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挽歌
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挽歌

3324

[題詞]挽歌

[原文]<挂>纒毛 文恐 藤原 王都志弥美尓 人下 満雖有 君下 大座常 徃向 <年>緒長 仕来 君之御門乎 如天 仰而見乍 雖畏 思憑而 何時可聞 日足座而 十五月之 多田波思 家武登 吾思 皇子命者 春避者 殖槻於之 遠人 待之下道湯 登之而 國見所遊 九月之 四具礼<乃>秋者 大殿之 砌志美弥尓 露負而 靡<芽>乎 珠<手>次 懸而所偲 三雪零 冬 朝者 刺楊 根張梓矣 御手二 所取賜而 所遊 我王矣 烟立 春日暮 喚犬追馬鏡 雖見不 飽者 万歳 如是霜欲得常 大船之 憑有時尓 涙言 目鴨迷 大殿矣 振放見者 白細布 餝 奉而 内日刺 宮舎人方 [一云 者] 雪穂 麻衣服者 夢鴨 現前鴨跡 雲入夜之 迷間 朝裳 吉 城於道従 角障經 石村乎見乍 神葬 々奉者 徃道之 田付S不知 雖思 印手無見 雖 歎 奥香乎無見 御袖 徃觸之松矣 言不問 木雖在 荒玉之 立月毎 天原 振放見管 珠手 次 懸而思名 雖恐有
[訓読]かけまくも あやに畏し 藤原の 都しみみに 人はしも 満ちてあれども 君はし も 多くいませど 行き向ふ 年の緒長く 仕へ来し 君の御門を 天のごと 仰ぎて見つ つ 畏けど 思ひ頼みて いつしかも 日足らしまして 望月の 満しけむと 我が思へる 皇子の命は 春されば 植槻が上の 遠つ人 松の下道ゆ 登らして 国見遊ばし 九月の しぐれの秋は 大殿の 砌しみみに 露負ひて 靡ける萩を 玉たすき 懸けて偲はし み 雪降る 冬の朝は 刺し柳 根張り梓を 大御手に 取らし賜ひて 遊ばしし 我が大君を 霞立つ 春の日暮らし まそ鏡 見れど飽かねば 万代に かくしもがもと 大船の 頼め る時に 泣く我れ 目かも迷へる 大殿を 振り放け見れば 白栲に 飾りまつりて うちひ さす 宮の舎人も [一云 は] 栲のほの 麻衣着れば 夢かも うつつかもと 曇り夜の 迷 へる間に あさもよし 城上の道ゆ つのさはふ 磐余を見つつ 神葬り 葬りまつれば 行 く道の たづきを知らに 思へども 験をなみ 嘆けども 奥処をなみ 大御袖 行き触れ し松を 言問はぬ 木にはありとも あらたまの 立つ月ごとに 天の原 振り放け見つつ 玉たすき 懸けて偲はな 畏くあれども
[仮名],かけまくも,あやにかしこし,ふぢはらの,みやこしみみに,ひとはしも,みちてあ れども,きみはしも,おほくいませど,ゆきむかふ,としのをながく,つかへこし,きみのみ かどを,あめのごと,あふぎてみつつ,かしこけど,おもひたのみて,いつしかも,ひたらし まして,もちづきの,たたはしけむと,わがもへる,みこのみことは,はるされば,うゑつき がうへの,とほつひと,まつのしたぢゆ,のぼらして,くにみあそばし,ながつきの,しぐれ のあきは,おほとのの,みぎりしみみに,つゆおひて,なびけるはぎを,たまたすき,かけて しのはし,みゆきふる,ふゆのあしたは,さしやなぎ,ねはりあづさを,おほみてに,とらし たまひて,あそばしし,わがおほきみを,かすみたつ,はるのひくらし,まそかがみ,みれど あかねば,よろづよに,かくしもがもと,おほぶねの,たのめるときに,なくわれ,めかもま とへる,おほとのを,ふりさけみれば,しろたへに,かざりまつりて,うちひさす,みやのと ねりも[は],たへのほの,あさぎぬければ,いめかも,うつつかもと,くもりよの,まとへるほ どに,あさもよし,きのへのみちゆ,つのさはふ,いはれをみつつ,かむはぶり,はぶりまつ れば,ゆくみちの,たづきをしらに,おもへども,しるしをなみ,なげけども,おくかをなみ ,おほみそで,ゆきふれしまつを,こととはぬ,きにはありとも,あらたまの,たつつきごと に,あまのはら,ふりさけみつつ,たまたすき,かけてしのはな,かしこくあれども
[_]
[左注](右二首)
[_]
桂 → 挂 [天][紀] / 羊 → 年 [元][天][類] / 之 → 乃 [元][天][類] / 芽子 → 芽 [元][天][類] / 多 → 手 [元][天][類]
[_]
奈良,皇子挽歌,献呈挽歌,枕詞

