University of Virginia Library

寺と墓

 路ばたに寺があった。

  ( ) も見るかげがなくはげて、抜けかかった屋根がわらの上に 擬宝珠 ( ぎぼうし ) の金がさみしそうに光っていた。縁には ( からす ) ( ふん ) が白く見えて、 鰐口 ( わにぐち ) のほつれた紅白のひものもう色がさめたのにぶらりと長くさがったのがなんとなくうらがなしい。寺の内はしんとして人がいそうにも思われぬ。その右に墓場がある。墓場は石ばかりの山の腹にそうて開いたので、灰色をした石の間に灰色をした石塔が何本となく立っているのが、わびしい感じを起させる。草の青いのもない。立花さえもほとんど見えぬ。ただ灰色の石と灰色の墓である。その中に線香の紙がきわだって赤い。これでも人を埋めるのだ。私はこの石ばかりの墓場が何かのシンボルのような気がした。今でもあの荒涼とした石山とその上の曇った濁色の空とがまざまざと目にのこっている。