University of Virginia Library

寄物陳思

2619

[題詞]寄物陳思

[原文]朝影尓 吾身者成 辛衣 襴之不相而 久成者
[訓読]朝影に我が身はなりぬ韓衣裾のあはずて久しくなれば
[仮名],あさかげに,あがみはなりぬ,からころも,すそのあはずて,ひさしくなれば
[_]
[左注]
[_]
[校異]
[_]
[KW],恋情,序詞,衣

2620

[題詞](寄物陳思)

[原文]解衣之 思乱而 雖戀 何如汝之故跡 問人毛無
[訓読]解き衣の思ひ乱れて恋ふれどもなぞ汝がゆゑと問ふ人もなき
[仮名],とききぬの,おもひみだれて,こふれども,なぞながゆゑと,とふひともなき
[_]
[左注]
[_]
[校異]
[_]
[KW],恋情,女歌,衣

2621

[題詞](寄物陳思)

[原文]摺衣 著有跡夢見津 <寤>者 孰人之 言可将繁
[訓読]摺り衣着りと夢に見つうつつにはいづれの人の言か繁けむ
[仮名],すりころも,けりといめにみつ,うつつには,いづれのひとの,ことかしげけむ
[_]
[左注]
[_]
[校異]寐 → 寤 [西(貼紙)]
[_]
[KW],衣,うわさ

2622

[題詞](寄物陳思)

[原文]志賀乃白水<郎>之 塩焼衣 雖穢 戀云物者 忘金津毛
[訓読]志賀の海人の塩焼き衣なれぬれど恋といふものは忘れかねつも
[仮名],しかのあまの,しほやきころも,なれぬれど,こひといふものは,わすれかねつも
[_]
[左注]
[_]
[校異]浪 → 郎 [西(右貼紙)][嘉][文][類][紀]
[_]
[KW],福岡,地名,衣,序詞

2623

[題詞](寄物陳思)

[原文]呉藍之 八塩乃衣 朝旦 穢者雖為 益希将見裳
[訓読]紅の八しほの衣朝な朝な馴れはすれどもいやめづらしも
[仮名],くれなゐの,やしほのころも,あさなさな,なれはすれども,いやめづらしも
[_]
[左注]
[_]
[校異]
[_]
[KW],衣,色,染色,恋情,女歌

2624

[題詞](寄物陳思)

[原文]紅之 深染衣 色深 染西鹿齒蚊 遺不得鶴
[訓読]紅の深染めの衣色深く染みにしかばか忘れかねつる
[仮名],くれなゐの,こそめのころも,いろふかく,しみにしかばか,わすれかねつる
[_]
[左注]
[_]
[校異]
[_]
[KW],染色,色,衣,恋情,女歌

2625

[題詞](寄物陳思)

[原文]不相尓 夕卜乎問常 幣尓置尓 吾衣手者 又曽可續
[訓読]逢はなくに夕占を問ふと幣に置くに我が衣手はまたぞ継ぐべき
[仮名],あはなくに,ゆふけをとふと,ぬさにおくに,わがころもでは,またぞつぐべき
[_]
[左注]
[_]
[校異]
[_]
[KW],衣,待つ

2626

[題詞](寄物陳思)

[原文]古衣 打棄人者 秋風之 立来時尓 物念物其
[訓読]古衣打棄つる人は秋風の立ちくる時に物思ふものぞ
[仮名],ふるころも,うつつるひとは,あきかぜの,たちくるときに,ものもふものぞ
[_]
[左注]
[_]
[校異]
[_]
[KW],衣,比喩

2627

[題詞](寄物陳思)

[原文]波祢蘰 今為妹之 浦若見 咲見慍見 著四紐解
[訓読]はねかづら今する妹がうら若み笑みみ怒りみ付けし紐解く
[仮名],はねかづら,いまするいもが,うらわかみ,ゑみみいかりみ,つけしひもとく
[_]
[左注]
[_]
[校異]
[_]
[KW]

2628

[題詞](寄物陳思)

[原文]去家之 倭文旗帶乎 結垂 孰云人毛 君者不益
[訓読]いにしへの倭文機帯を結び垂れ誰れといふ人も君にはまさじ
[仮名],いにしへの,しつはたおびを,むすびたれ,たれといふひとも,きみにはまさじ
[_]
[左注]一書歌<曰> 古之 狭織之帶乎 結垂 誰之能人毛 君尓波不益
[_]
[校異]歌 [西] 謌 / 云 → 曰 [類][文][紀]
[_]
[KW],衣,序詞,女歌

2628S

[題詞](寄物陳思)一書歌<曰>

[原文]古之 狭織之帶乎 結垂 誰之能人毛 君尓波不益
[訓読]いにしへの狭織の紐を結び垂れ誰れしの人も君にはまさじ
[仮名],いにしへの,さおりのひもを,むすびたれ,たれしのひとも,きみにはまさじ
[_]
[左注]
[_]
[校異]
[_]
[KW],異伝,衣,序詞,女歌

2629

[題詞](寄物陳思)

[原文]不相友 吾波不怨 此枕 吾等念而 枕手左宿座
[訓読]逢はずとも我れは恨みじこの枕我れと思ひてまきてさ寝ませ
[仮名],あはずとも,われはうらみじ,このまくら,われとおもひて,まきてさねませ
[_]
[左注]
[_]
[校異]
[_]
[KW],女歌

2630

[題詞](寄物陳思)

[原文]結紐 解日遠 敷細 吾木枕 蘿生来
[訓読]結へる紐解かむ日遠み敷栲の我が木枕は苔生しにけり
[仮名],ゆへるひも,とかむひとほみ,しきたへの,わがこまくらは,こけむしにけり
[_]
[左注]
[_]
[校異]
[_]
[KW],枕詞,女歌,閨怨

2631

[題詞](寄物陳思)

[原文]夜干玉之 黒髪色天 長夜S 手枕之上尓 妹待覧蚊
[訓読]ぬばたまの黒髪敷きて長き夜を手枕の上に妹待つらむか
[仮名],ぬばたまの,くろかみしきて,ながきよを,たまくらのうへに,いもまつらむか
[_]
[左注]
[_]
[校異]
[_]
[KW],恋愛,枕詞,

2632

[題詞](寄物陳思)

[原文]真素鏡 直二四妹乎 不相見者 我戀不止 年者雖經
[訓読]まそ鏡直にし妹を相見ずは我が恋やまじ年は経ぬとも
[仮名],まそかがみ,ただにしいもを,あひみずは,あがこひやまじ,としはへぬとも
[_]
[左注]
[_]
[校異]
[_]
[KW],枕詞,恋愛

2633

[題詞](寄物陳思)

[原文]真十鏡 手取持手 朝旦 将見時禁屋 戀之将繁
[訓読]まそ鏡手に取り持ちて朝な朝な見む時さへや恋の繁けむ
[仮名],まそかがみ,てにとりもちて,あさなさな,みむときさへや,こひのしげけむ
[_]
[左注]
[_]
[校異]
[_]
[KW],枕詞,恋愛

2634

[題詞](寄物陳思)

[原文]里遠 戀和備尓家里 真十鏡 面影不去 夢所見社
[訓読]里遠み恋わびにけりまそ鏡面影去らず夢に見えこそ
[仮名],さとどほみ,こひわびにけり,まそかがみ,おもかげさらず,いめにみえこそ
[_]
[左注]右一首上見柿本朝臣人麻呂之歌中也 但以句々相換 故載於茲
[_]
[校異]
[_]
[KW],作者:柿本人麻呂,枕詞,恋愛

2635

[題詞](寄物陳思)

[原文]剱刀 身尓佩副流 大夫也 戀云物乎 忍金手武
[訓読]剣大刀身に佩き添ふる大夫や恋といふものを忍びかねてむ
[仮名],つるぎたち,みにはきそふる,ますらをや,こひといふものを,しのびかねてむ
[_]
[左注]
[_]
[校異]
[_]
[KW],枕詞,恋愛

2636

[題詞](寄物陳思)

[原文]剱刀 諸刃之於荷 去觸而 所g鴨将死 戀管不有者
[訓読]剣大刀諸刃の上に行き触れて死にかもしなむ恋ひつつあらずは
[仮名],つるぎたち,もろはのうへに,ゆきふれて,しにかもしなむ,こひつつあらずは
[_]
[左注]
[_]
[校異]
[_]
[KW],枕詞,恋愛

2637

[題詞](寄物陳思)

[原文]<ら> 鼻乎曽嚏鶴 劔刀 身副妹之 思来下
[訓読]うち鼻ひ鼻をぞひつる剣大刀身に添ふ妹し思ひけらしも
[仮名],うちはなひ,はなをぞひつる,つるぎたち,みにそふいもし,おもひけらしも
[_]
[左注]
[_]
[校異]晒 → ら [古]
[_]
[KW],枕詞,恋愛

2638

[題詞](寄物陳思)

[原文]梓弓 末之腹野尓 鷹田為 君之弓食之 将絶跡念甕屋
[訓読]梓弓末のはら野に鳥狩する君が弓弦の絶えむと思へや
[仮名],あづさゆみ,すゑのはらのに,とがりする,きみがゆづるの,たえむとおもへや
[_]
[左注]
[_]
[校異]
[_]
[KW],比喩,枕詞,恋愛,地名,大阪府

2639

[題詞](寄物陳思)

[原文]葛木之 其津彦真弓 荒木尓毛 憑也君之 吾之名告兼
[訓読]葛城の襲津彦真弓新木にも頼めや君が我が名告りけむ
[仮名],かづらきの,そつびこまゆみ,あらきにも,たのめやきみが,わがなのりけむ
[_]
[左注]
[_]
[校異]
[_]
[KW],序詞,女歌,うわさ,恋愛

2640

[題詞](寄物陳思)

[原文]梓弓 引見<弛>見 不来者<不来> 来者<来其>乎奈何 不来者来者其乎
[訓読]梓弓引きみ緩へみ来ずは来ず来ば来そをなぞ来ずは来ばそを
[仮名],あづさゆみ,ひきみゆるへみ,こずはこず,こばこそをなぞ,こずはこばそを
[_]
[左注]
[_]
[校異]絶 → 弛 [嘉][類][古] / 々々 → 不来 [嘉][類] / 其々 → 来其 [古]
[_]
[KW],枕詞,女歌,恋愛

2641

[題詞](寄物陳思)

[原文]時守之 打鳴鼓 數見者 辰尓波成 不相毛恠
[訓読]時守の打ち鳴す鼓数みみれば時にはなりぬ逢はなくもあやし
[仮名],ときもりの,うちなすつづみ,よみみれば,ときにはなりぬ,あはなくもあやし
[_]
[左注]
[_]
[校異]
[_]
[KW],女歌,時報

2642

[題詞](寄物陳思)

[原文]燈之 陰尓蚊蛾欲布 虚蝉之 妹蛾咲状思 面影尓所見
[訓読]燈火の影にかがよふうつせみの妹が笑まひし面影に見ゆ
[仮名],ともしびの,かげにかがよふ,うつせみの,いもがゑまひし,おもかげにみゆ
[_]
[左注]
[_]
[校異]
[_]
[KW],恋愛

