University of Virginia Library

念じわびつゝ、さまざまの寶もの、かたはしより捨つるがごと くすれども、さらに目みたつる人もなし。たまたま易ふるもの は、金をかろくし、粟を重くす。乞食道の邊におほく、うれへ悲 しむ聲耳にみてり。さきの年かくの如くからくして暮れぬ。 明くる年は立ちなほるべきかと思ふに、あまさへえやみうちそひ て、まさるやうにあとかたなし。 世の人みな飢ゑ死にければ、日を經つゝきはまり行くさま、少水 の魚のたとへに叶へり。はてには笠うちき、足ひきつゝみ、よろ しき姿したるもの、ひたすらに家ごとに乞ひありく。かくわびし れたるものどもありくかと見れば則ち斃れふしぬ。