University of Virginia Library

秋雜歌

1511

[題詞]崗本天皇御製歌一首

[原文]暮去者 小倉乃山尓 鳴鹿者 今夜波不鳴 寐<宿>家良思母
[訓読]夕されば小倉の山に鳴く鹿は今夜は鳴かず寐ねにけらしも
[仮名],ゆふされば,をぐらのやまに,なくしかは,こよひはなかず,いねにけらしも
[_]
[左注]
[_]
[校異]歌 [西] 謌 / 歌 [西] 謌 [西(訂正)] 歌 / <> → 宿 [西(右書)][類][紀][細]
[_]
[KW],秋雑歌,作者:舒明天皇,斉明天皇,地名,動物

1512

[題詞]大津皇子御歌一首

[原文]經毛無 緯毛不定 未通女等之 織黄葉尓 霜莫零
[訓読]経もなく緯も定めず娘子らが織る黄葉に霜な降りそね
[仮名],たてもなく,ぬきもさだめず,をとめらが,おるもみちばに,しもなふりそね
[_]
[左注]
[_]
[校異]歌 [西] 謌 [西(訂正)] 歌
[_]
[KW],秋雑歌,作者:大津皇子,植物

1513

[題詞]穂積皇子御歌二首

[原文]今朝之旦開 鴈之鳴聞都 春日山 黄葉家良思 吾情痛之
[訓読]今朝の朝明雁が音聞きつ春日山もみちにけらし我が心痛し
[仮名],けさのあさけ,かりがねききつ,かすがやま,もみちにけらし,あがこころいたし
[_]
[左注]
[_]
[校異]歌 [西] 謌 [西(訂正)] 歌
[_]
[KW],秋雑歌,作者:穂積皇子,奈良,動物,地名,季節

1514

[題詞](穂積皇子御歌二首)

[原文]秋芽者 可咲有良之 吾屋戸之 淺茅之花乃 散去見者
[訓読]秋萩は咲くべくあらし我がやどの浅茅が花の散りゆく見れば
[仮名],あきはぎは,さくべくあらし,わがやどの,あさぢがはなの,ちりゆくみれば
[_]
[左注]
[_]
[校異]
[_]
[KW],秋雑歌,作者:穂積皇子,植物

1515

[題詞]但馬皇女御歌一首 [一書云子部王作]

[原文]事繁 里尓不住者 今朝鳴之 鴈尓副而 去益物乎 [一云 國尓不有者]
[訓読]言繁き里に住まずは今朝鳴きし雁にたぐひて行かましものを [一云 国にあら ずは]
[仮名],ことしげき,さとにすまずは,けさなきし,かりにたぐひて,ゆかましものを,[くに にあらずは]
[_]
[左注]
[_]
[校異]歌 [西] 謌 [西(訂正)] 歌
[_]
[KW],秋雑歌,作者:但馬皇女,うわさ,動物

1516

[題詞]山部王惜秋葉歌一首

[原文]秋山尓 黄反木葉乃 移去者 更哉秋乎 欲見世武
[訓読]秋山にもみつ木の葉のうつりなばさらにや秋を見まく欲りせむ
[仮名],あきやまに,もみつこのはの,うつりなば,さらにやあきを,みまくほりせむ
[_]
[左注]
[_]
[校異]歌 [西] 謌 [西(訂正)] 歌
[_]
[KW],秋雑歌,作者:山部王,植物,季節

1517

[題詞]長屋王歌一首

[原文]味酒 三輪乃祝之 山照 秋乃黄葉<乃> 散莫惜毛
[訓読]味酒三輪のはふりの山照らす秋の黄葉の散らまく惜しも
[仮名],うまさけ,みわのはふりの,やまてらす,あきのもみちの,ちらまくをしも
[_]
[左注]
[_]
[校異]歌 [西] 謌 [西(訂正)] 歌 / 祝 [類](塙) 社 / <> → 乃 [類][紀]
[_]
[KW],秋雑歌,作者:長屋王,三輪,奈良,枕詞,地名,植物

1518

[題詞]山上<臣>憶良七夕歌十二首

[原文]天漢 相向立而 吾戀之 君来益奈利 紐解設奈 [一云 向河]
[訓読]天の川相向き立ちて我が恋ひし君来ますなり紐解き設けな [一云 川に向ひて]
[仮名],あまのがは,あひむきたちて,あがこひし,きみきますなり,ひもときまけな,[かは にむかひて]
[_]
[左注]右養老八年七月七日應令
[_]
[校異]巨 → 臣 [類][紀][細] / 歌 [西] 謌 [西(訂正)] 歌
[_]
[KW],秋雑歌,作者:山上憶良,七夕

1519

[題詞](山上<臣>憶良七夕歌十二首)

