譬喩歌
1296
[題詞]寄衣
[原文]今造 斑衣服 面<影> 吾尓所念 末服友
[訓読]今作る斑の衣面影に我れに思ほゆいまだ着ねども
[仮名],いまつくる,まだらのころも,おもかげに,われにおもほゆ,いまだきねども
[_]
[左注](右十五首柿本朝臣人麻呂之歌集出)
[_]
[校異]歌 [西] 謌 / 就 → 影 (塙)
[_]
[KW],譬喩歌,作者:柿本人麻呂歌集,恋愛,非略体
1297
[題詞](寄衣)
[原文]紅 衣染 雖欲 著丹穗哉 人可知
[訓読]紅に衣染めまく欲しけども着てにほはばか人の知るべき
[仮名],くれなゐに,ころもそめまく,ほしけども,きてにほはばか,ひとのしるべき
[_]
[左注](右十五首柿本朝臣人麻呂之歌集出)
[_]
[KW],譬喩歌,作者:柿本人麻呂歌集,恋愛,略体
1298
[題詞](寄衣)
[原文]<干><各> 人雖云 織次 我廿物 白麻衣
[訓読]かにかくに人は言ふとも織り継がむ我が機物の白麻衣
[仮名],かにかくに,ひとはいふとも,おりつがむ,わがはたものの,しろあさごろも
[_]
[左注](右十五首柿本朝臣人麻呂之歌集出)
[_]
[校異]千 → 干 [万葉集古義] / 名 → 各 [万葉集古義]
[_]
[KW],譬喩歌,作者:柿本人麻呂歌集,恋愛,略体
1299
[題詞]寄玉
[原文]安治村 十依海 船浮 白玉採 人所知勿
[訓読]あぢ群のとをよる海に舟浮けて白玉採ると人に知らゆな
[仮名],あぢむらの,とをよるうみに,ふねうけて,しらたまとると,ひとにしらゆな
[_]
[左注](右十五首柿本朝臣人麻呂之歌集出)
[_]
[KW],譬喩歌,作者:柿本人麻呂歌集,恋愛,略体,動物
1300
[題詞](寄玉)
[原文]遠近 礒中在 白玉 人不知 見依鴨
[訓読]をちこちの礒の中なる白玉を人に知らえず見むよしもがも
[仮名],をちこちの,いそのなかなる,しらたまを,ひとにしらえず,みむよしもがも
[_]
[左注](右十五首柿本朝臣人麻呂之歌集出)
[_]
[KW],譬喩歌,作者:柿本人麻呂歌集,恋愛,略体
1301
[題詞](寄玉)
[原文]海神 手纒持在 玉故 石浦廻 潜為鴨
[訓読]海神の手に巻き持てる玉故に礒の浦廻に潜きするかも
[仮名],わたつみの,てにまきもてる,たまゆゑに,いそのうらみに,かづきするかも
[_]
[左注](右十五首柿本朝臣人麻呂之歌集出)
[_]
[KW],譬喩歌,作者:柿本人麻呂歌集,恋愛,略体
1302
[題詞](寄玉)
[原文]海神 持在白玉 見欲 千遍告 潜為海子
[訓読]海神の持てる白玉見まく欲り千たびぞ告りし潜きする海人
[仮名],わたつみの,もてるしらたま,みまくほり,ちたびぞのりし,かづきするあま
[_]
[左注](右十五首柿本朝臣人麻呂之歌集出)
[_]
[KW],譬喩歌,作者:柿本人麻呂歌集,恋愛,略体
1303
[題詞](寄玉)
[原文]潜為 海子雖告 海神 心不得 所見不云
[訓読]潜きする海人は告れども海神の心し得ねば見ゆといはなくに
[仮名],かづきする,あまはのれども,わたつみの,こころしえねば,みゆといはなくに
[_]
[左注](右十五首柿本朝臣人麻呂之歌集出)
[_]
[KW],譬喩歌,作者:柿本人麻呂歌集,恋愛,略体
1304
[題詞]寄木
[原文]天雲 棚引山 隠在 吾<下心> 木葉知
[訓読]天雲のたなびく山の隠りたる我が下心木の葉知るらむ
[仮名],あまくもの,たなびくやまの,こもりたる,あがしたごころ,このはしるらむ
[_]
[左注](右十五首柿本朝臣人麻呂之歌集出)
[_]
[KW],譬喩歌,作者:柿本人麻呂歌集,恋愛,略体
1305
[題詞](寄木)
[原文]雖見不飽 人國山 木葉 己心 名著念
[訓読]見れど飽かぬ人国山の木の葉をし我が心からなつかしみ思ふ
[仮名],みれどあかぬ,ひとくにやまの,このはをし,わがこころから,なつかしみおもふ
[_]
[左注](右十五首柿本朝臣人麻呂之歌集出)
[_]
[KW],譬喩歌,作者:柿本人麻呂歌集,和歌山,恋愛,略体,地名
1306
[題詞]寄花
[原文]是山 黄葉下 花矣我 小端見 反戀
[訓読]この山の黄葉が下の花を我れはつはつに見てなほ恋ひにけり
