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正述心緒

2517

[題詞]正述心緒

[原文]足千根乃 母尓障良婆 無用 伊麻思毛吾毛 事應成
[訓読]たらちねの母に障らばいたづらに汝も我れも事なるべしや
[仮名],たらちねの,ははにさはらば,いたづらに,いましもあれも,ことなるべしや
[_]
[左注]
[_]
[校異]
[_]
[KW],枕詞,障害,母親

2518

[題詞](正述心緒)

[原文]吾妹子之 吾呼送跡 白細布乃 袂漬左右二 哭四所念
[訓読]我妹子が我れを送ると白栲の袖漬つまでに泣きし思ほゆ
[仮名],わぎもこが,われをおくると,しろたへの,そでひつまでに,なきしおもほゆ
[_]
[左注]
[_]
[校異]
[_]
[KW],枕詞,送別,後朝,恋情

2519

[題詞](正述心緒)

[原文]奥山之 真木乃板戸乎 押開 思恵也出来根 後者何将為
[訓読]奥山の真木の板戸を押し開きしゑや出で来ね後は何せむ
[仮名],おくやまの,まきのいたとを,おしひらき,しゑやいでこね,のちはなにせむ
[_]
[左注]
[_]
[校異]
[_]
[KW],恋情

2520

[題詞](正述心緒)

[原文]苅薦能 一重S敷而 紗眠友 君共宿者 冷雲梨
[訓読]刈り薦の一重を敷きてさ寝れども君とし寝れば寒けくもなし
[仮名],かりこもの,ひとへをしきて,さぬれども,きみとしぬれば,さむけくもなし
[_]
[左注]
[_]
[校異]
[_]
[KW],女歌,共寝

2521

[題詞](正述心緒)

[原文]垣幡 丹<頬>經君S 率尓 思出乍 嘆鶴鴨
[訓読]かきつはた丹つらふ君をいささめに思ひ出でつつ嘆きつるかも
[仮名],かきつはた,につらふきみを,いささめに,おもひいでつつ,なげきつるかも
[_]
[左注]
[_]
[校異]刺 → 頬 [類][紀][細][温]
[_]
[KW],枕詞,恋情

2522

[題詞](正述心緒)

[原文]恨登 思狭名<盤> 在之者 外耳見之 心者雖念
[訓読]恨めしと思ふさなはにありしかば外のみぞ見し心は思へど
[仮名],うらめしと,おもふさなはに,ありしかば,よそのみぞみし,こころはおもへど
[_]
[左注]
[_]
[校異]磐 → 盤 [嘉][文][紀]
[_]
[KW],恨み,恋歌

2523

[題詞](正述心緒)

[原文]散<頬>相 色者不出 小文 心中 吾念名君
[訓読]さ丹つらふ色には出でず少なくも心のうちに我が思はなくに
[仮名],さにつらふ,いろにはいでず,すくなくも,こころのうちに,わがおもはなくに
[_]
[左注]
[_]
[校異]刺 → 頬 [嘉][文][紀]
[_]
[KW],枕詞,恨み,恋歌

2524

[題詞](正述心緒)

[原文]吾背子尓 直相者社 名者立米 事之通尓 何其故
[訓読]我が背子に直に逢はばこそ名は立ため言の通ひに何かそこゆゑ
[仮名],わがせこに,ただにあはばこそ,なはたため,ことのかよひに,なにかそこゆゑ
[_]
[左注]
[_]
[校異]
[_]
[KW],うわさ,女歌

2525

[題詞](正述心緒)

[原文]懃 片<念>為歟 比者之 吾情利乃 生戸裳名寸
[訓読]ねもころに片思ひすれかこのころの我が心どの生けるともなき
[仮名],ねもころに,かたもひすれか,このころの,あがこころどの,いけるともなき
[_]
[左注]
[_]
[校異]思 → 念 [嘉][細][京]
[_]
[KW],片思い,恋歌

2526

[題詞](正述心緒)

[原文]将待尓 到者妹之 懽跡 咲儀乎 徃而早見
[訓読]待つらむに至らば妹が嬉しみと笑まむ姿を行きて早見む
[仮名],まつらむに,いたらばいもが,うれしみと,ゑまむすがたを,ゆきてはやみむ
[_]
[左注]
[_]
[校異]
[_]
[KW],恋歌

2527

[題詞](正述心緒)

[原文]誰此乃 吾屋戸来喚 足千根乃 母尓所嘖 物思吾呼
[訓読]誰れぞこの我が宿来呼ぶたらちねの母に嘖はえ物思ふ我れを
[仮名],たれぞこの,わがやどきよぶ,たらちねの,ははにころはえ,ものもふわれを
[_]
[左注]
[_]
[校異]
[_]
[KW],障害,恋歌,母親,枕詞

2528

[題詞](正述心緒)

[原文]左不宿夜者 千夜毛有十万 我背子之 思可悔 心者不持
[訓読]さ寝ぬ夜は千夜にありとも我が背子が思ひ悔ゆべき心は持たじ
[仮名],さねぬよは,ちよにありとも,わがせこが,おもひくゆべき,こころはもたじ
[_]
[左注]
[_]
[校異]
[_]
[KW],恋歌

2529

[題詞](正述心緒)

[原文]家人者 路毛四美三荷 雖<徃>来 吾待妹之 使不来鴨
[訓読]家人は道もしみみに通へども我が待つ妹が使来ぬかも
[仮名],いへびとは,みちもしみみに,かよへども,わがまついもが,つかひこぬかも
[_]
[左注]
[_]
[校異]<> → 徃 [嘉][紀]
[_]
[KW],嘆き,恋歌,使者

2530

[題詞](正述心緒)