2643

[題詞](寄物陳思)

[原文]玉戈之 道行疲 伊奈武思侶 敷而毛君乎 将見因<母>鴨
[訓読]玉桙の道行き疲れ稲席しきても君を見むよしもがも
[仮名],たまほこの,みちゆきつかれ,いなむしろ,しきてもきみを,みむよしもがも
[_]
[左注]
[_]
[校異]毛 → 母 [嘉][文][類]
[_]
[KW],枕詞,序詞,女歌,恋愛

2644

[題詞](寄物陳思)

[原文]小墾田之 板田乃橋之 壊者 従桁将去 莫戀吾妹
[訓読]小治田の板田の橋の壊れなば桁より行かむな恋ひそ我妹
[仮名],をはりだの,いただのはしの,こほれなば,けたよりゆかむ,なこひそわぎも
[_]
[左注]
[_]
[校異]
[_]
[KW],地名,奈良県,明日香,恋愛

2645

[題詞](寄物陳思)

[原文]宮材引 泉之追馬喚犬二 立民乃 息時無 戀<渡>可聞
[訓読]宮材引く泉の杣に立つ民のやむ時もなく恋ひわたるかも
[仮名],みやぎひく,いづみのそまに,たつたみの,やむときもなく,こひわたるかも
[_]
[左注]
[_]
[校異]度 → 渡 [嘉][文][類]
[_]
[KW],地名,京都府,序詞,恋愛

2646

[題詞](寄物陳思)

[原文]住吉乃 津守網引之 浮笶緒乃 得干蚊将去 戀管不有者
[訓読]住吉の津守網引のうけの緒の浮かれか行かむ恋ひつつあらずは
[仮名],すみのえの,つもりあびきの,うけのをの,うかれかゆかむ,こひつつあらずは
[_]
[左注]
[_]
[校異]
[_]
[KW],地名,大阪府,序詞,恋愛

2647

[題詞](寄物陳思)

[原文]東細布 従空延越 遠見社 目言踈良米 絶跡間也
[訓読]手作りを空ゆ引き越し遠みこそ目言離るらめ絶ゆと隔てや
[仮名],てづくりを,そらゆひきこし,とほみこそ,めことかるらめ,たゆとへだてや
[_]
[左注]
[_]
[校異]
[_]
[KW],序詞,恋愛

2648

[題詞](寄物陳思)

[原文]云<々> 物者不念 斐太人乃 打墨縄之 直一道二
[訓読]かにかくに物は思はじ飛騨人の打つ墨縄のただ一道に
[仮名],かにかくに,ものはおもはじ,ひだひとの,うつすみなはの,ただひとみちに
[_]
[左注]
[_]
[校異]云 → 々 [嘉][文][細][京]
[_]
[KW],序詞,恋愛,女歌

2649

[題詞](寄物陳思)

[原文]足日木之 山田守翁 置蚊火之 <下>粉枯耳 余戀居久
[訓読]あしひきの山田守る翁が置く鹿火の下焦れのみ我が恋ひ居らむ
[仮名],あしひきの,やまたもるをぢが,おくかひの,したこがれのみ,あがこひをらむ
[_]
[左注]
[_]
[校異]<> → 下 [西(訂正)][嘉][文][類][紀]
[_]
[KW],枕詞,序詞,恋愛

2650

[題詞](寄物陳思)

[原文]十寸板持 盖流板目乃 不<合>相者 如何為跡可 吾宿始兼
[訓読]そき板もち葺ける板目のあはざらばいかにせむとか我が寝そめけむ
[仮名],そきいたもち,ふけるいための,あはざらば,いかにせむとか,わがねそめけむ
[_]
[左注]
[_]
[校異]令 → 合 [嘉][類][古][紀]
[_]
[KW],序詞,恋愛,女歌,不安

2651

[題詞](寄物陳思)

[原文]難波人 葦火燎屋之 酢<四>手雖有 己妻許増 常目頬次吉
[訓読]難波人葦火焚く屋の煤してあれどおのが妻こそ常めづらしき
[仮名],なにはひと,あしひたくやの,すしてあれど,おのがつまこそ,つねめづらしき
[_]
[左注]
[_]
[校異]原字不明 → 四 [西(上書訂正)][嘉][文][類][紀]
[_]
[KW],序詞,恋愛

2652

[題詞](寄物陳思)

[原文]妹之髪 上小竹葉野之 放駒 蕩去家良思 不合思者
[訓読]妹が髪上げ竹葉野の放れ駒荒びにけらし逢はなく思へば
[仮名],いもがかみ,あげたかはのの,はなれごま,あらびにけらし,あはなくおもへば
[_]
[左注]
[_]
[校異]
[_]
[KW],序詞,,恋愛,不安

2653

[題詞](寄物陳思)

[原文]馬音之 跡杼登毛為者 松蔭尓 出曽見鶴 若君香跡
[訓読]馬の音のとどともすれば松蔭に出でてぞ見つるけだし君かと
[仮名],うまのおとの,とどともすれば,まつかげに,いでてぞみつる,けだしきみかと
[_]
[左注]
[_]
[校異]
[_]
[KW],女歌,恋愛

2654

[題詞](寄物陳思)

[原文]君戀 寝不宿朝明 誰乗流 馬足音 吾聞為
[訓読]君に恋ひ寐ねぬ朝明に誰が乗れる馬の足の音ぞ我れに聞かする
[仮名],きみにこひ,いねぬあさけに,たがのれる,うまのあのおとぞ,われにきかする
[_]
[左注]
[_]
[校異]
[_]
[KW],恋愛,女歌

2655

[題詞](寄物陳思)

[原文]紅之 襴引道乎 中置而 妾哉将通 公哉将来座 [一云 須蘇衝河乎 又曰 待香将 待]
[訓読]紅の裾引く道を中に置きて我れは通はむ君か来まさむ [一云 裾漬く川を 又曰 待ちにか待たむ]
[仮名],くれなゐの,すそびくみちを,なかにおきて,われかかよはむ,きみかきまさむ,[す そつくかはを,まちにかまたむ]
[_]
[左注]
[_]
[校異]
[_]
[KW],女歌,恋愛

2656

[題詞](寄物陳思)

[原文]天飛也 軽乃社之 齊槻 幾世及将有 隠嬬其毛
[訓読]天飛ぶや軽の社の斎ひ槻幾代まであらむ隠り妻ぞも
[仮名],あまとぶや,かるのやしろの,いはひつき,いくよまであらむ,こもりづまぞも
[_]
[左注]
[_]
[校異]
[_]
[KW],枕詞,地名,奈良県,明日香,歌垣,忍び妻,秘密,恋愛,序詞,植物

2657

[題詞](寄物陳思)

[原文]神名火尓 紐呂寸立而 雖忌 人心者 間守不敢物
[訓読]神なびにひもろき立てて斎へども人の心はまもりあへぬもの
[仮名],かむなびに,ひもろきたてて,いはへども,ひとのこころは,まもりあへぬもの
[_]
[左注]
[_]
[校異]
[_]
[KW],怨み

2658

[題詞](寄物陳思)

[原文]天雲之 八重雲隠 鳴神之 音<耳尓>八方 聞度南
[訓読]天雲の八重雲隠り鳴る神の音のみにやも聞きわたりなむ
[仮名],あまくもの,やへくもがくり,なるかみの,おとのみにやも,ききわたりなむ
[_]
[左注]
[_]
[校異]尓耳 → 耳尓 [嘉][類]
[_]
[KW],序詞,うわさ,女歌

2659

[題詞](寄物陳思)

[原文]争者 神毛悪為 縦咲八師 世副流君之 悪有莫君尓
[訓読]争へば神も憎ますよしゑやしよそふる君が憎くあらなくに
[仮名],あらそへば,かみもにくます,よしゑやし,よそふるきみが,にくくあらなくに
[_]
[左注]
[_]
[校異]
[_]
[KW],女歌

2660

[題詞](寄物陳思)

[原文]夜並而 君乎来座跡 千石破 神社乎 不祈日者無
[訓読]夜並べて君を来ませとちはやぶる神の社を祷まぬ日はなし
[仮名],よならべて,きみをきませと,ちはやぶる,かみのやしろを,のまぬひはなし
[_]
[左注]
[_]
[校異]
[_]
[KW],女歌,枕詞,恋愛

2661

[題詞](寄物陳思)

[原文]霊治波布 神毛吾者 打棄乞 四恵也壽之 ね無
[訓読]霊ぢはふ神も我れをば打棄てこそしゑや命の惜しけくもなし
[仮名],たまぢはふ,かみもわれをば,うつてこそ,しゑやいのちの,をしけくもなし
[_]
[左注]
[_]
[校異]
[_]
[KW],枕詞,怨み,恋愛

2662

[題詞](寄物陳思)

[原文]吾妹兒 又毛相等 千羽八振 神社乎 不祷日者無
[訓読]我妹子にまたも逢はむとちはやぶる神の社を祷まぬ日はなし
[仮名],わぎもこに,またもあはむと,ちはやぶる,かみのやしろを,のまぬひはなし
[_]
[左注]
[_]
[校異]
[_]
[KW],枕詞,恋愛

2663

[題詞](寄物陳思)

[原文]千葉破 神之伊垣毛 可越 今者吾名之 惜無
[訓読]ちはやぶる神の斎垣も越えぬべし今は我が名の惜しけくもなし
[仮名],ちはやぶる,かみのいかきも,こえぬべし,いまはわがなの,をしけくもなし
[_]
[左注]
[_]
[校異]
[_]
[KW],枕詞,うわさ

2664

[題詞](寄物陳思)

[原文]暮月夜 暁闇夜乃 朝影尓 吾身者成奴 汝乎念金丹
[訓読]夕月夜暁闇の朝影に我が身はなりぬ汝を思ひかねに
[仮名],ゆふづくよ,あかときやみの,あさかげに,あがみはなりぬ,なをおもひかねに
[_]
[左注]
[_]
[校異]丹 [古義](塙)(楓) 手
[_]
[KW],恋愛

2665

[題詞](寄物陳思)

[原文]月之有者 明覧別裳 不知而 寐吾来乎 人見兼鴨
[訓読]月しあれば明くらむ別も知らずして寝て我が来しを人見けむかも
[仮名],つきしあれば,あくらむわきも,しらずして,ねてわがこしを,ひとみけむかも
[_]
[左注]
[_]
[校異]
[_]
[KW],うわさ,不安,恋愛

2666

[題詞](寄物陳思)

[原文]妹目之 見巻欲家口 <夕>闇之 木葉隠有 月待如
[訓読]妹が目の見まく欲しけく夕闇の木の葉隠れる月待つごとし
[仮名],いもがめの,みまくほしけく,ゆふやみの,このはごもれる,つきまつごとし
[_]
[左注]
[_]
[校異]久 → 夕 [西(訂正)][嘉][類][紀]
[_]
[KW],恋愛

