University of Virginia Library

寄物陳思

2964

[題詞]寄物陳思

[原文]如是耳 在家流君乎 衣尓有者 下毛将著跡 <吾>念有家留
[訓読]かくのみにありける君を衣にあらば下にも着むと我が思へりける
[仮名],かくのみに,ありけるきみを,きぬにあらば,したにもきむと,わがおもへりける
[_]
[左注]
[_]
[校異]吾 [西(上書訂正)][元][類][古]
[_]
[KW],女歌,恋情,衣

2965

[題詞](寄物陳思)

[原文]橡之 袷衣 裏尓為者 吾将強八方 君之不来座
[訓読]橡の袷の衣裏にせば我れ強ひめやも君が来まさぬ
[仮名],つるはみの,あはせのころも,うらにせば,われしひめやも,きみがきまさぬ
[_]
[左注]
[_]
[校異]
[_]
[KW],女歌,恋情,怨恨,序詞,衣

2966

[題詞](寄物陳思)

[原文]紅 薄染衣 淺尓 相見之人尓 戀比日可聞
[訓読]紅の薄染め衣浅らかに相見し人に恋ふるころかも
[仮名],くれなゐの,うすそめころも,あさらかに,あひみしひとに,こふるころかも
[_]
[左注]
[_]
[校異]
[_]
[KW],衣,恋情,序詞

2967

[題詞](寄物陳思)

[原文]年之經者 見管偲登 妹之言思 衣乃<縫>目 見者哀裳
[訓読]年の経ば見つつ偲へと妹が言ひし衣の縫目見れば悲しも
[仮名],としのへば,みつつしのへと,いもがいひし,ころものぬひめ,みればかなしも
[_]
[左注]
[_]
[校異]継 → 縫 [西(訂正右書)][元][古][紀]
[_]
[KW],恋情,形見,衣,羈旅

2968

[題詞](寄物陳思)

[原文]橡之 一重衣 裏毛無 将有兒故 戀渡可聞
[訓読]橡の一重の衣うらもなくあるらむ子ゆゑ恋ひわたるかも
[仮名],つるはみの,ひとへのころも,うらもなく,あるらむこゆゑ,こひわたるかも
[_]
[左注]
[_]
[校異]
[_]
[KW],衣,恋情,序詞

2969

[題詞](寄物陳思)

[原文]解衣之 念乱而 雖戀 何之故其跡 問人毛無
[訓読]解き衣の思ひ乱れて恋ふれども何のゆゑぞと問ふ人もなし
[仮名],とききぬの,おもひみだれて,こふれども,なにのゆゑぞと,とふひともなし
[_]
[左注]
[_]
[校異]
[_]
[KW],衣,恋情,枕詞

2970

[題詞](寄物陳思)

[原文]桃花褐 淺等乃衣 淺尓 念而妹尓 将相物香裳
[訓読]桃染めの浅らの衣浅らかに思ひて妹に逢はむものかも
[仮名],ももそめの,あさらのころも,あさらかに,おもひていもに,あはむものかも
[_]
[左注]
[_]
[校異]
[_]
[KW],恋情,衣,序詞

2971

[題詞](寄物陳思)

[原文]大王之 塩焼海部乃 藤衣 穢者雖為 弥希将見毛
[訓読]大君の塩焼く海人の藤衣なれはすれどもいやめづらしも
[仮名],おほきみの,しほやくあまの,ふぢころも,なれはすれども,いやめづらしも
[_]
[左注]
[_]
[校異]
[_]
[KW],枕詞,序詞,衣,恋愛

2972

[題詞](寄物陳思)

[原文]赤帛之 純裏衣 長欲 我念君之 不所見比者鴨
[訓読]赤絹の純裏の衣長く欲り我が思ふ君が見えぬころかも
[仮名],あかきぬの,ひたうらのきぬ,ながくほり,あがおもふきみが,みえぬころかも
[_]
[左注]
[_]
[校異]
[_]
[KW],衣,序詞,女歌,恋愛,不安

2973

[題詞](寄物陳思)

[原文]真玉就 越乞兼而 結鶴 言下紐之 <所>解日有米也
[訓読]真玉つくをちこち兼ねて結びつる我が下紐の解くる日あらめや
[仮名],またまつく,をちこちかねて,むすびつる,わがしたびもの,とくるひあらめや
[_]
[左注]
[_]
[校異]之 [西(朱書消去)] / <> → 所 [西(朱筆右書)][元][類][古]
[_]
[KW],枕詞,恋愛,後朝,紐

2974

[題詞](寄物陳思)

[原文]紫 帶之結毛 解毛不見 本名也妹尓 戀度南
[訓読]紫の帯の結びも解きもみずもとなや妹に恋ひわたりなむ
[仮名],むらさきの,おびのむすびも,ときもみず,もとなやいもに,こひわたりなむ
[_]
[左注]
[_]
[校異]
[_]
[KW],帯,恋情

2975

[題詞](寄物陳思)

[原文]高麗錦 紐之結毛 解不放 齊而待杼 驗無可聞
[訓読]高麗錦紐の結びも解き放けず斎ひて待てど験なきかも
[仮名],こまにしき,ひものむすびも,ときさけず,いはひてまてど,しるしなきかも
[_]
[左注]
[_]
[校異]
[_]
[KW],紐,恋情

2976

[題詞](寄物陳思)

[原文]紫 我下紐乃 色尓不出 戀可毛将痩 <相>因乎無見
[訓読]紫の我が下紐の色に出でず恋ひかも痩せむ逢ふよしをなみ
[仮名],むらさきの,わがしたひもの,いろにいでず,こひかもやせむ,あふよしをなみ
[_]
[左注]
[_]
[校異]<> → 相 [西(右書)][元][類][紀]
[_]
[KW],紐,恋情,序詞

2977

[題詞](寄物陳思)

[原文]何故可 不思将有 紐緒之 心尓入而 戀布物乎
[訓読]何ゆゑか思はずあらむ紐の緒の心に入りて恋しきものを
[仮名],なにゆゑか,おもはずあらむ,ひものをの,こころにいりて,こほしきものを
[_]
[左注]
[_]
[校異]
[_]
[KW],紐,枕詞,恋情

2978

[題詞](寄物陳思)

[原文]真十鏡 見座吾背子 吾形見 将持辰尓 将不相哉
[訓読]まそ鏡見ませ我が背子我が形見待てらむ時に逢はざらめやも
[仮名],まそかがみ,みませわがせこ,わがかたみ,まてらむときに,あはざらめやも
[_]
[左注]
[_]
[校異]
[_]
[KW],枕詞,恋情,女歌,鏡

2979

[題詞](寄物陳思)

[原文]真十鏡 直目尓君乎 見者許増 命對 吾戀止目
[訓読]まそ鏡直目に君を見てばこそ命に向ふ我が恋やまめ
[仮名],まそかがみ,ただめにきみを,みてばこそ,いのちにむかふ,あがこひやまめ
[_]
[左注]
[_]
[校異]
[_]
[KW],鏡,女歌,恋情,枕詞

2980

[題詞](寄物陳思)

[原文]犬馬鏡 見不飽妹尓 不相而 月之經去者 生友名師
[訓読]まそ鏡見飽かぬ妹に逢はずして月の経ゆけば生けりともなし
[仮名],まそかがみ,みあかぬいもに,あはずして,つきのへゆけば,いけりともなし
[_]
[左注]
[_]
[校異]
[_]
[KW],鏡,枕詞,恋情

2981

[題詞](寄物陳思)

[原文]祝部等之 齊三諸乃 犬馬鏡 懸而偲 相人毎
[訓読]祝部らが斎くみもろのまそ鏡懸けて偲ひつ逢ふ人ごとに
[仮名],はふりらが,いつくみもろの,まそかがみ,かけてしのひつ,あふひとごとに
[_]
[左注]
[_]
[校異]
[_]
[KW],鏡,序詞,恋情

2982

[題詞](寄物陳思)

