University of Virginia Library

子のかなしみにはたけきものも恥を忘れけりと覺えて、いとほし くことわりかなとぞ見はべりし。かくおびたゞしくふることはし ばしにて止みにしかども、そのなごりしばしば絶えず。よのつね におどろくほどの地震、二三十度ふらぬ日はなし。十日廿日過ぎ にしかば、やうやうまどほになりて、或は四五度、二三度、もし は一日まぜ、二三日に一度など、大かたそのなごり、三月ばかり や侍りけむ。四大種の中に、水火風はつねに害をなせど、大地に 至りては殊なる變をなさず。 むかし齊衡のころかとよ、おほなゐふりて、東大寺の佛のみぐし 落ちなどして、いみじきことゞも侍りけれど、猶このたびにはし かずとぞ。すなはち人皆あぢきなきことを述べて、いさゝか心 のにごりもうすらぐと見えしほどに、月日かさなり年越えしか ば、後は言の葉にかけて、いひ出づる人だになし。』