2667

[題詞](寄物陳思)

[原文]真袖持 床打拂 君待跡 居之間尓 月傾
[訓読]真袖持ち床うち掃ひ君待つと居りし間に月かたぶきぬ
[仮名],まそでもち,とこうちはらひ,きみまつと,をりしあひだに,つきかたぶきぬ
[_]
[左注]
[_]
[校異]
[_]
[KW],恋愛,女歌,怨恨

2668

[題詞](寄物陳思)

[原文]二上尓 隠經月之 雖惜 妹之田本乎 加流類比来
[訓読]二上に隠らふ月の惜しけども妹が手本を離るるこのころ
[仮名],ふたかみに,かくらふつきの,をしけども,いもがたもとを,かるるこのころ
[_]
[左注]
[_]
[校異]
[_]
[KW],地名,奈良県,恋愛,序詞

2669

[題詞](寄物陳思)

[原文]吾背子之 振放見乍 将嘆 清月夜尓 雲莫田名引
[訓読]我が背子が振り放け見つつ嘆くらむ清き月夜に雲なたなびき
[仮名],わがせこが,ふりさけみつつ,なげくらむ,きよきつくよに,くもなたなびき
[_]
[左注]
[_]
[校異]
[_]
[KW],恋愛,女歌

2670

[題詞](寄物陳思)

[原文]真素鏡 清月夜之 湯<徙>去者 念者不止 戀社益
[訓読]まそ鏡清き月夜のゆつりなば思ひはやまず恋こそまさめ
[仮名],まそかがみ,きよきつくよの,ゆつりなば,おもひはやまず,こひこそまさめ
[_]
[左注]
[_]
[校異]徒 → 徙 [寛]
[_]
[KW],枕詞,恋愛

2671

[題詞](寄物陳思)

[原文]今夜之 在開月夜 在乍文 公S置者 待人無
[訓読]今夜の有明月夜ありつつも君をおきては待つ人もなし
[仮名],こよひの,ありあけつくよ,ありつつも,きみをおきては,まつひともなし
[_]
[左注]
[_]
[校異]
[_]
[KW],女歌,恋愛

2672

[題詞](寄物陳思)

[原文]此山之 嶺尓近跡 吾見鶴 月之空有 戀毛為鴨
[訓読]この山の嶺に近しと我が見つる月の空なる恋もするかも
[仮名],このやまの,みねにちかしと,わがみつる,つきのそらなる,こひもするかも
[_]
[左注]
[_]
[校異]
[_]
[KW],序詞,恋愛

2673

[題詞](寄物陳思)

[原文]烏玉乃 夜渡月之 湯移去者 更哉妹尓 吾戀将居
[訓読]ぬばたまの夜渡る月のゆつりなばさらにや妹に我が恋ひ居らむ
[仮名],ぬばたまの,よわたるつきの,ゆつりなば,さらにやいもに,あがこひをらむ
[_]
[左注]
[_]
[校異]
[_]
[KW],枕詞,恋愛

2674

[題詞](寄物陳思)

[原文]朽網山 夕居雲 薄徃者 余者将戀名 公之目乎欲
[訓読]朽網山夕居る雲の薄れゆかば我れは恋ひむな君が目を欲り
[仮名],くたみやま,ゆふゐるくもの,うすれゆかば,あれはこひむな,きみがめをほり
[_]
[左注]
[_]
[校異]
[_]
[KW],地名,大分県,女歌,恋愛

2675

[題詞](寄物陳思)

[原文]君之服 三笠之山尓 居雲乃 立者継流 戀為鴨
[訓読]君が着る御笠の山に居る雲の立てば継がるる恋もするかも
[仮名],きみがきる,みかさのやまに,ゐるくもの,たてばつがるる,こひもするかも
[_]
[左注]
[_]
[校異]
[_]
[KW],地名,奈良県,枕詞,序詞,恋愛

2676

[題詞](寄物陳思)

[原文]久堅之 天飛雲尓 在而然 君相見 落日莫死
[訓読]ひさかたの天飛ぶ雲にありてしか君をば相見むおつる日なしに
[仮名],ひさかたの,あまとぶくもに,ありてしか,きみをばあひみむ,おつるひなしに
[_]
[左注]
[_]
[校異]
[_]
[KW],枕詞,恋愛

2677

[題詞](寄物陳思)

[原文]佐保乃内従 下風之 吹礼波 還者胡粉 歎夜衣大寸
[訓読]佐保の内ゆあらしの風の吹きぬれば帰りは知らに嘆く夜ぞ多き
[仮名],さほのうちゆ,あらしのかぜの,ふきぬれば,かへりはしらに,なげくよぞおほき
[_]
[左注]
[_]
[校異]
[_]
[KW],地名,奈良県,女歌,閨怨

2678

[題詞](寄物陳思)

[原文]級子八師 不吹風故 玉匣 開而左宿之 吾其悔寸
[訓読]はしきやし吹かぬ風ゆゑ玉櫛笥開けてさ寝にし我れぞ悔しき
[仮名],はしきやし,ふかぬかぜゆゑ,たまくしげ,あけてさねにし,あれぞくやしき
[_]
[左注]
[_]
[校異]子 [万葉考](塙)(楓) 寸
[_]
[KW],枕詞,女歌,怨恨

2679

[題詞](寄物陳思)

[原文]窓超尓 月臨照而 足桧乃 下風吹夜者 公乎之其念
[訓読]窓越しに月おし照りてあしひきのあらし吹く夜は君をしぞ思ふ
[仮名],まどごしに,つきおしてりて,あしひきの,あらしふくよは,きみをしぞおもふ
[_]
[左注]
[_]
[校異]
[_]
[KW],枕詞,恋愛

2680

[題詞](寄物陳思)

[原文]河千鳥 住澤上尓 立霧之 市白兼名 相言始而言
[訓読]川千鳥棲む沢の上に立つ霧のいちしろけむな相言ひそめてば
[仮名],かはちどり,すむさはのうへに,たつきりの,いちしろけむな,あひいひそめてば
[_]
[左注]
[_]
[校異]
[_]
[KW],序詞,鳥,動物,うわさ

2681

[題詞](寄物陳思)

[原文]吾背子之 使乎待跡 笠毛不著 出乍其見之 雨落久尓
[訓読]我が背子が使を待つと笠も着ず出でつつぞ見し雨の降らくに
[仮名],わがせこが,つかひをまつと,かさもきず,いでつつぞみし,あめのふらくに
[_]
[左注]
[_]
[校異]
[_]
[KW],女歌,恋愛

2682

[題詞](寄物陳思)

[原文]辛衣 君尓内<著> 欲見 戀其晩師之 雨零日乎
[訓読]韓衣君にうち着せ見まく欲り恋ひぞ暮らしし雨の降る日を
[仮名],からころも,きみにうちきせ,みまくほり,こひぞくらしし,あめのふるひを
[_]
[左注]
[_]
[校異]原字不明 → 著 [西(上書訂正)][嘉][類][紀]
[_]
[KW],恋愛,女歌

2683

[題詞](寄物陳思)

[原文]彼方之 赤土少屋尓 W<X>零 床共所沾 於身副我妹
[訓読]彼方の埴生の小屋に小雨降り床さへ濡れぬ身に添へ我妹
[仮名],をちかたの,はにふのをやに,こさめふり,とこさへぬれぬ,みにそへわぎも
[_]
[左注]
[_]
[校異]<> → X [西(左貼紙)][類][細][紀]
[_]
[KW],地名,大阪府,京都府,恋愛,逢会

2684

[題詞](寄物陳思)

[原文]笠無登 人尓者言<手> 雨乍見 留之君我 容儀志所念
[訓読]笠なしと人には言ひて雨障み留まりし君が姿し思ほゆ
[仮名],かさなしと,ひとにはいひて,あまつつみ,とまりしきみが,すがたしおもほゆ
[_]
[左注]
[_]
[校異]
[_]
[KW],女歌,恋愛,追懐

2685

[題詞](寄物陳思)

[原文]妹門 去過不勝都 久方乃 雨毛零奴可 其乎因将為
[訓読]妹が門行き過ぎかねつひさかたの雨も降らぬかそをよしにせむ
[仮名],いもがかど,ゆきすぎかねつ,ひさかたの,あめもふらぬか,そをよしにせむ
[_]
[左注]
[_]
[校異]
[_]
[KW],恋愛

2686

[題詞](寄物陳思)

[原文]夜占問 吾袖尓置 <白>露乎 於公令視跡 取者<消>管
[訓読]夕占問ふ我が袖に置く白露を君に見せむと取れば消につつ
[仮名],ゆふけとふ,わがそでにおく,しらつゆを,きみにみせむと,とればけにつつ
[_]
[左注]
[_]
[校異]<> → 白 [嘉][細] / 清 → 消 [西(訂正右書)][嘉][文][紀]
[_]
[KW],女歌

2687

[題詞](寄物陳思)

[原文]櫻麻乃 苧原之下草 露有者 令明而射去 母者雖知
[訓読]桜麻の麻生の下草露しあれば明かしてい行け母は知るとも
[仮名],さくらをの,をふのしたくさ,つゆしあれば,あかしていゆけ,はははしるとも
[_]
[左注]
[_]
[校異]
[_]
[KW],植物,女歌,恋愛

2688

[題詞](寄物陳思)

[原文]待不得而 内者不入 白細布之 吾袖尓 露者置奴鞆
[訓読]待ちかねて内には入らじ白栲の我が衣手に露は置きぬとも
[仮名],まちかねて,うちにはいらじ,しろたへの,わがころもでに,つゆはおきぬとも
[_]
[左注]
[_]
[校異]
[_]
[KW],枕詞,女歌,恋情

2689

[題詞](寄物陳思)

[原文]朝露之 消安吾身 雖老 又若反 君乎思将待
[訓読]朝露の消やすき我が身老いぬともまたをちかへり君をし待たむ
[仮名],あさつゆの,けやすきあがみ,おいぬとも,またをちかへり,きみをしまたむ
[_]
[左注]
[_]
[校異]
[_]
[KW],枕詞,女歌,恋情

2690

[題詞](寄物陳思)

[原文]白細布乃 吾袖尓 露者置 妹者不相 猶<豫>四手
[訓読]白栲の我が衣手に露は置き妹は逢はさずたゆたひにして
[仮名],しろたへの,わがころもでに,つゆはおき,いもはあはさず,たゆたひにして
[_]
[左注]
[_]
[校異]預 → 豫 [西(左貼紙)][嘉][類][文]
[_]
[KW],枕詞,女歌,恋情

2691

[題詞](寄物陳思)

[原文]云<々> 物者不念 朝露之 吾身一者 君之随意
[訓読]かにかくに物は思はじ朝露の我が身ひとつは君がまにまに
[仮名],かにかくに,ものはおもはじ,あさつゆの,あがみひとつは,きみがまにまに
[_]
[左注]
[_]
[校異]云 → 々 [嘉][類][文][細]
[_]
[KW],枕詞,女歌,恋情