[原文]針者有杼 妹之無者 将著哉跡 吾乎令煩 絶紐之緒
[訓読]針はあれど妹しなければ付けめやと我れを悩まし絶ゆる紐の緒
[仮名],はりはあれど,いもしなければ,つけめやと,われをなやまし,たゆるひものを
[_]
[左注]
[_]
[校異]
[_]
[KW],恋愛,針,紐

2983

[題詞](寄物陳思)

[原文]高麗劔 己之景迹故 外耳 見乍哉君乎 戀渡奈牟
[訓読]高麗剣我が心から外のみに見つつや君を恋ひわたりなむ
[仮名],こまつるぎ,わがこころから,よそのみに,みつつやきみを,こひわたりなむ
[_]
[左注]
[_]
[校異]
[_]
[KW],枕詞,女歌,剣,恋情

2984

[題詞](寄物陳思)

[原文]劔大刀 名之惜毛 吾者無 比来之間 戀之繁尓
[訓読]剣大刀名の惜しけくも我れはなしこのころの間の恋の繁きに
[仮名],つるぎたち,なのをしけくも,われはなし,このころのまの,こひのしげきに
[_]
[左注]
[_]
[校異]
[_]
[KW],剣,枕詞,恋情,人目,うわさ

2985

[題詞](寄物陳思)

[原文]梓弓 末者師不知 雖然 真坂者<君>尓 縁西物乎
[訓読]梓弓末はし知らずしかれどもまさかは君に寄りにしものを
[仮名],あづさゆみ,すゑはししらず,しかれども,まさかはきみに,よりにしものを
[_]
[左注]一本歌曰 梓弓 末乃多頭吉波 雖不知 心者君尓 因之物乎
[_]
[校異]吾 → 君 [類][紀][細]
[_]
[KW],枕詞,弓,枕詞,恋情

2985S

[題詞](寄物陳思)一本歌曰

[原文]梓弓 末乃多頭吉波 雖不知 心者君尓 因之物乎
[訓読]梓弓末のたづきは知らねども心は君に寄りにしものを
[仮名],あづさゆみ,すゑのたづきは,しらねども,こころはきみに,よりにしものを
[_]
[左注]
[_]
[校異]
[_]
[KW],弓,枕詞,女歌,恋情,異伝

2986

[題詞](寄物陳思)

[原文]梓弓 引見<緩>見 思見而 既心齒 因尓思物乎
[訓読]梓弓引きみ緩へみ思ひみてすでに心は寄りにしものを
[仮名],あづさゆみ,ひきみゆるへみ,おもひみて,すでにこころは,よりにしものを
[_]
[左注]
[_]
[校異]縦 → 緩 [西(貼紙)]
[_]
[KW],弓,枕詞,恋情

2987

[題詞](寄物陳思)

[原文]梓弓 引而不<緩> 大夫哉 戀云物乎 忍不得牟
[訓読]梓弓引きて緩へぬ大夫や恋といふものを忍びかねてむ
[仮名],あづさゆみ,ひきてゆるへぬ,ますらをや,こひといふものを,しのびかねてむ
[_]
[左注]
[_]
[校異]縦 → 緩 [西(貼紙)][元][類]
[_]
[KW],弓,恋情,枕詞

2988

[題詞](寄物陳思)

[原文]梓弓 末中一伏三起 不通有之 君者會奴 嗟羽将息
[訓読]梓弓末の中ごろ淀めりし君には逢ひぬ嘆きはやめむ
[仮名],あづさゆみ,すゑのなかごろ,よどめりし,きみにはあひぬ,なげきはやめむ
[_]
[左注]
[_]
[校異]
[_]
[KW],枕詞,恋情,弓

2989

[題詞](寄物陳思)

[原文]今更 何壮鹿将念 梓弓 引見縦見 縁西鬼乎
[訓読]今さらに何をか思はむ梓弓引きみ緩へみ寄りにしものを
[仮名],いまさらに,なにをかおもはむ,あづさゆみ,ひきみゆるへみ,よりにしものを
[_]
[左注]
[_]
[校異]縦 [元][類](塙) 弛
[_]
[KW],弓,枕詞,恋情

2990

[題詞](寄物陳思)

[本文]D嬬等之 <續>麻之多<田>有 打麻<懸> 續時無<三> 戀度鴨
[訓読]娘子らが績み麻のたたり打ち麻懸けうむ時なしに恋ひわたるかも
[仮名],をとめらが,うみをのたたり,うちそかけ,うむときなしに,こひわたるかも
[_]
[左注]
[_]
[校異]漬 → 續 [西(訂正右書)][元][類][古][紀] / 患 → 田 [元][類][古][紀] / <> → 懸 [西 (補筆訂正)][元][類][古][紀] / 三 → 二 [類][古][紀]
[_]
[KW],序詞,麻,恋情

2991

[題詞](寄物陳思)

[原文]垂乳根之 母我養蚕乃 眉隠 馬聲蜂音石花蜘ろ荒鹿 異母二不相而
[訓読]たらちねの母が飼ふ蚕の繭隠りいぶせくもあるか妹に逢はずして
[仮名],たらちねの,ははがかふこの,まよごもり,いぶせくもあるか,いもにあはずして
[_]
[左注]
[_]
[校異]
[_]
[KW],枕詞,繭,恋情,戯書

2992

[題詞](寄物陳思)

[原文]玉手次 不懸者辛苦 懸垂者 續手見巻之 欲寸君可毛
[訓読]玉たすき懸けねば苦し懸けたれば継ぎて見まくの欲しき君かも
[仮名],たまたすき,かけねばくるし,かけたれば,つぎてみまくの,ほしききみかも
[_]
[左注]
[_]
[校異]
[_]
[KW],枕詞,襷,枕詞

2993

[題詞](寄物陳思)

[原文]紫 綵色之蘰 花八香尓 今日見人尓 後将戀鴨
[訓読]紫のまだらのかづら花やかに今日見し人に後恋ひむかも
[仮名],むらさきの,まだらのかづら,はなやかに,けふみしひとに,のちこひむかも
[_]
[左注]
[_]
[校異]
[_]
[KW],恋情,序詞

2994

[題詞](寄物陳思)

[原文]玉蘰 不懸時無 戀<友> 何如妹尓 相時毛名寸
[訓読]玉葛懸けぬ時なく恋ふれども何しか妹に逢ふ時もなき
[仮名],たまかづら,かけぬときなく,こふれども,なにしかいもに,あふときもなき
[_]
[左注]
[_]
[校異]支 → 友 [元][類][紀][細]
[_]
[KW],枕詞,恋情

2995

[題詞](寄物陳思)

[原文]相因之 出来左右者 疊薦 重編數 夢西将見
[訓読]逢ふよしの出でくるまでは畳薦隔て編む数夢にし見えむ
[仮名],あふよしの,いでくるまでは,たたみこも,へだてあむかず,いめにしみえむ
[_]
[左注]
[_]
[校異]
[_]
[KW],比喩,植物,恋情

2996

[題詞](寄物陳思)

[原文]白香付 木綿者花物 事社者 何時之真枝毛 常不所忘
[訓読]しらかつく木綿は花もの言こそばいつのまえだも常忘らえね
[仮名],しらかつく,ゆふははなもの,ことこそば,いつのまえだも,つねわすらえね
[_]
[左注]
[_]
[校異]枝 [万葉考](塙)(楓) 坂
[_]
[KW],植物,枕詞,怨恨,

2997

[題詞](寄物陳思)

[原文]石上 振之高橋 高々尓 妹之将待 夜曽深去家留
[訓読]石上布留の高橋高々に妹が待つらむ夜ぞ更けにける
[仮名],いそのかみ,ふるのたかはし,たかたかに,いもがまつらむ,よぞふけにける
[_]
[左注]
[_]
[校異]
[_]
[KW],枕詞,序詞,地名,天理,奈良県,恋愛

2998

[題詞](寄物陳思)

