University of Virginia Library

たびたびの炎上にほろびたる家、またいくそばくぞ。たゞかりの 庵のみ、のどけくしておそれなし。ほどせばしといへども、夜臥 す床あり、ひる居る座あり。一身をやどすに不足なし。がうなは ちひさき貝をこのむ、これよく身をしるによりてなり。みさごは 荒磯に居る、則ち人をおそるゝが故なり。我またかくのごとし。 身を知り世を知れらば、願はずまじらはず、たゞしづかなるをの ぞみとし、うれへなきをたのしみとす。