[仮名],このやまの,もみちのしたの,はなをわれ,はつはつにみて,なほこひにけり
[_]
[左注](右十五首柿本朝臣人麻呂之歌集出)
[_]
[KW],譬喩歌,作者:柿本人麻呂歌集,恋愛,略体
1307
[題詞]寄川
[原文]従此川 船可行 雖在 渡瀬別 守人有
[訓読]この川ゆ舟は行くべくありといへど渡り瀬ごとに守る人のありて
[仮名],このかはゆ,ふねはゆくべく,ありといへど,わたりぜごとに,もるひとのありて
[_]
[左注](右十五首柿本朝臣人麻呂之歌集出)
[_]
[KW],譬喩歌,作者:柿本人麻呂歌集,恋愛,障害,略体
1308
[題詞]寄海
[原文]大海 候水門 事有 従何方君 吾率凌
[訓読]大海をさもらふ港事しあらばいづへゆ君は我を率しのがむ
[仮名],おほうみを,さもらふみなと,ことしあらば,いづへゆきみは,わをゐしのがむ
[_]
[左注](右十五首柿本朝臣人麻呂之歌集出)
[_]
[KW],譬喩歌,作者:柿本人麻呂歌集,恋愛,略体
1309
[題詞](寄海)
[原文]風吹 海荒 明日言 應久 <公>随
[訓読]風吹きて海は荒るとも明日と言はば久しくあるべし君がまにまに
[仮名],かぜふきて,うみはあるとも,あすといはば,ひさしくあるべし,きみがまにまに
[_]
[左注](右十五首柿本朝臣人麻呂之歌集出)
[_]
[校異]君 → 公 [西(訂正右書)][元][類][紀]
[_]
[KW],譬喩歌,作者:柿本人麻呂歌集,恋愛,略体
1310
[題詞](寄海)
[原文]雲隠 小嶋神之 恐者 目間 心間哉
[訓読]雲隠る小島の神の畏けば目こそ隔てれ心隔てや
[仮名],くもがくる,こしまのかみの,かしこけば,めこそへだてれ,こころへだてや
[_]
[KW],譬喩歌,作者:柿本人麻呂歌集,恋愛,略体
1311
[題詞]寄衣
[原文]橡 衣人<皆> 事無跡 曰師時従 欲服所念
[訓読]橡の衣は人皆事なしと言ひし時より着欲しく思ほゆ
[仮名],つるはみの,きぬはひとみな,ことなしと,いひしときより,きほしくおもほゆ
[_]
[校異]者 → 皆 [元][類][古][紀]
1312
[題詞](寄衣)
[原文]凡尓 吾之念者 下服而 穢尓師衣乎 取而将著八方
[訓読]おほろかに我れし思はば下に着てなれにし衣を取りて着めやも
[仮名],おほろかに,われしおもはば,したにきて,なれにしきぬを,とりてきめやも
1313
[題詞](寄衣)
[原文]紅之 深染之衣 下著而 上取著者 事将成鴨
[訓読]紅の深染めの衣下に着て上に取り着ば言なさむかも
[仮名],くれなゐの,こそめのころも,したにきて,うへにとりきば,ことなさむかも
1314
[題詞](寄衣)
[原文]橡 解濯衣之 恠 殊欲服 此暮可聞
[訓読]橡の解き洗ひ衣のあやしくもことに着欲しきこの夕かも
[仮名],つるはみの,ときあらひきぬの,あやしくも,ことにきほしき,このゆふへかも
1315
[題詞](寄衣)
[原文]橘之 嶋尓之居者 河遠 不曝縫之 吾下衣
[訓読]橘の島にし居れば川遠みさらさず縫ひし我が下衣
[仮名],たちばなの,しまにしをれば,かはとほみ,さらさずぬひし,あがしたごろも
1316
[題詞]寄絲
[原文]河内女之 手染之絲乎 絡反 片絲尓雖有 将絶跡念也
[訓読]河内女の手染めの糸を繰り返し片糸にあれど絶えむと思へや
[仮名],かふちめの,てそめのいとを,くりかへし,かたいとにあれど,たえむとおもへや
1317
[題詞]寄玉
[原文]海底 沈白玉 風吹而 海者雖荒 不取者不止
[訓読]海の底沈く白玉風吹きて海は荒るとも取らずはやまじ
[仮名],わたのそこ,しづくしらたま,かぜふきて,うみはあるとも,とらずはやまじ
1318
[題詞](寄玉)
[原文]底清 沈有玉乎 欲見 千遍曽告之 潜為白水郎
[訓読]底清み沈ける玉を見まく欲り千たびぞ告りし潜きする海人
[仮名],そこきよみ,しづけるたまを,みまくほり,ちたびぞのりし,かづきするあま
1319
[題詞](寄玉)
[原文]大海之 水底照之 石著玉 齊而将採 風莫吹行年
[訓読]大海の水底照らし沈く玉斎ひて採らむ風な吹きそね
[仮名],おほうみの,みなそこてらし,しづくたま,いはひてとらむ,かぜなふきそね
