University of Virginia Library

いま日野山の奧にあとをかくして後、南にかりの日がくしをさし 出して、竹のすのこを敷き、その西に閼伽棚を作り、うちには西 の垣に添へて、阿彌陀の畫像を安置したてまつりて、落日をうけ て、眉間のひかりとす。かの帳のとびらに、普賢ならびに不動の 像をかけたり。北の障子の上に、ちひさき棚をかまへて、黒き皮 篭三四合を置く。すなはち和歌、管絃、徃生要集ごときの抄物を 入れたり。傍にこと、琵琶、おのおの一張をたつ。いはゆるをり ごと、つき琵琶これなり。東にそへて、わらびのほどろを敷き、 つかなみを敷きて夜の床とす。 東の垣に窓をあけて、こゝにふづくゑを出せり。枕の方にすびつ あり。これを柴折りくぶるよすがとす。庵の北に少地をしめ、あ ばらなるひめ垣をかこひて園とす。すなはちもろもろの藥草を うゑたり。かりの庵のありさまかくのごとし。