[原文]璞之 寸戸我竹垣 編目従毛 妹志所見者 吾戀目八方
[訓読]あらたまの寸戸が竹垣網目ゆも妹し見えなば我れ恋ひめやも
[仮名],あらたまの,きへがたけがき,あみめゆも,いもしみえなば,あれこひめやも
[_]
[左注]
[_]
[校異]
[_]
[KW],枕詞,恋情

2531

[題詞](正述心緒)

[原文]吾背子我 其名不謂跡 玉切 命者棄 忘賜名
[訓読]我が背子がその名告らじとたまきはる命は捨てつ忘れたまふな
[仮名],わがせこが,そのなのらじと,たまきはる,いのちはすてつ,わすれたまふな
[_]
[左注]
[_]
[校異]
[_]
[KW],枕詞,うわさ,名前,恋情

2532

[題詞](正述心緒)

[原文]凡者 誰将見鴨 黒玉乃 我玄髪乎 靡而将居
[訓読]おほならば誰が見むとかもぬばたまの我が黒髪を靡けて居らむ
[仮名],おほならば,たがみむとかも,ぬばたまの,わがくろかみを,なびけてをらむ
[_]
[左注]
[_]
[校異]
[_]
[KW],恋歌,女歌

2533

[題詞](正述心緒)

[原文]面忘 何有人之 為物焉 言者為<金>津 継手志<念>者
[訓読]面忘れいかなる人のするものぞ我れはしかねつ継ぎてし思へば
[仮名],おもわすれ,いかなるひとの,するものぞ,われはしかねつ,つぎてしおもへば
[_]
[左注]
[_]
[校異]念 → 金 [嘉][文][紀] / 金 → 念 [西(訂正右書)][嘉][文][紀]
[_]
[KW],女歌,疎遠,恋情

2534

[題詞](正述心緒)

[原文]不相思 人之故可 璞之 年緒長 言戀将居
[訓読]相思はぬ人のゆゑにかあらたまの年の緒長く我が恋ひ居らむ
[仮名],あひおもはぬ,ひとのゆゑにか,あらたまの,としのをながく,あがこひをらむ
[_]
[左注]
[_]
[校異]
[_]
[KW],恨み,女歌,枕詞,恋情

2535

[題詞](正述心緒)

[原文]凡乃 行者不念 言故 人尓事痛 所云物乎
[訓読]おほろかの心は思はじ我がゆゑに人に言痛く言はれしものを
[仮名],おほろかの,こころはおもはじ,わがゆゑに,ひとにこちたく,いはれしものを
[_]
[左注]
[_]
[校異]
[_]
[KW],うわさ,恋情

2536

[題詞](正述心緒)

[原文]氣緒尓 妹乎思念者 年月之 徃覧別毛 不所念鳧
[訓読]息の緒に妹をし思へば年月の行くらむ別も思ほえぬかも
[仮名],いきのをに,いもをしおもへば,としつきの,ゆくらむわきも,おもほえぬかも
[_]
[左注]
[_]
[校異]
[_]
[KW],片恋い,恋情

2537

[題詞](正述心緒)

[原文]足千根乃 母尓不所知 吾持留 心<者>吉恵 君之随意
[訓読]たらちねの母に知らえず我が持てる心はよしゑ君がまにまに
[仮名],たらちねの,ははにしらえず,わがもてる,こころはよしゑ,きみがまにまに
[_]
[左注]
[_]
[校異]<> → 者 [嘉][文][紀]
[_]
[KW],枕詞,母親,女歌

2538

[題詞](正述心緒)

[原文]獨寝等 ゆ朽目八方 綾席 緒尓成及 君乎之将待
[訓読]ひとり寝と薦朽ちめやも綾席緒になるまでに君をし待たむ
[仮名],ひとりぬと,こもくちめやも,あやむしろ,をになるまでに,きみをしまたむ
[_]
[左注]
[_]
[校異]
[_]
[KW],女歌,恋情,植物

2539

[題詞](正述心緒)

[原文]相見者 千歳八去流 否乎鴨 我哉然念 待公難尓
[訓読]相見ては千年やいぬるいなをかも我れやしか思ふ君待ちかてに
[仮名],あひみては,ちとせやいぬる,いなをかも,われやしかおもふ,きみまちかてに
[_]
[左注]
[_]
[校異]
[_]
[KW],女歌,恋情

2540

[題詞](正述心緒)

[原文]振別之 髪乎短弥 <青>草乎 髪尓多久濫 妹乎師<僧>於母布
[訓読]振分けの髪を短み青草を髪にたくらむ妹をしぞ思ふ
[仮名],ふりわけの,かみをみじかみ,あをくさを,かみにたくらむ,いもをしぞおもふ
[_]
[左注]
[_]
[校異]春 → 青 [嘉][紀] / 曽 → 僧 [嘉][文][細]
[_]
[KW],植物,恋情

2541

[題詞](正述心緒)

[原文]徊俳 徃箕之里尓 妹乎置而 心空在 土者踏鞆
[訓読]た廻り行箕の里に妹を置きて心空にあり地は踏めども
[仮名],たもとほり,ゆきみのさとに,いもをおきて,こころそらにあり,つちはふめども
[_]
[左注]
[_]
[校異]
[_]
[KW],地名,恋情

2542

[題詞](正述心緒)

[原文]若草乃 新手枕乎 巻始而 夜哉将間 二八十一不在國
[訓読]若草の新手枕をまきそめて夜をや隔てむ憎くあらなくに
[仮名],わかくさの,にひたまくらを,まきそめて,よをやへだてむ,にくくあらなくに
[_]
[左注]
[_]
[校異]
[_]
[KW],恋情