1320
[題詞](寄玉)
[原文]水底尓 沈白玉 誰故 心盡而 吾不念尓
[訓読]水底に沈く白玉誰が故に心尽して我が思はなくに
[仮名],みなそこに,しづくしらたま,たがゆゑに,こころつくして,わがおもはなくに
1321
[題詞](寄玉)
[原文]世間 常如是耳加 結大王 白玉之緒 絶樂思者
[訓読]世間は常かくのみか結びてし白玉の緒の絶ゆらく思へば
[仮名],よのなかは,つねかくのみか,むすびてし,しらたまのをの,たゆらくおもへば
1322
[題詞](寄玉)
[原文]伊勢海之 白水郎之嶋津我 鰒玉 取而後毛可 戀之将繁
[訓読]伊勢の海の海人の島津が鰒玉採りて後もか恋の繁けむ
[仮名],いせのうみの,あまのしまつが,あはびたま,とりてのちもか,こひのしげけむ
1323
[題詞](寄玉)
[原文]海之底 奥津白玉 縁乎無三 常如此耳也 戀度味試
[訓読]海の底沖つ白玉よしをなみ常かくのみや恋ひわたりなむ
[仮名],わたのそこ,おきつしらたま,よしをなみ,つねかくのみや,こひわたりなむ
1324
[題詞](寄玉)
[原文]葦根之 懃念而 結義之 玉緒云者 人将解八方
[訓読]葦の根のねもころ思ひて結びてし玉の緒といはば人解かめやも
[仮名],あしのねの,ねもころおもひて,むすびてし,たまのをといはば,ひととかめやも
1325
[題詞](寄玉)
[原文]白玉乎 手者不纒尓 匣耳 置有之人曽 玉令<詠>流
[訓読]白玉を手には巻かずに箱のみに置けりし人ぞ玉嘆かする
[仮名],しらたまを,てにはまかずに,はこのみに,おけりしひとぞ,たまなげかする
1326
[題詞](寄玉)
[原文]照左豆我 手尓纒古須 玉毛欲得 其緒者替而 吾玉尓将為
[訓読]照左豆が手に巻き古す玉もがもその緒は替へて我が玉にせむ
[仮名],てるさづが,てにまきふるす,たまもがも,そのをはかへて,わがたまにせむ
1327
[題詞](寄玉)
[原文]秋風者 継而莫吹 海底 奥在玉乎 手纒左右二
[訓読]秋風は継ぎてな吹きそ海の底沖なる玉を手に巻くまでに
[仮名],あきかぜは,つぎてなふきそ,わたのそこ,おきなるたまを,てにまくまでに
1328
[題詞]寄日本琴
[原文]伏膝 玉之小琴之 事無者 甚幾許 吾将戀也毛
[訓読]膝に伏す玉の小琴の事なくはいたくここだく我れ恋ひめやも
[仮名],ひざにふす,たまのをごとの,ことなくは,いたくここだく,あれこひめやも
1329
[題詞]寄弓
[原文]陸奥之 吾田多良真弓 著<絃>而 引者香人之 吾乎事将成
[訓読]陸奥の安達太良真弓弦はけて引かばか人の我を言なさむ
[仮名],みちのくの,あだたらまゆみ,つらはけて,ひかばかひとの,わをことなさむ
1330
[題詞](寄弓)
[原文]南淵之 細川山 立檀 弓束<纒及> 人二不所知
[訓読]南淵の細川山に立つ檀弓束巻くまで人に知らえじ
[仮名],みなぶちの,ほそかはやまに,たつまゆみ,ゆづかまくまで,ひとにしらえじ
[_]
[KW],譬喩歌,恋愛,うわさ,飛鳥,地名,植物
1331
[題詞]寄山
[原文]磐疊 恐山常 知管毛 吾者戀香 同等不有尓
[訓読]岩畳畏き山と知りつつも我れは恋ふるか並にあらなくに
[仮名],いはたたみ,かしこきやまと,しりつつも,あれはこふるか,なみにあらなくに
1332
[題詞](寄山)
[原文]石金之 <凝>敷山尓 入始而 山名付染 出不勝鴨
[訓読]岩が根のこごしき山に入りそめて山なつかしみ出でかてぬかも
[仮名],いはがねの,こごしきやまに,いりそめて,やまなつかしみ,いでかてぬかも
1333
[題詞](寄山)
[原文]佐<穂>山乎 於凡尓見之鹿跡 今見者 山夏香思母 風吹莫勤
[訓読]佐保山をおほに見しかど今見れば山なつかしも風吹くなゆめ
[仮名],さほやまを,おほにみしかど,いまみれば,やまなつかしも,かぜふくなゆめ
1334
[題詞](寄山)
[原文]奥山之 於石蘿生 恐常 思情乎 何如裳勢武
[訓読]奥山の岩に苔生し畏けど思ふ心をいかにかもせむ
[仮名],おくやまの,いはにこけむし,かしこけど,おもふこころを,いかにかもせむ
1335
[題詞](寄山)
[原文]思て 痛文為便無 玉手次 雲飛山仁 吾印結