3325

[題詞]反歌

[原文]角障經 石村山丹 白栲 懸有雲者 皇可聞
[訓読]つのさはふ磐余の山に白栲にかかれる雲は大君にかも
[仮名],つのさはふ,いはれのやまに,しろたへに,かかれるくもは,おほきみにかも
[_]
[左注]右二首
[_]
[_]
奈良,枕詞,皇子挽歌

3326

[題詞]

[原文]礒城嶋之 日本國尓 何方 御念食可 津礼毛無 城上宮尓 大殿乎 都可倍奉而 殿 隠 々座者 朝者 召而使 夕者 召而使 遣之 舎人之子等者 行鳥之 群而待 有雖待 不召 賜者 劔刀 磨之心乎 天雲尓 念散之 展轉 土打哭杼母 飽不足可聞
[訓読]礒城島の 大和の国に いかさまに 思ほしめせか つれもなき 城上の宮に 大殿 を 仕へまつりて 殿隠り 隠りいませば 朝には 召して使ひ 夕には 召して使ひ 使は しし 舎人の子らは 行く鳥の 群がりて待ち あり待てど 召したまはねば 剣大刀 磨 ぎし心を 天雲に 思ひはぶらし 臥いまろび ひづち哭けども 飽き足らぬかも
[仮名],しきしまの,やまとのくにに,いかさまに,おもほしめせか,つれもなき,きのへの みやに,おほとのを,つかへまつりて,とのごもり,こもりいませば,あしたには,めしてつ かひ,ゆふへには,めしてつかひ,つかはしし,とねりのこらは,ゆくとりの,むらがりてま ち,ありまてど,めしたまはねば,つるぎたち,とぎしこころを,あまくもに,おもひはぶら し,こいまろび,ひづちなけども,あきだらぬかも
[_]
[左注]右一首
[_]
[_]
・奈良,皇子挽歌,枕詞

3327

[題詞]

[原文]百小竹之 三野王 金厩 立而飼駒 角厩 立而飼駒 草社者 取而飼<曰戸> 水社者 は而飼<曰戸> 何然 大分青馬之 鳴立鶴
[訓読]百小竹の 三野の王 西の馬屋に 立てて飼ふ駒 東の馬屋に 立てて飼ふ駒 草こ そば 取りて飼ふと言へ 水こそば 汲みて飼ふと言へ 何しかも 葦毛の馬の いなき立 てつる
[仮名],ももしのの,みののおほきみ,にしのうまやに,たててかふこま,ひむがしのうま やに,たててかふこま,くさこそば,とりてかふといへ,みづこそば,くみてかふといへ,な にしかも,あしげのうまの,いなきたてつる
[_]
[左注](右二首)
[_]
[岩波古典大系] / 旱 → 曰戸 [岩波古典大系]
[_]
美努王,譬喩,皇子挽歌

3328

[題詞]反歌

[原文]衣袖 大分青馬之 嘶音 情有鳧 常従異鳴
[訓読]衣手葦毛の馬のいなく声心あれかも常ゆ異に鳴く
[仮名],ころもで,あしげのうまの,いなくこゑ,こころあれかも,つねゆけになく
[_]
[左注]右二首
[_]
[_]
皇子挽歌