[原文]久方之 漢<瀬>尓 船泛而 今夜可君之 我許来益武
[訓読]久方の天の川瀬に舟浮けて今夜か君が我がり来まさむ
[仮名],ひさかたの,あまのかはせに,ふねうけて,こよひかきみが,わがりきまさむ
[_]
[左注]右神亀元年七月七日夜左大臣宅
[_]
[校異]漢 [京] 天漢 / <> → 瀬 [類][矢]
[_]
[KW],秋雑歌,作者:山上憶良,七夕

1520

[題詞](山上<臣>憶良七夕歌十二首)

[原文]牽牛者 織女等 天地之 別時<由> 伊奈宇之呂 河向立 <思>空 不安久尓 嘆空 不安久尓 青浪尓 望者多要奴 白雲尓 な者盡奴 如是耳也 伊伎都枳乎良牟 如是耳也 戀都追安良牟 佐丹塗之 小船毛賀茂 玉纒之 真可伊毛我母 [一云 小棹毛何毛] 朝奈藝 尓 伊可伎渡 夕塩尓 [一云 夕倍尓毛] 伊許藝渡 久方之 天河原尓 天飛也 領巾可多思 吉 真玉手乃 玉手指更 餘宿毛 寐而師可聞 [一云 伊毛左祢而師加] 秋尓安良受登母 [一云 秋不待登毛]
[訓読]彦星は 織女と 天地の 別れし時ゆ いなうしろ 川に向き立ち 思ふそら 安け なくに 嘆くそら 安けなくに 青波に 望みは絶えぬ 白雲に 涙は尽きぬ かくのみや 息づき居らむ かくのみや 恋ひつつあらむ さ丹塗りの 小舟もがも 玉巻きの 真櫂も がも [一云 小棹もがも] 朝なぎに い掻き渡り 夕潮に [一云 夕にも] い漕ぎ渡り 久 方の 天の川原に 天飛ぶや 領巾片敷き 真玉手の 玉手さし交へ あまた夜も 寐ねて しかも [一云 寐もさ寝てしか] 秋にあらずとも [一云 秋待たずとも]
[仮名],ひこほしは,たなばたつめと,あめつちの,わかれしときゆ,いなうしろ,かはにむ きたち,おもふそら,やすけなくに,なげくそら,やすけなくに,あをなみに,のぞみはたえ ぬ,しらくもに,なみたはつきぬ,かくのみや,いきづきをらむ,かくのみや,こひつつあら む,さにぬりの,をぶねもがも,たままきの,まかいもがも,[をさをもがも],あさなぎに,い かきわたり,ゆふしほに,[ゆふべにも],いこぎわたり,ひさかたの,あまのかはらに,あまと ぶや,ひれかたしき,またまでの,たまでさしかへ,あまたよも,いねてしかも,[いもさねて しか],あきにあらずとも,[あきまたずとも]
[_]
[左注](右天平元年七月七日夜憶良仰觀天河 [一云帥家作])
[_]
[校異]雨 → 由 [西(訂正右書)][類][紀][細] / 宇 [童蒙抄](塙) 牟 / 意 → 思 [類][紀][温]
[_]
[KW],秋雑歌,作者:山上憶良,七夕

1521

[題詞](山上<臣>憶良七夕歌十二首)反歌

[原文]風雲者 二岸尓 可欲倍杼母 吾遠嬬之 [一云 波之嬬乃] 事曽不通
[訓読]風雲は二つの岸に通へども我が遠妻の [一云 愛し妻の] 言ぞ通はぬ
[仮名],かぜくもは,ふたつのきしに,かよへども,わがとほづまの[はしつまの],ことぞか よはぬ
[_]
[左注](右天平元年七月七日夜憶良仰觀天河 [一云 帥家作])
[_]
[校異]歌 [西] 謌 [西(訂正)] 歌
[_]
[KW],秋雑歌,作者:山上憶良,七夕

1522

[題詞](山上<臣>憶良七夕歌十二首)

[原文]多夫手二毛 投越都倍<吉> 天漢 敝太而礼婆可母 安麻多須辨奈吉
[訓読]たぶてにも投げ越しつべき天の川隔てればかもあまたすべなき
[仮名],たぶてにも,なげこしつべき,あまのがは,へだてればかも,あまたすべなき
[_]
[左注]右天平元年七月七日夜憶良仰觀天河 [一云 帥家作]
[_]
[校異]伎 → 吉 [類][紀]
[_]
[KW],秋雑歌,作者:山上憶良,七夕

1523

[題詞](山上<臣>憶良七夕歌十二首)

[原文]秋風之 吹尓之日従 何時可登 吾待戀之 君曽来座流
[訓読]秋風の吹きにし日よりいつしかと我が待ち恋ひし君ぞ来ませる
[仮名],あきかぜの,ふきにしひより,いつしかと,あがまちこひし,きみぞきませる
[_]
[左注](右天平二年七月八日夜帥家集會)
[_]
[校異]
[_]
[KW],秋雑歌,作者:山上憶良,七夕

