University of Virginia Library

Search this document 

expand section1. 
collapse section2. 
collapse section1. 
相聞
 0085. 
 0086. 
 0087. 
 0088. 
 0089. 
 0090. 
 0091. 
 0092. 
 0093. 
 0094. 
 0095. 
 0096. 
 0097. 
 0098. 
 0099. 
 0100. 
 0101. 
 0102. 
 0103. 
 0104. 
 0105. 
 0106. 
 0107. 
 0108. 
 0109. 
 0110. 
 0111. 
 0112. 
 0113. 
 0114. 
 0115. 
 0116. 
 0117. 
 0118. 
 0119. 
 0120. 
 0121. 
 0122. 
 0123. 
 0124. 
 0125. 
 0126. 
 0127. 
 0128. 
 0129. 
 0130. 
 0131. 
 0132. 
 0133. 
 0134. 
 0135. 
 0136. 
 0137. 
 0138. 
 0139. 
 0140. 
expand section2. 
expand section3. 
expand section4. 
expand section5. 
expand section6. 
expand section7. 
expand section8. 
expand section9. 
expand section10. 
expand section11. 
expand section12. 
expand section13. 
expand section14. 
expand section15. 
expand section16. 
expand section17. 
expand section18. 
expand section19. 
expand section20. 

相聞

85

[題詞]難波高津宮御宇天皇代 [大鷦鷯天皇 謚曰仁徳天皇] / 磐姫皇后思天皇御作 歌四首

[原文]君之行 氣長成奴 山多都祢 迎加将行 <待尓>可将待
[訓読]君が行き日長くなりぬ山尋ね迎へか行かむ待ちにか待たむ
[仮名],きみがゆき,けながくなりぬ,やまたづね,むかへかゆかむ,まちにかまたむ
[_]
[左注]右一首歌山上憶良臣類聚歌林載焉
[_]
[校異]尓待 → 待尓 [西(訂正)][紀][金][温]
[_]
[KW],相聞,仁徳天皇,作者:磐姫皇后,律令,情詩,閨房詩,大阪,伝承,仮託,恋情,女歌

86

[題詞](相聞 / 難波高津宮御宇天皇代 [大鷦鷯天皇 謚曰仁徳天皇] / 磐姫皇后思天皇御 作歌四首)

[原文]如此許 戀乍不有者 高山之 磐根四巻手 死奈麻死物<呼>
[訓読]かくばかり恋ひつつあらずは高山の磐根しまきて死なましものを
[仮名],かくばかり,こひつつあらずは,たかやまの,いはねしまきて,しなましものを
[_]
[左注]
[_]
[校異]乎 → 呼 [金]
[_]
[KW],相聞,仁徳天皇,作者:磐姫皇后,律令,情詩,閨房詩,大阪,伝承,仮託,恋情,女歌

87

[題詞](相聞 / 難波高津宮御宇天皇代 [大鷦鷯天皇 謚曰仁徳天皇] / 磐姫皇后思天皇御 作歌四首)

[原文]在管裳 君乎者将待 打靡 吾黒髪尓 霜乃置萬代日
[訓読]ありつつも君をば待たむうち靡く我が黒髪に霜の置くまでに
[仮名],ありつつも,きみをばまたむ,うちなびく,わがくろかみに,しものおくまでに
[_]
[左注]
[_]
[校異]
[_]
[KW],相聞,仁徳天皇,作者:磐姫皇后,律令,情詩,閨房詩,大阪,伝承,仮託,恋情,女歌

88

[題詞](相聞 / 難波高津宮御宇天皇代 [大鷦鷯天皇 謚曰仁徳天皇] / 磐姫皇后思天皇御 作歌四首)

[原文]秋田之 穂上尓霧相 朝霞 何時邊乃方二 我戀将息
[訓読]秋の田の穂の上に霧らふ朝霞いつへの方に我が恋やまむ
[仮名],あきのたの,ほのへにきらふ,あさかすみ,いつへのかたに,あがこひやまむ
[_]
[左注]
[_]
[校異]
[_]
[KW],相聞,仁徳天皇,作者:磐姫皇后,律令,情詩,閨房詩,大阪,伝承,仮託,恋情,女歌

89

[題詞](相聞 / 難波高津宮御宇天皇代 [大鷦鷯天皇 謚曰仁徳天皇] / 磐姫皇后思天皇御 作歌四首)或本歌曰

[原文]居明而 君乎者将待 奴婆珠<能> 吾黒髪尓 霜者零騰文
[訓読]居明かして君をば待たむぬばたまの我が黒髪に霜は降るとも
[仮名],ゐあかして,きみをばまたむ,ぬばたまの,わがくろかみに,しもはふるとも
[_]
[左注]右一首古歌集中出
[_]
[校異]乃 → 能 [金][紀]
[_]
[KW],相聞,仁徳天皇,作者:磐姫皇后,律令,情詩,閨房詩,或本歌,古歌集,大阪,伝承,仮託 ,恋情,女歌,枕詞

