万葉集 (Manyoshu) | ||
夏相聞
1979
[題詞]寄鳥
[原文]春之在者 酢軽成野之 霍公鳥 保等穂跡妹尓 不相来尓家里
[訓読]春さればすがるなす野の霍公鳥ほとほと妹に逢はず来にけり
[仮名],はるされば,すがるなすのの,ほととぎす,ほとほといもに,あはずきにけり
1980
[題詞](寄鳥)
[原文]五月山 花橘尓 霍公鳥 隠合時尓 逢有公鴨
[訓読]五月山花橘に霍公鳥隠らふ時に逢へる君かも
[仮名],さつきやま,はなたちばなに,ほととぎす,こもらふときに,あへるきみかも
1981
[題詞](寄鳥)
[原文]霍公鳥 来鳴五月之 短夜毛 獨宿者 明不得毛
[訓読]霍公鳥来鳴く五月の短夜もひとりし寝れば明かしかねつも
[仮名],ほととぎす,きなくさつきの,みじかよも,ひとりしぬれば,あかしかねつも
1982
[題詞]寄蝉
[原文]日倉足者 時常雖鳴 我戀 手弱女我者 不定哭
[訓読]ひぐらしは時と鳴けども片恋にたわや女我れは時わかず泣く
[仮名],ひぐらしは,ときとなけども,かたこひに,たわやめわれは,ときわかずなく
1983
[題詞]寄草
[原文]人言者 夏野乃草之 繁友 妹与吾<師> 携宿者
[訓読]人言は夏野の草の繁くとも妹と我れとし携はり寝ば
[仮名],ひとごとは,なつののくさの,しげくとも,いもとあれとし,たづさはりねば
1984
[題詞](寄草)
[原文]廼者之 戀乃繁久 夏草乃 苅掃友 生布如
[訓読]このころの恋の繁けく夏草の刈り掃へども生ひしくごとし
[仮名],このころの,こひのしげけく,なつくさの,かりはらへども,おひしくごとし
1985
[題詞](寄草)
[原文]真田葛延 夏野之繁 如是戀者 信吾命 常有目八<面>
[訓読]ま葛延ふ夏野の繁くかく恋ひばまこと我が命常ならめやも
[仮名],まくずはふ,なつののしげく,かくこひば,まことわがいのち,つねならめやも
1986
[題詞](寄草)
[原文]吾耳哉 如是戀為良武 <垣>津旗 丹<頬合>妹者 如何将有
[訓読]我れのみやかく恋すらむかきつはた丹つらふ妹はいかにかあるらむ
[仮名],あれのみや,かくこひすらむ,かきつはた,につらふいもは,いかにかあるらむ
1987
[題詞]寄花
[原文]片搓尓 絲S曽吾搓 吾背兒之 花橘乎 将貫跡母日手
[訓読]片縒りに糸をぞ我が縒る我が背子が花橘を貫かむと思ひて
[仮名],かたよりに,いとをぞわがよる,わがせこが,はなたちばなを,ぬかむとおもひて
1988
[題詞](寄花)
[原文]鴬之 徃来垣根乃 宇能花之 厭事有哉 君之不来座
[訓読]鴬の通ふ垣根の卯の花の憂きことあれや君が来まさぬ
[仮名],うぐひすの,かよふかきねの,うのはなの,うきことあれや,きみがきまさぬ
1989
[題詞](寄花)
[原文]宇能花之 開登波無二 有人尓 戀也将渡 獨念尓指天
[訓読]卯の花の咲くとはなしにある人に恋ひやわたらむ片思にして
[仮名],うのはなの,さくとはなしに,あるひとに,こひやわたらむ,かたもひにして
1990
[題詞](寄花)
[原文]吾社葉 憎毛有目 吾屋前之 花橘乎 見尓波不来鳥屋
[訓読]我れこそば憎くもあらめ我がやどの花橘を見には来じとや
[仮名],われこそば,にくくもあらめ,わがやどの,はなたちばなを,みにはこじとや
1991
[題詞](寄花)
[原文]霍公鳥 来鳴動 岡<邊>有 藤浪見者 君者不来登夜
[訓読]霍公鳥来鳴き響もす岡辺なる藤波見には君は来じとや
[仮名],ほととぎす,きなきとよもす,をかへなる,ふぢなみみには,きみはこじとや
1992
[題詞](寄花)
[原文]隠耳 戀者苦 瞿麦之 花尓開出与 朝旦将見
[訓読]隠りのみ恋ふれば苦しなでしこの花に咲き出よ朝な朝な見む
[仮名],こもりのみ,こふればくるし,なでしこの,はなにさきでよ,あさなさなみむ
1993
[題詞](寄花)
[原文]外耳 見筒戀牟 紅乃 末採花之 色不出友
[訓読]外のみに見つつ恋ひなむ紅の末摘花の色に出でずとも
[仮名],よそのみに,みつつこひなむ,くれなゐの,すゑつむはなの,いろにいでずとも
1994
[題詞]寄露
[原文]夏草乃 露別衣 不著尓 我衣手乃 干時毛名寸
[訓読]夏草の露別け衣着けなくに我が衣手の干る時もなき
[仮名],なつくさの,つゆわけごろも,つけなくに,わがころもでの,ふるときもなき
1995
[題詞]寄日
[原文]六月之 地副割而 照日尓毛 吾袖将乾哉 於君不相四手
[訓読]六月の地さへ裂けて照る日にも我が袖干めや君に逢はずして
[仮名],みなづきの,つちさへさけて,てるひにも,わがそでひめや,きみにあはずして
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