University of Virginia Library

[_]
(G)

また元暦二年のころ、おほなゐふること侍りき。そのさまよのつ ねならず。山くづれて川を埋み、海かたぶきて陸をひたせり。 土さけて水わきあがり、いはほわれて谷にまろび入り、なぎさ こぐふねは浪にたゞよひ、道ゆく駒は足のたちどをまどはせり。 いはむや都のほとりには、在々所々堂舍廟塔、一つとして全から ず。或はくづれ、或はたふれた(ぬイ)る間、塵灰立ちあがりて盛 なる煙のごとし。地のふるひ家のやぶるゝ音、いかづちにことな らず。家の中に居れば忽にうちひしげなむとす。はしり出づれば また地われさく。羽なければ空へもあがるべからず。龍ならねば 雲にのぼらむこと難し。