[原文]湊入之 葦別小船 障多 今来吾乎 不通跡念莫
[訓読]港入りの葦別け小舟障り多み今来む我れを淀むと思ふな
[仮名],みなといりの,あしわけをぶね,さはりおほみ,いまこむわれを,よどむとおもふ な
[_]
[左注]或本歌曰 湊入尓 蘆別小船 障多 君尓不相而 年曽經来
[_]
[校異]
[_]
[KW],序詞,恋情,植物

2998S

[題詞](寄物陳思)或本歌曰

[原文]湊入尓 蘆別小船 障多 君尓不相而 年曽經来
[訓読]港入りに葦別け小舟障り多み君に逢はずて年ぞ経にける
[仮名],みなといりに,あしわけをぶね,さはりおほみ,きみにあはずて,としぞへにける
[_]
[左注]
[_]
[校異]
[_]
[KW],異伝,植物,恋情,女歌

2999

[題詞](寄物陳思)

[原文]水乎多 上尓種蒔 比要乎多 擇擢之業曽 吾獨宿
[訓読]水を多み上田に種蒔き稗を多み選らえし業ぞ我がひとり寝る
[仮名],みづをおほみ,あげにたねまき,ひえをおほみ,えらえしわざぞ,わがひとりぬる
[_]
[左注]
[_]
[校異]
[_]
[KW],植物,比喩,怨恨

3000

[題詞](寄物陳思)

[原文]霊合者 相宿物乎 小山田之 鹿猪田禁如 母之守為裳 [一云 母之守之師]
[訓読]魂合へば相寝るものを小山田の鹿猪田守るごと母し守らすも [一云 母が守ら しし]
[仮名],たまあへば,あひぬるものを,をやまだの,ししだもるごと,ははしもらすも,[はは がもらしし]
[_]
[左注]
[_]
[校異]
[_]
[KW],異伝,動物,障害,恋愛

3001

[題詞](寄物陳思)

[原文]春日野尓 照有暮日之 外耳 君乎相見而 今曽悔寸
[訓読]春日野に照れる夕日の外のみに君を相見て今ぞ悔しき
[仮名],かすがのに,てれるゆふひの,よそのみに,きみをあひみて,いまぞくやしき
[_]
[左注]
[_]
[校異]
[_]
[KW],地名,奈良,序詞,後悔,恋愛

3002

[題詞](寄物陳思)

[原文]足日木乃 従山出流 月待登 人尓波言而 妹待吾乎
[訓読]あしひきの山より出づる月待つと人には言ひて妹待つ我れを
[仮名],あしひきの,やまよりいづる,つきまつと,ひとにはいひて,いもまつわれを
[_]
[左注]
[_]
[校異]
[_]
[KW],枕詞,恋愛

3003

[題詞](寄物陳思)

[原文]夕月夜 五更闇之 不明 見之人故 戀渡鴨
[訓読]夕月夜暁闇のおほほしく見し人ゆゑに恋ひわたるかも
[仮名],ゆふづくよ,あかときやみの,おほほしく,みしひとゆゑに,こひわたるかも
[_]
[左注]
[_]
[校異]
[_]
[KW],序詞,恋情

3004

[題詞](寄物陳思)

[原文]久堅之 天水虚尓 照<月>之 将失日社 吾戀止目
[訓読]久方の天つみ空に照る月の失せなむ日こそ我が恋止まめ
[仮名],ひさかたの,あまつみそらに,てるつきの,うせなむひこそ,あがこひやまめ
[_]
[左注]
[_]
[校異]日 → 月 [西(右書)][元][類]
[_]
[KW],枕詞,恋情

3005

[題詞](寄物陳思)

[原文]十五日 出之月乃 高々尓 君乎座而 何物乎加将念
[訓読]十五日に出でにし月の高々に君をいませて何をか思はむ
[仮名],もちのひに,いでにしつきの,たかたかに,きみをいませて,なにをかおもはむ
[_]
[左注]
[_]
[校異]
[_]
[KW],序詞,恋情

3006

[題詞](寄物陳思)

[原文]月夜好 門尓出立 足占為而 徃時禁八 妹二不相有
[訓読]月夜よみ門に出で立ち足占して行く時さへや妹に逢はずあらむ
[仮名],つくよよみ,かどにいでたち,あしうらして,ゆくときさへや,いもにあはずあら む
[_]
[左注]
[_]
[校異]
[_]
[KW],恋情,不安,占い

3007

[題詞](寄物陳思)

[原文]野干玉 夜渡月之 清者 吉見而申尾 君之光儀乎
[訓読]ぬばたまの夜渡る月のさやけくはよく見てましを君が姿を
[仮名],ぬばたまの,よわたるつきの,さやけくは,よくみてましを,きみがすがたを
[_]
[左注]
[_]
[校異]
[_]
[KW],枕詞,恋情,後朝,女歌

3008

[題詞](寄物陳思)

[原文]足引之 山<呼>木高三 暮月乎 何時君乎 待之苦沙
[訓読]あしひきの山を木高み夕月をいつかと君を待つが苦しさ
[仮名],あしひきの,やまをこだかみ,ゆふつきを,いつかときみを,まつがくるしさ
[_]
[左注]
[_]
[校異]乎 → 呼 [元][細][矢][京]
[_]
[KW],枕詞,恋情,序詞,女歌

3009

[題詞](寄物陳思)

[原文]橡之 衣解洗 又打山 古人尓者 猶不如家利
[訓読]橡の衣解き洗ひ真土山本つ人にはなほしかずけり
[仮名],つるはみの,きぬときあらひ,まつちやま,もとつひとには,なほしかずけり
[_]
[左注]
[_]
[校異]
[_]
[KW],枕詞,植物,地名,和歌山,序詞,恋愛

3010

[題詞](寄物陳思)

[原文]佐保川之 川浪不立 静雲 君二副而 明日兼欲得
[訓読]佐保川の川波立たず静けくも君にたぐひて明日さへもがも
[仮名],さほがはの,かはなみたたず,しづけくも,きみにたぐひて,あすさへもがも
[_]
[左注]
[_]
[校異]
[_]
[KW],地名,奈良,序詞,女歌,恋愛

3011

[題詞](寄物陳思)

[原文]吾妹兒尓 衣借香之 宜寸川 因毛有額 妹之目乎将見
[訓読]我妹子に衣春日の宜寸川よしもあらぬか妹が目を見む
[仮名],わぎもこに,ころもかすがの,よしきがは,よしもあらぬか,いもがめをみむ
[_]
[左注]
[_]
[校異]
[_]
[KW],地名,奈良,序詞,恋情

3012

[題詞](寄物陳思)

[原文]登能雲入 雨零川之 左射礼浪 間無毛君者 所念鴨
[訓読]との曇り雨布留川のさざれ波間なくも君は思ほゆるかも
[仮名],とのぐもり,あめふるかはの,さざれなみ,まなくもきみは,おもほゆるかも
[_]
[左注]
[_]
[校異]
[_]
[KW],序詞,恋情

3013

[題詞](寄物陳思)

[原文]吾妹兒哉 安乎忘為莫 石上 袖振川之 将絶跡念倍也
[訓読]我妹子や我を忘らすな石上袖布留川の絶えむと思へや
[仮名],わぎもこや,あをわすらすな,いそのかみ,そでふるかはの,たえむとおもへや
[_]
[左注]
[_]
[校異]
[_]
[KW],地名,天理,奈良,序詞,恋情

3014

[題詞](寄物陳思)

[原文]神山之 山下響 逝水之 水尾不絶者 後毛吾妻
[訓読]三輪山の山下響み行く水の水脈し絶えずは後も我が妻
[仮名],みわやまの,やましたとよみ,ゆくみづの,みをしたえずは,のちもわがつま
[_]
[左注]
[_]
[校異]
[_]
[KW],地名,桜井,奈良,序詞,恋愛

3015

[題詞](寄物陳思)

[原文]如神 所聞瀧之 白浪乃 面知君之 不所見比日
[訓読]神のごと聞こゆる瀧の白波の面知る君が見えぬこのころ
[仮名],かみのごと,きこゆるたきの,しらなみの,おもしるきみが,みえぬこのころ
[_]
[左注]
[_]
[校異]
[_]
[KW],序詞,女歌,恋愛

