University of Virginia Library

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[題詞](柿本朝臣人麻呂従石見國別妻上来時歌二首[并短歌])或本歌一首[并短歌]

[原文]石見之海 津乃浦乎無美 浦無跡 人社見良米 滷無跡 人社見良目 吉咲八師 浦 者雖無 縦恵夜思 潟者雖無 勇魚取 海邊乎指而 柔田津乃 荒礒之上尓 蚊青生 玉藻息 都藻 明来者 浪己曽来依 夕去者 風己曽来依 浪之共 彼依此依 玉藻成 靡吾宿之 敷 妙之 妹之手本乎 露霜乃 置而之来者 此道之 八十隈毎 萬段 顧雖為 弥遠尓 里放来 奴 益高尓 山毛超来奴 早敷屋師 吾嬬乃兒我 夏草乃 思志萎而 将嘆 角里将見 靡此 山
[訓読]石見の海 津の浦をなみ 浦なしと 人こそ見らめ 潟なしと 人こそ見らめ よし ゑやし 浦はなくとも よしゑやし 潟はなくとも 鯨魚取り 海辺を指して 柔田津の 荒礒の上に か青なる 玉藻沖つ藻 明け来れば 波こそ来寄れ 夕されば 風こそ来寄れ 波のむた か寄りかく寄り 玉藻なす 靡き我が寝し 敷栲の 妹が手本を 露霜の 置き てし来れば この道の 八十隈ごとに 万たび かへり見すれど いや遠に 里離り来ぬ いや高に 山も越え来ぬ はしきやし 我が妻の子が 夏草の 思ひ萎えて 嘆くらむ 角 の里見む 靡けこの山
[仮名],いはみのうみ,つのうらをなみ,うらなしと,ひとこそみらめ,かたなしと,ひとこ そみらめ,よしゑやし,うらはなくとも,よしゑやし,かたはなくとも,いさなとり,うみべ をさして,にきたつの,ありそのうへに,かあをなる,たまもおきつも,あけくれば,なみこ そきよれ,ゆふされば,かぜこそきよれ,なみのむた,かよりかくより,たまもなす,なびき わがねし,しきたへの,いもがたもとを,つゆしもの,おきてしくれば,このみちの,やそく まごとに,よろづたび,かへりみすれど,いやとほに,さとさかりきぬ,いやたかに,やまも こえきぬ,はしきやし,わがつまのこが,なつくさの,おもひしなえて,なげくらむ,つのの さとみむ,なびけこのやま
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[左注]
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[校異]
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[KW],相聞,作者:柿本人麻呂,依羅娘子,離別,石見相聞歌,上京,地方官,異伝,推敲,島根 ,地名,枕詞,悲別