3329

[題詞]

[原文]白雲之 棚曳國之 青雲之 向伏國乃 天雲 下有人者 妾耳鴨 君尓戀濫 吾耳鴨 夫君尓戀礼薄 天地 満言 戀鴨 る之病有 念鴨 意之痛 妾戀叙 日尓異尓益 何時橋物 不戀時等者 不有友 是九月乎 吾背子之 偲丹為与得 千世尓物 偲渡登 万代尓 語都我 部等 始而之 此九月之 過莫呼 伊多母為便無見 荒玉之 月乃易者 将為須部乃 田度伎 乎不知 石根之 許凝敷道之 石床之 根延門尓 朝庭 出座而嘆 夕庭 入座戀乍 烏玉之 黒髪敷而 人寐 味寐者不宿尓 大船之 行良行良尓 思乍 吾寐夜等者 數物不敢<鴨>
[訓読]白雲の たなびく国の 青雲の 向伏す国の 天雲の 下なる人は 我のみかも 君 に恋ふらむ 我のみかも 君に恋ふれば 天地に 言を満てて 恋ふれかも 胸の病みたる 思へかも 心の痛き 我が恋ぞ 日に異にまさる いつはしも 恋ひぬ時とは あらねども この九月を 我が背子が 偲ひにせよと 千代にも 偲ひわたれと 万代に 語り継がへと 始めてし この九月の 過ぎまくを いたもすべなみ あらたまの 月の変れば 為むす べの たどきを知らに 岩が根の こごしき道の 岩床の 根延へる門に 朝には 出で居 て嘆き 夕には 入り居恋ひつつ ぬばたまの 黒髪敷きて 人の寝る 味寐は寝ずに 大船 の ゆくらゆくらに 思ひつつ 我が寝る夜らは 数みもあへぬかも
[仮名],しらくもの,たなびくくにの,あをくもの,むかぶすくにの,あまくもの,したなる ひとは,あのみかも,きみにこふらむ,あのみかも,きみにこふれば,あめつちに,ことをみ てて,こふれかも,むねのやみたる,おもへかも,こころのいたき,あがこひぞ,ひにけにま さる,いつはしも,こひぬときとは,あらねども,このながつきを,わがせこが,しのひにせ よと,ちよにも,しのひわたれと,よろづよに,かたりつがへと,はじめてし,このながつき の,すぎまくを,いたもすべなみ,あらたまの,つきのかはれば,せむすべの,たどきをしら に,いはがねの,こごしきみちの,いはとこの,ねばへるかどに,あしたには,いでゐてなげ き,ゆふへには,いりゐこひつつ,ぬばたまの,くろかみしきて,ひとのぬる,うまいはねず に,おほぶねの,ゆくらゆくらに,おもひつつ,わがぬるよらは,よみもあへぬかも
[_]
[左注]右一首
[_]
[類][細]
[_]
枕詞

3330

[題詞]