3016

[題詞](寄物陳思)

[原文]山川之 瀧尓益流 戀為登曽 人知尓来 無間念者
[訓読]山川の瀧にまされる恋すとぞ人知りにける間なくし思へば
[仮名],やまがはの,たきにまされる,こひすとぞ,ひとしりにける,まなくしおもへば
[_]
[左注]
[_]
[校異]
[_]
[KW],人目,うわさ,恋情

3017

[題詞](寄物陳思)

[原文]足桧木之 山川水之 音不出 人之子め 戀渡青頭鶏
[訓読]あしひきの山川水の音に出でず人の子ゆゑに恋ひわたるかも
[仮名],あしひきの,やまがはみづの,おとにいでず,ひとのこゆゑに,こひわたるかも
[_]
[左注]
[_]
[校異]桧木 [元][類][古](塙) 桧
[_]
[KW],枕詞,うわさ,序詞,恋情

3018

[題詞](寄物陳思)

[原文]高湍尓有 能登瀬乃川之 後将合 妹者吾者 今尓不有十万
[訓読]高湍なる能登瀬の川の後も逢はむ妹には我れは今にあらずとも
[仮名],たかせなる,のとせのかはの,のちもあはむ,いもにはわれは,いまにあらずとも
[_]
[左注]
[_]
[校異]
[_]
[KW],地名,奈良,近江,滋賀県,序詞,恋情

3019

[題詞](寄物陳思)

[原文]浣衣 取替河之 <河>余杼能 不通牟心 思兼都母
[訓読]洗ひ衣取替川の川淀の淀まむ心思ひかねつも
[仮名],あらひきぬ,とりかひがはの,かはよどの,よどまむこころ,おもひかねつも
[_]
[左注]
[_]
[校異]川 → 河 [元][古][紀]
[_]
[KW],地名,摂津,大阪,奈良,序詞,恋愛

3020

[題詞](寄物陳思)

[原文]斑鳩之 因可<乃>池之 宜毛 君乎不言者 念衣吾為流
[訓読]斑鳩の因可の池のよろしくも君を言はねば思ひぞ我がする
[仮名],いかるがの,よるかのいけの,よろしくも,きみをいはねば,おもひぞわがする
[_]
[左注]
[_]
[校異]及 → 乃 [元][類][古][紀]
[_]
[KW],地名,奈良,序詞,うわさ,恋愛

3021

[題詞](寄物陳思)

[原文]絶沼之 下従者将戀 市白久 人之可知 歎為米也母
[訓読]隠り沼の下ゆは恋ひむいちしろく人の知るべく嘆きせめやも
[仮名],こもりぬの,したゆはこひむ,いちしろく,ひとのしるべく,なげきせめやも
[_]
[左注]
[_]
[校異]
[_]
[KW],枕詞,うわさ,人目,恋情

3022

[題詞](寄物陳思)

[原文]去方無三 隠有小沼乃 下思尓 吾曽物念 頃者之間
[訓読]ゆくへなみ隠れる小沼の下思に我れぞ物思ふこのころの間
[仮名],ゆくへなみ,こもれるをぬの,したもひに,われぞものもふ,このころのあひだ
[_]
[左注]
[_]
[校異]
[_]
[KW],序詞,恋情

3023

[題詞](寄物陳思)

[原文]隠沼乃 下従戀餘 白浪之 灼然出 人之可知
[訓読]隠り沼の下ゆ恋ひあまり白波のいちしろく出でぬ人の知るべく
[仮名],こもりぬの,したゆこひあまり,しらなみの,いちしろくいでぬ,ひとのしるべく
[_]
[左注]
[_]
[校異]
[_]
[KW],枕詞,恋情,うわさ,人目

3024

[題詞](寄物陳思)

[原文]妹目乎 見巻欲江之 小浪 敷而戀乍 有跡告乞
[訓読]妹が目を見まく堀江のさざれ波しきて恋ひつつありと告げこそ
[仮名],いもがめを,みまくほりえの,さざれなみ,しきてこひつつ,ありとつげこそ
[_]
[左注]
[_]
[校異]
[_]
[KW],地名,大阪,掛詞,序詞,恋情

3025

[題詞](寄物陳思)

[原文]石走 垂水之水能 早敷八師 君尓戀良久 吾情柄
[訓読]石走る垂水の水のはしきやし君に恋ふらく我が心から
[仮名],いはばしる,たるみのみづの,はしきやし,きみにこふらく,わがこころから
[_]
[左注]
[_]
[校異]
[_]
[KW],枕詞,序詞,恋情

3026

[題詞](寄物陳思)

[原文]君者不来 吾者故無 立浪之 敷和備思 如此而不来跡也
[訓読]君は来ず我れは故なみ立つ波のしくしくわびしかくて来じとや
[仮名],きみはこず,われはゆゑなみ,たつなみの,しくしくわびし,かくてこじとや
[_]
[左注]
[_]
[校異]
[_]
[KW],序詞,恋情,女歌,不安,怨恨

3027

[題詞](寄物陳思)

[原文]淡海之海 邊多波人知 奥浪 君乎置者 知人毛無
[訓読]近江の海辺は人知る沖つ波君をおきては知る人もなし
[仮名],あふみのうみ,へたはひとしる,おきつなみ,きみをおきては,しるひともなし
[_]
[左注]
[_]
[校異]
[_]
[KW],地名,滋賀県,比喩,恋情

3028

[題詞](寄物陳思)

[原文]大海之 底乎深目而 結<義>之 妹心者 疑毛無
[訓読]大海の底を深めて結びてし妹が心はうたがひもなし
[仮名],おほうみの,そこをふかめて,むすびてし,いもがこころは,うたがひもなし
[_]
[左注]
[_]
[校異]美 → 義 [西(貼紙)][元][類][紀][細]
[_]
[KW],掛詞,恋愛

3029

[題詞](寄物陳思)

[原文]貞能b尓 依流白浪 無間 思乎如何 妹尓難相
[訓読]佐太の浦に寄する白波間なく思ふを何か妹に逢ひかたき
[仮名],さだのうらに,よするしらなみ,あひだなく,おもふをなにか,いもにあひかたき
[_]
[左注]
[_]
[校異]b [元][細] 納
[_]
[KW],地名,序詞,恋情

3030

[題詞](寄物陳思)

[原文]念出而 為便無時者 天雲之 奥香裳不知 戀乍曽居
[訓読]思ひ出でてすべなき時は天雲の奥処も知らず恋ひつつぞ居る
[仮名],おもひいでて,すべなきときは,あまくもの,おくかもしらず,こひつつぞをる
[_]
[左注]
[_]
[校異]
[_]
[KW],恋情,序詞

3031

[題詞](寄物陳思)

[原文]天雲乃 絶多比安 心<有>者 吾乎莫憑 待者苦毛
[訓読]天雲のたゆたひやすき心あらば我れをな頼めそ待たば苦しも
[仮名],あまくもの,たゆたひやすき,こころあらば,われをなたのめそ,またばくるしも
[_]
[左注]
[_]
[校異]<> → 有 [西(挿入)][元][類][紀]
[_]
[KW],枕詞,恋情

3032

[題詞](寄物陳思)

[原文]君之當 見乍母将居 伊駒山 雲莫蒙 雨者雖零
[訓読]君があたり見つつも居らむ生駒山雲なたなびき雨は降るとも
[仮名],きみがあたり,みつつもをらむ,いこまやま,くもなたなびき,あめはふるとも
[_]
[左注]
[_]
[校異]
[_]
[KW],地名,奈良,恋情

3033

[題詞](寄物陳思)

[原文]中々二 如何知兼 吾山尓 焼流火氣能 外見申尾
[訓読]なかなかに何か知りけむ我が山に燃ゆる煙の外に見ましを
[仮名],なかなかに,なにかしりけむ,わがやまに,もゆるけぶりの,よそにみましを
[_]
[左注]
[_]
[校異]
[_]
[KW],序詞,後悔,恋情,怨恨

3034

[題詞](寄物陳思)

