University of Virginia Library

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衣食のたぐひまたおなじ。藤のころも、麻のふすま、得るに隨ひ てはだへをかくし。野邊のつばな、嶺の木の實、わづかに命をつ ぐばかりなり。人にまじらはざれば、姿を恥づる悔もなし。 かてともしければおろそかなれども、なほ味をあまくす。すべて かやうのこと、樂しく富める人に對していふにはあらず。たゞわ が身一つにとりて、昔と今とをたくらぶるばかりなり。 大かた世をのがれ、身を捨てしより、うらみもなくおそれもな し。命は天運にまかせて、をしまずいとはず、身をば浮雲になず らへて、たのまずまだしとせず。一期のたのしみは、うたゝねの 枕の上にきはまり、生涯の望は、をりをりの美景にのこれり。』