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万葉集 (Manyoshu) | ||
冬雜歌
1636
[題詞]舎人娘子雪歌一首
[原文]大口能 真神之原尓 零雪者 甚莫零 家母不有國
[訓読]大口の真神の原に降る雪はいたくな降りそ家もあらなくに
[仮名],おほくちの,まかみのはらに,ふるゆきは,いたくなふりそ,いへもあらなくに
1637
[題詞]太上天皇御製歌一首
[原文]波太須珠寸 尾花逆葺 黒木用 造有室者 迄萬代
[訓読]はだすすき尾花逆葺き黒木もち造れる室は万代までに
[仮名],はだすすき,をばなさかふき,くろきもち,つくれるむろは,よろづよまでに
1638
[題詞]天皇御製歌一首
[原文]青丹吉 奈良乃山有 黒木用 造有室者 雖居座不飽可聞
[訓読]あをによし奈良の山なる黒木もち造れる室は座せど飽かぬかも
[仮名],あをによし,ならのやまなる,くろきもち,つくれるむろは,ませどあかぬかも
1639
[題詞]<大>宰帥大伴卿冬日見雪憶京歌一首
[原文]沫雪 保杼呂保杼呂尓 零敷者 平城京師 所念可聞
[訓読]沫雪のほどろほどろに降りしけば奈良の都し思ほゆるかも
[仮名],あわゆきの,ほどろほどろに,ふりしけば,ならのみやこし,おもほゆるかも
1640
[題詞]<大>宰帥大伴卿梅歌一首
[原文]吾岳尓 盛開有 梅花 遺有雪乎 乱鶴鴨
[訓読]我が岡に盛りに咲ける梅の花残れる雪をまがへつるかも
[仮名],わがをかに,さかりにさける,うめのはな,のこれるゆきを,まがへつるかも
1641
[題詞]角朝臣廣辨雪梅歌<一首>
[原文]沫雪尓 所落開有 梅花 君之許遣者 与曽倍弖牟可聞
[訓読]淡雪に降らえて咲ける梅の花君がり遣らばよそへてむかも
[仮名],あわゆきに,ふらえてさける,うめのはな,きみがりやらば,よそへてむかも
1642
[題詞]安倍朝臣奥道雪歌一首
[原文]棚霧合 雪毛零奴可 梅花 不開之代尓 曽倍而谷将見
[訓読]たな霧らひ雪も降らぬか梅の花咲かぬが代にそへてだに見む
[仮名],たなぎらひ,ゆきもふらぬか,うめのはな,さかぬがしろに,そへてだにみむ
1643
[題詞]若櫻部朝臣君足雪歌一首
[原文]天霧之 雪毛零奴可 灼然 此五柴尓 零巻乎将見
[訓読]天霧らし雪も降らぬかいちしろくこのいつ柴に降らまくを見む
[仮名],あまぎらし,ゆきもふらぬか,いちしろく,このいつしばに,ふらまくをみむ
1644
[題詞]三野連石守梅歌一首
[原文]引攀而 折者可落 梅花 袖尓古寸入津 染者雖染
[訓読]引き攀ぢて折らば散るべみ梅の花袖に扱入れつ染まば染むとも
[仮名],ひきよぢて,をらばちるべみ,うめのはな,そでにこきいれつ,しまばしむとも
1645
[題詞]巨勢朝臣宿奈麻呂雪歌一首
[原文]吾屋前之 冬木乃上尓 零雪乎 梅花香常 打見都流香裳
[訓読]我が宿の冬木の上に降る雪を梅の花かとうち見つるかも
[仮名],わがやどの,ふゆきのうへに,ふるゆきを,うめのはなかと,うちみつるかも
1646
[題詞]小治田朝臣東麻呂雪歌一首
[原文]夜干玉乃 今夜之雪尓 率所沾名 将開朝尓 消者惜家牟
[訓読]ぬばたまの今夜の雪にいざ濡れな明けむ朝に消なば惜しけむ
[仮名],ぬばたまの,こよひのゆきに,いざぬれな,あけむあしたに,けなばをしけむ
1647
[題詞]忌部首黒麻呂雪歌一首
[原文]梅花 枝尓可散登 見左右二 風尓乱而 雪曽落久類
[訓読]梅の花枝にか散ると見るまでに風に乱れて雪ぞ降り来る
[仮名],うめのはな,えだにかちると,みるまでに,かぜにみだれて,ゆきぞふりくる
1648
[題詞]紀少鹿女郎梅歌一首
[原文]十二月尓者 沫雪零跡 不知可毛 梅花開 含不有而
[訓読]十二月には淡雪降ると知らねかも梅の花咲くふふめらずして
[仮名],しはすには,あわゆきふると,しらねかも,うめのはなさく,ふふめらずして
1649
[題詞]大伴宿祢家持雪梅歌一首
[原文]今日零之 雪尓競而 我屋前之 冬木梅者 花開二家里
[訓読]今日降りし雪に競ひて我が宿の冬木の梅は花咲きにけり
[仮名],けふふりし,ゆきにきほひて,わがやどの,ふゆきのうめは,はなさきにけり
1650
[題詞]御在西池邊肆宴歌一首
[原文]池邊乃 松之末葉尓 零雪者 五百重零敷 明日左倍母将見
[訓読]池の辺の松の末葉に降る雪は五百重降りしけ明日さへも見む
[仮名],いけのへの,まつのうらばに,ふるゆきは,いほへふりしけ,あすさへもみむ
1651
[題詞]大伴坂上郎女歌一首
[原文]沫雪乃 比日續而 如此落者 梅始花 散香過南
[訓読]淡雪のこのころ継ぎてかく降らば梅の初花散りか過ぎなむ
[仮名],あわゆきの,このころつぎて,かくふらば,うめのはつはな,ちりかすぎなむ
1652
[題詞]他田廣津娘子梅歌一首
[原文]梅花 折毛不折毛 見都礼杼母 今夜能花尓 尚不如家利
[訓読]梅の花折りも折らずも見つれども今夜の花になほしかずけり
[仮名],うめのはな,をりもをらずも,みつれども,こよひのはなに,なほしかずけり
1653
[題詞]縣犬養娘子依梅發思歌一首
[原文]如今 心乎常尓 念有者 先咲花乃 地尓将落八方
[訓読]今のごと心を常に思へらばまづ咲く花の地に落ちめやも
[仮名],いまのごと,こころをつねに,おもへらば,まづさくはなの,つちにおちめやも
1654
[題詞]大伴坂上郎女雪歌一首
[原文]松影乃 淺茅之上乃 白雪乎 不令消将置 言者可聞奈吉
[訓読]松蔭の浅茅の上の白雪を消たずて置かむことはかもなき
[仮名],まつかげの,あさぢのうへの,しらゆきを,けたずておかむ,ことはかもなき
万葉集 (Manyoshu) | ||