2543

[題詞](正述心緒)

[原文]吾戀之 事毛語 名草目六 君之使乎 待八金手六
[訓読]我が恋ふることも語らひ慰めむ君が使を待ちやかねてむ
[仮名],あがこふる,こともかたらひ,なぐさめむ,きみがつかひを,まちやかねてむ
[_]
[左注]
[_]
[校異]
[_]
[KW],女歌,恋情,使者

2544

[題詞](正述心緒)

[原文]<寤>者 相縁毛無 夢谷 間無見君 戀尓可死
[訓読]うつつには逢ふよしもなし夢にだに間なく見え君恋ひに死ぬべし
[仮名],うつつには,あふよしもなし,いめにだに,まなくみえきみ,こひにしぬべし
[_]
[左注]
[_]
[校異]寐 → 寤 [嘉][文][紀][細]
[_]
[KW],女歌,恋情,夢

2545

[題詞](正述心緒)

[原文]誰彼登 問者将答 為便乎無 君之使乎 還鶴鴨
[訓読]誰ぞかれと問はば答へむすべをなみ君が使を帰しやりつも
[仮名],たぞかれと,とはばこたへむ,すべをなみ,きみがつかひを,かへしやりつも
[_]
[左注]
[_]
[校異]
[_]
[KW],女歌,使者,母親

2546

[題詞](正述心緒)

[原文]不念丹 到者妹之 歡三跡 咲牟眉曵 所思鴨
[訓読]思はぬに至らば妹が嬉しみと笑まむ眉引き思ほゆるかも
[仮名],おもはぬに,いたらばいもが,うれしみと,ゑまむまよびき,おもほゆるかも
[_]
[左注]
[_]
[校異]
[_]
[KW],恋情

2547

[題詞](正述心緒)

[原文]如是許 将戀物衣常 不念者 妹之手本乎 不纒夜裳有寸
[訓読]かくばかり恋ひむものぞと思はねば妹が手本をまかぬ夜もありき
[仮名],かくばかり,こひむものぞと,おもはねば,いもがたもとを,まかぬよもありき
[_]
[左注]
[_]
[校異]
[_]
[KW],恋情

2548

[題詞](正述心緒)

[原文]如是谷裳 吾者戀南 玉梓之 君之使乎 待也金手武
[訓読]かくだにも我れは恋ひなむ玉梓の君が使を待ちやかねてむ
[仮名],かくだにも,あれはこひなむ,たまづさの,きみがつかひを,まちやかねてむ
[_]
[左注]
[_]
[校異]
[_]
[KW],恋情,枕詞,使者

2549

[題詞](正述心緒)

[原文]妹戀 吾哭涕 敷妙 木枕通而 袖副所沾 [或本歌<曰> 枕通而 巻者寒母]
[訓読]妹に恋ひ我が泣く涙敷栲の木枕通り袖さへ濡れぬ [或本歌曰 枕通りてまけば 寒しも]
[仮名],いもにこひ,わがなくなみた,しきたへの,こまくらとほり,そでさへぬれぬ,[まく らとほりて,まけばさむしも]
[_]
[左注]
[_]
[校異]通而 [嘉](塙) 通 / 歌 [西] 謌 / 云 → 曰 [嘉][紀]
[_]
[KW],恋情,枕詞

2550

[題詞](正述心緒)

[原文]立念 居毛曽念 紅之 赤裳下引 去之儀乎
[訓読]立ちて思ひ居てもぞ思ふ紅の赤裳裾引き去にし姿を
[仮名],たちておもひ,ゐてもぞおもふ,くれなゐの,あかもすそびき,いにしすがたを
[_]
[左注]
[_]
[校異]
[_]
[KW],恋情

2551

[題詞](正述心緒)

[原文]念之 餘者 為便無三 出曽行 其門乎見尓
[訓読]思ひにしあまりにしかばすべをなみ出でてぞ行きしその門を見に
[仮名],おもひにし,あまりにしかば,すべをなみ,いでてぞゆきし,そのかどをみに
[_]
[左注]
[_]
[校異]
[_]
[KW],恋情

2552

[題詞](正述心緒)

[原文]情者 千遍敷及 雖念 使乎将遣 為便之不知久
[訓読]心には千重しくしくに思へども使を遣らむすべの知らなく
[仮名],こころには,ちへしくしくに,おもへども,つかひをやらむ,すべのしらなく
[_]
[左注]
[_]
[校異]
[_]
[KW],恋情,使者

2553

[題詞](正述心緒)

[原文]夢耳 見尚幾許 戀吾者 <寤>見者 益而如何有
[訓読]夢のみに見てすらここだ恋ふる我はうつつに見てばましていかにあらむ
[仮名],いめのみに,みてすらここだ,こふるあは,うつつにみてば,ましていかにあらむ
[_]
[左注]
[_]
[校異]寐 → 寤 [嘉][文][紀]
[_]
[KW],恋情

2554

[題詞](正述心緒)

[原文]對面者 面隠流 物柄尓 継而見巻能 欲公毳
[訓読]相見ては面隠さゆるものからに継ぎて見まくの欲しき君かも
[仮名],あひみては,おもかくさゆる,ものからに,つぎてみまくの,ほしききみかも
[_]
[左注]
[_]
[校異]
[_]
[KW],恋情,女歌

2555

[題詞](正述心緒)

[原文]旦<戸>乎 速莫開 味澤相 目之乏流君 今夜来座有
[訓読]朝戸を早くな開けそあぢさはふ目が欲る君が今夜来ませる
[仮名],あさとを,はやくなあけそ,あぢさはふ,めがほるきみが,こよひきませる
[_]
[左注]
[_]
[校異]戸遣 → 戸 [嘉]
[_]
[KW],女歌,恋情