2692

[題詞](寄物陳思)

[原文]夕凝 霜置来 朝戸出<尓> 甚踐而 人尓所知名
[訓読]夕凝りの霜置きにけり朝戸出にいたくし踏みて人に知らゆな
[仮名],ゆふこりの,しもおきにけり,あさとでに,いたくしふみて,ひとにしらゆな
[_]
[左注]
[_]
[校異]<> → 尓 [嘉][文][紀]
[_]
[KW],恋情,女歌

2693

[題詞](寄物陳思)

[原文]如是許 戀乍不有者 朝尓日尓 妹之将履 地尓有申尾
[訓読]かくばかり恋ひつつあらずは朝に日に妹が踏むらむ地にあらましを
[仮名],かくばかり,こひつつあらずは,あさにけに,いもがふむらむ,つちにあらましを
[_]
[左注]
[_]
[校異]
[_]
[KW],恋情

2694

[題詞](寄物陳思)

[原文]足日木之 山鳥尾乃 一峰越 一目見之兒尓 應戀鬼香
[訓読]あしひきの山鳥の尾の一峰越え一目見し子に恋ふべきものか
[仮名],あしひきの,やまどりのをの,ひとをこえ,ひとめみしこに,こふべきものか
[_]
[左注]
[_]
[校異]
[_]
[KW],枕詞,動物,恋情

2695

[題詞](寄物陳思)

[原文]吾妹子尓 相縁乎無 駿河有 不盡乃高嶺之 焼管香将有
[訓読]我妹子に逢ふよしをなみ駿河なる富士の高嶺の燃えつつかあらむ
[仮名],わぎもこに,あふよしをなみ,するがなる,ふじのたかねの,もえつつかあらむ
[_]
[左注]
[_]
[校異]
[_]
[KW],地名,静岡県,恋情,序詞

2696

[題詞](寄物陳思)

[原文]荒熊之 住云山之 師齒迫山 責而雖問 汝名者不告
[訓読]荒熊のすむといふ山の師歯迫山責めて問ふとも汝が名は告らじ
[仮名],あらぐまの,すむといふやまの,しはせやま,せめてとふとも,ながなはのらじ
[_]
[左注]
[_]
[校異]
[_]
[KW],動物,地名,序詞,恋情

2697

[題詞](寄物陳思)

[原文]妹之名毛 吾名毛立者 惜社 布仕能高嶺之 燎乍渡
[訓読]妹が名も我が名も立たば惜しみこそ富士の高嶺の燃えつつわたれ
[仮名],いもがなも,わがなもたたば,をしみこそ,ふじのたかねの,もえつつわたれ
[_]
[左注]或歌曰 君名毛 妾名毛立者 惜己曽 不盡乃高山之 燎乍毛居
[_]
[校異]
[_]
[KW],地名,静岡県,名前,うわさ,恋情,序詞

2697S

[題詞](寄物陳思)或歌曰

[原文]君名毛 妾名毛立者 惜己曽 不盡乃高山之 燎乍毛居
[訓読]君が名も我が名も立たば惜しみこそ富士の高嶺の燃えつつも居れ
[仮名],きみがなも,わがなもたたば,をしみこそ,ふじのたかねの,もえつつもをれ
[_]
[左注]
[_]
[校異]
[_]
[KW],地名,序詞,地名,静岡県,名前,うわさ,恋情

2698

[題詞](寄物陳思)

[原文]徃而見而 来戀敷 朝香方 山越置代 宿不勝鴨
[訓読]行きて見て来れば恋ほしき朝香潟山越しに置きて寐ねかてぬかも
[仮名],ゆきてみて,くればこほしき,あさかがた,やまごしにおきて,いねかてぬかも
[_]
[左注]
[_]
[校異]
[_]
[KW],地名,大阪府,序詞,恋情

2699

[題詞](寄物陳思)

[原文]安太人<乃> 八名打度 瀬速 意者雖念 直不相鴨
[訓読]阿太人の梁打ち渡す瀬を早み心は思へど直に逢はぬかも
[仮名],あだひとの,やなうちわたす,せをはやみ,こころはおもへど,ただにあはぬかも
[_]
[左注]
[_]
[校異]之 → 乃 [嘉][古][紀]
[_]
[KW],地名,奈良県,五条市,序詞,恋情

2700

[題詞](寄物陳思)

[原文]玉蜻 石垣淵之 隠庭 伏<雖>死 汝名羽不謂
[訓読]玉かぎる岩垣淵の隠りには伏して死ぬとも汝が名は告らじ
[仮名],たまかぎる,いはかきふちの,こもりには,ふしてしぬとも,ながなはのらじ
[_]
[左注]
[_]
[校異]以 → 雖 [万葉考]
[_]
[KW],恋情,枕詞,序詞,名前

2701

[題詞](寄物陳思)

[原文]明日香川 明日文将渡 石走 遠心者 不思鴨
[訓読]明日香川明日も渡らむ石橋の遠き心は思ほえぬかも
[仮名],あすかがは,あすもわたらむ,いしはしの,とほきこころは,おもほえぬかも
[_]
[左注]
[_]
[校異]
[_]
[KW],地名,明日香,奈良県,序詞

2702

[題詞](寄物陳思)

[原文]飛鳥川 水徃増 弥日異 戀乃増者 在勝<申><自>
[訓読]明日香川水行きまさりいや日異に恋のまさらばありかつましじ
[仮名],あすかがは,みづゆきまさり,いやひけに,こひのまさらば,ありかつましじ
[_]
[左注]
[_]
[校異]甲 → 申 [嘉][類][古] / 目 → 自 [橋本進吉説]
[_]
[KW],地名,明日香,奈良県,序詞,恋情

2703

[題詞](寄物陳思)

[原文]真薦苅 大野川原之 水隠 戀来之妹之 紐解吾者
[訓読]ま薦刈る大野川原の水隠りに恋ひ来し妹が紐解く我れは
[仮名],まこもかる,おほのがはらの,みごもりに,こひこしいもが,ひもとくわれは
[_]
[左注]
[_]
[校異]
[_]
[KW],恋情,地名,序詞,恋情

2704

[題詞](寄物陳思)

[原文]悪氷木<乃> 山下動 逝水之 時友無雲 戀度鴨
[訓読]あしひきの山下響み行く水の時ともなくも恋ひわたるかも
[仮名],あしひきの,やましたとよみ,ゆくみづの,ときともなくも,こひわたるかも
[_]
[左注]
[_]
[校異]之 → 乃 [嘉][類][古]
[_]
[KW],枕詞,序詞,恋情

2705

[題詞](寄物陳思)

[原文]愛八師 不相君故 徒尓 此川瀬尓 玉裳<沾>津
[訓読]はしきやし逢はぬ君ゆゑいたづらにこの川の瀬に玉裳濡らしつ
[仮名],はしきやし,あはぬきみゆゑ,いたづらに,このかはのせに,たまもぬらしつ
[_]
[左注]
[_]
[校異]沽 → 沾 [文][細][温]
[_]
[KW],女歌,川渡り,恋情

2706

[題詞](寄物陳思)

[原文]泊湍<川> 速見早湍乎 結上而 不飽八妹登 問師公羽裳
[訓読]泊瀬川早み早瀬をむすび上げて飽かずや妹と問ひし君はも
[仮名],はつせがは,はやみはやせを,むすびあげて,あかずやいもと,とひしきみはも
[_]
[左注]
[_]
[校異]河 → 川 [嘉][文][類][紀]
[_]
[KW],地名,奈良県,長谷,女歌,恋情

2707

[題詞](寄物陳思)

[原文]青山之 石垣沼間乃 水隠尓 戀哉<将>度 相縁乎無
[訓読]青山の岩垣沼の水隠りに恋ひやわたらむ逢ふよしをなみ
[仮名],あをやまの,いはかきぬまの,みごもりに,こひやわたらむ,あふよしをなみ
[_]
[左注]
[_]
[校異]<> → 将 [嘉][類]
[_]
[KW],恋情,序詞

2708

[題詞](寄物陳思)

[原文]四長鳥 居名山響尓 行水乃 名耳所縁之 内妻波母 [一云 名<耳>所縁而 戀管哉 将在]
[訓読]しなが鳥猪名山響に行く水の名のみ寄そりし隠り妻はも [一云 名のみ寄そり て恋ひつつやあらむ]
[仮名],しながどり,ゐなやまとよに,ゆくみづの,なのみよそりし,こもりづまはも,[なの みよそりて,こひつつやあらむ]
[_]
[左注]
[_]
[校異]耳之 → 耳 [嘉]
[_]
[KW],動物,枕詞,大阪府池田市,序詞,恋情,異伝

2709

[題詞](寄物陳思)

[原文]吾妹子 吾戀樂者 水有者 之賀良三<超>而 應逝衣思 [或本歌發句云 相不思 人 乎念久]
[訓読]我妹子に我が恋ふらくは水ならばしがらみ越して行くべく思ほゆ [或本歌發句 云 相思はぬ人を思はく]
[仮名],わぎもこに,あがこふらくは,みづならば,しがらみこして,ゆくべくおもほゆ,[あ ひおもはぬ,ひとをおもはく]
[_]
[左注]
[_]
[校異]越 → 超 [嘉][文][類][紀] / 衣 (塙)(楓) 所
[_]
[KW],恋情,異伝

2710

[題詞](寄物陳思)

[原文]狗上之 鳥籠山尓有 不知也河 不知二五寸許瀬 余名告奈
[訓読]犬上の鳥籠の山なる不知哉川いさとを聞こせ我が名告らすな
[仮名],いぬかみの,とこのやまなる,いさやかは,いさとをきこせ,わがなのらすな
[_]
[左注]
[_]
[校異]
[_]
[KW],地名,滋賀県,彦根市,序詞,名前

2711

[題詞](寄物陳思)

[原文]奥山之 木葉隠而 行水乃 音聞従 常不所忘
[訓読]奥山の木の葉隠りて行く水の音聞きしより常忘らえず
[仮名],おくやまの,このはがくりて,ゆくみづの,おとききしより,つねわすらえず
[_]
[左注]
[_]
[校異]
[_]
[KW],序詞,恋情,うわさ

2712

[題詞](寄物陳思)

[原文]言急者 中波余騰益 水無河 絶跡云事乎 有超名湯目
[訓読]言急くは中は淀ませ水無川絶ゆといふことをありこすなゆめ
[仮名],こととくは,なかはよどませ,みなしがは,たゆといふことを,ありこすなゆめ
[_]
[左注]
[_]
[校異]
[_]
[KW],枕詞,うわさ,女歌

2713

[題詞](寄物陳思)

[原文]明日香河 逝湍乎早見 将速登 待良武妹乎 此日晩津
[訓読]明日香川行く瀬を早み早けむと待つらむ妹をこの日暮らしつ
[仮名],あすかがは,ゆくせをはやみ,はやけむと,まつらむいもを,このひくらしつ
[_]
[左注]
[_]
[校異]
[_]
[KW],地名,明日香,奈良県,序詞,恋情