[原文]吾妹兒尓 戀為便名鴈 る乎熱 旦戸開者 所見霧可聞
[訓読]我妹子に恋ひすべながり胸を熱み朝戸開くれば見ゆる霧かも
[仮名],わぎもこに,こひすべながり,むねをあつみ,あさとあくれば,みゆるきりかも
[_]
[左注]
[_]
[校異]
[_]
[KW],恋情

3035

[題詞](寄物陳思)

[原文]暁之 朝霧隠 反羽二 如何戀乃 色<丹>出尓家留
[訓読]暁の朝霧隠りかへらばに何しか恋の色に出でにける
[仮名],あかときの,あさぎりごもり,かへらばに,なにしかこひの,いろにいでにける
[_]
[左注]
[_]
[校異]舟 → 丹 [西(訂正)][元][類][紀]
[_]
[KW],恋情

3036

[題詞](寄物陳思)

[原文]思出 時者為便無 佐保山尓 立雨霧乃 應消所念
[訓読]思ひ出づる時はすべなみ佐保山に立つ雨霧の消ぬべく思ほゆ
[仮名],おもひいづる,ときはすべなみ,さほやまに,たつあまぎりの,けぬべくおもほゆ
[_]
[左注]
[_]
[校異]
[_]
[KW],地名,奈良,序詞,恋情

3037

[題詞](寄物陳思)

[本文]g目山 徃反道之 朝霞 髣髴谷八 妹尓不相牟
[訓読]殺目山行き返り道の朝霞ほのかにだにや妹に逢はざらむ
[仮名],きりめやま,ゆきかへりぢの,あさがすみ,ほのかにだにや,いもにあはざらむ
[_]
[左注]
[_]
[校異]
[_]
[KW],地名,和歌山,序詞,恋情

3038

[題詞](寄物陳思)

[原文]如此将戀 物等知者 夕置而 旦者消流 露有申尾
[訓読]かく恋ひむものと知りせば夕置きて朝は消ぬる露ならましを
[仮名],かくこひむ,ものとしりせば,ゆふへおきて,あしたはけぬる,つゆならましを
[_]
[左注]
[_]
[校異]
[_]
[KW],恋情

3039

[題詞](寄物陳思)

[原文]暮置而 旦者消流 白露之 可消戀毛 吾者為鴨
[訓読]夕置きて朝は消ぬる白露の消ぬべき恋も我れはするかも
[仮名],ゆふへおきて,あしたはけぬる,しらつゆの,けぬべきこひも,あれはするかも
[_]
[左注]
[_]
[校異]
[_]
[KW],恋情

3040

[題詞](寄物陳思)

[原文]後遂尓 <妹>将相跡 旦露之 命者生有 戀者雖繁
[訓読]後つひに妹は逢はむと朝露の命は生けり恋は繁けど
[仮名],のちつひに,いもはあはむと,あさつゆの,いのちはいけり,こひはしげけど
[_]
[左注]
[_]
[校異]妹尓 → 妹 [元][紀][細]
[_]
[KW],恋情

3041

[題詞](寄物陳思)

[原文]朝旦 草上白 置露乃 消者共跡 云師君者毛
[訓読]朝な朝な草の上白く置く露の消なばともにと言ひし君はも
[仮名],あさなさな,くさのうへしろく,おくつゆの,けなばともにと,いひしきみはも
[_]
[左注]
[_]
[校異]
[_]
[KW],序詞,女歌,挽歌発想,恋情

3042

[題詞](寄物陳思)

[原文]朝日指 春日能小野尓 置露乃 可消吾身 惜雲無
[訓読]朝日さす春日の小野に置く露の消ぬべき我が身惜しけくもなし
[仮名],あさひさす,かすがのをのに,おくつゆの,けぬべきあがみ,をしけくもなし
[_]
[左注]
[_]
[校異]
[_]
[KW],地名,奈良,序詞,女歌,恋情

3043

[題詞](寄物陳思)

[原文]露霜乃 消安我身 雖老 又若反 君乎思将待
[訓読]露霜の消やすき我が身老いぬともまたをちかへり君をし待たむ
[仮名],つゆしもの,けやすきあがみ,おいぬとも,またをちかへり,きみをしまたむ
[_]
[左注]
[_]
[校異]
[_]
[KW],女歌,恋情,枕詞

3044

[題詞](寄物陳思)

[原文]待君<常> 庭耳居者 打靡 吾黒髪尓 <霜>曽置尓家留
[訓読]君待つと庭のみ居ればうち靡く我が黒髪に霜ぞ置きにける
[仮名],きみまつと,にはのみをれば,うちなびく,わがくろかみに,しもぞおきにける
[_]
[左注]或本歌尾句云 白細之 吾衣手尓 露曽置尓家留
[_]
[校異]常常 → 常 [西(訂正)][元][類][紀] / 耳 [万葉集古義](楓) 西 / 云 [元] 曰
[_]
[KW],異伝,女歌,恋情

3044S

[題詞](寄物陳思)或本歌尾句云

[原文]白細之 吾衣手尓 露曽置尓家留
[訓読]白栲の我が衣手に霜ぞ置きにける
[仮名],しろたへの,わがころもでに,しもぞおきにける
[_]
[左注]
[_]
[校異]
[_]
[KW],異伝,女歌,恋情

3045

[題詞](寄物陳思)

[原文]朝<霜>乃 可消耳也 時無二 思将度 氣之緒尓為而
[訓読]朝霜の消ぬべくのみや時なしに思ひわたらむ息の緒にして
[仮名],あさしもの,けぬべくのみや,ときなしに,おもひわたらむ,いきのをにして
[_]
[左注]
[_]
[校異]露 → 霜 [西(訂正貼紙][元][類][紀]
[_]
[KW],枕詞,恋情

3046

[題詞](寄物陳思)

[原文]左佐浪之 波越安ま仁 落小雨 間文置而 吾不念國
[訓読]楽浪の波越すあざに降る小雨間も置きて我が思はなくに
[仮名],ささなみの,なみこすあざに,ふるこさめ,あひだもおきて,わがおもはなくに
[_]
[左注]
[_]
[校異]
[_]
[KW],恋情,地名,滋賀県,序詞

3047

[題詞](寄物陳思)

[原文]神左備而 巌尓生 松根之 君心者 忘不得毛
[訓読]神さびて巌に生ふる松が根の君が心は忘れかねつも
[仮名],かむさびて,いはほにおふる,まつがねの,きみがこころは,わすれかねつも
[_]
[左注]
[_]
[校異]
[_]
[KW],恋情,植物,女歌

3048

[題詞](寄物陳思)

[原文]御猟為 鴈羽之小野之 <櫟柴之> 奈礼波不益 戀社益
[訓読]み狩りする雁羽の小野の櫟柴のなれはまさらず恋こそまされ
[仮名],みかりする,かりはのをのの,ならしばの,なれはまさらず,こひこそまされ
[_]
[左注]
[_]
[校異]柏 → 櫟柴之 [紀][細][温][矢]
[_]
[KW],地名,植物,序詞,恋情

3049

[題詞](寄物陳思)

[原文]櫻麻之 麻原<乃>下草 早生者 妹之下紐 下解有申尾
[訓読]桜麻の麻生の下草早く生ひば妹が下紐解かずあらましを
[仮名],さくらをの,をふのしたくさ,はやくおひば,いもがしたびも,とかずあらましを
[_]
[左注]
[_]
[校異]<> → 乃 [元][類][紀]
[_]
[KW],序詞,恋情,植物

3050

[題詞](寄物陳思)

[原文]春日野尓 淺茅標結 断米也登 吾念人者 弥遠長尓
[訓読]春日野に浅茅標結ひ絶えめやと我が思ふ人はいや遠長に
[仮名],かすがのに,あさぢしめゆひ,たえめやと,わがおもふひとは,いやとほながに
[_]
[左注]
[_]
[校異]
[_]
[KW],地名,奈良,植物,恋情,永遠

3051

[題詞](寄物陳思)

