University of Virginia Library

大谷川

 馬返しをすぎて少し行くと大谷川の見える所へ出た。落葉に埋もれた石の上に腰をおろして川を見る。川はずうっと下の谷底を流れているので幅がやっと五、六尺に見える。川をはさんだ山は紅葉と黄葉とにすきまなくおおわれて、その間をほとんど純粋に近い 藍色 ( あいいろ ) の水が白い ( あわ ) ( ) いて流れてゆく。

 そうしてその紅葉と黄葉との間をもれてくる光がなんとも言えない暖かさをもらして、見上げると山は私の頭の上にもそびえて、青空の画室のスカイライトのように狭く限られているのが、ちょうど岩の間から深い ( ふち ) をのぞいたような気を起させる。

 対岸の山は半ばは同じ紅葉につつまれて、その上はさすがに冬枯れた草山だが、そのゆったりした肩には ( あか ) い光のある ( もや ) がかかって、かっ色の毛きらずビロードをたたんだような山の ( はだ ) がいかにも優しい感じを起させる。その上に白い炭焼の煙が低く山腹をはっていたのはさらに私をゆかしい思いにふけらせた。

 石をはなれてふたたび山道にかかった時、私は「谷水のつきてこがるる紅葉かな」という 蕪村 ( ぶそん ) の句を思い出した。