2556

[題詞](正述心緒)

[原文]玉垂之 小簀之垂簾乎 徃褐 寐者不眠友 君者通速為
[訓読]玉垂の小簾の垂簾を行きかちに寐は寝さずとも君は通はせ
[仮名],たまだれの,をすのたれすを,ゆきかちに,いはなさずとも,きみはかよはせ
[_]
[左注]
[_]
[校異]
[_]
[KW],女歌,母親

2557

[題詞](正述心緒)

[原文]垂乳根乃 母白者 公毛余毛 相鳥羽梨丹 <年>可經
[訓読]たらちねの母に申さば君も我れも逢ふとはなしに年ぞ経ぬべき
[仮名],たらちねの,ははにまをさば,きみもあれも,あふとはなしに,としぞへぬべき
[_]
[左注]
[_]
[校異]者 [嘉] 七 / 羊 → 年 [嘉][文][紀]
[_]
[KW],女歌,母親,

2558

[題詞](正述心緒)

[原文]愛等 思篇来師 莫忘登 結之紐乃 解樂念者
[訓読]愛しと思へりけらしな忘れと結びし紐の解くらく思へば
[仮名],うつくしと,おもへりけらし,なわすれと,むすびしひもの,とくらくおもへば
[_]
[左注]
[_]
[校異]
[_]
[KW],女歌

2559

[題詞](正述心緒)

[原文]昨日見而 今日社間 吾妹兒之 幾<許>継手 見巻欲毛
[訓読]昨日見て今日こそ隔て我妹子がここだく継ぎて見まくし欲しも
[仮名],きのふみて,けふこそへだて,わぎもこが,ここだくつぎて,みまくしほしも
[_]
[左注]
[_]
[校異]<> → 許 [西(右書)][嘉][文][紀]
[_]
[KW],恋情

2560

[題詞](正述心緒)

[原文]人毛無 古郷尓 有人乎 愍久也君之 戀尓令死
[訓読]人もなき古りにし里にある人をめぐくや君が恋に死なする
[仮名],ひともなき,ふりにしさとに,あるひとを,めぐくやきみが,こひにしなする
[_]
[左注]
[_]
[校異]
[_]
[KW],女歌,恋情

2561

[題詞](正述心緒)

[原文]人事之 繁間守而 相十方八 反吾上尓 事之将繁
[訓読]人言の繁き間守りて逢ふともやなほ我が上に言の繁けむ
[仮名],ひとごとの,しげきまもりて,あふともや,なほわがうへに,ことのしげけむ
[_]
[左注]
[_]
[校異]
[_]
[KW],女歌,恋情,うわさ

2562

[題詞](正述心緒)

[原文]里人之 言縁妻乎 荒垣之 外也吾将見 悪有名國
[訓読]里人の言寄せ妻を荒垣の外にや我が見む憎くあらなくに
[仮名],さとびとの,ことよせづまを,あらかきの,よそにやわがみむ,にくくあらなくに
[_]
[左注]
[_]
[校異]
[_]
[KW],うわさ

2563

[題詞](正述心緒)

[原文]他眼守 君之随尓 余共尓 夙興乍 裳<裾>所沾
[訓読]人目守る君がまにまに我れさへに早く起きつつ裳の裾濡れぬ
[仮名],ひとめもる,きみがまにまに,われさへに,はやくおきつつ,ものすそぬれぬ
[_]
[左注]
[_]
[校異]裙 → 裾 [嘉][文][紀]
[_]
[KW],恋情,女歌,後朝

2564

[題詞](正述心緒)

[原文]夜干玉之 妹之黒髪 今夜毛加 吾無床尓 靡而宿良武
[訓読]ぬばたまの妹が黒髪今夜もか我がなき床に靡けて寝らむ
[仮名],ぬばたまの,いもがくろかみ,こよひもか,あがなきとこに,なびけてぬらむ
[_]
[左注]
[_]
[校異]
[_]
[KW],恋情

2565

[題詞](正述心緒)

[原文]花細 葦垣越尓 直一目 相視之兒故 千遍嘆津
[訓読]花ぐはし葦垣越しにただ一目相見し子ゆゑ千たび嘆きつ
[仮名],はなぐはし,あしかきごしに,ただひとめ,あひみしこゆゑ,ちたびなげきつ
[_]
[左注]
[_]
[校異]
[_]
[KW],恋情,垣間見

2566

[題詞](正述心緒)

[原文]色出而 戀者人見而 應知 情中之 隠妻波母
[訓読]色に出でて恋ひば人見て知りぬべし心のうちの隠り妻はも
[仮名],いろにいでて,こひばひとみて,しりぬべし,こころのうちの,こもりづまはも
[_]
[左注]
[_]
[校異]
[_]
[KW],恋情,隠妻

2567

[題詞](正述心緒)

[原文]相見而<者> 戀名草六跡 人者雖云 見後尓曽毛 戀益家類
[訓読]相見ては恋慰むと人は言へど見て後にぞも恋まさりける
[仮名],あひみては,こひなぐさむと,ひとはいへど,みてのちにぞも,こひまさりける
[_]
[左注]
[_]
[校異]<> → 者 [西(左書)][嘉][文][紀]
[_]
[KW],恋情

2568

[題詞](正述心緒)

[原文]凡 吾之念者 如是許 難御門乎 退出米也母
[訓読]おほろかに我れし思はばかくばかり難き御門を罷り出めやも
[仮名],おほろかに,われしおもはば,かくばかり,かたきみかどを,まかりでめやも
[_]
[左注]
[_]
[校異]
[_]
[KW],恋情

2569

[題詞](正述心緒)