90

[題詞]古事記曰 軽太子奸軽太郎女 故其太子流於伊豫湯也 此時衣通王 不堪戀<慕>而 追徃時歌曰

[原文]君之行 氣長久成奴 山多豆乃 迎乎将徃 待尓者不待
[訓読]君が行き日長くなりぬ山たづの迎へを行かむ待つには待たじ
[仮名],きみがゆき,けながくなりぬ,やまたづの,むかへをゆかむ,まつにはまたじ
[_]
[左注]右一首歌古事記与類聚<歌林>所説不同歌主亦異焉 因檢日本紀曰難波高津宮御 宇大鷦鷯天皇廿二年春正月天皇語皇后納八田皇女将為妃 時皇后不聴 爰天皇歌以乞於 皇后云々 卅年秋九月乙卯朔乙丑皇后遊行紀伊國到熊野岬 取其處之御綱葉而還 於是 天皇伺皇后不在而娶八田皇女納於宮中時皇后 到難波濟 聞天皇合八田皇女大恨之云々 亦曰 遠飛鳥宮御宇雄朝嬬稚子宿祢天皇廿三年春<三>月甲午朔庚子 木梨軽皇子為太 子 容姿佳麗見者自感 同母妹軽太娘皇女亦艶妙也云々 遂竊通乃悒懐少息 廿四年夏六 月御羮汁凝以作氷 天皇異之卜其所由 卜者曰 有内乱 盖親々相奸乎云々 仍移太娘皇 女於伊<豫>者 今案二代二時不見此歌也
[_]
[校異]
[_]
[KW],相聞,仁徳天皇,作者:磐姫皇后,律令,情詩,閨房詩,古事記,異伝,玉台新詠,軽皇女 ,大阪,伝承,仮託,恋情,女歌,植物,枕詞,伝誦

91

[題詞]近江大津宮御宇天皇代 [天命開別天皇 謚曰天智天皇] / 天皇賜鏡王女御歌一首

[原文]妹之家毛 継而見麻思乎 山跡有 大嶋嶺尓 家母有猿尾 [一云 妹之當継而毛見 武尓] [一云 家居麻之乎]
[訓読]妹が家も継ぎて見ましを大和なる大島の嶺に家もあらましを [一云 妹があた り継ぎても見むに] [一云 家居らましを]
[仮名],いもがいへも,つぎてみましを,やまとなる,おほしまのねに,いへもあらましを ,[いもがあたり,つぎてもみむに][いへをらましを]
[_]
[左注]
[_]
[校異]
[_]
[KW],相聞,作者:天智天皇,鏡王女,見る,国見,異伝,贈答,歌垣,奈良,地名

92

[題詞]鏡王女奉和御歌一首

[原文]秋山之 樹下隠 逝水乃 吾許曽益目 御念従者
[訓読]秋山の木の下隠り行く水の我れこそ益さめ御思ひよりは
[仮名],あきやまの,このしたがくり,ゆくみづの,われこそまさめ,みおもひよりは
[_]
[左注]
[_]
[校異]
[_]
[KW],相聞,作者:鏡王女,和,天智,贈答,歌垣,奈良,女歌

93

[題詞]内大臣藤原卿娉鏡王女時鏡王女贈内大臣歌一首

[原文]玉匣 覆乎安美 開而行者 君名者雖有 吾名之惜<裳>
[訓読]玉櫛笥覆ふを安み明けていなば君が名はあれど吾が名し惜しも
[仮名],たまくしげ,おほふをやすみ,あけていなば,きみがなはあれど,わがなしをしも
[_]
[左注]
[_]
[校異]毛 → 裳 [元][金][紀]
[_]
[KW],相聞,恋愛,作者:鏡王女,藤原鎌足,娉,名前,贈答,歌垣,比喩

94

[題詞]内大臣藤原卿報贈鏡王女歌一首

[原文]玉匣 将見圓山乃 狭名葛 佐不寐者遂尓 有勝麻之<自> [玉匣 三室戸山乃]
[訓読]玉櫛笥みむろの山のさな葛さ寝ずはつひに有りかつましじ [玉くしげ三室戸山 の]
[仮名],たまくしげ,みむろのやまの,さなかづら,さねずはつひに,ありかつましじ,[たま くしげ,みむろとやまの]
[_]
[左注]
[_]
[校異]目 → 自 [元][類]
[_]
[KW],相聞,恋愛,作者:藤原鎌足,鏡王女,贈答,異伝,歌垣,枕詞,地名,植物,序詞

95

[題詞]内大臣藤原卿娶釆女安見<兒>時作歌一首

[原文]吾者毛也 安見兒得有 皆人乃 得難尓為云 安見兒衣多利
[訓読]我れはもや安見児得たり皆人の得かてにすとふ安見児得たり
[仮名],われはもや,やすみこえたり,みなひとの,えかてにすとふ,やすみこえたり
[_]
[左注]
[_]
[校異]
[_]
[KW],相聞,作者:藤原鎌足,安見児,采女,娶,宴席,歌謡,即興的,口誦

96

[題詞]久米禅師娉石川郎女時歌五首

[原文]水薦苅 信濃乃真弓 吾引者 宇真人<佐>備而 不欲常将言可聞 [禅師]
[訓読]み薦刈る信濃の真弓我が引かば貴人さびていなと言はむかも [禅師]
[仮名],みこもかる,しなぬのまゆみ,わがひかば,うまひとさびて,いなといはむかも
[_]
[左注]
[_]
[校異]作 → 佐 [元][金][類]
[_]
[KW],相聞,作者:久米禅師,石川郎女,歌垣,求婚,掛け合い歌,枕詞,比喩

97

[題詞](久米禅師娉石川郎女時歌五首)

