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小百合
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小百合

175

月の夜の蓮のおばしま君うつくしうら葉の御歌わすれはせずよ

176

たけの髪をとめ二人に月うすき今宵しら蓮色まどはずや

177

荷葉なかば誰にゆるすの上の御句ぞ御袖片取るわかき師の君

178

おもひおもふ今のこころに分ち分かず君やしら萩われやしろ百合

179

いづれ君ふるさと遠き人の世ぞと御手はなしは昨日の夕

180

三たりをば世にうらぶれしはらからとわれ先づ云ひぬ西の京の宿

181

今宵まくら神にゆづらぬやは手なりたがはせまさじ白百合の夢

182

夢にせめてせめてと思ひその神に小百合の露の歌ささやきぬ

183

次のまのあま戸そとくるわれをよびて秋の夜いかに長きみぢかき

184

友のあしのつめたかりきと旅の朝わかきわが師に心なくいいひぬ

185

ひとまおきてをりをりもれし君がいきその夜しら梅だくと夢みし

186

いはず聽かずただうなづきて別れけりその日は六日二人と一人

187

もろ羽かはし掩ひしそれも甲斐なかりきうつくしの友西の京の秋

188

星となりて逢はむそれまで思ひ出でな一つふすまに聞きし秋の聲

189

人の世に才秀でたるわが友の名の末かなし今日秋くれぬ

190

星の子のあまりによわし袂あげて魔にも鬼にも勝たむと云へな

191

百合の花わざと魔の手に折らせおきて拾ひてだかむ神のこころか

192

しろ百合はそれその人の高きおもひおもわは艶ふ紅芙蓉とこそ

193

さはいへどそのひと時よまばゆかりき夏の野しめし白百合の花

194

友は二十ふたつこしたる我身なりふさはずあらじ戀と傳へむ

195

その血潮ふたりは吐かぬちぎりなりき春を山蓼たづねますな君

196

秋を三人椎の實なげし鯉やいづこ池の朝かぜ手と手つめたき

197

かの空よ若狹は北よわれ載せて行く雲なきか西の京の山

198

ひと花はみづから渓にもとめきませ若狹の雪に堪へむ紅

199

『筆のあとに山居のさまを知りたまへ』人への人の文さりげなき

200

京はもののつらきところと書きさして見おろしませる加茂の河しろき

201

恨みまつる湯におりしまの一人居を歌なかりきの君へだてあり

202

秋の衾あしたわびし身うらめしきつめたきためし春の京に得ぬ

203

わすれては谿へおりますうしろ影ほそき御肩に春の日よわき

204

京の鐘この日このとき我れあらずこの日このとき人と人を泣きぬ

205

琵琶の海山ごえ行かむいざと云ひし秋よ三人よ人そぞろなりし

206

京の水の深み見おろし秋を人の裂きし小指の血のあと寒き

207

山蓼のそれよりふかきくれなゐは梅よはばかれ神にとがおはむ

208

魔のまへに理想くだきしよわき子と友のゆふべをゆびさしますな

209

魔のわざを神のさだめと眼を閉ぢし友の片手の花あやぶみぬ

210

歌をかぞへその子この子にならふなのまだ寸ならぬ白百合の芽よ