[訓読]思ひあまりいたもすべなみ玉たすき畝傍の山に我れ標結ひつ
[仮名],おもひあまり,いたもすべなみ,たまたすき,うねびのやまに,われしめゆひつ
[_]
[KW],譬喩歌,橿原,奈良,恋愛,枕詞,地名
1336
[題詞]寄草
[原文]冬隠 春乃大野乎 焼人者 焼不足香文 吾情熾
[訓読]冬こもり春の大野を焼く人は焼き足らねかも我が心焼く
[仮名],ふゆこもり,はるのおほのを,やくひとは,やきたらねかも,わがこころやく
1337
[題詞](寄草)
[原文]葛城乃 高間草野 早知而 標指益乎 今悔拭
[訓読]葛城の高間の草野早知りて標刺さましを今ぞ悔しき
[仮名],かづらきの,たかまのかやの,はやしりて,しめささましを,いまぞくやしき
[_]
[KW],譬喩歌,葛城,奈良,恋愛,後悔,地名
1338
[題詞](寄草)
[原文]吾屋前尓 生土針 従心毛 不想人之 衣尓須良由奈
[訓読]我がやどに生ふるつちはり心ゆも思はぬ人の衣に摺らゆな
[仮名],わがやどに,おふるつちはり,こころゆも,おもはぬひとの,きぬにすらゆな
1339
[題詞](寄草)
[原文]鴨頭草丹 服色取 揩目伴 移變色登 称之苦沙
[訓読]月草に衣色どり摺らめどもうつろふ色と言ふが苦しさ
[仮名],つきくさに,ころもいろどり,すらめども,うつろふいろと,いふがくるしさ
1340
[題詞](寄草)
[原文]紫 絲乎曽吾搓 足桧之 山橘乎 将貫跡念而
[訓読]紫の糸をぞ我が搓るあしひきの山橘を貫かむと思ひて
[仮名],むらさきの,いとをぞわがよる,あしひきの,やまたちばなを,ぬかむとおもひて
1341
[題詞](寄草)
[原文]真珠付 越能菅原 吾不苅 人之苅巻 惜菅原
[訓読]真玉つく越智の菅原我れ刈らず人の刈らまく惜しき菅原
[仮名],またまつく,をちのすがはら,われからず,ひとのからまく,をしきすがはら
1342
[題詞](寄草)
[原文]山高 夕日隠奴 淺茅原 後見多米尓 標結申尾
[訓読]山高み夕日隠りぬ浅茅原後見むために標結はましを
[仮名],やまたかみ,ゆふひかくりぬ,あさぢはら,のちみむために,しめゆはましを
1343
[題詞](寄草)
[原文]事痛者 左右将為乎 石代之 野邊之下草 吾之苅而者 [一云 紅之 寫心哉 於妹
不相将有]
[訓読]言痛くはかもかもせむを岩代の野辺の下草我れし刈りてば [一云 紅の現し心
や妹に逢はずあらむ]
[仮名],こちたくは,かもかもせむを,いはしろの,のへのしたくさ,われしかりてば,[くれ
なゐの,うつしこころや,いもにあはずあらむ]
[_]
[KW],譬喩歌,異伝,和歌山,うわさ,地名
1344
[題詞](寄草)
[原文]真鳥住 卯名手之神社之 菅根乎 衣尓書付 令服兒欲得
[訓読]真鳥棲む雲梯の杜の菅の根を衣にかき付け着せむ子もがも
[仮名],まとりすむ,うなてのもりの,すがのねを,きぬにかきつけ,きせむこもがも
[_]
[KW],譬喩歌,橿原,奈良,恋愛,地名,植物
1345
[題詞](寄草)
[原文]常不 人國山乃 秋津野乃 垣津幡鴛 夢見鴨
[訓読]常ならぬ人国山の秋津野のかきつはたをし夢に見しかも
[仮名],つねならぬ,ひとくにやまの,あきづのの,かきつはたをし,いめにみしかも
[_]
[KW],譬喩歌,和歌山,恋愛,地名,植物
1346
[題詞](寄草)
[原文]姫押 生澤邊之 真田葛原 何時鴨絡而 我衣将服
[訓読]をみなへし佐紀沢の辺の真葛原いつかも繰りて我が衣に着む
[仮名],をみなへし,さきさはのへの,まくずはら,いつかもくりて,わがきぬにきむ
1347
[題詞](寄草)
[原文]於君似 草登見従 我標之 野山之淺茅 人莫苅根
[訓読]君に似る草と見しより我が標めし野山の浅茅人な刈りそね
[仮名],きみににる,くさとみしより,わがしめし,のやまのあさぢ,ひとなかりそね
1348
[題詞](寄草)
[原文]三嶋江之 玉江之薦乎 従標之 己我跡曽念 雖未苅
[訓読]三島江の玉江の薦を標めしより己がとぞ思ふいまだ刈らねど
[仮名],みしまえの,たまえのこもを,しめしより,おのがとぞおもふ,いまだからねど
1349
[題詞](寄草)
[原文]如是為<而>也 尚哉将老 三雪零 大荒木野之 小竹尓不有九二
