前中納言匡房

匂もて分かばぞ分かむ梅の花それとも見えぬ春の夜の月

大炊御門の右の大いまうち君

崇徳院に百首の歌奉りける時よみ侍りける

梅の花をりて簪にさしつれば衣に落つるゆきかとぞ見る

和泉式部

題志らず

梅が香に驚かれつゝ春の夜の闇こそ人はあくがらしけれ

藤原道信朝臣

さよふけて風や吹くらむ花の香の匂ふ心地の空にする哉

皇太后宮大夫俊成

春の夜はのきばの梅をもる月の光もかをる心地こそすれ

崇徳院御製

百首の歌めしける時梅の歌とてよませ給うける

春の夜は吹きまふ風の移香に木ごとに梅と思ひけるかな

源俊頼朝臣

梅花夜薫といへる心をよめる

梅が香は己が垣根をあくがれてま屋のあまりに隙求む也

右の大いまうち君

題志らず

梅が香にこゑうつりせば鶯のなく一枝はをらましものを

二品法親王

梅がえのはなに木づたふ鶯の聲さへにほふ春のあけぼの

權大納言實家

かぜわたるのきばのうめに鶯のなきて木づたふはるの曙

大納言定房

中院に有りける紅梅の卸枝遣さむなど申しけるを又の年の二月計り花咲きたる卸枝に結附けて皇太后宮大夫俊成の許に遣し侍りける

昔よりちらさぬ宿のうめの花わくる心はいろに見ゆらむ

前中納言匡房

堀河院の御時百首の歌奉りける時春雨の心をよめる

よも山に木のめ春雨降ぬればかそいろはとや花の頼まむ

藤原基俊

春雨のふりそめしより片岡の裾野の原ぞあさみどりなる

和泉式部

題志らず

つれ%\とふるは涙の雨なるを春の物とや人の見るらむ

藤原基俊

堀川院の御時百首の歌の中に早蕨をよめる

み山木のかげ野の下のした蕨萠出づれども知る人もなし

藤原清輔朝臣

崇徳院に百首の歌奉りける時春駒の歌とてよめる

みごもりに芦の若葉やもえつらむ玉江の沼をあさる春駒

源俊頼朝臣

堀河院の御時百首の歌のうち歸雁のうたとてよめる

春くればたのむの雁も今はとて歸る雲路に思ひたつなり

左近中將良經

歸雁の心をよみ侍りける

眺むれば霞める空の浮雲と一つになりぬかへるかりがね

從三位頼政

天つ空一つに見ゆるこしの海の浪をわけても歸る雁がね

祝部宿禰成仲

かへる雁いく雲居ともしらねども心計をたぐへてぞやる

藤原秀通朝臣

崇徳院に百首の歌奉りける時歌とてよめる

春はなほ花の匂もさもあらばあれたゞ身にしむは曙の空

崇徳院御製

百首の歌めしける時春の歌とてよませ給うける

朝夕に花まつほどは思ひねの夢の中にぞ咲きはじめける

待賢門院堀川

何方に花咲きぬらむと思ふより四方の山邊にちる心かな

京極の前の大いまうち君

白川院花御覽じにおはしましけるに召なかりければよみて奉り侍りける

山櫻たづぬと聞くにさそはれぬ老の心のあくがるゝかな

花園左大臣

鳥羽院位おりさせ給うて後白川に御幸ありて花御らんじける日よみ侍りける

かげ清きはなの鏡と見ゆるかな長閑にすめる志ら川の水

徳大寺左大臣

萬代の花のためしやけふならむ昔もかゝる春しなければ

崇徳院御製

近衛殿に渡らせ給うて歸らせ給ひける日遠尋山花といへる心をよませ給うける

尋ねつる花のあたりになりにけり匂ふにしるし春の山風

法性寺入道前太政大臣

歸るさを急がぬ程の道ならばのどかに峰の花は見てまし

中納言女王

