University of Virginia Library

巫女 ( みこ )

 年をとった巫女が白い衣に ( ) ( はかま ) をはいて 御簾 ( みす ) の陰にさびしそうにひとりですわっているのを見た。そうして私もなんとなくさびしくなった。

  時雨 ( しぐれ ) もよいの夕に春日の森で若い二人の巫女にあったことがある。二人とも十二、三でやはり緋の袴に白い衣をきて 白粉 ( おしろい ) をつけていた。小暗い杉の下かげには落葉をたく煙がほの白く上って、しっとりと湿った森の大気は木精のささやきも聞えそうな言いがたいしずけさを漂せた。そのもの静かな森の路をもの静かにゆきちがった、若い、いや幼い巫女の後ろ姿はどんなにか私にめずらしく覚えたろう。私はほほえみながら何度も後ろをふりかえった。けれども今、冷やかな山懐の気が ( はだ ) 寒く迫ってくる社の片かげに寂然とすわっている 老年 ( としより ) の巫女を見ては、そぞろにかなしさを覚えずにはいられない。

 私は、一生を神にささげた巫女の 生涯 ( しょうがい ) のさびしさが、なんとなく私の心をひきつけるような気がした。