University of Virginia Library

婦人の自由思想

 第一婦人自身を改造する問題である以上、これに対する婦人の言論が盛になり、その言論の裏書として婦人の実際生活が改造されねばならないはずですが、今の婦人界の表面には極めて少数の自由思想家があるばかりで、それに味方し、もしくは反対する優勢な婦人思想家の続出する様子がありません。その少数の自由思想家という人たちもいわゆる「新しい女」の名に由って 喧伝 ( けんでん ) せられ、その言論は比較的世人の注意を引いているようですけれど、思想としては最も太切な個人的自発の力に乏しく、さればといって社会的及び科学的知識の体系を備えて男子側の思想家と論理的に 太刀打 ( たちうち ) の出来る程度に達しているものでもないのです。それらの言論が多少でも世人の注意を ( ) くのは、とにかくその人たちの半透明な自覚と、大胆な発言とが因となり、男子側の識者が欧米から得た新知識に由って婦人運動に厚意を持つのと、一般の若い男女が旧思想に対する反動として無自覚に新しいものを歓迎する心理とが縁となっているからだと思います。またその人たちの言論に現れた思想がどれだけその人たちの実際生活を改造しているかというと、かえってその思想に背馳した経過を取っているように見受けられるのが遺憾です。