University of Virginia Library

しづ、山がつも、力つきて、薪にさへともしくなりゆけば、たの むかたなき人は、みづから家をこぼちて市に出でゝこれを賣る に、一人がもち出でたるあたひ、猶一日が命をさゝふるにだに及 ばずとぞ。あやしき事は、かゝる薪の中に、につき、しろがねこ がねのはくなど所々につきて見ゆる木のわれあひまじれり。 これを尋ぬればすべき方なきものゝ、古寺に至りて佛をぬすみ、 堂の物の具をやぶりとりて、わりくだけるなりけり。濁惡の世に しも生れあひて、かゝる心うきわざをなむ見侍りし。』