[原文]三薦苅 信濃乃真弓 不引為而 強<佐>留行事乎 知跡言莫君二 [郎女]
[訓読]み薦刈る信濃の真弓引かずして強ひさるわざを知ると言はなくに [郎女]
[仮名],みこもかる,しなぬのまゆみ,ひかずして,しひさるわざを,しるといはなくに
[_]
[左注]
[_]
[校異]作 → 佐 [元][金][類]
[_]
[KW],相聞,作者:石川郎女,久米禅師,歌垣,拒否,掛け合い歌,比喩,枕詞

98

[題詞](久米禅師娉石川郎女時歌五首)

[原文]梓弓 引者随意 依目友 後心乎 知勝奴鴨 [郎女]
[訓読]梓弓引かばまにまに寄らめども後の心を知りかてぬかも [郎女]
[仮名],あづさゆみ,ひかばまにまに,よらめども,のちのこころを,しりかてぬかも
[_]
[左注]
[_]
[校異]
[_]
[KW],相聞,作者:石川郎女,久米禅師,歌垣,掛け合い歌,比喩

99

[題詞](久米禅師娉石川郎女時歌五首)

[原文]梓弓 都良絃取波氣 引人者 後心乎 知人曽引 [禅師]
[訓読]梓弓弦緒取りはけ引く人は後の心を知る人ぞ引く [禅師]
[仮名],あづさゆみ,つらをとりはけ,ひくひとは,のちのこころを,しるひとぞひく
[_]
[左注]
[_]
[校異]
[_]
[KW],相聞,作者:久米禅師,石川郎女,歌垣,掛け合い歌,比喩

100

[題詞](久米禅師娉石川郎女時歌五首)

[原文]東人之 荷向篋乃 荷之緒尓毛 妹情尓 乗尓家留香問 [禅師]
[訓読]東人の荷前の箱の荷の緒にも妹は心に乗りにけるかも [禅師]
[仮名],あづまひとの,のさきのはこの,にのをにも,いもはこころに,のりにけるかも
[_]
[左注]
[_]
[校異]問 [元][類] 聞
[_]
[KW],相聞,作者:久米禅師,石川郎女,歌垣,掛け合い歌,序詞

101

[題詞]大伴宿祢娉巨勢郎女時歌一首 [大伴宿祢諱曰安麻呂也難波朝右大臣大紫大伴長 徳卿之第六子平城朝任大納言兼大将軍薨也]

[原文]玉葛 實不成樹尓波 千磐破 神曽著常云 不成樹別尓
[訓読]玉葛実ならぬ木にはちはやぶる神ぞつくといふならぬ木ごとに
[仮名],たまかづら,みならぬきには,ちはやぶる,かみぞつくといふ,ならぬきごとに
[_]
[左注]
[_]
[校異]磐 [元][類] 盤
[_]
[KW],相聞,作者:大伴安麻呂,巨勢郎女,掛け合い歌,植物,比喩

102

[題詞]巨勢郎女報贈歌一首 [即近江朝大納言巨勢人卿之女也]

[原文]玉葛 花耳開而 不成有者 誰戀尓有目 吾孤悲念乎
[訓読]玉葛花のみ咲きてならずあるは誰が恋にあらめ我れ恋ひ思ふを
[仮名],たまかづら,はなのみさきて,ならずあるは,たがこひにあらめ,あはこひもふを
[_]
[左注]
[_]
[校異]
[_]
[KW],相聞,作者:巨勢郎女,大伴安麻呂,掛け合い歌,植物,比喩

103

[題詞]明日香清御原宮御宇天皇代 [天渟<中>原瀛真人天皇謚曰天武天皇] / 天皇賜藤原 夫人御歌一首

[原文]吾里尓 大雪落有 大原乃 古尓之郷尓 落巻者後
[訓読]我が里に大雪降れり大原の古りにし里に降らまくは後
[仮名],わがさとに,おほゆきふれり,おほはらの,ふりにしさとに,ふらまくはのち
[_]
[左注]
[_]
[校異]
[_]
[KW],相聞,作者:天武天皇,藤原夫人,贈答,掛け合い歌,飛鳥,地名

104

[題詞]藤原夫人奉和歌一首

[原文]吾岡之 於可美尓言而 令落 雪之摧之 彼所尓塵家武
[訓読]我が岡のおかみに言ひて降らしめし雪のくだけしそこに散りけむ
[仮名],わがをかの,おかみにいひて,ふらしめし,ゆきのくだけし,そこにちりけむ
[_]
[左注]
[_]
[校異]
[_]
[KW],相聞,作者:藤原夫人,天武天皇,贈答,掛け合い歌,飛鳥,地名

105

[題詞]藤原宮御宇天皇<代> [天皇謚曰持統天皇元年丁亥十一年譲位軽太子尊号曰太上 天皇也] / 大津皇子竊下於伊勢神宮上来時大伯皇女御作歌二首

[原文]吾勢I乎 倭邊遺登 佐夜深而 鷄鳴露尓 吾立所霑之
[訓読]我が背子を大和へ遣るとさ夜更けて暁露に我れ立ち濡れし
[仮名],わがせこを,やまとへやると,さよふけて,あかときつゆに,われたちぬれし
[_]
[左注]
[_]
[校異]
[_]
[KW],相聞,作者:大伯皇女,大津皇子,伊勢神宮,悲劇,歌語り,斎宮,見送り,羈旅,三重,地 名

106

[題詞](大津皇子竊下於伊勢神宮上来時大伯皇女御作歌二首)

