University of Virginia Library

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[題詞](柿本朝臣人麻呂従石見國別妻上来時歌二首[并短歌])

[原文]角<障>經 石見之海乃 言佐敝久 辛乃埼有 伊久里尓曽 深海松生流 荒礒尓曽 玉藻者生流 玉藻成 靡寐之兒乎 深海松乃 深目手思騰 左宿夜者 幾毛不有 延都多乃 別之来者 肝向 心乎痛 念乍 顧為騰 大舟之 渡乃山之 黄葉乃 散之乱尓 妹袖 清尓毛 不見 嬬隠有 屋上乃 [一云 室上山] 山乃 自雲間 渡相月乃 雖惜 隠比来者 天傳 入日 刺奴礼 大夫跡 念有吾毛 敷妙乃 衣袖者 通而<沾>奴
[訓読]つのさはふ 石見の海の 言さへく 唐の崎なる 海石にぞ 深海松生ふる 荒礒に ぞ 玉藻は生ふる 玉藻なす 靡き寝し子を 深海松の 深めて思へど さ寝し夜は 幾だ もあらず 延ふ蔦の 別れし来れば 肝向ふ 心を痛み 思ひつつ かへり見すれど 大船 の 渡の山の 黄葉の 散りの乱ひに 妹が袖 さやにも見えず 妻ごもる 屋上の [一云 室上山] 山の 雲間より 渡らふ月の 惜しけども 隠らひ来れば 天伝ふ 入日さしぬれ 大夫と 思へる我れも 敷栲の 衣の袖は 通りて濡れぬ
[仮名],つのさはふ,いはみのうみの,ことさへく,からのさきなる,いくりにぞ,ふかみる おふる,ありそにぞ,たまもはおふる,たまもなす,なびきねしこを,ふかみるの,ふかめて おもへど,さねしよは,いくだもあらず,はふつたの,わかれしくれば,きもむかふ,こころ をいたみ,おもひつつ,かへりみすれど,おほぶねの,わたりのやまの,もみちばの,ちりの まがひに,いもがそで,さやにもみえず,つまごもる,やかみの,[むろかみやま],やまの,く もまより,わたらふつきの,をしけども,かくらひくれば,あまづたふ,いりひさしぬれ,ま すらをと,おもへるわれも,しきたへの,ころものそでは,とほりてぬれぬ
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[左注]
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[校異]K → 障 [元][金][紀] / 沽 → 沾 [金][温][京]
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[KW],相聞,作者:柿本人麻呂,依羅娘子,離別,石見相聞歌,上京,地方官,島根,地名,枕詞 ,悲別