[訓読]かくしてやなほや老いなむみ雪降る大荒木野の小竹にあらなくに
[仮名],かくしてや,なほやおいなむ,みゆきふる,おほあらきのの,しのにあらなくに
[_]
[校異]<> → 而 [西(右書)][元][類][紀]
1350
[題詞](寄草)
[原文]淡海之哉 八橋乃小竹乎 不造<笶>而 信有得哉 戀敷鬼<呼>
[訓読]近江のや八橋の小竹を矢はがずてまことありえむや恋しきものを
[仮名],あふみのや,やばせのしのを,やはがずて,まことありえむや,こほしきものを
[_]
[校異]矢 → 笶 [元][類][古][紀] / 乎 → 呼 [元][紀]
[_]
[KW],譬喩歌,滋賀県,恋愛,地名,植物
1351
[題詞](寄草)
[原文]月草尓 衣者将<揩> 朝露尓 所沾而後者 <徙>去友
[訓読]月草に衣は摺らむ朝露に濡れての後はうつろひぬとも
[仮名],つきくさに,ころもはすらむ,あさつゆに,ぬれてののちは,うつろひぬとも
[_]
[校異]摺 → 揩 [元] / 徒 → 徙 [元][古][温]
1352
[題詞](寄草)
[原文]吾情 湯谷絶谷 浮蓴 邊毛奥毛 依<勝>益士
[訓読]我が心ゆたにたゆたに浮蓴辺にも沖にも寄りかつましじ
[仮名],あがこころ,ゆたにたゆたに,うきぬなは,へにもおきにも,よりかつましじ
[_]
[校異]<> → 勝 [西(右書)][元][類][紀]
1353
[題詞]寄稲
[原文]石上 振之早田乎 雖不秀 繩谷延与 守乍将居
[訓読]石上布留の早稲田を秀でずとも縄だに延へよ守りつつ居らむ
[仮名],いそのかみ,ふるのわさだを,ひでずとも,なはだにはへよ,もりつつをらむ
1354
[題詞]寄木
[原文]白菅之 真野乃榛原 心従毛 不念<吾>之 衣尓<揩>
[訓読]白菅の真野の榛原心ゆも思はぬ我れし衣に摺りつ
[仮名],しらすげの,まののはりはら,こころゆも,おもはぬわれし,ころもにすりつ
[_]
[校異]君 → 吾 [元][類][紀] / 摺 → 揩 [元]
1355
[題詞](寄木)
[原文]真木柱 作蘇麻人 伊左佐目丹 借廬之為跡 造計米八方
[訓読]真木柱作る杣人いささめに仮廬のためと作りけめやも
[仮名],まきばしら,つくるそまびと,いささめに,かりいほのためと,つくりけめやも
1356
[題詞](寄木)
[原文]向峯尓 立有桃樹 <将>成哉等 人曽耳言為 汝情勤
[訓読]向つ峰に立てる桃の木ならむやと人ぞささやく汝が心ゆめ
[仮名],むかつをに,たてるもものき,ならむやと,ひとぞささやく,ながこころゆめ
[_]
[校異]<> → 将 [元][類][紀] / 為 [塙本] 焉
1357
[題詞](寄木)
[原文]足乳根乃 母之其業 桑尚 願者衣尓 著常云物乎
[訓読]たらちねの母がそのなる桑すらに願へば衣に着るといふものを
[仮名],たらちねの,ははがそのなる,くはすらに,ねがへばきぬに,きるといふものを
1358
[題詞](寄木)
[原文]波之吉也思 吾家乃毛桃 本繁 花耳開而 不成在目八方
[訓読]はしきやし我家の毛桃本茂く花のみ咲きてならずあらめやも
[仮名],はしきやし,わぎへのけもも,もとしげく,はなのみさきて,ならずあらめやも
1359
[題詞](寄木)
[原文]向岳之 若楓木 下枝取 花待伊間尓 嘆鶴鴨
[訓読]向つ峰の若桂の木下枝取り花待つい間に嘆きつるかも
[仮名],むかつをの,わかかつらのき,しづえとり,はなまついまに,なげきつるかも
1360
[題詞]寄花
[原文]氣緒尓 念有吾乎 山治左能 花尓香<公>之 移奴良武
[訓読]息の緒に思へる我れを山ぢさの花にか君がうつろひぬらむ
[仮名],いきのをに,おもへるわれを,やまぢさの,はなにかきみが,うつろひぬらむ
[_]
[校異]君 → 公 [元][類][古][紀]
1361
[題詞](寄花)
[原文]墨吉之 淺澤小野之 垣津幡 衣尓揩著 将衣日不知毛
[訓読]住吉の浅沢小野のかきつはた衣に摺り付け着む日知らずも
[仮名],すみのえの,あささはをのの,かきつはた,きぬにすりつけ,きむひしらずも
1362
[題詞](寄花)
[原文]秋去者 影毛将為跡 吾蒔之 韓藍之花乎 誰採家牟