[原文]二人行杼 去過難寸 秋山乎 如何君之 獨越武
[訓読]ふたり行けど行き過ぎかたき秋山をいかにか君がひとり越ゆらむ
[仮名],ふたりゆけど,ゆきすぎかたき,あきやまを,いかにかきみが,ひとりこゆらむ
[_]
[左注]
[_]
[校異]
[_]
[KW],相聞,作者:大伯皇女,大津皇子,伊勢神宮,悲劇,歌語り,斎宮,見送り,羈旅,三重,地 名

107

[題詞]大津皇子贈石川郎女御歌一首

[原文]足日木乃 山之四付二 妹待跡 吾立所<沾> 山之四附二
[訓読]あしひきの山のしづくに妹待つと我れ立ち濡れぬ山のしづくに
[仮名],あしひきの,やまのしづくに,いもまつと,われたちぬれぬ,やまのしづくに
[_]
[左注]
[_]
[校異]沽 → 沾 [金][細][京]
[_]
[KW],相聞,作者:大津皇子,石川郎女,歌垣,掛け合い歌,歌語り,枕詞

108

[題詞]石川郎女奉和歌一首

[原文]吾乎待跡 君之<沾>計武 足日木能 山之四附二 成益物乎
[訓読]我を待つと君が濡れけむあしひきの山のしづくにならましものを
[仮名],あをまつと,きみがぬれけむ,あしひきの,やまのしづくに,ならましものを
[_]
[左注]
[_]
[校異]沽 → 沾 [金][細][京]
[_]
[KW],相聞,作者:石川郎女,大津皇子,歌垣,掛け合い歌,歌語り,枕詞

109

[題詞]大津皇子竊婚石川女郎時津守連通占露其事皇子御作歌一首 <[未詳]>

[原文]大船之 津守之占尓 将告登波 益為尓知而 我二人宿之
[訓読]大船の津守が占に告らむとはまさしに知りて我がふたり寝し
[仮名],おほぶねの,つもりがうらに,のらむとは,まさしにしりて,わがふたりねし
[_]
[左注]
[_]
[校異]
[_]
[KW],相聞,作者:大津皇子,石川郎女,津守通,占い,歌語り,枕詞

110

[題詞]日並皇子尊贈賜石川女郎御歌一首 [女郎字曰大名兒也]

[原文]大名兒 彼方野邊尓 苅草乃 束之間毛 吾忘目八
[訓読]大名児を彼方野辺に刈る草の束の間も我れ忘れめや
[仮名],おほなこを,をちかたのへに,かるかやの,つかのあひだも,われわすれめや
[_]
[左注]
[_]
[校異]
[_]
[KW],相聞,作者:日並皇子:草壁皇子,石川郎女,大津皇子,大名兒,歌語り,序詞,植物

111

[題詞]幸于吉野宮時弓削皇子贈与額田王歌一首

[原文]古尓 戀流鳥鴨 弓絃葉乃 三井能上従 <鳴><濟>遊久
[訓読]いにしへに恋ふる鳥かも弓絃葉の御井の上より鳴き渡り行く
[仮名],いにしへに,こふるとりかも,ゆづるはの,みゐのうへより,なきわたりゆく
[_]
[左注]
[_]
[校異]<> → 鳴 [西(右書)][元][金] / 渡 → 濟 [元][金]
[_]
[KW],相聞,作者:弓削皇子,額田王,懐古,動物,贈答,吉野,行幸,動物,植物,持統

112

[題詞]額田王奉和歌一首 [従倭京進入]

[原文]古尓 戀良武鳥者 霍公鳥 盖哉鳴之 吾<念>流<碁>騰
[訓読]いにしへに恋ふらむ鳥は霍公鳥けだしや鳴きし我が念へるごと
[仮名],いにしへに,こふらむとりは,ほととぎす,けだしやなきし,あがもへるごと
[_]
[左注]
[_]
[校異]戀 → 念 [元][金][類][紀] / 其 → 碁 [紀]
[_]
[KW],相聞,作者:額田王,弓削皇子,贈答,懐古,吉野,行幸,動物,持統

113

[題詞]従吉野折取蘿生松柯遣時額田王奉入歌一首

[原文]三吉野乃 玉松之枝者 波思吉香聞 君之御言乎 持而加欲波久
[訓読]み吉野の玉松が枝ははしきかも君が御言を持ちて通はく
[仮名],みよしのの,たままつがえは,はしきかも,きみがみことを,もちてかよはく
[_]
[左注]
[_]
[校異]
[_]
[KW],相聞,作者:額田王,弓削皇子,吉野,行幸,地名,植物,持統

114

[題詞]但馬皇女在高市皇子宮時思穂積皇子御作歌一首

[原文]秋田之 穂向乃所縁 異所縁 君尓因奈名 事痛有登母
[訓読]秋の田の穂向きの寄れる片寄りに君に寄りなな言痛くありとも
[仮名],あきのたの,ほむきのよれる,かたよりに,きみによりなな,こちたくありとも
[_]
[左注]
[_]
[校異]
[_]
[KW],相聞,作者:但馬皇女,穂積皇子,恋愛,歌語り,高市皇子,植物

115

[題詞]勅穂積皇子遣近江志賀山寺時但馬皇女御作歌一首

[原文]遺居<而> 戀管不有者 追及武 道之阿廻尓 標結吾勢
[訓読]後れ居て恋ひつつあらずは追ひ及かむ道の隈廻に標結へ我が背
[仮名],おくれゐて,こひつつあらずは,おひしかむ,みちのくまみに,しめゆへわがせ
[_]
[左注]
[_]
[校異]与 → 而 [元][類][紀]
[_]
[KW],相聞,作者:但馬皇女,穂積皇子,恋愛,歌語り