[原文]足桧木之 山菅根之 懃 吾波曽戀流 君之光儀乎
[訓読]あしひきの山菅の根のねもころに我れはぞ恋ふる君が姿を
[仮名],あしひきの,やますがのねの,ねもころに,あれはぞこふる,きみがすがたを
[_]
[左注]或本歌曰 吾念人乎 将見因毛我母
[_]
[校異]桧木 [元][類][紀] 桧
[_]
[KW],異伝,枕詞,植物,序詞,恋情

3051S

[題詞](寄物陳思)或本歌曰

[原文]吾念人乎 将見因毛我母
[訓読]我が思ふ人を見むよしもがも
[仮名],わがおもふひとを,みむよしもがも
[_]
[左注]
[_]
[校異]
[_]
[KW],異伝,恋情

3052

[題詞](寄物陳思)

[原文]垣津旗 開澤生 菅根之 絶跡也君之 不所見頃者
[訓読]かきつはた左紀沢に生ふる菅の根の絶ゆとや君が見えぬこのころ
[仮名],かきつはた,さきさはにおふる,すがのねの,たゆとやきみが,みえぬこのころ
[_]
[左注]
[_]
[校異]
[_]
[KW],植物,枕詞,奈良,恋情,不安

3053

[題詞](寄物陳思)

[原文]足桧木乃 山菅根之 懃 不止念者 於妹将相可聞
[訓読]あしひきの山菅の根のねもころにやまず思はば妹に逢はむかも
[仮名],あしひきの,やますがのねの,ねもころに,やまずおもはば,いもにあはむかも
[_]
[左注]
[_]
[校異]
[_]
[KW],植物,枕詞,恋情,序詞

3054

[題詞](寄物陳思)

[原文]相不念 有物乎鴨 菅根乃 懃懇 吾念有良武
[訓読]相思はずあるものをかも菅の根のねもころごろに我が思へるらむ
[仮名],あひおもはず,あるものをかも,すがのねの,ねもころごろに,わがもへるらむ
[_]
[左注]
[_]
[校異]
[_]
[KW],植物,枕詞,恋情,怨恨

3055

[題詞](寄物陳思)

[原文]山菅之 不止而公乎 念可母 吾心神之 頃者名寸
[訓読]山菅のやまずて君を思へかも我が心どのこの頃はなき
[仮名],やますげの,やまずてきみを,おもへかも,あがこころどの,このころはなき
[_]
[左注]
[_]
[校異]
[_]
[KW],植物,枕詞,恋情

3056

[題詞](寄物陳思)

[原文]妹門 去過不得而 草結 風吹解勿 又将顧 [一云 直相麻<弖>尓]
[訓読]妹が門行き過ぎかねて草結ぶ風吹き解くなまたかへり見む [一云 直に逢ふま でに]
[仮名],いもがかど,ゆきすぎかねて,くさむすぶ,かぜふきとくな,またかへりみむ,[ただ にあふまでに]
[_]
[左注]
[_]
[校異]土 → 弖 [古][紀][細]
[_]
[KW],異伝,恋情

3057

[題詞](寄物陳思)

[原文]淺茅原 茅生丹足踏 意具美 吾念兒等之 家當見津 [一云 妹之家當見津]
[訓読]浅茅原茅生に足踏み心ぐみ我が思ふ子らが家のあたり見つ [一云 妹が家のあ たり見つ]
[仮名],あさぢはら,ちふにあしふみ,こころぐみ,あがもふこらが,いへのあたりみつ,[い もが,いへのあたりみつ]
[_]
[左注]
[_]
[校異]
[_]
[KW],異伝,恋情

3058

[題詞](寄物陳思)

[原文]内日刺 宮庭有跡 鴨頭草之 移情 吾思名國
[訓読]うちひさす宮にはあれど月草のうつろふ心我が思はなくに
[仮名],うちひさす,みやにはあれど,つきくさの,うつろふこころ,わがおもはなくに
[_]
[左注]
[_]
[校異]
[_]
[KW],枕詞,植物,恋愛

3059

[題詞](寄物陳思)

[原文]百尓千尓 人者雖言 月草之 移情 吾将持八方
[訓読]百に千に人は言ふとも月草のうつろふ心我れ持ためやも
[仮名],ももにちに,ひとはいふとも,つきくさの,うつろふこころ,われもためやも
[_]
[左注]
[_]
[校異]
[_]
[KW],植物,うわさ,恋愛

3060

[題詞](寄物陳思)

[原文]萱草 吾紐尓著 時常無 念度者 生跡文奈思
[訓読]忘れ草我が紐に付く時となく思ひわたれば生けりともなし
[仮名],わすれくさ,わがひもにつく,ときとなく,おもひわたれば,いけりともなし
[_]
[左注]
[_]
[校異]
[_]
[KW],植物,恋情

3061

[題詞](寄物陳思)

[原文]五更之 目不酔草跡 此乎谷 見乍座而 吾止偲為
[訓読]暁の目覚まし草とこれをだに見つついまして我れと偲はせ
[仮名],あかときの,めさましくさと,これをだに,みつついまして,われをしのはせ
[_]
[左注]
[_]
[校異]止 (塙)(楓) 少
[_]
[KW],女歌,形見,恋愛

3062

[題詞](寄物陳思)

[原文]萱草 垣毛繁森 雖殖有 鬼之志許草 猶戀尓家利
[訓読]忘れ草垣もしみみに植ゑたれど醜の醜草なほ恋ひにけり
[仮名],わすれくさ,かきもしみみに,うゑたれど,しこのしこくさ,なほこひにけり
[_]
[左注]
[_]
[校異]
[_]
[KW],植物,恋情

3063

[題詞](寄物陳思)

[原文]淺茅原 小野尓標結 空言毛 将相跡令聞 戀之名種尓
[訓読]浅茅原小野に標結ふ空言も逢はむと聞こせ恋のなぐさに
[仮名],あさぢはら,をのにしめゆふ,むなことも,あはむときこせ,こひのなぐさに
[_]
[左注]或本歌曰 将来知志 君矣志将待 又見柿本朝臣人麻呂歌集 然落<句小>異耳
[_]
[校異]勺少 → 句小 [元][類]
[_]
[KW],恋情,異伝,柿本人麻呂歌集

3063S

[題詞](寄物陳思)或本歌曰

[原文]将来知志 君矣志将待
[訓読]来むと知らせし君をし待たむ
[仮名],こむとしらせし,きみをしまたむ
[_]
[左注]又見柿本朝臣人麻呂歌集 然落<句小>異耳
[_]
[校異]
[_]
[KW],異伝,恋情

3064

[題詞](寄物陳思)

[本文]<人皆>之 笠尓縫云 有間菅 在而後尓毛 相等曽念
[訓読]人皆の笠に縫ふといふ有間菅ありて後にも逢はむとぞ思ふ
[仮名],ひとみなの,かさにぬふといふ,ありますげ,ありてのちにも,あはむとぞおもふ
[_]
[左注]
[_]
[校異]皆人 → 人皆 [元][紀][温][矢]
[_]
[KW],植物,序詞,恋情

3065

[題詞](寄物陳思)

[原文]三吉野之 蜻乃小野尓 苅草之 念乱而 宿夜四曽多
[訓読]み吉野の秋津の小野に刈る草の思ひ乱れて寝る夜しぞ多き
[仮名],みよしのの,あきづのをのに,かるかやの,おもひみだれて,ぬるよしぞおほき
[_]
[左注]
[_]
[校異]
[_]
[KW],地名,吉野,奈良,植物,序詞,恋情

3066

[題詞](寄物陳思)

[原文]妹待跡 三笠乃山之 山菅之 不止八将戀 命不死者
[訓読]妹待つと御笠の山の山菅の止まずや恋ひむ命死なずは
[仮名],いもまつと,みかさのやまの,やますげの,やまずやこひむ,いのちしなずは
[_]
[左注]
[_]
[校異]
[_]
[KW],地名,奈良,植物,序詞,恋情

3067

[題詞](寄物陳思)