[訓読]秋さらば移しもせむと我が蒔きし韓藍の花を誰れか摘みけむ
[仮名],あきさらば,うつしもせむと,わがまきし,からあゐのはなを,たれかつみけむ
1363
[題詞](寄花)
[原文]春日野尓 咲有芽子者 片枝者 未含有 言勿絶行年
[訓読]春日野に咲きたる萩は片枝はいまだふふめり言な絶えそね
[仮名],かすがのに,さきたるはぎは,かたえだは,いまだふふめり,ことなたえそね
1364
[題詞](寄花)
[原文]欲見 戀管待之 秋芽子者 花耳開而 不成可毛将有
[訓読]見まく欲り恋ひつつ待ちし秋萩は花のみ咲きてならずかもあらむ
[仮名],みまくほり,こひつつまちし,あきはぎは,はなのみさきて,ならずかもあらむ
1365
[題詞](寄花)
[原文]吾妹子之 屋前之秋芽子 自花者 實成而許曽 戀益家礼
[訓読]我妹子がやどの秋萩花よりは実になりてこそ恋ひまさりけれ
[仮名],わぎもこが,やどのあきはぎ,はなよりは,みになりてこそ,こひまさりけれ
1366
[題詞]寄鳥
[原文]明日香川 七瀬之不行尓 住鳥毛 意有社 波不立目
[訓読]明日香川七瀬の淀に住む鳥も心あれこそ波立てざらめ
[仮名],あすかがは,ななせのよどに,すむとりも,こころあれこそ,なみたてざらめ
[_]
[KW],譬喩歌,恋愛,うわさ,飛鳥,地名,動物
1367
[題詞]寄獸
[原文]三國山 木末尓住歴 武佐左妣乃 此待鳥如 吾<俟>将痩
[訓読]三国山木末に住まふむささびの鳥待つごとく我れ待ち痩せむ
[仮名],みくにやま,こぬれにすまふ,むささびの,とりまつごとく,われまちやせむ
[_]
[校異]侯 → 俟 [西(貼紙)][元][類][紀]
1368
[題詞]寄雲
[原文]石倉之 小野従秋津尓 發渡 雲西裳在哉 時乎思将待
[訓読]岩倉の小野ゆ秋津に立ちわたる雲にしもあれや時をし待たむ
[仮名],いはくらの,をのゆあきづに,たちわたる,くもにしもあれや,ときをしまたむ
[_]
[KW],譬喩歌,恋愛,和歌山県,田辺市,地名
1369
[題詞]寄雷
[原文]天雲 近光而 響神之 見者恐 不見者悲毛
[訓読]天雲に近く光りて鳴る神の見れば畏し見ねば悲しも
[仮名],あまくもに,ちかくひかりて,なるかみの,みればかしこし,みねばかなしも
1370
[題詞]寄雨
[原文]甚多毛 不零雨故 庭立水 太莫逝 人之應知
[訓読]はなはだも降らぬ雨故にはたづみいたくな行きそ人の知るべく
[仮名],はなはだも,ふらぬあめゆゑ,にはたづみ,いたくなゆきそ,ひとのしるべく
1371
[題詞](寄雨)
[原文]久堅之 雨尓波不著乎 恠毛 吾袖者 干時無香
[訓読]ひさかたの雨には着ぬをあやしくも我が衣手は干る時なきか
[仮名],ひさかたの,あめにはきぬを,あやしくも,わがころもでは,ふるときなきか
1372
[題詞]寄月
[原文]三空徃 月讀<壮>士 夕不去 目庭雖見 因縁毛無
[訓読]み空行く月読壮士夕さらず目には見れども寄るよしもなし
[仮名],みそらゆく,つくよみをとこ,ゆふさらず,めにはみれども,よるよしもなし
1373
[題詞](寄月)
[原文]春日山 々高有良之 石上 菅根将見尓 月待難
[訓読]春日山山高くあらし岩の上の菅の根見むに月待ちかたし
[仮名],かすがやま,やまたかくあらし,いはのうへの,すがのねみむに,つきまちかたし
1374
[題詞](寄月)
[原文]闇夜者 辛苦物乎 何時跡 吾待月毛 早毛照奴賀
[訓読]闇の夜は苦しきものをいつしかと我が待つ月も早も照らぬか
[仮名],やみのよは,くるしきものを,いつしかと,わがまつつきも,はやもてらぬか
1375
[題詞](寄月)
[原文]朝霜之 消安命 為誰 千歳毛欲得跡 吾念莫國
[訓読]朝霜の消やすき命誰がために千年もがもと我が思はなくに
[仮名],あさしもの,けやすきいのち,たがために,ちとせもがもと,わがおもはなくに
[_]
[左注]右一首者不有譬喩歌類也 但闇夜歌人所心之故並作此歌 因以此歌載於此次
[_]
[校異]譬喩歌 [西] 譬喩謌 [西(訂正)] 譬喩歌 / 作此歌 [西] 作此謌 [西(訂正)] 作
此歌
1376
[題詞]寄赤土
[原文]山跡之 宇陀乃真赤土 左丹著者 曽許裳香人之 吾乎言将成