116

[題詞]但馬皇女在高市皇子宮時竊接穂積皇子事既形而御作<歌>一首

[原文]人事乎 繁美許知痛美 己世尓 未渡 朝川渡
[訓読]人言を繁み言痛みおのが世にいまだ渡らぬ朝川渡る
[仮名],ひとごとを,しげみこちたみ,おのがよに,いまだわたらぬ,あさかはわたる
[_]
[左注]
[_]
[校異]
[_]
[KW],相聞,作者:但馬皇女,穂積皇子,恋愛,密通,歌語り,川渡り,うわさ,人言

117

[題詞]舎人皇子御歌一首

[原文]大夫哉 片戀将為跡 嘆友 鬼乃益卜雄 尚戀二家里
[訓読]ますらをや片恋せむと嘆けども醜のますらをなほ恋ひにけり
[仮名],ますらをや,かたこひせむと,なげけども,しこのますらを,なほこひにけり
[_]
[左注]
[_]
[校異]
[_]
[KW],相聞,作者:舎人皇子,大夫,恋愛

118

[題詞]舎人娘子奉和歌一首

[原文]<嘆>管 大夫之 戀礼許曽 吾髪結乃 漬而奴礼計礼
[訓読]嘆きつつますらをのこの恋ふれこそ我が髪結ひの漬ちてぬれけれ
[仮名],なげきつつ,ますらをのこの,こふれこそ,わがかみゆひの,ひちてぬれけれ
[_]
[左注]
[_]
[校異]歎 → 嘆 [元][金] / 髪結 [元] 結髪
[_]
[KW],相聞,作者:舎人娘子,大夫,恋愛

119

[題詞]弓削皇子思紀皇女御歌四首

[原文]芳野河 逝瀬之早見 須臾毛 不通事無 有巨勢<濃>香問
[訓読]吉野川行く瀬の早みしましくも淀むことなくありこせぬかも
[仮名],よしのかは,ゆくせのはやみ,しましくも,よどむことなく,ありこせぬかも
[_]
[左注]
[_]
[校異]流 → 濃 [西(右書)][元][金][紀] / 問 [類][古][紀] 聞
[_]
[KW],相聞,作者:弓削皇子,紀皇女,恋愛,恋の停滞,地名

120

[題詞](弓削皇子思紀皇女御歌四首)

[原文]吾妹兒尓 戀乍不有者 秋芽之 咲而散去流 花尓有猿尾
[訓読]我妹子に恋ひつつあらずは秋萩の咲きて散りぬる花にあらましを
[仮名],わぎもこに,こひつつあらずは,あきはぎの,さきてちりぬる,はなにあらましを
[_]
[左注]
[_]
[校異]
[_]
[KW],相聞,作者:弓削皇子,紀皇女,恋歌,磐姫皇后歌,反実仮想,散る花,植物

121

[題詞](弓削皇子思紀皇女御歌四首)

[原文]暮去者 塩満来奈武 住吉乃 淺鹿乃浦尓 玉藻苅手名
[訓読]夕さらば潮満ち来なむ住吉の浅香の浦に玉藻刈りてな
[仮名],ゆふさらば,しほみちきなむ,すみのえの,あさかのうらに,たまもかりてな
[_]
[左注]
[_]
[校異]
[_]
[KW],相聞,作者:弓削皇子,紀皇女,恋歌,玉藻刈り,比喩,地名,植物

122

[題詞](弓削皇子思紀皇女御歌四首)

[原文]大船之 泊流登麻里能 絶多日二 物念痩奴 人能兒故尓
[訓読]大船の泊つる泊りのたゆたひに物思ひ痩せぬ人の子故に
[仮名],おほぶねの,はつるとまりの,たゆたひに,ものもひやせぬ,ひとのこゆゑに
[_]
[左注]
[_]
[校異]
[_]
[KW],相聞,作者:弓削皇子,紀皇女,恋歌

123

[題詞]三方沙弥娶園臣生羽之女未經幾時臥病作歌三首

[原文]多氣婆奴礼 多香根者長寸 妹之髪 此来不見尓 掻入津良武香 [三方沙弥]
[訓読]たけばぬれたかねば長き妹が髪このころ見ぬに掻き入れつらむか [三方沙弥]
[仮名],たけばぬれ,たかねばながき,いもがかみ,このころみぬに,かきいれつらむか
[_]
[左注]
[_]
[校異]
[_]
[KW],相聞,作者:三方沙弥,園臣生羽女,恋歌,心配

124

[題詞](三方沙弥娶園臣生羽之女未經幾時臥病作歌三首)

[原文]人皆者 今波長跡 多計登雖言 君之見師髪 乱有等母 [娘子]
[訓読]人皆は今は長しとたけと言へど君が見し髪乱れたりとも [娘子]
[仮名],ひとみなは,いまはながしと,たけといへど,きみがみしかみ,みだれたりとも
[_]
[左注]
[_]
[校異]皆者 [元][紀] 者皆
[_]
[KW],相聞,作者:園生羽女,三方沙弥,恋歌,なぐさめ,安心

125

[題詞](三方沙弥娶園臣生羽之女未經幾時臥病作歌三首)

[原文]橘之 蔭履路乃 八衢尓 物乎曽念 妹尓不相而 [三方沙弥]
[訓読]橘の蔭踏む道の八衢に物をぞ思ふ妹に逢はずして [三方沙弥]
[仮名],たちばなの,かげふむみちの,やちまたに,ものをぞおもふ,いもにあはずして
[_]
[左注]
[_]
[校異]
[_]
[KW],相聞,作者:三方沙弥,物思い,植物