[原文]将念 其人有哉 烏玉之 毎夜君之 夢西所見 [或本歌<曰> 夜晝不云 吾戀渡]
[訓読]思ふらむその人なれやぬばたまの夜ごとに君が夢にし見ゆる [或本歌曰 夜昼 と言はずあが恋ひわたる]
[仮名],おもふらむ,そのひとなれや,ぬばたまの,よごとにきみが,いめにしみゆる,[よる ひるといはず,あがこひわたる]
[_]
[左注]
[_]
[校異]歌 [西] 謌 / 云 → 曰 [嘉]
[_]
[KW],恋情,夢,女歌,異伝

2570

[題詞](正述心緒)

[原文]如是耳 戀者可死 足乳根之 母毛告都 不止通為
[訓読]かくのみし恋ひば死ぬべみたらちねの母にも告げずやまず通はせ
[仮名],かくのみし,こひばしぬべみ,たらちねの,ははにもつげず,やまずかよはせ
[_]
[左注]
[_]
[校異]
[_]
[KW],女歌,母親

2571

[題詞](正述心緒)

[原文]大夫波 友之驂尓 名草溢 心毛将有 我衣苦寸
[訓読]大夫は友の騒きに慰もる心もあらむ我れぞ苦しき
[仮名],ますらをは,とものさわきに,なぐさもる,こころもあらむ,われぞくるしき
[_]
[左注]
[_]
[校異]
[_]
[KW],女歌

2572

[題詞](正述心緒)

[原文]偽毛 似付曽為 何時従鹿 不見人戀尓 人之死為
[訓読]偽りも似つきてぞするいつよりか見ぬ人恋ふに人の死せし
[仮名],いつはりも,につきてぞする,いつよりか,みぬひとごひに,ひとのしにせし
[_]
[左注]
[_]
[校異]尓 (塙)(楓) 等
[_]
[KW],女歌,恨み

2573

[題詞](正述心緒)

[原文]情左倍 奉有君尓 何物乎鴨 不云言此跡 吾将竊食
[訓読]心さへ奉れる君に何をかも言はず言ひしと我がぬすまはむ
[仮名],こころさへ,まつれるきみに,なにをかも,いはずいひしと,わがぬすまはむ
[_]
[左注]
[_]
[校異]
[_]
[KW],女歌

2574

[題詞](正述心緒)

[原文]面忘 太尓毛得為也登 手握而 雖打不寒 戀<云>奴
[訓読]面忘れだにもえすやと手握りて打てども懲りず恋といふ奴
[仮名],おもわすれ,だにもえすやと,たにぎりて,うてどもこりず,こひといふやつこ
[_]
[左注]
[_]
[校異]之 → 云 [嘉][類]
[_]
[KW],女歌

2575

[題詞](正述心緒)

[原文]希将見 君乎見常衣 左手之 執弓方之 眉根掻礼
[訓読]めづらしき君を見むとこそ左手の弓取る方の眉根掻きつれ
[仮名],めづらしき,きみをみむとこそ,ひだりての,ゆみとるかたの,まよねかきつれ
[_]
[左注]
[_]
[校異]
[_]
[KW],女歌

2576

[題詞](正述心緒)

[原文]人間守 蘆垣越尓 吾妹子乎 相見之柄二 事曽左太多寸
[訓読]人間守り葦垣越しに我妹子を相見しからに言ぞさだ多き
[仮名],ひとまもり,あしかきごしに,わぎもこを,あひみしからに,ことぞさだおほき
[_]
[左注]
[_]
[校異]
[_]
[KW],垣間見,うわさ

2577

[題詞](正述心緒)

[原文]今谷毛 目莫令乏 不相見而 将戀<年>月 久家真國
[訓読]今だにも目な乏しめそ相見ずて恋ひむ年月久しけまくに
[仮名],いまだにも,めなともしめそ,あひみずて,こひむとしつき,ひさしけまくに
[_]
[左注]
[_]
[校異]羊 → 年 [嘉][文][紀][細]
[_]
[KW],女歌

2578

[題詞](正述心緒)

[原文]朝宿髪 吾者不梳 愛 君之手枕 觸義之鬼尾
[訓読]朝寝髪我れは梳らじうるはしき君が手枕触れてしものを
[仮名],あさねがみ,われはけづらじ,うるはしき,きみがたまくら,ふれてしものを
[_]
[左注]
[_]
[校異]
[_]
[KW],女歌,後朝

2579

[題詞](正述心緒)

[原文]早去而 何時君乎 相見等 念之情 今曽水葱少熱
[訓読]早行きていつしか君を相見むと思ひし心今ぞなぎぬる
[仮名],はやゆきて,いつしかきみを,あひみむと,おもひしこころ,いまぞなぎぬる
[_]
[左注]
[_]
[校異]
[_]
[KW],女歌,逢会

2580

[題詞](正述心緒)

[原文]面形之 忘戸在者 小豆鳴 男士物屋 戀乍将居
[訓読]面形の忘るとあらばあづきなく男じものや恋ひつつ居らむ
[仮名],おもかたの,わするとあらば,あづきなく,をとこじものや,こひつつをらむ
[_]
[左注]
[_]
[校異]戸 (塙)(楓) 左
[_]
[KW],恋情

2581

[題詞](正述心緒)

[原文]言云者 三々二田八酢四 小九毛 心中二 我念羽奈九二
[訓読]言に言へば耳にたやすし少なくも心のうちに我が思はなくに
[仮名],ことにいへば,みみにたやすし,すくなくも,こころのうちに,わがもはなくに
[_]
[左注]
[_]
[校異]
[_]
[KW],恋情

2582

[題詞](正述心緒)