[原文]隠来之 長谷之川之 上瀬尓 鵜矣八頭漬 下瀬尓 鵜矣八頭漬 上瀬之 <年>魚矣 令咋 下瀬之 鮎矣令咋 麗妹尓 鮎遠惜 <麗妹尓 鮎矣惜> 投左乃 遠離居而 思空 不安 國 嘆空 不安國 衣社薄 其破者 <継>乍物 又母相登言 玉社者 緒之絶薄 八十一里喚鶏 又物逢登曰 又毛不相物者 つ尓志有来
[訓読]隠口の 泊瀬の川の 上つ瀬に 鵜を八つ潜け 下つ瀬に 鵜を八つ潜け 上つ瀬の 鮎を食はしめ 下つ瀬の 鮎を食はしめ くはし妹に 鮎を惜しみ くはし妹に 鮎を惜 しみ 投ぐるさの 遠ざかり居て 思ふそら 安けなくに 嘆くそら 安けなくに 衣こそ ば それ破れぬれば 継ぎつつも またも合ふといへ 玉こそば 緒の絶えぬれば くくり つつ またも合ふといへ またも逢はぬものは 妻にしありけり
[仮名],こもりくの,はつせのかはの,かみつせに,うをやつかづけ,しもつせに,うをやつ かづけ,かみつせの,あゆをくはしめ,しもつせの,あゆをくはしめ,くはしいもに,あゆを をしみ,くはしいもに,あゆををしみ,なぐるさの,とほざかりゐて,おもふそら,やすけな くに,なげくそら,やすけなくに,きぬこそば,それやれぬれば,つぎつつも,またもあふと いへ,たまこそば,をのたえぬれば,くくりつつ,またもあふといへ,またもあはぬものは ,つまにしありけり
[_]
[左注](右三首)
[_]
[元][天][類] / <> → 麗妹尓 鮎矣惜 [元][天][類] / 縫 → 継 [元][温]
[_]
榛原,桜井,奈良,亡妻歌

3331

[題詞]

[原文]隠来之 長谷之山 青幡之 忍坂山者 走出之 宜山之 出立之 妙山叙 惜 山之 荒 巻惜毛
[訓読]隠口の 泊瀬の山 青旗の 忍坂の山は 走出の よろしき山の 出立の くはしき 山ぞ あたらしき 山の 荒れまく惜しも
[仮名],こもりくの,はつせのやま,あをはたの,おさかのやまは,はしりでの,よろしきや まの,いでたちの,くはしきやまぞ,あたらしき,やまの,あれまくをしも
[_]
[左注](右三首)
[_]
[_]
桜井,奈良,亡妻歌,歌謡,山讃美

3332

[題詞]

[原文]高山 与海社者 山随 如此毛現 海随 然真有目 人者<花>物曽 空蝉与人
[訓読]高山と 海とこそば 山ながら かくもうつしく 海ながら しかまことならめ 人 は花ものぞ うつせみ世人
[仮名],たかやまと,うみとこそば,やまながら,かくもうつしく,うみながら,しかまこと ならめ,ひとははなものぞ,うつせみよひと
[_]
[左注]右三首
[_]
[元][天][類]
[_]

3333

[題詞]

[原文]王之 御命恐 秋津嶋 倭雄過而 大伴之 御津之濱邊従 大舟尓 真梶繁貫 旦名伎 尓 水<手>之音為乍 夕名寸尓 梶音為乍 行師君 何時来座登 <大>卜置而 齊度尓 <狂 >言哉 人之言釣 我心 盡之山之 黄葉之 散過去常 公之正香乎
[訓読]大君の 命畏み 蜻蛉島 大和を過ぎて 大伴の 御津の浜辺ゆ 大船に 真楫しじ 貫き 朝なぎに 水手の声しつつ 夕なぎに 楫の音しつつ 行きし君 いつ来まさむと 占置きて 斎ひわたるに たはことか 人の言ひつる 我が心 筑紫の山の 黄葉の 散り て過ぎぬと 君が直香を
[仮名],おほきみの,みことかしこみ,あきづしま,やまとをすぎて,おほともの,みつのは まへゆ,おほぶねに,まかぢしじぬき,あさなぎに,かこのこゑしつつ,ゆふなぎに,かぢの おとしつつ,ゆきしきみ,いつきまさむと,うらおきて,いはひわたるに,たはことか,ひと のいひつる,あがこころ,つくしのやまの,もみちばの,ちりてすぎぬと,きみがただかを
[_]
[左注](右二首)
[_]
大夕 → 大 [元][類] / 抂 → 狂 [天][温]
[_]
奈良,大阪,福岡,羈旅,道行き,行旅死,枕詞

3334

[題詞]反歌

[原文]<狂>言哉 人之云鶴 玉緒乃 長登君者 言手師物乎
[訓読]たはことか人の言ひつる玉の緒の長くと君は言ひてしものを
[仮名],たはことか,ひとのいひつる,たまのをの,ながくときみは,いひてしものを
[_]
[左注]右二首
[_]
[温]
[_]

