University of Virginia Library

二〇 東國は佛法の初道

 東國はこれ佛法の初道なれば、初心沙彌のことさらに修行すべき方なり。この故に木方初發の因地より萠して、金刹極證の果門を開かんと思へり。觀よそれ、けがらはしき濱路を過ぎ行くだにも、白砂、松おもしろく見ゆ。まして極樂金繩の道こそ思ひやるもゆかしけれ、銀樹七重の風、無苦の聲を調へ、紫蓮千葉の露、常樂の色に染む。功徳の池には、水、煩惱の汗を洗ひ、善根の林には、花、菩提の果を結ぶ。宮殿は十方に飛びて過ぐるごとに利生を約諾す。生ずる人はみな説法集會の遊に交はりて無量の壽を延年し、來る者は悉く見聞佛法の寶に誇りて不退の樂みに世會す。久遠世々の父母は珍しく本覺の如來に現はれ、過去生々の妻子は、なつかしくして新來の菩薩にむつびたり。法喜禪悦の味ひは口の中にみち、端巖殊妙の飾は身の上に備はれり。おほよそ三千一念の月、胸に晴れ、第一義空の水、心に澄めり。この故に無始來のねむりは、夢永くさめ、六趣輪の冥は、盲眼ひらけたり。かの無諍念王の故郷をしのぶ契、娑婆に厚く、法藏因位の舊臣を憐れむ志、我等に深し。これによりて九品覺王の善政を垂る。一念奉公の輩、しかしながら平等引接の賞に預かり、諸大薩

[_]
[12]
の僉議をなす、六賊重科の犯、すべて皆空無漏の旨を奏す。七寶の高臺には、四十八願の主、五劫思惟の光を放ちて念佛の行者を照し、二脇の片座には、三十三身の尊、大悲誓願の網をたれて苦海の沈物を救ふ。故に三世佛の濟度にもれたる五逆の罪人も、願海不捨の船に棹さして彼岸にわたり、十方土の淨刹に捨てられたる此界の惡徒は、大雄超世の翅にかかりて西天に飛ばむ。あはれ、とく生れて利生の道に入らばやな。

浪風もみのりの聲をとく聞きて
みるめ苦しき海をいでばや
迷ひ來てまた迷ひこん假の宿に
永くかへらぬ道にかへらん