[原文]小豆奈九 何<狂>言 今更 小童言為流 老人二四手
[訓読]あづきなく何のたはこと今さらに童言する老人にして
[仮名],あづきなく,なにのたはこと,いまさらに,わらはごとする,おいひとにして
[_]
[左注]
[_]
[校異]枉 → 狂 [万葉集略解]
[_]
[KW],自嘲

2583

[題詞](正述心緒)

[原文]相見而 幾久毛 不有尓 如<年>月 所思可聞
[訓読]相見ては幾久さにもあらなくに年月のごと思ほゆるかも
[仮名],あひみては,いくびささにも,あらなくに,としつきのごと,おもほゆるかも
[_]
[左注]
[_]
[校異]羊 → 年 [嘉][紀][温]
[_]
[KW],恋情

2584

[題詞](正述心緒)

[原文]大夫登 念有吾乎 如是許 令戀波 小可者在来
[訓読]ますらをと思へる我れをかくばかり恋せしむるは悪しくはありけり
[仮名],ますらをと,おもへるわれを,かくばかり,こひせしむるは,あしくはありけり
[_]
[左注]
[_]
[校異]
[_]
[KW],恋情

2585

[題詞](正述心緒)

[原文]如是為乍 吾待印 有鴨 世人皆乃 常不在國
[訓読]かくしつつ我が待つ験あらぬかも世の人皆の常にあらなくに
[仮名],かくしつつ,わがまつしるし,あらぬかも,よのひとみなの,つねにあらなくに
[_]
[左注]
[_]
[校異]
[_]
[KW],女歌,恋情

2586

[題詞](正述心緒)

[原文]人事 茂君 玉梓之 使不遣 忘跡思名
[訓読]人言を繁みと君に玉梓の使も遣らず忘ると思ふな
[仮名],ひとごとを,しげみときみに,たまづさの,つかひもやらず,わするとおもふな
[_]
[左注]
[_]
[校異]
[_]
[KW],うわさ,

2587

[題詞](正述心緒)

[原文]大原 <古>郷 妹置 吾稲金津 夢所見乞
[訓読]大原の古りにし里に妹を置きて我れ寐ねかねつ夢に見えこそ
[仮名],おほはらの,ふりにしさとに,いもをおきて,われいねかねつ,いめにみえこそ
[_]
[左注]
[_]
[校異]故 → 古 [嘉][紀][細] / 乞 (塙)(楓) 乍
[_]
[KW],地名,飛鳥,恋情

2588

[題詞](正述心緒)

[原文]夕去者 公来座跡 待夜之 名凝衣今 宿不勝為
[訓読]夕されば君来まさむと待ちし夜のなごりぞ今も寐ねかてにする
[仮名],ゆふされば,きみきまさむと,まちしよの,なごりぞいまも,いねかてにする
[_]
[左注]
[_]
[校異]
[_]
[KW],恋情,待つ,女歌

2589

[題詞](正述心緒)

[原文]不相思 公者在良思 黒玉 夢不見 受旱宿跡
[訓読]相思はず君はあるらしぬばたまの夢にも見えずうけひて寝れど
[仮名],あひおもはず,きみはあるらし,ぬばたまの,いめにもみえず,うけひてぬれど
[_]
[左注]
[_]
[校異]
[_]
[KW],女歌

2590

[題詞](正述心緒)

[原文]石根踏 夜道不行 念跡 妹依者 忍金津毛
[訓読]岩根踏み夜道は行かじと思へれど妹によりては忍びかねつも
[仮名],いはねふみ,よみちはゆかじ,とおもへれど,いもによりては,しのびかねつも
[_]
[左注]
[_]
[校異]
[_]
[KW],恋情

2591

[題詞](正述心緒)

[原文]人事 茂間守跡 不相在 終八子等 面忘南
[訓読]人言の繁き間守ると逢はずあらばつひにや子らが面忘れなむ
[仮名],ひとごとの,しげきまもると,あはずあらば,つひにやこらが,おもわすれなむ
[_]
[左注]
[_]
[校異]
[_]
[KW],うわさ

2592

[題詞](正述心緒)

[原文]戀死 後何為 吾命 生日社 見幕欲為礼
[訓読]恋死なむ後は何せむ我が命生ける日にこそ見まく欲りすれ
[仮名],こひしなむ,のちはなにせむ,わがいのち,いけるひにこそ,みまくほりすれ
[_]
[左注]
[_]
[校異]
[_]
[KW],恋情

2593

[題詞](正述心緒)

[原文]敷細 枕動而 宿不所寝 物念此夕 急明鴨
[訓読]敷栲の枕響みて寐ねらえず物思ふ今夜早も明けぬかも
[仮名],しきたへの,まくらとよみて,いねらえず,ものもふこよひ,はやもあけぬかも
[_]
[左注]
[_]
[校異]
[_]
[KW],恋情

2594

[題詞](正述心緒)

[原文]不徃吾 来跡可夜 門不閇 L怜吾妹子 待筒在
[訓読]行かぬ我れを来むとか夜も門閉さずあはれ我妹子待ちつつあるらむ
[仮名],ゆかぬわれを,こむとかよるも,かどささず,あはれわぎもこ,まちつつあるらむ
[_]
[左注]
[_]
[校異]子 [細](塙) 之
[_]
[KW],恋情

2595

[題詞](正述心緒)

[原文]夢谷 何鴨不所見 雖所見 吾鴨迷 戀茂尓
[訓読]夢にだに何かも見えぬ見ゆれども我れかも惑ふ恋の繁きに
[仮名],いめにだに,なにかもみえぬ,みゆれども,われかもまとふ,こひのしげきに
[_]
[左注]
[_]
[校異]
[_]
[KW],恋情