3335

[題詞]

[原文]玉桙之 道去人者 足桧木之 山行野徃 直海 川徃渡 不知魚取 海道荷出而 惶八 神之渡者 吹風母 和者不吹 立浪母 踈不立 跡座浪之 塞道麻 誰心 勞跡鴨 直渡異六 <直渡異六>
[訓読]玉桙の 道行く人は あしひきの 山行き野行き にはたづみ 川行き渡り 鯨魚取 り 海道に出でて 畏きや 神の渡りは 吹く風も のどには吹かず 立つ波も おほには 立たず とゐ波の 塞ふる道を 誰が心 いたはしとかも 直渡りけむ 直渡りけむ
[仮名],たまほこの,みちゆくひとは,あしひきの,やまゆきのゆき,にはたづみ,かはゆき わたり,いさなとり,うみぢにいでて,かしこきや,かみのわたりは,ふくかぜも,のどには ふかず,たつなみも,おほにはたたず,とゐなみの,ささふるみちを,たがこころ,いたはし とかも,ただわたりけむ,ただわたりけむ
[_]
[左注](右九首)
[_]
立塞 / <> → 直渡異六 [元][類]
[_]
狄領鎮魂

3336

[題詞]

[原文]鳥音之 所聞海尓 高山麻 障所為而 奥藻麻 枕所為 <蛾>葉之 衣<谷>不服尓 不 知魚取 海之濱邊尓 浦裳無 所宿有人者 母父尓 真名子尓可有六 若を之 妻香有異六 思布 言傳八跡 家問者 家乎母不告 名問跡 名谷母不告 哭兒如 言谷不語 思鞆 悲物 者 世間有 <世間有>
[訓読]鳥が音の 聞こゆる海に 高山を 隔てになして 沖つ藻を 枕になし ひむし羽の 衣だに着ずに 鯨魚取り 海の浜辺に うらもなく 臥やせる人は 母父に 愛子にかあ らむ 若草の 妻かありけむ 思ほしき 言伝てむやと 家問へば 家をも告らず 名を問 へど 名だにも告らず 泣く子なす 言だにとはず 思へども 悲しきものは 世間にぞあ る 世間にぞある
[仮名],とりがねの,きこゆるうみに,たかやまを,へだてになして,おきつもを,まくらに なし,ひむしはの,きぬだにきずに,いさなとり,うみのはまへに,うらもなく,こやせるひ とは,おもちちに,まなごにかあらむ,わかくさの,つまかありけむ,おもほしき,ことつて むやと,いへとへば,いへをものらず,なをとへど,なだにものらず,なくこなす,ことだに とはず,おもへども,かなしきものは,よのなかにぞある,よのなかにぞある
[_]
[左注](右九首)
[_]
[元][天][類] / 浴 → 谷 [類] / <> → 世間有 [元][天]
[_]
炭・

3337

[題詞]反歌

[原文]母父毛 妻毛子等毛 高々二 来跡<待>異六 人之悲<紗>
[訓読]母父も妻も子どもも高々に来むと待ちけむ人の悲しさ
[仮名],おもちちも,つまもこどもも,たかたかに,こむとまちけむ,ひとのかなしさ
[_]
[左注](右九首)
[_]
機・[元][天][類] / 沙 → 紗 [元][天][類]
[_]
炭・

3338

[題詞]

[原文]蘆桧木乃 山道者将行 風吹者 浪之塞 海道者不行
[訓読]あしひきの山道は行かむ風吹けば波の塞ふる海道は行かじ
[仮名],あしひきの,やまぢはゆかむ,かぜふけば,なみのささふる,うみぢはゆかじ
[_]
[左注](右九首)
[_]
[_]

3339

[題詞]或本歌 / 備後國神嶋濱調使首見屍作歌一首[并短歌]