[訓読]大和の宇陀の真埴のさ丹付かばそこもか人の我を言なさむ
[仮名],やまとの,うだのまはにの,さにつかば,そこもかひとの,わをことなさむ
[_]
[KW],譬喩歌,奈良,恋愛,うわさ,地名
1377
[題詞]寄神
[原文]木綿懸而 祭三諸乃 神佐備而 齊尓波不在 人目多見許<曽>
[訓読]木綿懸けて祭る三諸の神さびて斎むにはあらず人目多みこそ
[仮名],ゆふかけて,まつるみもろの,かむさびて,いむにはあらず,ひとめおほみこそ
[_]
[校異]増 → 曽 [元][類][矢][京]
[_]
[KW],譬喩歌,恋愛,うわさ,三輪,奈良,地名
1378
[題詞](寄神)
[原文]木綿懸而 齊此神社 可超 所念可毛 戀之繁尓
[訓読]木綿懸けて斎ふこの社越えぬべく思ほゆるかも恋の繁きに
[仮名],ゆふかけて,いはふこのもり,こえぬべく,おもほゆるかも,こひのしげきに
1379
[題詞]寄河
[原文]不絶逝 明日香川之 不逝有者 故霜有如 人之見國
[訓読]絶えず行く明日香の川の淀めらば故しもあるごと人の見まくに
[仮名],たえずゆく,あすかのかはの,よどめらば,ゆゑしもあるごと,ひとのみまくに
[_]
[KW],譬喩歌,飛鳥,恋情,停滞,うわさ,地名
1380
[題詞](寄河)
[原文]明日香川 湍瀬尓玉藻者 雖生有 四賀良美有者 靡不相
[訓読]明日香川瀬々に玉藻は生ひたれどしがらみあれば靡きあはなくに
[仮名],あすかがは,せぜにたまもは,おひたれど,しがらみあれば,なびきあはなくに
1381
[題詞](寄河)
[原文]廣瀬<河> 袖衝許 淺乎也 心深目手 吾念有良武
[訓読]広瀬川袖漬くばかり浅きをや心深めて我が思へるらむ
[仮名],ひろせがは,そでつくばかり,あさきをや,こころふかめて,わがおもへるらむ
[_]
[校異]川 → 河 [元][類][古][紀]
1382
[題詞](寄河)
[原文]泊瀬川 流水沫之 絶者許曽 吾念心 不遂登思齒目
[訓読]泊瀬川流るる水沫の絶えばこそ我が思ふ心遂げじと思はめ
[仮名],はつせがは,ながるるみなわの,たえばこそ,あがおもふこころ,とげじとおもは
め
1383
[題詞](寄河)
[原文]名毛伎世婆 人可知見 山川之 瀧情乎 塞敢<而>有鴨
[訓読]嘆きせば人知りぬべみ山川のたぎつ心を塞かへてあるかも
[仮名],なげきせば,ひとしりぬべみ,やまがはの,たぎつこころを,せかへてあるかも
[_]
[校異]与 → 而 [西(訂正)][元][類][紀]
1384
[題詞](寄河)
[原文]水隠尓 氣衝餘 早川之 瀬者立友 人二将言八方
[訓読]水隠りに息づきあまり早川の瀬には立つとも人に言はめやも
[仮名],みごもりに,いきづきあまり,はやかはの,せにはたつとも,ひとにいはめやも
1385
[題詞]寄埋木
[原文]真そ持 弓削河原之 埋木之 不可顕 事<尓>不有君
[訓読]真鉋持ち弓削の川原の埋れ木のあらはるましじきことにあらなくに
[仮名],まかなもち,ゆげのかはらの,うもれぎの,あらはるましじき,ことにあらなくに
[_]
[校異]等 → 尓 [元][類][古][紀]
1386
[題詞]寄海
[原文]大船尓 真梶繁貫 水手出去之 奥<者>将深 潮者干去友
[訓読]大船に真楫しじ貫き漕ぎ出なば沖は深けむ潮は干ぬとも
[仮名],おほぶねに,まかぢしじぬき,こぎでなば,おきはふかけむ,しほはひぬとも
[_]
[校異]<> → 者 [元][類][古][紀]
1387
[題詞](寄海)
[原文]伏超従 去益物乎 間守尓 所打沾 浪不數為而
[訓読]伏越ゆ行かましものをまもらふにうち濡らさえぬ波数まずして
[仮名],ふしこえゆ,ゆかましものを,まもらふに,うちぬらさえぬ,なみよまずして
1388
[題詞](寄海)
[原文]石灑 岸之浦廻尓 縁浪 邊尓来依者香 言之将繁
[訓読]石そそき岸の浦廻に寄する波辺に来寄らばか言の繁けむ
[仮名],いはそそき,きしのうらみに,よするなみ,へにきよらばか,ことのしげけむ
1389
[題詞](寄海)
[原文]礒之浦尓 来依白浪 反乍 過不勝者 <誰>尓絶多倍
[訓読]礒の浦に来寄る白波返りつつ過ぎかてなくは誰れにたゆたへ
[仮名],いそのうらに,きよるしらなみ,かへりつつ,すぎかてなくは,たれにたゆたへ