[原文]谷迫 峯邊延有 玉葛 令蔓之<有>者 年二不来友 [一云 石葛 令蔓之有者]
[訓読]谷狭み嶺辺に延へる玉葛延へてしあらば年に来ずとも [一云 岩つなの延へて しあらば]
[仮名],たにせまみ,みねへにはへる,たまかづら,はへてしあらば,としにこずとも,[いは つなの,はへてしあらば]
[_]
[左注]
[_]
[校異]<> → 有 [元][類][紀]
[_]
[KW],異伝,植物,序詞,恋情

3068

[題詞](寄物陳思)

[原文]水茎之 岡乃田葛葉緒 吹變 面知兒等之 不見比鴨
[訓読]水茎の岡の葛葉を吹きかへし面知る子らが見えぬころかも
[仮名],みづくきの,をかのくずはを,ふきかへし,おもしるこらが,みえぬころかも
[_]
[左注]
[_]
[校異]
[_]
[KW],植物,恋情,序詞

3069

[題詞](寄物陳思)

[原文]赤駒之 射去羽計 真田葛原 何傳言 直将吉
[訓読]赤駒のい行きはばかる真葛原何の伝て言直にしよけむ
[仮名],あかごまの,いゆきはばかる,まくずはら,なにのつてこと,ただにしよけむ
[_]
[左注]
[_]
[校異]
[_]
[KW],動物,植物,序詞,恋情,女歌

3070

[題詞](寄物陳思)

[原文]木綿疊 田上山之 狭名葛 在去之毛 <今>不有十万
[訓読]木綿畳田上山のさな葛ありさりてしも今ならずとも
[仮名],ゆふたたみ,たなかみやまの,さなかづら,ありさりてしも,いまならずとも
[_]
[左注]
[_]
[校異]令 → 今 [童蒙抄]
[_]
[KW],地名,滋賀県,枕詞,植物,序詞,恋情

3071

[題詞](寄物陳思)

[本文]<丹>波道之 大江乃山之 真玉葛 絶牟乃心 我不思
[訓読]丹波道の大江の山のさな葛絶えむの心我が思はなくに
[仮名],たにはぢの,おほえのやまの,さなかづら,たえむのこころ,わがおもはなくに
[_]
[左注]
[_]
[校異]舟 → 丹 [西(訂正)][元][類][紀]
[_]
[KW],地名,京都,植物,序詞,恋情

3072

[題詞](寄物陳思)

[原文]大埼之 有礒乃渡 延久受乃 徃方無哉 戀度南
[訓読]大崎の荒礒の渡り延ふ葛のゆくへもなくや恋ひわたりなむ
[仮名],おほさきの,ありそのわたり,はふくずの,ゆくへもなくや,こひわたりなむ
[_]
[左注]
[_]
[校異]
[_]
[KW],地名,和歌山,植物,序詞,恋情

3073

[題詞](寄物陳思)

[原文]木綿L [一云 疊] 白月山之 佐奈葛 後毛必 将相等曽念 [或本歌曰 将絶跡妹乎 吾念莫久尓]
[訓読]木綿包み [一云 畳] 白月山のさな葛後もかならず逢はむとぞ思ふ [或本歌曰 絶 えむと妹を我が思はなくに]
[仮名],ゆふづつみ[たたみ],しらつきやまの,さなかづら,のちもかならず,あはむとぞお もふ,[たえむといもを,わがおもはなくに]
[_]
[左注]
[_]
[校異]
[_]
[KW],枕詞,地名,植物,序詞,恋情

3074

[題詞](寄物陳思)

[原文]唐棣花色之 移安 情有者 年乎曽寸經 事者不絶而
[訓読]はねず色のうつろひやすき心あれば年をぞ来経る言は絶えずて
[仮名],はねずいろの,うつろひやすき,こころあれば,としをぞきふる,ことはたえずて
[_]
[左注]
[_]
[校異]
[_]
[KW],枕詞,恋情

3075

[題詞](寄物陳思)

[原文]如此為而曽 人之死云 藤浪乃 直一目耳 見之人故尓
[訓読]かくしてぞ人は死ぬといふ藤波のただ一目のみ見し人ゆゑに
[仮名],かくしてぞ,ひとはしぬといふ,ふぢなみの,ただひとめのみ,みしひとゆゑに
[_]
[左注]
[_]
[校異]
[_]
[KW],植物,恋情

3076

[題詞](寄物陳思)

[原文]住吉之 敷津之浦乃 名告藻之 名者告而之乎 不相毛恠
[訓読]住吉の敷津の浦のなのりその名は告りてしを逢はなくも怪し
[仮名],すみのえの,しきつのうらの,なのりその,なはのりてしを,あはなくもあやし
[_]
[左注]
[_]
[校異]
[_]
[KW],地名,大阪,植物,序詞,恋情

3077

[題詞](寄物陳思)

[原文]三佐呉集 荒礒尓生流 勿謂藻乃 吉名者不<告> 父母者知鞆
[訓読]みさご居る荒礒に生ふるなのりそのよし名は告らじ親は知るとも
[仮名],みさごゐる,ありそにおふる,なのりその,よしなはのらじ,おやはしるとも
[_]
[左注]
[_]
[校異]吉 → 告 [類][紀] / 鞆 [元][類](塙)(楓) 等毛
[_]
[KW],動物,植物,序詞,恋情,人目

3078

[題詞](寄物陳思)

[原文]浪之共 靡玉藻乃 片念尓 吾念人之 言乃繁家口
[訓読]波の共靡く玉藻の片思に我が思ふ人の言の繁けく
[仮名],なみのむた,なびくたまもの,かたもひに,わがおもふひとの,ことのしげけく
[_]
[左注]
[_]
[校異]
[_]
[KW],植物,序詞,恋情

3079

[題詞](寄物陳思)

[原文]海若之 奥津玉藻乃 靡将寐 早来座君 待者苦毛
[訓読]わたつみの沖つ玉藻の靡き寝む早来ませ君待たば苦しも
[仮名],わたつみの,おきつたまもの,なびきねむ,はやきませきみ,またばくるしも
[_]
[左注]
[_]
[校異]
[_]
[KW],植物,序詞,恋情,女歌

3080

[題詞](寄物陳思)

[原文]海若之 奥尓生有 縄<乗>乃 名者曽不告 戀者雖死
[訓読]わたつみの沖に生ひたる縄海苔の名はかつて告らじ恋ひは死ぬとも
[仮名],わたつみの,おきにおひたる,なはのりの,なはかつてのらじ,こひはしねとも
[_]
[左注]
[_]
[校異]垂 → 乗 [西(朱筆訂正)][元][類][紀]
[_]
[KW],植物,序詞,恋情

3081

[題詞](寄物陳思)

[原文]玉緒乎 片緒尓搓而 緒乎弱弥 乱時尓 不戀有目八方
[訓読]玉の緒を片緒に縒りて緒を弱み乱るる時に恋ひずあらめやも
[仮名],たまのをを,かたをによりて,ををよわみ,みだるるときに,こひずあらめやも
[_]
[左注]
[_]
[校異]
[_]
[KW],序詞,恋情

3082

[題詞](寄物陳思)

[原文]君尓不相 久成宿 玉緒之 長命之 惜雲無
[訓読]君に逢はず久しくなりぬ玉の緒の長き命の惜しけくもなし
[仮名],きみにあはず,ひさしくなりぬ,たまのをの,ながきいのちの,をしけくもなし
[_]
[左注]
[_]
[校異]
[_]
[KW],女歌,枕詞,恋情

3083

[題詞](寄物陳思)

[原文]戀事 益今者 玉緒之 絶而乱而 可死所念
[訓読]恋ふることまされる今は玉の緒の絶えて乱れて死ぬべく思ほゆ
[仮名],こふること,まされるいまは,たまのをの,たえてみだれて,しぬべくおもほゆ
[_]
[左注]
[_]
[校異]
[_]
[KW],枕詞,恋情

3084

[題詞](寄物陳思)

