University of Virginia Library

更にはごくみあはれぶといへども、やすく閑なるをばねがはず、 たゞ我が身を奴婢とするにはしかず。もしなすべきことあれば、 すなはちおのづから身をつかふ。たゆからずしもあらねど、人を したがへ、人をかへりみるよりはやすし。 もしありくべきことあれば、みづから歩む。くるしといへども、 馬鞍牛車と心をなやますにはしか(二字似イ)ず。今ひと身をわか ちて。二つの用をなす。手のやつこ、足ののり物、よくわが心に かなへり。心また身のくるしみを知れゝば、くるしむ時はやすめ つ、まめなる時はつかふ。つかふとても、たびたび過さず。もの うしとても心をうごかすことなし。いかにいはむや、常にあり き、常に働(動イ)くは、これ養生なるべし。なんぞいたづらにや すみ居らむ。人を苦しめ人を惱ますはまた罪業なり。いかゞ他の 力をかるべき。』