126

[題詞]石川女郎贈大伴宿祢田主歌一首 [即佐保大納言大伴卿<之>第二子 母曰巨勢朝 臣也]

[原文]遊士跡 吾者聞流乎 屋戸不借 吾乎還利 於曽能風流士
[訓読]風流士と我れは聞けるをやど貸さず我れを帰せりおその風流士
[仮名],みやびをと,われはきけるを,やどかさず,われをかへせり,おそのみやびを
[_]
[左注]大伴田主字曰仲郎 容姿佳艶風流秀絶 見人聞者靡不歎息也 時有石川女郎 自成 雙栖之感恒悲獨守之難 意欲寄書未逢良信 爰作方便而似賎嫗 己提堝子而到寝側 哽音 J足叩戸諮曰 東隣貧女将取火来矣 於是仲郎 暗裏非識冒隠之形 慮外不堪拘接之計 任念取火就跡歸去也 明後女郎 既恥自媒之可愧 復恨心契之弗果 因作斯歌以贈謔<戯 >焉
[_]
[校異]
[_]
[KW],相聞,作者:石川女郎,大伴田主,贈答,掛け合い,歌語り

127

[題詞]大伴宿祢田主報贈<歌>一首

[原文]遊士尓 吾者有家里 屋戸不借 令還吾曽 風流士者有
[訓読]風流士に我れはありけりやど貸さず帰しし我れぞ風流士にはある
[仮名],みやびをに,われはありけり,やどかさず,かへししわれぞ,みやびをにはある
[_]
[左注]
[_]
[校異]
[_]
[KW],相聞,作者:大伴田主,石川女郎,贈答,掛け合い,歌語り

128

[題詞]同石川女郎更贈大伴田主中郎歌一首

[原文]吾聞之 耳尓好似 葦若<末>乃 足痛吾勢 勤多扶倍思
[訓読]我が聞きし耳によく似る葦の末の足ひく我が背つとめ給ぶべし
[仮名],わがききし,みみによくにる,あしのうれの,あしひくわがせ,つとめたぶべし
[_]
[左注]右依中郎足疾贈此歌問訊也
[_]
[校異]未 → 末 [万葉考]
[_]
[KW],相聞,作者:石川女郎,大伴田主,贈答,掛け合い,歌語り,植物

129

[題詞]大<津>皇子宮侍石川女郎贈大伴宿祢宿奈麻呂歌一首 [女郎字曰山田郎女也宿奈 麻呂宿祢者大納言兼大将軍卿之第三子也]

[原文]古之 嫗尓為而也 如此許 戀尓将沈 如手童兒 [戀乎<大>尓忍金手武多和良波乃 如]
[訓読]古りにし嫗にしてやかくばかり恋に沈まむ手童のごと [恋をだに忍びかねてむ 手童のごと]
[仮名],ふりにし,おみなにしてや,かくばかり,こひにしづまむ,たわらはのごと,[こひを だに,しのびかねてむ,たわらはのごと]
[_]
[左注]
[_]
[校異]伴 → 津 [元][古][紀] / 大 [紀][温][矢] 太
[_]
[KW],相聞,作者:石川女郎,大伴宿奈麻呂,大津皇子,山田郎女,恋歌,恋情

130

[題詞]長皇子与皇弟御歌一首

[原文]丹生乃河 瀬者不渡而 由久遊久登 戀痛吾弟 乞通来祢
[訓読]丹生の川瀬は渡らずてゆくゆくと恋痛し我が背いで通ひ来ね
[仮名],にふのかは,せはわたらずて,ゆくゆくと,こひたしわがせ,いでかよひこね
[_]
[左注]
[_]
[校異]
[_]
[KW],相聞,作者:長皇子,弓削皇子,弟,恋情,川渡り,同性,恋歌,地名,贈答

131

[題詞]柿本朝臣人麻呂従石見國別妻上来時歌二首[并短歌]

[原文]石見乃海 角乃浦廻乎 浦無等 人社見良目 滷無等 [一云 礒無登] 人社見良目 能咲八師 浦者無友 縦畫屋師 滷者 [一云 礒者] 無鞆 鯨魚取 海邊乎指而 和多豆乃 荒礒乃上尓 香青生 玉藻息津藻 朝羽振 風社依米 夕羽振流 浪社来縁 浪之共 彼縁此 依 玉藻成 依宿之妹乎 [一云 波之伎余思 妹之手本乎] 露霜乃 置而之来者 此道乃 八 十隈毎 萬段 顧為騰 弥遠尓 里者放奴 益高尓 山毛越来奴 夏草之 念思奈要而 志<怒 >布良武 妹之門将見 靡此山
[訓読]石見の海 角の浦廻を 浦なしと 人こそ見らめ 潟なしと [一云 礒なしと] 人こ そ見らめ よしゑやし 浦はなくとも よしゑやし 潟は [一云 礒は] なくとも 鯨魚取 り 海辺を指して 柔田津の 荒礒の上に か青なる 玉藻沖つ藻 朝羽振る 風こそ寄せ め 夕羽振る 波こそ来寄れ 波のむた か寄りかく寄り 玉藻なす 寄り寝し妹を [一云 はしきよし 妹が手本を] 露霜の 置きてし来れば この道の 八十隈ごとに 万たび か へり見すれど いや遠に 里は離りぬ いや高に 山も越え来ぬ 夏草の 思ひ萎へて 偲 ふらむ 妹が門見む 靡けこの山
[仮名],いはみのうみ,つののうらみを,うらなしと,ひとこそみらめ,かたなしと,[いそな しと],ひとこそみらめ,よしゑやし,うらはなくとも,よしゑやし,かたは,[いそは],なくと も,いさなとり,うみへをさして,にきたづの,ありそのうへに,かあをなる,たまもおきつ も,あさはふる,かぜこそよせめ,ゆふはふる,なみこそきよれ,なみのむた,かよりかくよ り,たまもなす,よりねしいもを,[はしきよし,いもがたもとを],つゆしもの,おきてしくれ ば,このみちの,やそくまごとに,よろづたび,かへりみすれど,いやとほに,さとはさかり ぬ,いやたかに,やまもこえきぬ,なつくさの,おもひしなえて,しのふらむ,いもがかどみ む,なびけこのやま
[_]
[左注]
[_]
[校異]奴 → 怒 [元][紀][温]
[_]
[KW],相聞,作者:柿本人麻呂,依羅娘子,離別,石見相聞歌,上京,地方官,島根,地名,枕詞 ,悲別