2714

[題詞](寄物陳思)

[原文]物部乃 八十氏川之 急瀬 立不得戀毛 吾為鴨 [一云 立而毛君者 忘金津藻]
[訓読]もののふの八十宇治川の早き瀬に立ちえぬ恋も我れはするかも [一云 立ちて も君は忘れかねつも]
[仮名],もののふの,やそうぢがはの,はやきせに,たちえぬこひも,あれはするかも,[たち てもきみは,わすれかねつも]
[_]
[左注]
[_]
[校異]
[_]
[KW],枕詞,地名,京都府,序詞,恋情,異伝

2715

[題詞](寄物陳思)

[原文]神名火 打廻前乃 石淵 隠而耳八 吾戀居
[訓読]神なびの打廻の崎の岩淵の隠りてのみや我が恋ひ居らむ
[仮名],かむなびの,うちみのさきの,いはぶちの,こもりてのみや,あがこひをらむ
[_]
[左注]
[_]
[校異]
[_]
[KW],枕詞,奈良県,明日香,序詞,恋情

2716

[題詞](寄物陳思)

[原文]自高山 出来水 石觸 破衣念 妹不相夕者
[訓読]高山ゆ出で来る水の岩に触れ砕けてぞ思ふ妹に逢はぬ夜は
[仮名],たかやまゆ,いでくるみづの,いはにふれ,くだけてぞおもふ,いもにあはぬよは
[_]
[左注]
[_]
[校異]
[_]
[KW],恋情,序詞

2717

[題詞](寄物陳思)

[原文]朝東風尓 井<堤超>浪之 世<染>似裳 不相鬼故 瀧毛響動二
[訓読]朝東風にゐで越す波の外目にも逢はぬものゆゑ瀧もとどろに
[仮名],あさごちに,ゐでこすなみの,よそめにも,あはぬものゆゑ,たきもとどろに
[_]
[左注]
[_]
[校異]提越 → 堤超 [類] / 蝶 → 染 [万葉考]
[_]
[KW],恋情,序詞,うわさ

2718

[題詞](寄物陳思)

[原文]高山之 石本瀧千 逝水之 音尓者不立 戀而雖死
[訓読]高山の岩もとたぎち行く水の音には立てじ恋ひて死ぬとも
[仮名],たかやまの,いはもとたぎち,ゆくみづの,おとにはたてじ,こひてしぬとも
[_]
[左注]
[_]
[校異]
[_]
[KW],恋情,序詞,うわさ

2719

[題詞](寄物陳思)

[原文]隠沼乃 下尓戀者 飽不足 人尓語都 可忌物乎
[訓読]隠り沼の下に恋ふれば飽き足らず人に語りつ忌むべきものを
[仮名],こもりぬの,したにこふれば,あきだらず,ひとにかたりつ,いむべきものを
[_]
[左注]
[_]
[校異]
[_]
[KW],恋情,うわさ,枕詞

2720

[題詞](寄物陳思)

[原文]水鳥乃 鴨之住池之 下樋無 欝悒君 今日見鶴鴨
[訓読]水鳥の鴨の棲む池の下樋なみいぶせき君を今日見つるかも
[仮名],みづとりの,かものすむいけの,したびなみ,いぶせききみを,けふみつるかも
[_]
[左注]
[_]
[校異]
[_]
[KW],動物,序詞

2721

[題詞](寄物陳思)

[原文]玉藻苅 井<堤>乃四賀良美 薄可毛 戀乃余杼女留 吾情可聞
[訓読]玉藻刈るゐでのしがらみ薄みかも恋の淀める我が心かも
[仮名],たまもかる,ゐでのしがらみ,うすみかも,こひのよどめる,あがこころかも
[_]
[左注]
[_]
[校異]提 → 堤 [西(訂正)][文]
[_]
[KW],枕詞,恋愛

2722

[題詞](寄物陳思)

[原文]吾妹子之 笠乃借手乃 和射見野尓 吾者入跡 妹尓告乞
[訓読]我妹子が笠のかりての和射見野に我れは入りぬと妹に告げこそ
[仮名],わぎもこが,かさのかりての,わざみのに,われはいりぬと,いもにつげこそ
[_]
[左注]
[_]
[校異]
[_]
[KW],地名,岐阜県,関ヶ原,序詞,羈旅,恋愛,望郷

2723

[題詞](寄物陳思)

[原文]數多不有 名乎霜惜三 埋木之 下<従>其戀 去方不知而
[訓読]あまたあらぬ名をしも惜しみ埋れ木の下ゆぞ恋ふるゆくへ知らずて
[仮名],あまたあらぬ,なをしもをしみ,うもれぎの,したゆぞこふる,ゆくへしらずて
[_]
[左注]
[_]
[校異]徒 → 従 [嘉][文][類][紀]
[_]
[KW],恋情,うわさ,枕詞

2724

[題詞](寄物陳思)

[原文]冷風之 千江之浦廻乃 木積成 心者依 後者雖不知
[訓読]秋風の千江の浦廻の木屑なす心は寄りぬ後は知らねど
[仮名],あきかぜの,ちえのうらみの,こつみなす,こころはよりぬ,のちはしらねど
[_]
[左注]
[_]
[校異]
[_]
[KW],地名,序詞,恋情

2725

[題詞](寄物陳思)

[原文]白細<砂> 三津之黄土 色出而 不云耳衣 我戀樂者
[訓読]白真砂御津の埴生の色に出でて言はなくのみぞ我が恋ふらくは
[仮名],しらまなご,みつのはにふの,いろにいでて,いはなくのみぞ,あがこふらくは
[_]
[左注]
[_]
[校異]妙 → 砂 [嘉][文][類][紀]
[_]
[KW],地名,大阪府,序詞,うわさ,恋情

2726

[題詞](寄物陳思)

[原文]風不吹 浦尓浪立 無名乎 吾者負香 逢者無二 [一云 女跡念而]
[訓読]風吹かぬ浦に波立ちなき名をも我れは負へるか逢ふとはなしに [一云 女と思 ひて]
[仮名],かぜふかぬ,うらになみたち,なきなをも,われはおへるか,あふとはなしに,[をみ なとおもひて]
[_]
[左注]
[_]
[校異]
[_]
[KW],序詞,うわさ,恋愛,異伝

2727

[題詞](寄物陳思)

[原文]酢蛾嶋之 夏身乃浦尓 依浪 間文置 吾不念君
[訓読]酢蛾島の夏身の浦に寄する波間も置きて我が思はなくに
[仮名],すがしまの,なつみのうらに,よするなみ,あひだもおきて,わがおもはなくに
[_]
[左注]
[_]
[校異]
[_]
[KW],地名,三重県,菅島,序詞,恋情

2728

[題詞](寄物陳思)

[原文]淡海之海 奥津嶋山 奥間經而 我念妹之 言繁<苦>
[訓読]近江の海沖つ島山奥まへて我が思ふ妹が言の繁けく
[仮名],あふみのうみ,おきつしまやま,おくまへて,あがおもふいもが,ことのしげけく
[_]
[左注]
[_]
[校異]之海 [嘉][古] 之 / <> → 苦 [嘉][類][古]
[_]
[KW],地名,琵琶湖,滋賀県,序詞,うわさ,恋愛

2729

[題詞](寄物陳思)

[原文]霰零 遠<津>大浦尓 縁浪 縦毛依十万 憎不有君
[訓読]霰降り遠つ大浦に寄する波よしも寄すとも憎くあらなくに
[仮名],あられふり,とほつおほうらに,よするなみ,よしもよすとも,にくくあらなくに
[_]
[左注]
[_]
[校異]<> → 津 [西(訂正)][嘉][文][類]
[_]
[KW],枕詞,地名,滋賀県,西浅井町,序詞,恋愛

2730

[題詞](寄物陳思)

[原文]木海之 名高之浦尓 依浪 音高鳧 不相子故尓
[訓読]紀の浦の名高の浦に寄する波音高きかも逢はぬ子ゆゑに
[仮名],きのうらの,なたかのうらに,よするなみ,おとだかきかも,あはぬこゆゑに
[_]
[左注]
[_]
[校異]
[_]
[KW],地名,和歌山県,海南市,序詞,うわさ,恋愛

2731

[題詞](寄物陳思)

[原文]牛窓之 浪乃塩左猪 嶋響 所依之<君> 不相鴨将有
[訓読]牛窓の波の潮騒島響み寄そりし君は逢はずかもあらむ
[仮名],うしまどの,なみのしほさゐ,しまとよみ,よそりしきみは,あはずかもあらむ
[_]
[左注]
[_]
[校異]君尓 → 君 [嘉][類]
[_]
[KW],地名,岡山県,牛窓町,うわさ,女歌,序詞

2732

[題詞](寄物陳思)

[原文]奥波 邊浪之来縁 左太能浦之 此左太過而 後将戀可聞
[訓読]沖つ波辺波の来寄る佐太の浦のこのさだ過ぎて後恋ひむかも
[仮名],おきつなみ,へなみのきよる,さだのうらの,このさだすぎて,のちこひむかも
[_]
[左注]
[_]
[校異]
[_]
[KW],地名,序詞,恋情

2733

[題詞](寄物陳思)

[原文]白浪之 来縁嶋乃 荒礒尓毛 有申物尾 戀乍不有者
[訓読]白波の来寄する島の荒礒にもあらましものを恋ひつつあらずは
[仮名],しらなみの,きよするしまの,ありそにも,あらましものを,こひつつあらずは
[_]
[左注]
[_]
[校異]
[_]
[KW],恋情

2734

[題詞](寄物陳思)

[原文]塩満者 水沫尓浮 細砂裳 吾者生鹿 戀者不死而
[訓読]潮満てば水泡に浮かぶ真砂にも我はなりてしか恋ひは死なずて
[仮名],しほみてば,みなわにうかぶ,まなごにも,わはなりてしか,こひはしなずて
[_]
[左注]
[_]
[校異]
[_]
[KW],恋情

2735

[題詞](寄物陳思)

[原文]住吉之 城師乃浦箕尓 布浪之 數妹乎 見因欲得
[訓読]住吉の岸の浦廻にしく波のしくしく妹を見むよしもがも
[仮名],すみのえの,きしのうらみに,しくなみの,しくしくいもを,みむよしもがも
[_]
[左注]
[_]
[校異]
[_]
[KW],地名,大阪府,住吉,序詞,恋情

2736

[題詞](寄物陳思)

[原文]風緒痛 甚振浪能 間無 吾念君者 相念濫香
[訓読]風をいたみいたぶる波の間なく我が思ふ妹は相思ふらむか
[仮名],かぜをいたみ,いたぶるなみの,あひだなく,あがおもふいもは,あひおもふらむ か
[_]
[左注]
[_]
[校異]
[_]
[KW],序詞,恋情,女歌

2737

[題詞](寄物陳思)

[原文]大伴之 三津乃白浪 間無 我戀良苦乎 人之不知久
[訓読]大伴の御津の白波間なく我が恋ふらくを人の知らなく
[仮名],おほともの,みつのしらなみ,あひだなく,あがこふらくを,ひとのしらなく
[_]
[左注]
[_]
[校異]
[_]
[KW],地名,大阪府,序詞,恋情,女歌

