University of Virginia Library

319

[題詞]詠不盡山歌一首[并短歌]

[原文]奈麻余美乃 甲斐乃國 打縁流 駿河能國与 己知其智乃 國之三中従 出<立>有 不盡能高嶺者 天雲毛 伊去波伐加利 飛鳥母 翔毛不上 燎火乎 雪以滅 落雪乎 火用消 通都 言不得 名不知 霊母 座神香<聞> 石花海跡 名付而有毛 彼山之 堤有海曽 不盡 河跡 人乃渡毛 其山之 水乃當焉 日本之 山跡國乃 鎮十方 座祇可間 寳十方 成有山 可聞 駿河有 不盡能高峯者 雖見不飽香聞
[訓読]なまよみの 甲斐の国 うち寄する 駿河の国と こちごちの 国のみ中ゆ 出で立 てる 富士の高嶺は 天雲も い行きはばかり 飛ぶ鳥も 飛びも上らず 燃ゆる火を 雪 もち消ち 降る雪を 火もち消ちつつ 言ひも得ず 名付けも知らず くすしくも います 神かも せの海と 名付けてあるも その山の つつめる海ぞ 富士川と 人の渡るも そ の山の 水のたぎちぞ 日の本の 大和の国の 鎮めとも います神かも 宝とも なれる 山かも 駿河なる 富士の高嶺は 見れど飽かぬかも
[仮名],なまよみの,かひのくに,うちよする,するがのくにと,こちごちの,くにのみなか ゆ,いでたてる,ふじのたかねは,あまくもも,いゆきはばかり,とぶとりも,とびものぼら ず,もゆるひを,ゆきもちけち,ふるゆきを,ひもちけちつつ,いひもえず,なづけもしらず ,くすしくも,いますかみかも,せのうみと,なづけてあるも,そのやまの,つつめるうみぞ ,ふじかはと,ひとのわたるも,そのやまの,みづのたぎちぞ,ひのもとの,やまとのくにの ,しづめとも,いますかみかも,たからとも,なれるやまかも,するがなる,ふじのたかねは ,みれどあかぬかも
[_]
[左注]?(右一首高橋連蟲麻呂之歌中出焉 以類載此)
[_]
[校異]短歌 [西] 短謌 / 之 → 立 [古] / <> → 聞 [西(右書)][類][古][紀]
[_]
[KW],雑歌,作者:高橋虫麻呂,富士山,静岡,枕詞,地名,土地讃美,羈旅