University of Virginia Library

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 人類の感情は次第にこの文化主義の実現に向って傾動しています。しかしこれに逆行する反対の利己的感情がまだ多分に残っていますから、最近の大戦のような文化生活の破壊を試みる一大蛮行が突如として発生もしましたが、人は到底野獣の生活に還元されるものでなく、かえってこの大戦から受けた刺戟に由って、世界は一つの大きな自覚を加え、――それはあたかも大火に った都会が、その莫大な災厄に由って建築の上にかねて計画していた新しい理想を実現する機会を見出し、都会の面目を一新するように――文化生活の方へ在来の生活を急に躍進させるのに必要な一つの転機を作ったと思います。

 その中にも最も偉大な自覚であると思うのは、民衆が自己の個性の威厳と力量とに、一層顕著に目覚めて来たことです。例えば労働者がその集団を以てすれば、資本家階級に対抗して優に対等の争闘的実力を成立し、久しく従属的奴隷的の階級として資本家の圧迫の下に ちいさ くなっていた屈辱的地位から解放される見込があるという確信を持つに到ったことなどは、実に驚くべき民衆の自覚を証明する現象の一つだと思います。

 この現象は、 巴里 パリイ の平和会議において、我国の講和委員たちが「資本家と労働者との関係が世界とはちがった別種の道徳の中に調和されている」と述べた所の我国にも発生して来ました。最近において東京に起った活版職工その他の幾多の同盟罷工は、この現象の外に何を語るでしょうか。