2738

[題詞](寄物陳思)

[原文]大船乃 絶多經海尓 重石下 何如為鴨 吾戀将止
[訓読]大船のたゆたふ海にいかり下ろしいかにせばかも我が恋やまむ
[仮名],おほぶねの,たゆたふうみに,いかりおろし,いかにせばかも,あがこひやまむ
[_]
[左注]
[_]
[校異]
[_]
[KW],序詞,恋情

2739

[題詞](寄物陳思)

[原文]水沙兒居 奥<麁>礒尓 縁浪 徃方毛不知 吾戀久波
[訓読]みさご居る沖つ荒礒に寄する波ゆくへも知らず我が恋ふらくは
[仮名],みさごゐる,おきつありそに,よするなみ,ゆくへもしらず,あがこふらくは
[_]
[左注]
[_]
[校異]原字不明 → 麁 [西(上書訂正)][嘉][文][類]
[_]
[KW],動物,鳥,序詞,恋情

2740

[題詞](寄物陳思)

[原文]大船之 <艫毛舳>毛 依浪 <依>友吾者 君之<任>意
[訓読]大船の艫にも舳にも寄する波寄すとも我れは君がまにまに
[仮名],おほぶねの,ともにもへにも,よするなみ,よすともわれは,きみがまにまに
[_]
[左注]
[_]
[校異]舳毛艫 → 艫毛舳 [嘉][類][古] / <> → 依 [西(訂正)][嘉][文][類][紀] / 随 → 任 [嘉 ][類]
[_]
[KW],恋情,序詞,女歌

2741

[題詞](寄物陳思)

[原文]大海二 立良武浪者 間将有 公二戀等九 止時毛梨
[訓読]大船に立つらむ波は間あらむ君に恋ふらくやむ時もなし
[仮名],おほぶねに,たつらむなみは,あひだあらむ,きみにこふらく,やむときもなし
[_]
[左注]
[_]
[校異]
[_]
[KW],恋情

2742

[題詞](寄物陳思)

[原文]<壮>鹿海部乃 火氣焼立而 燎塩乃 辛戀毛 吾為鴨
[訓読]志賀の海人の煙焼き立て焼く塩の辛き恋をも我れはするかも
[仮名],しかのあまの,けぶりやきたて,やくしほの,からきこひをも,あれはするかも
[_]
[左注]右一首或云石川君子朝臣作之
[_]
[校異]牡 → 壮 [古]
[_]
[KW],作者:石川君子,作者異伝,地名,福岡県,志賀島,序詞,恋愛

2743

[題詞](寄物陳思)

[原文]中々二 君二不戀者 <枚>浦乃 白水郎有申尾 玉藻苅管
[訓読]なかなかに君に恋ひずは比良の浦の海人ならましを玉藻刈りつつ
[仮名],なかなかに,きみにこひずは,ひらのうらの,あまならましを,たまもかりつつ
[_]
[左注]或本歌曰 中々尓 君尓不戀波 留<牛馬>浦之 海部尓有益男 珠藻苅<々>
[_]
[校異]牧 → 枚 [類][古][紀] / 鳥 → 牛馬 [嘉] / 苅 → 々 [嘉][類][文][細]
[_]
[KW],地名,滋賀県,比良,植物,恋愛

2743S

[題詞](寄物陳思)或本歌曰

[原文]中々尓 君尓不戀波 留<牛馬>浦之 海部尓有益男 珠藻苅<々>
[訓読]なかなかに君に恋ひずは縄の浦の海人にあらましを玉藻刈る刈る
[仮名],なかなかに,きみにこひずは,なはのうらの,あまにあらましを,たまもかるかる
[_]
[左注]
[_]
[校異]
[_]
[KW],地名,兵庫県,相生市,恋愛,植物,異伝

2744

[題詞](寄物陳思)

[原文]鈴寸取 海部之燭火 外谷 不見人故 戀比日
[訓読]鱸取る海人の燈火外にだに見ぬ人ゆゑに恋ふるこのころ
[仮名],すずきとる,あまのともしび,よそにだに,みぬひとゆゑに,こふるこのころ
[_]
[左注]
[_]
[校異]
[_]
[KW],動物,魚,枕詞,序詞,恋情

2745

[題詞](寄物陳思)

[原文]湊入之 葦別小<舟> 障多見 吾念<公>尓 不相頃者鴨
[訓読]港入りの葦別け小舟障り多み我が思ふ君に逢はぬころかも
[仮名],みなといりの,あしわけをぶね,さはりおほみ,あがおもふきみに,あはぬころか も
[_]
[左注]
[_]
[校異]船 → 舟 [嘉][文] / 君 → 公 [嘉][文][類][紀]
[_]
[KW],序詞,うわさ,障害,恋情

2746

[題詞](寄物陳思)

[原文]庭浄 奥方榜出 海舟乃 執梶間無 戀為鴨
[訓読]庭清み沖へ漕ぎ出る海人舟の楫取る間なき恋もするかも
[仮名],にはきよみ,おきへこぎづる,あまぶねの,かぢとるまなき,こひもするかも
[_]
[左注]
[_]
[校異]
[_]
[KW],序詞,恋情

2747

[題詞](寄物陳思)

[原文]味鎌之 塩津乎射而 水手船之 名者謂手師乎 不相将有八方
[訓読]あぢかまの塩津をさして漕ぐ船の名は告りてしを逢はざらめやも
[仮名],あぢかまの,しほつをさして,こぐふねの,なはのりてしを,あはざらめやも
[_]
[左注]
[_]
[校異]
[_]
[KW],地名,滋賀県,塩津,序詞,恋愛,怨み

2748

[題詞](寄物陳思)

[原文]大<船>尓 葦荷苅積 四美見似裳 妹心尓 乗来鴨
[訓読]大船に葦荷刈り積みしみみにも妹は心に乗りにけるかも
[仮名],おほぶねに,あしにかりつみ,しみみにも,いもはこころに,のりにけるかも
[_]
[左注]
[_]
[校異]舟 → 船 [嘉][類][京]
[_]
[KW],序詞,植物,恋情

2749

[題詞](寄物陳思)

[原文]驛路尓 引舟渡 直乗尓 妹情尓 乗来鴨
[訓読]駅路に引き舟渡し直乗りに妹は心に乗りにけるかも
[仮名],はゆまぢに,ひきふねわたし,ただのりに,いもはこころに,のりにけるかも
[_]
[左注]
[_]
[校異]
[_]
[KW],序詞,恋情

2750

[題詞](寄物陳思)

[原文]吾妹子 不相久 馬下乃 阿倍橘乃 蘿生左右
[訓読]我妹子に逢はず久しもうましもの安倍橘の苔生すまでに
[仮名],わぎもこに,あはずひさしも,うましもの,あへたちばなの,こけむすまでに
[_]
[左注]
[_]
[校異]
[_]
[KW],植物,恋情

2751

[題詞](寄物陳思)

[原文]味乃住 渚沙乃入江之 荒礒松 我乎待兒等波 但一耳
[訓読]あぢの住む渚沙の入江の荒礒松我を待つ子らはただ独りのみ
[仮名],あぢのすむ,すさのいりえの,ありそまつ,あをまつこらは,ただひとりのみ
[_]
[左注]
[_]
[校異]
[_]
[KW],動物,地名,植物,序詞,恋愛

2752

[題詞](寄物陳思)

[原文]吾妹兒乎 聞都賀野邊能 靡合歡木 吾者隠不得 間無念者
[訓読]我妹子を聞き都賀野辺のしなひ合歓木我れは忍びず間なくし思へば
[仮名],わぎもこを,ききつがのへの,しなひねぶ,われはしのびず,まなくしおもへば
[_]
[左注]
[_]
[校異]
[_]
[KW],地名,植物,序詞,恋情

2753

[題詞](寄物陳思)

[原文]浪間従 所見小嶋 濱久木 久成奴 君尓不相四手
[訓読]波の間ゆ見ゆる小島の浜久木久しくなりぬ君に逢はずして
[仮名],なみのまゆ,みゆるこしまの,はまひさぎ,ひさしくなりぬ,きみにあはずして
[_]
[左注]
[_]
[校異]
[_]
[KW],植物,序詞,恋情

2754

[題詞](寄物陳思)

[原文]朝柏 閏八河邊之 小竹之眼笶 思而宿者 夢所見来
[訓読]朝柏潤八川辺の小竹の芽の偲ひて寝れば夢に見えけり
[仮名],あさかしは,うるやかはへの,しののめの,しのひてぬれば,いめにみえけり
[_]
[左注]
[_]
[校異]
[_]
[KW],植物,地名,序詞,恋情

2755

[題詞](寄物陳思)

[原文]淺茅原 苅標刺而 空事文 所縁之君之 辞鴛鴦将待
[訓読]浅茅原刈り標さして空言も寄そりし君が言をし待たむ
[仮名],あさぢはら,かりしめさして,むなことも,よそりしきみが,ことをしまたむ
[_]
[左注]
[_]
[校異]
[_]
[KW],植物,うわさ,女歌,恋愛

2756

[題詞](寄物陳思)

[原文]月草之 借有命 在人乎 何知而鹿 後毛将相<云>
[訓読]月草の借れる命にある人をいかに知りてか後も逢はむと言ふ
[仮名],つきくさの,かれるいのちに,あるひとを,いかにしりてか,のちもあはむといふ
[_]
[左注]
[_]
[校異]公 → 云 [西(訂正)][嘉][文][類]
[_]
[KW],植物,枕詞,女歌

2757

[題詞](寄物陳思)

[原文]王之 御笠尓縫有 在間菅 有管雖看 事無吾妹
[訓読]大君の御笠に縫へる有間菅ありつつ見れど事なき我妹
[仮名],おほきみの,みかさにぬへる,ありますげ,ありつつみれど,ことなきわぎも
[_]
[左注]
[_]
[校異]
[_]
[KW],植物,枕詞,序詞,地名,兵庫県,有馬,恋愛

2758

[題詞](寄物陳思)

[原文]菅根之 懃妹尓 戀西 益卜<男>心 不所念鳧
[訓読]菅の根のねもころ妹に恋ふるにし大夫心思ほえぬかも
[仮名],すがのねの,ねもころいもに,こふるにし,ますらをごころ,おもほえぬかも
[_]
[左注]
[_]
[校異]思而 → 男 [万葉集略解(宣長説)]
[_]
[KW],植物,恋情,枕詞

2759

[題詞](寄物陳思)

[原文]吾屋戸之 穂蓼古幹 採生之 實成左右二 君乎志将待
[訓読]我が宿の穂蓼古幹摘み生し実になるまでに君をし待たむ
[仮名],わがやどの,ほたでふるから,つみおほし,みになるまでに,きみをしまたむ
[_]
[左注]
[_]
[校異]
[_]
[KW],植物,比喩,女歌,恋愛