2596

[題詞](正述心緒)

[原文]名草漏 心莫二 如是耳 戀也度 月日殊 [或本歌<曰> 奥津浪 敷而耳八方 戀度 奈牟]
[訓読]慰もる心はなしにかくのみし恋ひやわたらむ月に日に異に [或本歌曰 沖つ波 しきてのみやも恋ひわたりなむ]
[仮名],なぐさもる,こころはなしに,かくのみし,こひやわたらむ,つきにひにけに,[おき つなみ,しきてのみやも,こひわたりなむ]
[_]
[左注]
[_]
[校異]云 → 曰 [嘉]
[_]
[KW],恋情,異伝

2597

[題詞](正述心緒)

[原文]何為而 忘物 吾妹子丹 戀益跡 所忘莫苦二
[訓読]いかにして忘れむものぞ我妹子に恋はまされど忘らえなくに
[仮名],いかにして,わすれむものぞ,わぎもこに,こひはまされど,わすらえなくに
[_]
[左注]
[_]
[校異]
[_]
[KW],恋情

2598

[題詞](正述心緒)

[原文]遠有跡 公衣戀流 玉桙乃 里人皆尓 吾戀八方
[訓読]遠くあれど君にぞ恋ふる玉桙の里人皆に我れ恋ひめやも
[仮名],とほくあれど,きみにぞこふる,たまほこの,さとひとみなに,あれこひめやも
[_]
[左注]
[_]
[校異]
[_]
[KW],恋情,枕詞,女歌

2599

[題詞](正述心緒)

[原文]驗無 戀毛為<鹿> <暮>去者 人之手枕而 将寐兒故
[訓読]験なき恋をもするか夕されば人の手まきて寝らむ子ゆゑに
[仮名],しるしなき,こひをもするか,ゆふされば,ひとのてまきて,ぬらむこゆゑに
[_]
[左注]
[_]
[校異]無 [嘉][細] 无 / <> → 鹿 [嘉][古][紀] / 暮 [西(上書訂正)][嘉][古][紀]
[_]
[KW],恋情

2600

[題詞](正述心緒)

[原文]百世下 千代下生 有目八方 吾念妹乎 置嘆
[訓読]百代しも千代しも生きてあらめやも我が思ふ妹を置きて嘆かむ
[仮名],ももよしも,ちよしもいきて,あらめやも,あがおもふいもを,おきてなげかむ
[_]
[左注]
[_]
[校異]
[_]
[KW],恋情

2601

[題詞](正述心緒)

[原文]現毛 夢毛吾者 不思寸 振有公尓 此間将會十羽
[訓読]うつつにも夢にも我れは思はずき古りたる君にここに逢はむとは
[仮名],うつつにも,いめにもわれは,おもはずき,ふりたるきみに,ここにあはむとは
[_]
[左注]
[_]
[校異]
[_]
[KW],恋情,女歌

2602

[題詞](正述心緒)

[原文]黒髪 白髪左右跡 結大王 心一乎 今解目八方
[訓読]黒髪の白髪までと結びてし心ひとつを今解かめやも
[仮名],くろかみの,しらかみまでと,むすびてし,こころひとつを,いまとかめやも
[_]
[左注]
[_]
[校異]
[_]
[KW],女歌,浮気

2603

[題詞](正述心緒)

[原文]心乎之 君尓奉跡 念有者 縦比来者 戀乍乎将有
[訓読]心をし君に奉ると思へればよしこのころは恋ひつつをあらむ
[仮名],こころをし,きみにまつると,おもへれば,よしこのころは,こひつつをあらむ
[_]
[左注]
[_]
[校異]
[_]
[KW],女歌,恋情

2604

[題詞](正述心緒)

[原文]念出而 哭者雖泣 灼然 人之可知 嘆為勿謹
[訓読]思ひ出でて音には泣くともいちしろく人の知るべく嘆かすなゆめ
[仮名],おもひいでて,ねにはなくとも,いちしろく,ひとのしるべく,なげかすなゆめ
[_]
[左注]
[_]
[校異]
[_]
[KW],女歌

2605

[題詞](正述心緒)

[原文]玉桙之 道去夫利尓 不思 妹乎相見而 戀比鴨
[訓読]玉桙の道行きぶりに思はぬに妹を相見て恋ふるころかも
[仮名],たまほこの,みちゆきぶりに,おもはぬに,いもをあひみて,こふるころかも
[_]
[左注]
[_]
[校異]
[_]
[KW],枕詞,恋情,片思い

2606

[題詞](正述心緒)

[原文]人目多 常如是耳志 候者 何時 吾不戀将有
[訓読]人目多み常かくのみしさもらはばいづれの時か我が恋ひずあらむ
[仮名],ひとめおほみ,つねかくのみし,さもらはば,いづれのときか,あがこひずあらむ
[_]
[左注]
[_]
[校異]
[_]
[KW],うわさ,恋情

2607

[題詞](正述心緒)

[原文]敷細之 衣手可礼天 吾乎待登 在<濫>子等者 面影尓見
[訓読]敷栲の衣手離れて我を待つとあるらむ子らは面影に見ゆ
[仮名],しきたへの,ころもでかれて,わをまつと,あるらむこらは,おもかげにみゆ
[_]
[左注]
[_]
[校異]監 → 濫 [西(右貼紙)][嘉][古][紀]
[_]
[KW],枕詞,恋情

2608

[題詞](正述心緒)

[原文]妹之袖 別之日従 白細乃 衣片敷 戀管曽寐留
[訓読]妹が袖別れし日より白栲の衣片敷き恋ひつつぞ寝る
[仮名],いもがそで,わかれしひより,しろたへの,ころもかたしき,こひつつぞぬる
[_]
[左注]
[_]
[校異]
[_]
[KW],恋情