[_]
[校異]雉 → 誰 [元][類][古][紀]
1390
[題詞](寄海)
[原文]淡海之海 浪恐登 風守 年者也将經去 榜者無二
[訓読]近江の海波畏みと風まもり年はや経なむ漕ぐとはなしに
[仮名],あふみのうみ,なみかしこみと,かぜまもり,としはやへなむ,こぐとはなしに
[_]
[KW],譬喩歌,滋賀,恋情,琵琶湖,地名
1391
[題詞](寄海)
[原文]朝奈藝尓 来依白浪 欲見 吾雖為 風許増不令依
[訓読]朝なぎに来寄る白波見まく欲り我れはすれども風こそ寄せね
[仮名],あさなぎに,きよるしらなみ,みまくほり,われはすれども,かぜこそよせね
1392
[題詞]寄浦沙
[原文]紫之 名高浦之 愛子地 袖耳觸而 不寐香将成
[訓読]紫の名高の浦の真砂土袖のみ触れて寝ずかなりなむ
[仮名],むらさきの,なたかのうらの,まなごつち,そでのみふれて,ねずかなりなむ
1393
[題詞](寄浦沙)
[原文]豊國之 <聞>之濱邊之 愛子地 真直之有者 何如将嘆
[訓読]豊国の企救の浜辺の真砂土真直にしあらば何か嘆かむ
[仮名],とよくにの,きくのはまへの,まなごつち,まなほにしあらば,なにかなげかむ
[_]
[KW],譬喩歌,福岡県,恋愛,恨み,地名
1394
[題詞]寄藻
[原文]塩満者 入流礒之 草有哉 見良久少 戀良久乃太寸
[訓読]潮満てば入りぬる礒の草なれや見らく少く恋ふらくの多き
[仮名],しほみてば,いりぬるいその,くさなれや,みらくすくなく,こふらくのおほき
1395
[題詞](寄藻)
[原文]奥浪 依流荒礒之 名告藻者 心中尓 疾跡成有
[訓読]沖つ波寄する荒礒のなのりそは心のうちに障みとなれり
[仮名],おきつなみ,よするありその,なのりそは,こころのうちに,つつみとなれり
1396
[題詞](寄藻)
[原文]紫之 名高浦乃 名告藻之 於礒将靡 時待吾乎
[訓読]紫の名高の浦のなのりその礒に靡かむ時待つ我れを
[仮名],むらさきの,なたかのうらの,なのりその,いそになびかむ,ときまつわれを
[_]
[KW],譬喩歌,和歌山,恋愛,地名,植物
1397
[題詞](寄藻)
[原文]荒礒超 浪者恐 然為蟹 海之玉藻之 憎者不有手
[訓読]荒礒越す波は畏ししかすがに海の玉藻の憎くはあらずて
[仮名],ありそこす,なみはかしこし,しかすがに,うみのたまもの,にくくはあらずて
1398
[題詞]寄船
[原文]神樂聲浪乃 四賀津之浦能 船乗尓 乗西意 常不所忘
[訓読]楽浪の志賀津の浦の舟乗りに乗りにし心常忘らえず
[仮名],ささなみの,しがつのうらの,ふなのりに,のりにしこころ,つねわすらえず
[_]
[KW],譬喩歌,滋賀,琵琶湖,恋情,地名,序詞
1399
[題詞](寄船)
[原文]百傳 八十之嶋廻乎 榜船尓 乗<尓志>情 忘不得裳
[訓読]百伝ふ八十の島廻を漕ぐ舟に乗りにし心忘れかねつも
[仮名],ももづたふ,やそのしまみを,こぐふねに,のりにしこころ,わすれかねつも
1400
[題詞](寄船)
[原文]嶋傳 足速乃小舟 風守 年者也經南 相常齒無二
[訓読]島伝ふ足早の小舟風まもり年はや経なむ逢ふとはなしに
[仮名],しまづたふ,あばやのをぶね,かぜまもり,としはやへなむ,あふとはなしに
1401
[題詞](寄船)
[原文]水霧相 奥津小嶋尓 風乎疾見 船縁金都 心者念杼
[訓読]水霧らふ沖つ小島に風をいたみ舟寄せかねつ心は思へど
[仮名],みなぎらふ,おきつこしまに,かぜをいたみ,ふねよせかねつ,こころはおもへど
1402
[題詞](寄船)
[原文]殊放者 奥従酒甞 湊自 邊著經時尓 可放鬼香
[訓読]こと放けば沖ゆ放けなむ港より辺著かふ時に放くべきものか
[仮名],ことさけば,おきゆさけなむ,みなとより,へつかふときに,さくべきものか
1403
[題詞]旋頭歌
[原文]三幣帛取 神之祝我 鎮齊杉原 燎木伐 殆之國 手斧所取奴
[訓読]御幣取り三輪の祝が斎ふ杉原薪伐りほとほとしくに手斧取らえぬ
[仮名],みぬさとり,みわのはふりが,いはふすぎはら,たきぎこり,ほとほとしくに,てを
のとらえぬ
[_]
[KW],譬喩歌,旋頭歌,三輪,奈良,恋情,戯笑,地名