132

[題詞](柿本朝臣人麻呂従石見國別妻上来時歌二首[并短歌])反歌二首

[原文]石見乃也 高角山之 木際従 我振袖乎 妹見都良武香
[訓読]石見のや高角山の木の間より我が振る袖を妹見つらむか
[仮名],いはみのや,たかつのやまの,このまより,わがふるそでを,いもみつらむか
[_]
[左注]
[_]
[校異]
[_]
[KW],相聞,作者:柿本人麻呂,依羅娘子,離別,石見相聞歌,上京,地方官,島根,地名,悲別

133

[題詞]((柿本朝臣人麻呂従石見國別妻上来時歌二首[并短歌])反歌二首)

[原文]小竹之葉者 三山毛清尓 乱友 吾者妹思 別来礼婆
[訓読]笹の葉はみ山もさやにさやげども我れは妹思ふ別れ来ぬれば
[仮名],ささのはは,みやまもさやに,さやげども,われはいもおもふ,わかれきぬれば
[_]
[左注]
[_]
[校異]
[_]
[KW],相聞,作者:柿本人麻呂,依羅娘子,離別,石見相聞歌,上京,地方官,島根,悲別

134

[題詞](柿本朝臣人麻呂従石見國別妻上来時歌二首[并短歌])或本反歌曰

[原文]石見尓有 高角山乃 木間従文 吾袂振乎 妹見監鴨
[訓読]石見なる高角山の木の間ゆも我が袖振るを妹見けむかも
[仮名],いはみなる,たかつのやまの,このまゆも,わがそでふるを,いもみけむかも
[_]
[左注]
[_]
[校異]
[_]
[KW],相聞,作者:柿本人麻呂,依羅娘子,離別,石見相聞歌,上京,地方官,異伝,推敲,島根 ,地名,悲別

135

[題詞](柿本朝臣人麻呂従石見國別妻上来時歌二首[并短歌])

[原文]角<障>經 石見之海乃 言佐敝久 辛乃埼有 伊久里尓曽 深海松生流 荒礒尓曽 玉藻者生流 玉藻成 靡寐之兒乎 深海松乃 深目手思騰 左宿夜者 幾毛不有 延都多乃 別之来者 肝向 心乎痛 念乍 顧為騰 大舟之 渡乃山之 黄葉乃 散之乱尓 妹袖 清尓毛 不見 嬬隠有 屋上乃 [一云 室上山] 山乃 自雲間 渡相月乃 雖惜 隠比来者 天傳 入日 刺奴礼 大夫跡 念有吾毛 敷妙乃 衣袖者 通而<沾>奴
[訓読]つのさはふ 石見の海の 言さへく 唐の崎なる 海石にぞ 深海松生ふる 荒礒に ぞ 玉藻は生ふる 玉藻なす 靡き寝し子を 深海松の 深めて思へど さ寝し夜は 幾だ もあらず 延ふ蔦の 別れし来れば 肝向ふ 心を痛み 思ひつつ かへり見すれど 大船 の 渡の山の 黄葉の 散りの乱ひに 妹が袖 さやにも見えず 妻ごもる 屋上の [一云 室上山] 山の 雲間より 渡らふ月の 惜しけども 隠らひ来れば 天伝ふ 入日さしぬれ 大夫と 思へる我れも 敷栲の 衣の袖は 通りて濡れぬ
[仮名],つのさはふ,いはみのうみの,ことさへく,からのさきなる,いくりにぞ,ふかみる おふる,ありそにぞ,たまもはおふる,たまもなす,なびきねしこを,ふかみるの,ふかめて おもへど,さねしよは,いくだもあらず,はふつたの,わかれしくれば,きもむかふ,こころ をいたみ,おもひつつ,かへりみすれど,おほぶねの,わたりのやまの,もみちばの,ちりの まがひに,いもがそで,さやにもみえず,つまごもる,やかみの,[むろかみやま],やまの,く もまより,わたらふつきの,をしけども,かくらひくれば,あまづたふ,いりひさしぬれ,ま すらをと,おもへるわれも,しきたへの,ころものそでは,とほりてぬれぬ
[_]
[左注]
[_]
[校異]K → 障 [元][金][紀] / 沽 → 沾 [金][温][京]
[_]
[KW],相聞,作者:柿本人麻呂,依羅娘子,離別,石見相聞歌,上京,地方官,島根,地名,枕詞 ,悲別