2609

[題詞](正述心緒)

[原文]白細之 袖者間結奴 我妹子我 家當乎 不止振四二
[訓読]白栲の袖はまゆひぬ我妹子が家のあたりをやまず振りしに
[仮名],しろたへの,そではまゆひぬ,わぎもこが,いへのあたりを,やまずふりしに
[_]
[左注]
[_]
[校異]
[_]
[KW],枕詞,恋情

2610

[題詞](正述心緒)

[原文]夜干玉之 吾黒髪乎 引奴良思 乱而反 戀度鴨
[訓読]ぬばたまの我が黒髪を引きぬらし乱れてさらに恋ひわたるかも
[仮名],ぬばたまの,わがくろかみを,ひきぬらし,みだれてさらに,こひわたるかも
[_]
[左注]
[_]
[校異]
[_]
[KW],枕詞,女歌,恋情

2611

[題詞](正述心緒)

[原文]今更 君之手枕 巻宿米也 吾紐緒乃 解都追本名
[訓読]今さらに君が手枕まき寝めや我が紐の緒の解けつつもとな
[仮名],いまさらに,きみがたまくら,まきぬめや,わがひものをの,とけつつもとな
[_]
[左注]
[_]
[校異]
[_]
[KW],女歌

2612

[題詞](正述心緒)

[原文]白細布<乃> 袖觸而夜 吾背子尓 吾戀落波 止時裳無
[訓読]白栲の袖触れてし夜我が背子に我が恋ふらくはやむ時もなし
[仮名],しろたへの,そでふれてしよ,わがせこに,あがこふらくは,やむときもなし
[_]
[左注]
[_]
[校異]之 → 乃 [嘉][文][紀] / 而 (塙) 西
[_]
[KW],枕詞,女歌,恋情

2613

[題詞](正述心緒)

[原文]夕卜尓毛 占尓毛告有 今夜谷 不来君乎 何時将待
[訓読]夕占にも占にも告れる今夜だに来まさぬ君をいつとか待たむ
[仮名],ゆふけにも,うらにものれる,こよひだに,きまさぬきみを,いつとかまたむ
[_]
[左注]
[_]
[校異]
[_]
[KW],占い,恋情,女歌

2614

[題詞](正述心緒)

[原文]眉根掻 下言借見 思有尓 去家人乎 相見鶴鴨
[訓読]眉根掻き下いふかしみ思へるにいにしへ人を相見つるかも
[仮名],まよねかき,したいふかしみ,おもへるに,いにしへひとを,あひみつるかも
[_]
[左注]或本歌<曰> 眉根掻 誰乎香将見跡 思乍 氣長戀之 妹尓相鴨 / 一書歌曰 眉根掻 下伊布可之美 念有之 妹之容儀乎 今日見都流香裳
[_]
[校異]云 → 曰 [嘉][紀]
[_]
[KW],女歌

2614S1

[題詞](正述心緒)或本歌<曰>

[原文]眉根掻 誰乎香将見跡 思乍 氣長戀之 妹尓相鴨
[訓読]眉根掻き誰をか見むと思ひつつ日長く恋ひし妹に逢へるかも
[仮名],まよねかき,たれをかみむと,おもひつつ,けながくこひし,いもにあへるかも
[_]
[左注]
[_]
[校異]
[_]
[KW],異伝

2614S2

[題詞](正述心緒)一書歌曰

[原文]眉根掻 下伊布可之美 念有之 妹之容儀乎 今日見都流香裳
[訓読]眉根掻き下いふかしみ思へりし妹が姿を今日見つるかも
[仮名],まよねかき,したいふかしみ,おもへりし,いもがすがたを,けふみつるかも
[_]
[左注]
[_]
[校異]
[_]
[KW],異伝

2615

[題詞](正述心緒)

[原文]敷栲乃 枕巻而 妹与吾 寐夜者無而 <年>曽經来
[訓読]敷栲の枕をまきて妹と我れと寝る夜はなくて年ぞ経にける
[仮名],しきたへの,まくらをまきて,いもとあれと,ぬるよはなくて,としぞへにける
[_]
[左注]
[_]
[校異]無 [嘉][細] 无 / 羊 → 年 [嘉][文][紀]
[_]
[KW],枕詞,恋情

2616

[題詞](正述心緒)

[原文]奥山之 真木<乃>板戸乎 音速見 妹之當乃 <霜>上尓宿奴
[訓読]奥山の真木の板戸を音早み妹があたりの霜の上に寝ぬ
[仮名],おくやまの,まきのいたとを,おとはやみ,いもがあたりの,しものうへにねぬ
[_]
[左注]
[_]
[校異]之 → 乃 [嘉][類] / 霜 [西(上書訂正)][嘉][文][類]
[_]
[KW]

2617

[題詞](正述心緒)

[原文]足日木能 山櫻戸乎 開置而 吾待君乎 誰留流
[訓読]あしひきの山桜戸を開け置きて我が待つ君を誰れか留むる
[仮名],あしひきの,やまさくらとを,あけおきて,わがまつきみを,たれかとどむる
[_]
[左注]
[_]
[校異]
[_]
[KW],枕詞,植物,女歌

2618

[題詞](正述心緒)

[原文]月夜好三 妹二相跡 直道柄 吾者雖来 夜其深去来
[訓読]月夜よみ妹に逢はむと直道から我れは来つれど夜ぞ更けにける
[仮名],つくよよみ,いもにあはむと,ただちから,われはきつれど,よぞふけにける
[_]
[左注]
[_]
[校異]
[_]
[KW],恋情