又養和のころかとよ、久しくなりてたしかにも覺えず、二年が
間、世の中飢渇して、あさましきこと侍りき。或は春夏日でり、
或は秋冬大風、大水などよからぬ事どもうちつゞきて、五穀こと
ごとくみのらず。むなしく春耕し、夏植うるいとなみありて、
秋かり冬收むるぞめきはなし。これによりて、國々の民、或は
地を捨てゝ堺を出で、或は家をわすれて山にすむ。
さまざまの御祈はじまりて、なべてならぬ法ども行はるれど、さ
らにそのしるしなし。京のならひなに事につけても、みなもとは
田舍をこそたのめるに、絶えてのぼるものなければ、さのみやは
みさをも作りあへむ。