2760

[題詞](寄物陳思)

[原文]足桧之 山澤徊具乎 採将去 日谷毛相<為> 母者責十方
[訓読]あしひきの山沢ゑぐを摘みに行かむ日だにも逢はせ母は責むとも
[仮名],あしひきの,やまさはゑぐを,つみにゆかむ,ひだにもあはせ,はははせむとも
[_]
[左注]
[_]
[校異]将 → 為 [嘉][類]
[_]
[KW],枕詞,植物,女歌,恋情

2761

[題詞](寄物陳思)

[原文]奥山之 石本菅乃 根深毛 所思鴨 吾念妻者
[訓読]奥山の岩本菅の根深くも思ほゆるかも我が思ひ妻は
[仮名],おくやまの,いはもとすげの,ねふかくも,おもほゆるかも,あがおもひづまは
[_]
[左注]
[_]
[校異]
[_]
[KW],植物,序詞,恋情

2762

[題詞](寄物陳思)

[原文]蘆垣之 中之似兒草 尓故余漢 我共咲為而 人尓所知名
[訓読]葦垣の中の和草にこやかに我れと笑まして人に知らゆな
[仮名],あしかきの,なかのにこぐさ,にこやかに,われとゑまして,ひとにしらゆな
[_]
[左注]
[_]
[校異]
[_]
[KW],植物,うわさ,女歌,序詞

2763

[題詞](寄物陳思)

[原文]紅之 淺葉乃野良尓 苅草乃 束之間毛 吾忘渚菜
[訓読]紅の浅葉の野らに刈る草の束の間も我を忘らすな
[仮名],くれなゐの,あさはののらに,かるかやの,つかのあひだも,あをわすらすな
[_]
[左注]
[_]
[校異]
[_]
[KW],植物,序詞,地名,女歌,恋愛

2764

[題詞](寄物陳思)

[原文]為妹 壽遺在 苅<薦>之 思乱而 應死物乎
[訓読]妹がため命残せり刈り薦の思ひ乱れて死ぬべきものを
[仮名],いもがため,いのちのこせり,かりこもの,おもひみだれて,しぬべきものを
[_]
[左注]
[_]
[校異]薦 [西(上書訂正)][嘉][文][類]
[_]
[KW],植物,枕詞,恋情

2765

[題詞](寄物陳思)

[原文]吾妹子尓 戀乍不有者 苅薦之 思乱而 可死鬼乎
[訓読]我妹子に恋つつあらずは刈り薦の思ひ乱れて死ぬべきものを
[仮名],わぎもこに,こひつつあらずは,かりこもの,おもひみだれて,しぬべきものを
[_]
[左注]
[_]
[校異]
[_]
[KW],植物,恋情,枕詞

2766

[題詞](寄物陳思)

[原文]三嶋江之 入江之薦乎 苅尓社 吾乎婆公者 念有来
[訓読]三島江の入江の薦を刈りにこそ我れをば君は思ひたりけれ
[仮名],みしまえの,いりえのこもを,かりにこそ,われをばきみは,おもひたりけれ
[_]
[左注]
[_]
[校異]
[_]
[KW],地名,大阪府,大阪市,植物,序詞,恋愛,女歌

2767

[題詞](寄物陳思)

[原文]足引乃 山橘之 色出而 吾戀南雄 <人>目難為名
[訓読]あしひきの山橘の色に出でて我は恋なむを人目難みすな
[仮名],あしひきの,やまたちばなの,いろにいでて,あはこひなむを,ひとめかたみすな
[_]
[左注]
[_]
[校異]八 → 人 [万葉考]
[_]
[KW],枕詞,植物,序詞,うわさ,恋情

2768

[題詞](寄物陳思)

[原文]葦多頭乃 颯入江乃 白菅乃 知為等 乞痛鴨
[訓読]葦鶴の騒く入江の白菅の知らせむためと言痛かるかも
[仮名],あしたづの,さわくいりえの,しらすげの,しらせむためと,こちたかるかも
[_]
[左注]
[_]
[校異]
[_]
[KW],動物,鳥,植物,序詞,うわさ,恋愛

2769

[題詞](寄物陳思)

[原文]吾背子尓 吾戀良久者 夏草之 苅除十方 生及如
[訓読]我が背子に我が恋ふらくは夏草の刈り除くれども生ひしくごとし
[仮名],わがせこに,あがこふらくは,なつくさの,かりそくれども,おひしくごとし
[_]
[左注]
[_]
[校異]
[_]
[KW],植物,女歌,恋愛,自嘲

2770

[題詞](寄物陳思)

[原文]道邊乃 五柴原能 何時毛々々々 人之将縦 言乎思将待
[訓読]道の辺のいつ柴原のいつもいつも人の許さむ言をし待たむ
[仮名],みちのへの,いつしばはらの,いつもいつも,ひとのゆるさむ,ことをしまたむ
[_]
[左注]
[_]
[校異]
[_]
[KW],植物,序詞,恋愛

2771

[題詞](寄物陳思)

[原文]吾妹子之 袖乎憑而 真野浦之 小菅乃笠乎 不著而来二来有
[訓読]我妹子が袖を頼みて真野の浦の小菅の笠を着ずて来にけり
[仮名],わぎもこが,そでをたのみて,まののうらの,こすげのかさを,きずてきにけり
[_]
[左注]
[_]
[校異]
[_]
[KW],地名,兵庫県,神戸市,植物,恋情

2772

[題詞](寄物陳思)

[原文]真野池之 小菅乎笠尓 不縫為<而> 人之遠名乎 可立物可
[訓読]真野の池の小菅を笠に縫はずして人の遠名を立つべきものか
[仮名],まののいけの,こすげをかさに,ぬはずして,ひとのとほなを,たつべきものか
[_]
[左注]
[_]
[校異]<> → 而 [嘉][文][類][紀]
[_]
[KW],地名,兵庫県,神戸市,うわさ,恋愛

2773

[題詞](寄物陳思)

[原文]刺竹 齒隠有 吾背子之 吾許不来者 吾将戀八方
[訓読]さす竹の世隠りてあれ我が背子が我がりし来ずは我れ恋めやも
[仮名],さすたけの,よごもりてあれ,わがせこが,わがりしこずは,あれこひめやも
[_]
[左注]
[_]
[校異]
[_]
[KW],枕詞,恋情

2774

[題詞](寄物陳思)

[原文]神南備能 淺小竹原乃 美 妾思公之 聲之知家口
[訓読]神奈備の浅小竹原のうるはしみ我が思ふ君が声のしるけく
[仮名],かむなびの,あさぢのはらの,うるはしみ,あがおもふきみが,こゑのしるけく
[_]
[左注]
[_]
[校異]
[_]
[KW],序詞,恋愛,地名

2775

[題詞](寄物陳思)

[原文]山高 谷邊蔓在 玉葛 絶時無 見因毛欲得
[訓読]山高み谷辺に延へる玉葛絶ゆる時なく見むよしもがも
[仮名],やまたかみ,たにへにはへる,たまかづら,たゆるときなく,みむよしもがも
[_]
[左注]
[_]
[校異]
[_]
[KW],植物,序詞,恋愛

2776

[題詞](寄物陳思)

[原文]道邊 草冬野丹 履干 吾立待跡 妹告乞
[訓読]道の辺の草を冬野に踏み枯らし我れ立ち待つと妹に告げこそ
[仮名],みちのへの,くさをふゆのに,ふみからし,われたちまつと,いもにつげこそ
[_]
[左注]
[_]
[校異]
[_]
[KW],恋愛

2777

[題詞](寄物陳思)

[原文]疊薦 隔編數 通者 道之柴草 不生有申尾
[訓読]畳薦へだて編む数通はさば道の芝草生ひずあらましを
[仮名],たたみこも,へだてあむかず,かよはさば,みちのしばくさ,おひずあらましを
[_]
[左注]
[_]
[校異]
[_]
[KW],植物,枕詞,恋愛

2778

[題詞](寄物陳思)

[原文]水底尓 生玉藻之 生不出 縦比者 如是而将通
[訓読]水底に生ふる玉藻の生ひ出でずよしこのころはかくて通はむ
[仮名],みなそこに,おふるたまもの,おひいでず,よしこのころは,かくてかよはむ
[_]
[左注]
[_]
[校異]
[_]
[KW],植物,序詞,うわさ,人目,恋愛

2779

[題詞](寄物陳思)

[原文]海原之 奥津縄乗 打靡 心裳<四>怒尓 所念鴨
[訓読]海原の沖つ縄海苔うち靡き心もしのに思ほゆるかも
[仮名],うなはらの,おきつなはのり,うちなびき,こころもしのに,おもほゆるかも
[_]
[左注]
[_]
[校異]原字不明 → 四 [西(上書訂正)][嘉][文][類][紀]
[_]
[KW],植物,序詞,恋情

2780

[題詞](寄物陳思)

[原文]紫之 名高乃浦之 靡藻之 情者妹尓 因西鬼乎
[訓読]紫の名高の浦の靡き藻の心は妹に寄りにしものを
[仮名],むらさきの,なたかのうらの,なびきもの,こころはいもに,よりにしものを
[_]
[左注]
[_]
[校異]
[_]
[KW],地名,和歌山県,海南市,枕詞,序詞,恋愛

2781

[題詞](寄物陳思)

[原文]海底 奥乎深目手 生藻之 最今社 戀者為便無寸
[訓読]海の底奥を深めて生ふる藻のもとも今こそ恋はすべなき
[仮名],わたのそこ,おきをふかめて,おふるもの,もともいまこそ,こひはすべなき
[_]
[左注]
[_]
[校異]
[_]
[KW],植物,序詞,恋愛

2782

[題詞](寄物陳思)

[原文]左寐蟹齒 孰共毛宿常 奥藻之 名延之君之 言待吾乎
[訓読]さ寝がには誰れとも寝めど沖つ藻の靡きし君が言待つ我れを
[仮名],さぬがには,たれともぬめど,おきつもの,なびきしきみが,ことまつわれを
[_]
[左注]
[_]
[校異]
[_]
[KW],植物,女歌

2783

[題詞](寄物陳思)

[原文]吾妹子之 奈何跡裳吾 不思者 含花之 穂應咲
[訓読]我妹子が何とも我れを思はねばふふめる花の穂に咲きぬべし
[仮名],わぎもこが,なにともわれを,おもはねば,ふふめるはなの,ほにさきぬべし
[_]
[左注]
[_]
[校異]
[_]
[KW],植物,比喩,恋情

2784

[題詞](寄物陳思)

[原文]隠庭 戀而死鞆 三苑原之 鶏冠草花乃 色二出目八<方>
[訓読]隠りには恋ひて死ぬともみ園生の韓藍の花の色に出でめやも
[仮名],こもりには,こひてしぬとも,みそのふの,からあゐのはなの,いろにいでめやも
[_]
[左注]
[_]
[校異]目 → 方 [嘉][文][類][紀]
[_]
[KW],植物,序詞,恋情

2785

[題詞](寄物陳思)

