University of Virginia Library

八島院宣

去程に平三左衞門重國、御坪の召次花方、八島に參て、院宣をたてまつる。大臣殿以下一門の月卿雲客寄合ひ給ひて、院宣を開れけり。

一人聖體、北闕の宮禁を出で、諸州に幸し、三種の神器、南海四國に埋れて、數年を歴、尤朝家の歎き、亡國の基なり。抑かの重衡卿は、東大寺燒失の逆臣なり。すべからく頼朝の朝臣申請る旨に任せて、死罪に行るべしといへども、獨親族に別て、既に生捕となる。籠鳥雲を戀る思ひ、遙に千里の南海に浮び、歸雁友を失ふ心、定めて九重の中途に通ぜん乎。然則三種の神器を返しいれ奉らんに於ては、彼卿を寛宥せらるべき也者、院宣此の如し。仍執達如件。 壽永三年二月十四日   大膳大夫成忠が奉 進上平大納言殿へ

とぞ書かれたる。