万葉集 (Manyoshu) | ||
冬雜歌
2312
[題詞]
[原文]我袖尓 雹手走 巻隠 不消有 妹為見
[訓読]我が袖に霰た走る巻き隠し消たずてあらむ妹が見むため
[仮名],わがそでに,あられたばしる,まきかくし,けたずてあらむ,いもがみむため
2313
[題詞]
[原文]足曳之 山鴨高 巻向之 木志乃子松二 三雪落来
[訓読]あしひきの山かも高き巻向の崖の小松にみ雪降りくる
[仮名],あしひきの,やまかもたかき,まきむくの,きしのこまつに,みゆきふりくる
2314
[題詞]
[原文]巻向之 桧原毛未 雲居者 子松之末由 沫雪流
[訓読]巻向の桧原もいまだ雲居ねば小松が末ゆ沫雪流る
[仮名],まきむくの,ひはらもいまだ,くもゐねば,こまつがうれゆ,あわゆきながる
2315
[題詞]
[原文]足引 山道不知 白<み><む> 枝母等乎々尓 雪落者 [或云 枝毛多和々々]
[訓読]あしひきの山道も知らず白橿の枝もとををに雪の降れれば [或云 枝もたわた
わ]
[仮名],あしひきの,やまぢもしらず,しらかしの,えだもとををに,ゆきのふれれば,[えだ
もたわたわ]
2316
[題詞]詠雪
[原文]奈良山乃 峯尚霧合 宇倍志社 前垣之下乃 雪者不消家礼
[訓読]奈良山の嶺なほ霧らふうべしこそ籬が下の雪は消ずけれ
[仮名],ならやまの,みねなほきらふ,うべしこそ,まがきがしたの,ゆきはけずけれ
2317
[題詞](詠雪)
[原文]殊落者 袖副沾而 可通 将落雪之 空尓消二管
[訓読]こと降らば袖さへ濡れて通るべく降りなむ雪の空に消につつ
[仮名],ことふらば,そでさへぬれて,とほるべく,ふりなむゆきの,そらにけにつつ
2318
[題詞](詠雪)
[原文]夜乎寒三 朝戸乎開 出見者 庭毛薄太良尓 三雪落有 [一云 庭裳保杼呂尓 雪曽
零而有]
[訓読]夜を寒み朝門を開き出で見れば庭もはだらにみ雪降りたり [一云 庭もほどろ
に 雪ぞ降りたる]
[仮名],よをさむみ,あさとをひらき,いでみれば,にはもはだらに,みゆきふりたり,[には
もほどろに,ゆきぞふりたる]
2319
[題詞](詠雪)
[原文]暮去者 衣袖寒之 高松之 山木毎 雪曽零有
[訓読]夕されば衣手寒し高松の山の木ごとに雪ぞ降りたる
[仮名],ゆふされば,ころもでさむし,たかまつの,やまのきごとに,ゆきぞふりたる
2320
[題詞](詠雪)
[原文]吾袖尓 零鶴雪毛 流去而 妹之手本 伊行觸<粳>
[訓読]我が袖に降りつる雪も流れ行きて妹が手本にい行き触れぬか
[仮名],わがそでに,ふりつるゆきも,ながれゆきて,いもがたもとに,いゆきふれぬか
2321
[題詞](詠雪)
[原文]沫雪者 今日者莫零 白妙之 袖纒将干 人毛不有<君>
[訓読]淡雪は今日はな降りそ白栲の袖まき干さむ人もあらなくに
[仮名],あわゆきは,けふはなふりそ,しろたへの,そでまきほさむ,ひともあらなくに
2322
[題詞](詠雪)
[原文]甚多毛 不零雪故 言多毛 天三空者 <陰>相管
[訓読]はなはだも降らぬ雪ゆゑこちたくも天つみ空は雲らひにつつ
[仮名],はなはだも,ふらぬゆきゆゑ,こちたくも,あまつみそらは,くもらひにつつ
2323
[題詞](詠雪)
[原文]吾背子乎 且今々々 出見者 沫雪零有 庭毛保杼呂尓
[訓読]我が背子を今か今かと出で見れば淡雪降れり庭もほどろに
[仮名],わがせこを,いまかいまかと,いでみれば,あわゆきふれり,にはもほどろに
2324
[題詞](詠雪)
[原文]足引 山尓白者 我屋戸尓 昨日暮 零之雪疑意
[訓読]あしひきの山に白きは我が宿に昨日の夕降りし雪かも
[仮名],あしひきの,やまにしろきは,わがやどに,きのふのゆふへ,ふりしゆきかも
2325
[題詞]詠花
[原文]誰苑之 梅花毛 久堅之 消月夜尓 幾許散来
[訓読]誰が園の梅の花ぞもひさかたの清き月夜にここだ散りくる
[仮名],たがそのの,うめのはなぞも,ひさかたの,きよきつくよに,ここだちりくる
2326
[題詞](詠花)
[原文]梅花 先開枝<乎> 手折而者 L常名付而 与副手六香聞
[訓読]梅の花まづ咲く枝を手折りてばつとと名付けてよそへてむかも
[仮名],うめのはな,まづさくえだを,たをりてば,つととなづけて,よそへてむかも
2327
[題詞](詠花)
[原文]誰苑之 梅尓可有家武 幾許毛 開有可毛 見我欲左右手二
[訓読]誰が園の梅にかありけむここだくも咲きてあるかも見が欲しまでに
[仮名],たがそのの,うめにかありけむ,ここだくも,さきてあるかも,みがほしまでに
2328
[題詞](詠花)
[原文]来可視 人毛不有尓 吾家有 梅<之>早花 落十方吉
[訓読]来て見べき人もあらなくに我家なる梅の初花散りぬともよし
[仮名],きてみべき,ひともあらなくに,わぎへなる,うめのはつはな,ちりぬともよし
2329
[題詞](詠花)
[原文]雪寒三 咲者不開 梅花 縦比来者 然而毛有金
[訓読]雪寒み咲きには咲かぬ梅の花よしこのころはかくてもあるがね
[仮名],ゆきさむみ,さきにはさかぬ,うめのはな,よしこのころは,かくてもあるがね
2330
[題詞]詠露
[原文]為妹 末枝梅乎 手折登波 下枝之露尓 沾<尓>家類可聞
[訓読]妹がためほつ枝の梅を手折るとは下枝の露に濡れにけるかも
[仮名],いもがため,ほつえのうめを,たをるとは,しづえのつゆに,ぬれにけるかも
2331
[題詞]詠黄葉
[原文]八田乃野之 淺茅色付 有乳山 峯之沫雪 <寒>零良之
[訓読]八田の野の浅茅色づく有乳山嶺の淡雪寒く散るらし
[仮名],やたののの,あさぢいろづく,あらちやま,みねのあわゆき,さむくちるらし
2332
[題詞]詠月
[原文]左夜深者 出来牟月乎 高山之 峯白雲 将隠鴨
[訓読]さ夜更けば出で来む月を高山の嶺の白雲隠すらむかも
[仮名],さよふけば,いでこむつきを,たかやまの,みねのしらくも,かくすらむかも
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