寛治八年さきのおほきおほいまうち君の高陽院の家の歌合に櫻の歌とて

山櫻にほふあたりの春霞かぜをばよそにたちへだてなむ

藤原顯綱朝臣

花ゆゑにかゝらぬ山ぞなかりける心はるの霞ならねど

京極の前のおほいまうち君

京極の家にて十種の供養し侍りける時白河院御幸せさせ給うて又の日歌奉らせ給うけるによみ侍りける

櫻花多くの春にあひぬれど昨日けふをやかぎりにはせむ

後二條關白内大臣

花ざかり春の山邊を見渡せば空さへにほふ心地こそすれ

右衛門督基忠

咲匂ふ花のあたりは春ながらたえせぬ宿のみ雪とぞ見る

中院の右のおほいまうち君

毎朝見花といへる心をよみ侍りける

尋ねきて手折る櫻のあさ露にはなの袂のぬれぬ日はなし

右大臣

東山に花見侍りける日よみ侍りける

假にだに厭ふ心やなからましちらぬ花さく此世なりせば

前左衛門督公光

十首の歌、人のよませ侍りけるとき花の歌とて

みな人の心にそむる櫻花いくしほとしにいろまさるらむ

左京大夫顯輔

崇徳院に百首の歌奉りける時花の歌とてよめる

葛城やたかまの山の櫻ばな雲居のよそに見てやすぎなむ

前參議教長

山櫻霞籠めたるありかをばつらきものから風ぞ志らする

藤原清輔朝臣

神垣のみ室の山は春きてぞ花のしらゆふかけて見えける

仁和寺後入道法親王覺性

夜思山花と云る心を

夜もすがら花の匂を思ひやる心やみねにたびねしつらむ

攝政前右大臣

尋深山花といへる心をよみ侍りける

さきぬやと志らぬ山路に尋入る我をば花の志をるなり鳬

源俊頼朝臣

尋花日暮といへる心をよめる

暮果てぬかへさは送れ山櫻たが爲に來てまどふとか志る

道因法師

花の歌とてよめる

花故に志らぬ山路はなけれどもまどふは春の心なりけり

藤原公時朝臣

賀茂の社の歌合とて人々よみ侍りける時花の歌とてよめる

年を經ておなじ櫻の花の色をそめ増すものは心なりけり

藤原公衡朝臣

花盛四方のやまべにあくがれて春は心の身に副はぬかな

顯昭法師

春日の社の歌合とて人々よみ侍りけるときよめる

吉野川みかさはさしもまさらじを青根をこすや花の白浪

讀人志らず

故郷花といへる心をよみ侍りける

さゞなみや志がの都はあれにしを昔ながらのやま櫻かな

祝部宿禰成仲

日吉のやしろの歌合とて人々よみ侍りける時よめる

さゞ浪や志賀の花園見るたびに昔の人のこゝろをぞ志る

賀茂成保

花の歌とてよめる

高砂のをのへの櫻さきぬれば梢にかゝるおきつ志らなみ

圓位法師

おしなべて花の盛になりにけり山の端ごとにかゝる白雲

藤原爲業

吉野山花のさかりになりにけりたゆるときなき峯の白雲

源仲正

毎春花芳といへる心をよめる

春をへてにほひをそふる山櫻花は老こそさかりなりけれ

待賢門院堀河

百首の歌奉りける時よみ侍りける

白雲と峯の櫻は見ゆれども月のひかりはへだてざりけり

上西門院兵衛

花の色に光さしそふ春の夜ぞ木の間の月は見べかりける

太宰大貳重家

歌合志侍りける時花の歌とてよめる

小初瀬の花のさかりを見渡せば霞にまがふみねの志ら雲

藤原範綱

さゞなみやながらの山の嶺つゞき見せばや人に花の盛を

皇太后宮大夫俊成

十首の歌人々によませさせ侍りける時花の歌とてよみ侍りける

み吉野の花の盛をけふ見ればこしの志らねに春風ぞ吹く