University of Virginia Library

つぢかぜ

同五月十二日午刻ばかり、京中には辻風おびたゞしう吹て、人屋多く顛倒す。風は中御門京極より起て、未申の方へ吹て行に、棟門平門を吹拔きて、四五町十町吹もて行き、桁長押柱などは虚空に散在す。檜皮、葺板の類、冬の木の葉の風に亂るが如し。おひたゞしう鳴どよむ音は、彼地獄の業風なり共、是には過じとぞ見えし。唯舎屋の破損する耳ならず、命を失ふ人も多し。牛馬の類數を盡して打殺さる。是たゝ事に非ず。御占有るべしとて、神祇官にして御占有り。「今百日の中に、祿を重ずる大臣の愼、別しては天下の大事、幵に佛法王法共に傾きて、兵革相續すべし。」とぞ、神祇官陰陽寮ともに占ひ申ける。