[原文]開花者 雖過時有 我戀流 心中者 止時毛梨
[訓読]咲く花は過ぐる時あれど我が恋ふる心のうちはやむ時もなし
[仮名],さくはなは,すぐるときあれど,あがこふる,こころのうちは,やむときもなし
[_]
[左注]
[_]
[校異]
[_]
[KW],恋情

2786

[題詞](寄物陳思)

[原文]山振之 尓保敝流妹之 翼酢色乃 赤裳之為形 夢所見管
[訓読]山吹のにほへる妹がはねず色の赤裳の姿夢に見えつつ
[仮名],やまぶきの,にほへるいもが,はねずいろの,あかものすがた,いめにみえつつ
[_]
[左注]
[_]
[校異]
[_]
[KW],枕詞,植物,恋情

2787

[題詞](寄物陳思)

[原文]天地之 依相極 玉緒之 不絶常念 妹之當見津
[訓読]天地の寄り合ひの極み玉の緒の絶えじと思ふ妹があたり見つ
[仮名],あめつちの,よりあひのきはみ,たまのをの,たえじとおもふ,いもがあたりみつ
[_]
[左注]
[_]
[校異]
[_]
[KW],枕詞,羈旅,望郷,喜び,恋愛

2788

[題詞](寄物陳思)

[原文]生緒尓 念者苦 玉緒乃 絶天乱名 知者知友
[訓読]息の緒に思へば苦し玉の緒の絶えて乱れな知らば知るとも
[仮名],いきのをに,おもへばくるし,たまのをの,たえてみだれな,しらばしるとも
[_]
[左注]
[_]
[校異]
[_]
[KW],枕詞,恋情,人目

2789

[題詞](寄物陳思)

[原文]玉緒之 絶而有戀之 乱者 死巻耳其 又毛不相為而
[訓読]玉の緒の絶えたる恋の乱れなば死なまくのみぞまたも逢はずして
[仮名],たまのをの,たえたるこひの,みだれなば,しなまくのみぞ,またもあはずして
[_]
[左注]
[_]
[校異]
[_]
[KW],枕詞,恋情

2790

[題詞](寄物陳思)

[原文]玉緒之 久栗縁乍 末終 去者不別 同緒将有
[訓読]玉の緒のくくり寄せつつ末つひに行きは別れず同じ緒にあらむ
[仮名],たまのをの,くくりよせつつ,すゑつひに,ゆきはわかれず,おなじをにあらむ
[_]
[左注]
[_]
[校異]
[_]
[KW],枕詞,序詞,恋情

2791

[題詞](寄物陳思)

[原文]片絲用 貫有玉之 緒乎弱 乱哉為南 人之可知
[訓読]片糸もち貫きたる玉の緒を弱み乱れやしなむ人の知るべく
[仮名],かたいともち,ぬきたるたまの,ををよわみ,みだれやしなむ,ひとのしるべく
[_]
[左注]
[_]
[校異]
[_]
[KW],恋情,比喩,序詞,人目

2792

[題詞](寄物陳思)

[原文]玉緒之 <寫>意哉 年月乃 行易及 妹尓不逢将有
[訓読]玉の緒の現し心や年月の行きかはるまで妹に逢はずあらむ
[仮名],たまのをの,うつしごころや,としつきの,ゆきかはるまで,いもにあはずあらむ
[_]
[左注]
[_]
[校異]嶋 → 寫 [万葉集略解(宣長説)]
[_]
[KW],恋情,枕詞

2793

[題詞](寄物陳思)

[原文]玉緒之 間毛不置 欲見 吾思妹者 家遠在而
[訓読]玉の緒の間も置かず見まく欲り我が思ふ妹は家遠くありて
[仮名],たまのをの,あひだもおかず,みまくほり,あがおもふいもは,いへどほくありて
[_]
[左注]
[_]
[校異]
[_]
[KW],恋情,枕詞

2794

[題詞](寄物陳思)

[原文]隠津之 澤立見尓有 石根従毛 達而念 君尓相巻者
[訓読]隠り津の沢たつみなる岩根ゆも通してぞ思ふ君に逢はまくは
[仮名],こもりづの,さはたつみなる,いはねゆも,とほしてぞおもふ,きみにあはまくは
[_]
[左注]
[_]
[校異]
[_]
[KW],恋情,女歌,人目

2795

[題詞](寄物陳思)

[原文]木國之 飽等濱之 礒貝之 我者不忘 <年>者雖歴
[訓読]紀の国の飽等の浜の忘れ貝我れは忘れじ年は経ぬとも
[仮名],きのくにの,あくらのはまの,わすれがひ,われはわすれじ,としはへぬとも
[_]
[左注]
[_]
[校異]羊 → 年 [嘉][類][古][紀]
[_]
[KW],地名,和歌山県,序詞,恋情

2796

[題詞](寄物陳思)

[原文]水泳 玉尓接有 礒貝之 獨戀耳 <年>者經管
[訓読]水くくる玉に交じれる磯貝の片恋ひのみに年は経につつ
[仮名],みづくくる,たまにまじれる,いそかひの,かたこひのみに,としはへにつつ
[_]
[左注]
[_]
[校異]羊 → 年 [嘉][類][古][紀]
[_]
[KW],序詞,恋情

2797

[題詞](寄物陳思)

[原文]住吉之 濱尓縁云 打背貝 實無言以 余将戀八方
[訓読]住吉の浜に寄るといふうつせ貝実なき言もち我れ恋ひめやも
[仮名],すみのえの,はまによるといふ,うつせがひ,みなきこともち,あれこひめやも
[_]
[左注]
[_]
[校異]
[_]
[KW],地名,大阪府,住吉,序詞,恋情

2798

[題詞](寄物陳思)

[原文]伊勢乃白水郎之 朝魚夕菜尓 潜云 鰒貝之 獨念荷指天
[訓読]伊勢の海人の朝な夕なに潜くといふ鰒の貝の片思にして
[仮名],いせのあまの,あさなゆふなに,かづくといふ,あはびのかひの,かたもひにして
[_]
[左注]
[_]
[校異]
[_]
[KW],地名,三重県,伊勢,序詞,恋情

2799

[題詞](寄物陳思)

[原文]人事乎 繁跡君乎 鶉鳴 人之古家尓 相<語>而遣都
[訓読]人言を繁みと君を鶉鳴く人の古家に語らひて遣りつ
[仮名],ひとごとを,しげみときみを,うづらなく,ひとのふるへに,かたらひてやりつ
[_]
[左注]
[_]
[校異]誥 → 語 [嘉][類][紀]
[_]
[KW],動物,うわさ,恋情,女歌,枕詞,鳥

2800

[題詞](寄物陳思)

[原文]旭時等 鶏鳴成 縦恵也思 獨宿夜者 開者雖明
[訓読]暁と鶏は鳴くなりよしゑやしひとり寝る夜は明けば明けぬとも
[仮名],あかときと,かけはなくなり,よしゑやし,ひとりぬるよは,あけばあけぬとも
[_]
[左注]
[_]
[校異]
[_]
[KW],動物,女歌,自嘲,恋愛,鳥

2801

[題詞](寄物陳思)

[原文]大海之 荒礒之渚鳥 朝名旦名 見巻欲乎 不所見公可聞
[訓読]大海の荒礒の洲鳥朝な朝な見まく欲しきを見えぬ君かも
[仮名],おほうみの,ありそのすどり,あさなさな,みまくほしきを,みえぬきみかも
[_]
[左注]
[_]
[校異]
[_]
[KW],動物,女歌,序詞,恋情,鳥

2802

[題詞](寄物陳思)

[原文]念友 念毛金津 足桧之 山鳥尾之 永此夜乎
[訓読]思へども思ひもかねつあしひきの山鳥の尾の長きこの夜を
[仮名],おもへども,おもひもかねつ,あしひきの,やまどりのをの,ながきこのよを
[_]
[左注]或本歌<曰> 足日木乃 山鳥之尾乃 四垂尾乃 長永夜乎 一鴨将宿
[_]
[校異]云 → 曰 [嘉][類][紀]
[_]
[KW],枕詞,動物,恋情,序詞,鳥

2802S

[題詞](寄物陳思)或本歌<曰>

[原文]足日木乃 山鳥之尾乃 四垂尾乃 長永夜乎 一鴨将宿
[訓読]あしひきの山鳥の尾のしだり尾の長々し夜をひとりかも寝む
[仮名],あしひきの,やまどりのをの,しだりをの,ながながしよを,ひとりかもねむ
[_]
[左注]
[_]
[校異]
[_]
[KW],枕詞,動物,序詞,恋情,女歌,異伝,鳥

2803

[題詞](寄物陳思)

[原文]里中尓 鳴奈流鶏之 喚立而 甚者不鳴 隠妻羽毛 [一云 里動 鳴成鶏]
[訓読]里中に鳴くなる鶏の呼び立てていたくは泣かぬ隠り妻はも [一云 里響め鳴く なる鶏の]
[仮名],さとなかに,なくなるかけの,よびたてて,いたくはなかぬ,こもりづまはも,[さと とよめ,なくなるかけの]
[_]
[左注]
[_]
[校異]
[_]
[KW],動物,序詞,異伝,恋情,鳥

2804

[題詞](寄物陳思)

[原文]高山尓 高部左渡 高々尓 余待公乎 待将出可聞
[訓読]高山にたかべさ渡り高々に我が待つ君を待ち出でむかも
[仮名],たかやまに,たかべさわたり,たかたかに,わがまつきみを,まちいでむかも
[_]
[左注]
[_]
[校異]
[_]
[KW],動物,鳥,序詞,女歌,恋情

2805

[題詞](寄物陳思)

[原文]伊勢能海従 鳴来鶴乃 音杼侶毛 君之所聞者 吾将戀八方
[訓読]伊勢の海ゆ鳴き来る鶴の音どろも君が聞こさば我れ恋ひめやも
[仮名],いせのうみゆ,なきくるたづの,おとどろも,きみがきこさば,あれこひめやも
[_]
[左注]
[_]
[校異]
[_]
[KW],地名,三重県,伊勢,動物,鳥,序詞,女歌,恋情

2806

[題詞](寄物陳思)

[原文]吾妹兒尓 戀尓可有牟 奥尓住 鴨之浮宿之 安雲無
[訓読]我妹子に恋ふれにかあらむ沖に棲む鴨の浮寝の安けくもなし
[仮名],わぎもこに,こふれにかあらむ,おきにすむ,かものうきねの,やすけくもなし
[_]
[左注]
[_]
[校異]
[_]
[KW],動物,鳥,序詞,恋情

2807

[題詞](寄物陳思)

[原文]可旭 千鳥數鳴 白細乃 君之手枕 未Q君
[訓読]明けぬべく千鳥しば鳴く白栲の君が手枕いまだ飽かなくに
[仮名],あけぬべく,ちとりしばなく,しろたへの,きみがたまくら,いまだあかなくに
[_]
[左注]
[_]
[校異]
[_]
[KW],動物,鳥,枕詞,女歌,恋情