[原文]玉桙之 道尓出立 葦引乃 野行山行 潦 川徃渉 鯨名取 海路丹出而 吹風裳 母 穂丹者不吹 立浪裳 箟跡丹者不起 恐耶 神之渡乃 敷浪乃 寄濱部丹 高山矣 部立丹置 而 <b>潭矣 枕丹巻而 占裳無 偃為<公>者 母父之 愛子丹裳在将 稚草之 妻裳有将等 家問跡 家道裳不云 名矣問跡 名谷裳不告 誰之言矣 勞鴨 腫浪能 恐海矣 直渉異将
[訓読]玉桙の 道に出で立ち あしひきの 野行き山行き にはたづみ 川行き渡り 鯨魚 取り 海道に出でて 吹く風も おほには吹かず 立つ波も のどには立たぬ 畏きや 神 の渡りの しき波の 寄する浜辺に 高山を 隔てに置きて 浦ぶちを 枕に巻きて うら もなく こやせる君は 母父が 愛子にもあらむ 若草の 妻もあらむと 家問へど 家道 も言はず 名を問へど 名だにも告らず 誰が言を いたはしとかも とゐ波の 畏き海を 直渡りけむ
[仮名],たまほこの,みちにいでたち,あしひきの,のゆきやまゆき,にはたづみ,かはゆき わたり,いさなとり,うみぢにいでて,ふくかぜも,おほにはふかず,たつなみも,のどには たたぬ,かしこきや,かみのわたりの,しきなみの,よするはまへに,たかやまを,へだてに おきて,うらぶちを,まくらにまきて,うらもなく,こやせるきみは,おもちちが,まなごに もあらむ,わかくさの,つまもあらむ,いへとへど,いへぢもいはず,なをとへど,なだにも のらず,たがことを,いたはしとかも,とゐなみの,かしこきうみを,ただわたりけむ
[_]
[左注](右九首)
[_]
納 → b [元][紀] / 君 → 公 [元][天][類] / 将等 [元][天][類] 等将
[_]
狄領広島県,福山,地名,枕詞,異伝,或本歌,調使首

3340

[題詞]反歌

[原文]母父裳 妻裳子等裳 高々丹 来<将>跡待 人乃悲
[訓読]母父も妻も子どもも高々に来むと待つらむ人の悲しさ
[仮名],おもちちも,つまもこどもも,たかたかに,こむとまつらむ,ひとのかなしさ
[_]
[左注](右九首)
[_]
; 将 [元][天][類]
[_]
狄領鎮魂,或本歌,羈旅,調使首

3341

[題詞]

[原文]家人乃 将待物矣 津煎裳無 荒礒矣巻而 偃有<公>鴨
[訓読]家人の待つらむものをつれもなき荒礒を巻きて寝せる君かも
[仮名],いへびとの,まつらむものを,つれもなき,ありそをまきて,なせるきみかも
[_]
[左注](右九首)
[_]
[元][天][類]
[_]
炭・或本歌,異伝,羈旅,調使首

3342

[題詞]

[原文]<b>潭 偃為<公>矣 今日々々跡 将来跡将待 妻之可奈思母
[訓読]浦ぶちにこやせる君を今日今日と来むと待つらむ妻し悲しも
[仮名],うらぶちに,こやせるきみを,けふけふと,こむとまつらむ,つましかなしも
[_]
[左注](右九首)
[_]
[元][紀] / 君 → 公 [元][天][類]
[_]
炭・或本歌,異伝,羈旅,調使首

3343

[題詞]

[原文]<b>浪 来依濱丹 津煎裳無 偃為<公>賀 家道不知裳
[訓読]浦波の来寄する浜につれもなくこやせる君が家道知らずも
[仮名],うらなみの,きよするはまに,つれもなく,ふしたるきみが,いへぢしらずも
[_]
[左注]右九首
[_]
[元][紀] / 君 → 公 [元][天][類]
[_]
炭・或本歌,異伝,羈旅,調使首

3344

[題詞]