136

[題詞](柿本朝臣人麻呂従石見國別妻上来時歌二首[并短歌])反歌二首

[原文]青駒之 足掻乎速 雲居曽 妹之當乎 過而来計類 [一云 當者隠来計留]
[訓読]青駒が足掻きを速み雲居にぞ妹があたりを過ぎて来にける [一云 あたりは隠 り来にける]
[仮名],あをこまが,あがきをはやみ,くもゐにぞ,いもがあたりを,すぎてきにける,[あた りは,かくりきにける]
[_]
[左注]
[_]
[校異]
[_]
[KW],相聞,作者:柿本人麻呂,依羅娘子,離別,石見相聞歌,上京,地方官,島根,地名,悲別

137

[題詞]((柿本朝臣人麻呂従石見國別妻上来時歌二首[并短歌])反歌二首)

[原文]秋山尓 落黄葉 須臾者 勿散乱曽 妹之<當>将見 [一云 知里勿乱曽]
[訓読]秋山に落つる黄葉しましくはな散り乱ひそ妹があたり見む [一云 散りな乱ひ そ]
[仮名],あきやまに,おつるもみちば,しましくは,なちりまがひそ,いもがあたりみむ,[ち りなまがひそ]
[_]
[左注]
[_]
[校異]雷 → 當 [元][類]
[_]
[KW],相聞,作者:柿本人麻呂,依羅娘子,離別,石見相聞歌,上京,地方官,島根,植物,悲別

138

[題詞](柿本朝臣人麻呂従石見國別妻上来時歌二首[并短歌])或本歌一首[并短歌]

[原文]石見之海 津乃浦乎無美 浦無跡 人社見良米 滷無跡 人社見良目 吉咲八師 浦 者雖無 縦恵夜思 潟者雖無 勇魚取 海邊乎指而 柔田津乃 荒礒之上尓 蚊青生 玉藻息 都藻 明来者 浪己曽来依 夕去者 風己曽来依 浪之共 彼依此依 玉藻成 靡吾宿之 敷 妙之 妹之手本乎 露霜乃 置而之来者 此道之 八十隈毎 萬段 顧雖為 弥遠尓 里放来 奴 益高尓 山毛超来奴 早敷屋師 吾嬬乃兒我 夏草乃 思志萎而 将嘆 角里将見 靡此 山
[訓読]石見の海 津の浦をなみ 浦なしと 人こそ見らめ 潟なしと 人こそ見らめ よし ゑやし 浦はなくとも よしゑやし 潟はなくとも 鯨魚取り 海辺を指して 柔田津の 荒礒の上に か青なる 玉藻沖つ藻 明け来れば 波こそ来寄れ 夕されば 風こそ来寄れ 波のむた か寄りかく寄り 玉藻なす 靡き我が寝し 敷栲の 妹が手本を 露霜の 置き てし来れば この道の 八十隈ごとに 万たび かへり見すれど いや遠に 里離り来ぬ いや高に 山も越え来ぬ はしきやし 我が妻の子が 夏草の 思ひ萎えて 嘆くらむ 角 の里見む 靡けこの山
[仮名],いはみのうみ,つのうらをなみ,うらなしと,ひとこそみらめ,かたなしと,ひとこ そみらめ,よしゑやし,うらはなくとも,よしゑやし,かたはなくとも,いさなとり,うみべ をさして,にきたつの,ありそのうへに,かあをなる,たまもおきつも,あけくれば,なみこ そきよれ,ゆふされば,かぜこそきよれ,なみのむた,かよりかくより,たまもなす,なびき わがねし,しきたへの,いもがたもとを,つゆしもの,おきてしくれば,このみちの,やそく まごとに,よろづたび,かへりみすれど,いやとほに,さとさかりきぬ,いやたかに,やまも こえきぬ,はしきやし,わがつまのこが,なつくさの,おもひしなえて,なげくらむ,つのの さとみむ,なびけこのやま
[_]
[左注]
[_]
[校異]
[_]
[KW],相聞,作者:柿本人麻呂,依羅娘子,離別,石見相聞歌,上京,地方官,異伝,推敲,島根 ,地名,枕詞,悲別

139

[題詞]((柿本朝臣人麻呂従石見國別妻上来時歌二首[并短歌])或本歌一首[并短歌]) 反歌一首

[原文]石見之海 打歌山乃 木際従 吾振袖乎 妹将見香
[訓読]石見の海打歌の山の木の間より我が振る袖を妹見つらむか
[仮名],いはみのうみ,うつたのやまの,このまより,わがふるそでを,いもみつらむか
[_]
[左注]右歌躰雖同句々相替 因此重載
[_]
[校異]
[_]
[KW],相聞,作者:柿本人麻呂,依羅娘子,離別,石見相聞歌,上京,地方官,異伝,推敲,島根 ,地名,悲別

140

[題詞]柿本朝臣人麻呂妻依羅娘子与人麻呂相別歌一首

[原文]勿念跡 君者雖言 相時 何時跡知而加 吾不戀有牟
[訓読]な思ひと君は言へども逢はむ時いつと知りてか我が恋ひずあらむ
[仮名],なおもひと,きみはいへども,あはむとき,いつとしりてか,あがこひずあらむ
[_]
[左注]
[_]
[校異]
[_]
[KW],相聞,作者:柿本人麻呂,依羅娘子,離別,石見相聞歌,上京,地方官,島根,地名,悲別