University of Virginia Library

國上にてよめる。(ふるさと)

來て見れば我がふる里は荒れにけり庭もまがきも落葉のみして
夕暮に國上の山を越え來れば衣手寒し木の葉散りつつ
すみ染の衣手寒し秋風に木の葉散り來る夕暮の空
あしびきの國上の山の山畑にまきし大根をあさずをせ君
月よみに門田の田居に出て見れば遠山もとに霧たちのぼる
夕霧にをちの里べは埋れぬ杉たつやどに歸るさの道
この夕べねざめて聞けばさを鹿の聲の限をふりたてて鳴く
この頃のねざめに聞けばたかさごの尾の上にひびくさを鹿の聲
百草のみだれて咲ける秋のぬにしがらみふせてさを鹿の鳴く
さ夜ふけて高ねの鹿の聲きけば寢ざめさびしく物や思はる
うき我れをいかにせよとか若草の妻呼び立ててさを鹿鳴くも
秋もやや殘り少になりぬれば尾の上とよもすさを鹿のこゑ
秋もやや殘り少になりぬればよな/\こひしさを鹿の聲
さ夜更けて聞けば高根にさを鹿の聲の限をふりたてて鳴く
夕ぐれに國上の山をこえ來れば高根に鹿の聲を聞きけり
たそがれに國上の山を越えくれば高ねに鹿の聲ぞ聞ゆる
秋さらばたづねて來ませ我が庵を尾の上の鹿の聲ききがてに
秋萩のちりのまがひにさを鹿の聲の限りをふり立てて鳴く
秋萩の散りもすぎなばさを鹿の臥戸あれぬと思ふらんかも
草花の盛すぎなばさをしかはふしどあれぬと思ふらんかも
宵やみに道やまどへるさを鹿のこの岡をしも過ぎがてに鳴く
長き夜にねざめて聞けばひさがたの時雨にさそふさを鹿のこゑ
夕月夜ひとりとぼそに聞きぬれば時雨にさそふさを鹿の聲
よもすがら寢ざめて聞けば雁がねの天つ雲井を鳴きわたるかな
今宵しも寢ざめに聞けば天つかり雲居はるかにうちつれて行く