[原文]此月者 君将来跡 大舟之 思憑而 何時可登 吾待居者 黄葉之 過行跡 玉梓之 使之云者 螢成 髣髴聞而 大<土>乎 <火>穂跡<而 立>居而 去方毛不知 朝霧乃 思<或 >而 杖不足 八尺乃嘆 々友 記乎無見跡 何所鹿 君之将座跡 天雲乃 行之随尓 所射完 乃 行<文>将死跡 思友 道之不知者 獨居而 君尓戀尓 哭耳思所泣
[訓読]この月は 君来まさむと 大船の 思ひ頼みて いつしかと 我が待ち居れば 黄葉 の 過ぎてい行くと 玉梓の 使の言へば 蛍なす ほのかに聞きて 大地を ほのほと踏 みて 立ちて居て ゆくへも知らず 朝霧の 思ひ迷ひて 杖足らず 八尺の嘆き 嘆けど も 験をなみと いづくにか 君がまさむと 天雲の 行きのまにまに 射ゆ鹿猪の 行きも 死なむと 思へども 道の知らねば ひとり居て 君に恋ふるに 哭のみし泣かゆ
[仮名],このつきは,きみきまさむと,おほぶねの,おもひたのみて,いつしかと,わがまち をれば,もみちばの,すぎていゆくと,たまづさの,つかひのいへば,ほたるなす,ほのかに ききて,おほつちを,ほのほとふみて,たちてゐて,ゆくへもしらず,あさぎりの,おもひま とひて,つゑたらず,やさかのなげき,なげけども,しるしをなみと,いづくにか,きみがま さむと,あまくもの,ゆきのまにまに,いゆししの,ゆきもしなむと,おもへども,みちのし らねば,ひとりゐて,きみにこふるに,ねのみしなかゆ
[_]
[左注](右二首)
[_]
[天] / 太 → 火 [元][天][類] / 立而 → 而立 [元][天] / 惑 → 或 [元][天] / 父 → 文 [元][天][類]
[_]
悲別,防人妻

3345

[題詞]反歌

[原文]葦邊徃 鴈之翅乎 見別 <公>之佩具之 投箭之所思
[訓読]葦辺行く雁の翼を見るごとに君が帯ばしし投矢し思ほゆ
[仮名],あしへゆく,かりのつばさを,みるごとに,きみがおばしし,なげやしおもほゆ
[_]
[左注]右二首 但或云 此短歌者<防>人之妻所作也 然則應知長歌亦此同作焉
[_]
[元][天][類] / 防 [西(上書訂正)][元][天][紀]
[_]
悲別,防人妻

3346

[題詞]

[原文]欲見者 雲居所見 愛 十羽能松原 小子等 率和出将見 琴酒者 國丹放甞 別避者 宅仁離南 乾坤之 神志恨之 草枕 此羈之氣尓 妻應離哉
[訓読]見欲しきは 雲居に見ゆる うるはしき 鳥羽の松原 童ども いざわ出で見む こ と放けば 国に放けなむ こと放けば 家に放けなむ 天地の 神し恨めし 草枕 この旅 の日に 妻放くべしや
[仮名],みほしきは,くもゐにみゆる,うるはしき,とばのまつばら,わらはども,いざわい でみむ,ことさけば,くににさけなむ,ことさけば,いへにさけなむ,あめつちの,かみしう らめし,くさまくら,このたびのけに,つまさくべしや
[_]
[左注](右二首)
[_]
[_]
・羈旅,行旅死

3347

[題詞]反歌

[原文]草枕 此羈之氣尓 妻<放> 家道思 生為便無
[訓読]草枕この旅の日に妻離り家道思ふに生けるすべなし
[仮名],くさまくら,このたびのけに,つまさかり,いへぢおもふに,いけるすべなし
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[左注]或本歌曰 羈之氣二為而 / 右二首
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[元][天][類]
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・羈旅,行旅死

3347S

[題詞]或本歌曰

[原文]羈之氣二為而
[訓読]旅の日にして
[仮名],たびのけにして
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[左注]右二首
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採行旅死