[原文]海處女 潜取云 忘貝 代二毛不忘 妹之容儀者
[訓読]海人娘子潜き採るといふ忘れ貝世にも忘れじ妹が姿は
[仮名],あまをとめ,かづきとるといふ,わすれがひ,よにもわすれじ,いもがすがたは
[_]
[左注]
[_]
[校異]
[_]
[KW],序詞,恋情

3085

[題詞](寄物陳思)

[原文]朝影尓 吾身者成奴 玉蜻 髣髴所見而 徃之兒故尓
[訓読]朝影に我が身はなりぬ玉かぎるほのかに見えて去にし子ゆゑに
[仮名],あさかげに,あがみはなりぬ,たまかぎる,ほのかにみえて,いにしこゆゑに
[_]
[左注]
[_]
[校異]
[_]
[KW],枕詞,恋情

3086

[題詞](寄物陳思)

[原文]中々二 人跡不在者 桑子尓毛 成益物乎 玉之緒<許>
[訓読]なかなかに人とあらずは桑子にもならましものを玉の緒ばかり
[仮名],なかなかに,ひととあらずは,くはこにも,ならましものを,たまのをばかり
[_]
[左注]
[_]
[校異]計 → 許 [元][類][紀]
[_]
[KW],恋情

3087

[題詞](寄物陳思)

[原文]真菅吉 宗我乃河原尓 鳴千鳥 間無吾背子 吾戀者
[訓読]ま菅よし宗我の川原に鳴く千鳥間なし我が背子我が恋ふらくは
[仮名],ますげよし,そがのかはらに,なくちどり,まなしわがせこ,あがこふらくは
[_]
[左注]
[_]
[校異]
[_]
[KW],動物,枕詞,植物,地名,奈良,恋情,序詞

3088

[題詞](寄物陳思)

[原文]戀衣 著<楢>乃山尓 鳴鳥之 間無<時無> 吾戀良苦者
[訓読]恋衣着奈良の山に鳴く鳥の間なく時なし我が恋ふらくは
[仮名],こひごろも,きならのやまに,なくとりの,まなくときなし,あがこふらくは
[_]
[左注]
[_]
[校異]猶 → 楢 [西(訂正)][紀][温][矢] / 無時 → 時無 [元][紀][温]
[_]
[KW],奈良,掛詞,序詞,恋情

3089

[題詞](寄物陳思)

[原文]遠津人 猟道之池尓 住鳥之 立毛居毛 君乎之曽念
[訓読]遠つ人狩道の池に住む鳥の立ちても居ても君をしぞ思ふ
[仮名],とほつひと,かりぢのいけに,すむとりの,たちてもゐても,きみをしぞおもふ
[_]
[左注]
[_]
[校異]
[_]
[KW],枕詞,地名,榛原,奈良,序詞,恋情

3090

[題詞](寄物陳思)

[原文]葦邊徃 鴨之羽音之 聲耳 聞管本名 戀度鴨
[訓読]葦辺行く鴨の羽音の音のみに聞きつつもとな恋ひわたるかも
[仮名],あしへゆく,かものはおとの,おとのみに,ききつつもとな,こひわたるかも
[_]
[左注]
[_]
[校異]
[_]
[KW],動物,植物,序詞,うわさ,恋情

3091

[題詞](寄物陳思)

[原文]鴨尚毛 己之妻共 求食為而 所遺間尓 戀云物乎
[訓読]鴨すらもおのが妻どちあさりして後るる間に恋ふといふものを
[仮名],かもすらも,おのがつまどち,あさりして,おくるるあひだに,こふといふものを
[_]
[左注]
[_]
[校異]
[_]
[KW],動物,恋情

3092

[題詞](寄物陳思)

[原文]白檀 斐太乃細江之 菅鳥乃 妹尓戀哉 寐宿金鶴
[訓読]白真弓斐太の細江の菅鳥の妹に恋ふれか寐を寝かねつる
[仮名],しらまゆみ,ひだのほそえの,すがどりの,いもにこふれか,いをねかねつる
[_]
[左注]
[_]
[校異]
[_]
[KW],枕詞,地名,動物,恋情,序詞

3093

[題詞](寄物陳思)

[原文]小竹之上尓 来居而鳴<鳥> 目乎安見 人妻め尓 吾戀二来
[訓読]小竹の上に来居て鳴く鳥目を安み人妻ゆゑに我れ恋ひにけり
[仮名],しののうへに,きゐてなくとり,めをやすみ,ひとづまゆゑに,あれこひにけり
[_]
[左注]
[_]
[校異]<> → 鳥 [西(左書)][元][類][紀]
[_]
[KW],植物,序詞,恋情

3094

[題詞](寄物陳思)

[原文]物念常 不宿起有 旦開者 和備弖鳴成 鶏左倍
[訓読]物思ふと寐ねず起きたる朝明にはわびて鳴くなり庭つ鳥さへ
[仮名],ものもふと,いねずおきたる,あさけには,わびてなくなり,にはつとりさへ
[_]
[左注]
[_]
[校異]
[_]
[KW],動物,恋情

3095

[題詞](寄物陳思)

[原文]朝烏 早勿鳴 吾背子之 旦開之容儀 見者悲毛
[訓読]朝烏早くな鳴きそ我が背子が朝明の姿見れば悲しも
[仮名],あさがらす,はやくななきそ,わがせこが,あさけのすがた,みればかなしも
[_]
[左注]
[_]
[校異]
[_]
[KW],動物,女歌,後朝

3096

[題詞](寄物陳思)

[本文]わゐ越尓 麦咋駒乃 雖詈 猶戀久 思不勝焉
[訓読]馬柵越しに麦食む駒の罵らゆれど猶し恋しく思ひかねつも
[仮名],ませごしに,むぎはむこまの,のらゆれど,なほしこひしく,おもひかねつも
[_]
[左注]
[_]
[校異]
[_]
[KW],動物,序詞,恋情

3097

[題詞](寄物陳思)

[原文]左桧隈 <桧隈>河尓 駐馬 馬尓水令飲 吾外将見
[訓読]さ桧隈桧隈川に馬留め馬に水飼へ我れ外に見む
[仮名],さひのくま,ひのくまかはに,うまとどめ,うまにみづかへ,われよそにみむ
[_]
[左注]
[_]
[校異]々々 → 桧隈 [元][類][紀]
[_]
[KW],地名,明日香,奈良,動物,恋情,歌垣

3098

[題詞](寄物陳思)

[原文]於能礼故 所詈而居者 ゑ馬之 面高夫駄尓 乗而應来哉
[訓読]おのれゆゑ罵らえて居れば青馬の面高夫駄に乗りて来べしや
[仮名],おのれゆゑ,のらえてをれば,あをうまの,おもたかぶだに,のりてくべしや
[_]
[左注]右一首 平群文屋朝臣益人傳云 昔<多>紀皇女竊嫁高安王被嘖之時 御作<此>歌 但高安王左降任<之>伊与國守也
[_]
[校異]聞 → 多 [吉永登説] / <> → 此 [元][類][紀] / <> → 之 [西(右書)][元][紀][温]
[_]
[KW],動物,怨恨,伝承,歌語り,紀皇女,高安王,平群文屋益人

3099

[題詞](寄物陳思)

[原文]紫草乎 草跡別々 伏鹿之 野者殊異為而 心者同
[訓読]紫草を草と別く別く伏す鹿の野は異にして心は同じ
[仮名],むらさきを,くさとわくわく,ふすしかの,のはことにして,こころはおやじ
[_]
[左注]
[_]
[校異]
[_]
[KW],植物,動物,恋情

3100

[題詞](寄物陳思)

[原文]不想乎 想常云者 真鳥住 卯名手乃<社>之 神<思>将御知
[訓読]思はぬを思ふと言はば真鳥住む雲梯の杜の神し知らさむ
[仮名],おもはぬを,おもふといはば,まとりすむ,うなてのもりの,かみししらさむ
[_]
[左注]
[_]
[校異]杜 → 社 [元][類][温] / 忌 → 思 [元][古][紀]
[_]
[KW],怨恨,皮肉,恋愛,動物,地名,橿原市,奈良