1524

[題詞](山上<臣>憶良七夕歌十二首)

[原文]天漢 伊刀河浪者 多々祢杼母 伺候難之 近此瀬呼
[訓読]天の川いと川波は立たねどもさもらひかたし近きこの瀬を
[仮名],あまのがは,いとかはなみは,たたねども,さもらひかたし,ちかきこのせを
[_]
[左注](右天平二年七月八日夜帥家集會)
[_]
[校異]
[_]
[KW],秋雑歌,作者:山上憶良,七夕

1525

[題詞](山上<臣>憶良七夕歌十二首)

[原文]袖振者 見毛可波之都倍久 雖近 度為便無 秋西安良祢波
[訓読]袖振らば見も交しつべく近けども渡るすべなし秋にしあらねば
[仮名],そでふらば,みもかはしつべく,ちかけども,わたるすべなし,あきにしあらねば
[_]
[左注](右天平二年七月八日夜帥家集會)
[_]
[校異]
[_]
[KW],秋雑歌,作者:山上憶良,七夕

1526

[題詞](山上<臣>憶良七夕歌十二首)

[原文]玉蜻蜒 髣髴所見而 別去者 毛等奈也戀牟 相時麻而波
[訓読]玉かぎるほのかに見えて別れなばもとなや恋ひむ逢ふ時までは
[仮名],たまかぎる,ほのかにみえて,わかれなば,もとなやこひむ,あふときまでは
[_]
[左注]右天平二年七月八日夜帥家集會
[_]
[校異]
[_]
[KW],秋雑歌,作者:山上憶良,七夕

1527

[題詞](山上<臣>憶良七夕歌十二首)

[原文]牽牛之 迎嬬船 己藝出良之 <天>漢原尓 霧之立波
[訓読]彦星の妻迎へ舟漕ぎ出らし天の川原に霧の立てるは
[仮名],ひこほしの,つまむかへぶね,こぎづらし,あまのかはらに,きりのたてるは
[_]
[左注]
[_]
[校異]<> → 天 [類][紀]
[_]
[KW],秋雑歌,作者:山上憶良,七夕

1528

[題詞](山上<臣>憶良七夕歌十二首)

[原文]霞立 天河原尓 待君登 伊徃<還>尓 裳襴所沾
[訓読]霞立つ天の川原に君待つとい行き帰るに裳の裾濡れぬ
[仮名],かすみたつ,あまのかはらに,きみまつと,いゆきかへるに,ものすそぬれぬ
[_]
[左注]
[_]
[校異]還程 → 還 [類][紀]
[_]
[KW],秋雑歌,作者:山上憶良,七夕

1529

[題詞](山上<臣>憶良七夕歌十二首)

[原文]天河 浮津之浪音 佐和久奈里 吾待君思 舟出為良之母
[訓読]天の川浮津の波音騒くなり我が待つ君し舟出すらしも
[仮名],あまのがは,うきつのなみおと,さわくなり,わがまつきみし,ふなですらしも
[_]
[左注]
[_]
[校異]
[_]
[KW],秋雑歌,作者:山上憶良,七夕

1530

[題詞]大宰諸卿大夫并官人等宴筑前國蘆城驛家歌二首

[原文]娘部思 秋芽子交 蘆城野 今日乎始而 萬代尓将見
[訓読]をみなへし秋萩交る蘆城の野今日を始めて万世に見む
[仮名],をみなへし,あきはぎまじる,あしきのの,けふをはじめて,よろづよにみむ
[_]
[左注](右二首作者未詳)
[_]
[校異]歌 [西] 謌 [西(訂正)] 歌
[_]
[KW],秋雑歌,福岡県,太宰府,宴席,土地讃美,地名,植物

1531

[題詞](大宰諸卿大夫并官人等宴筑前國蘆城驛家歌二首)

[原文]珠匣 葦木乃河乎 今日見者 迄萬代 将忘八方
[訓読]玉櫛笥蘆城の川を今日見ては万代までに忘らえめやも
[仮名],たまくしげ,あしきのかはを,けふみては,よろづよまでに,わすらえめやも
[_]
[左注]右二首作者未詳
[_]
[校異]
[_]
[KW],秋雑歌,福岡県,太宰府,宴席,土地讃美,枕詞,地名

1532

[題詞]笠朝臣金村伊香山作歌二首

[原文]草枕 客行人毛 徃觸者 尓保比奴倍久毛 開流芽子香聞
[訓読]草枕旅行く人も行き触ればにほひぬべくも咲ける萩かも
[仮名],くさまくら,たびゆくひとも,ゆきふれば,にほひぬべくも,さけるはぎかも
[_]
[左注]
[_]
[校異]歌 [西] 謌 [西(訂正)] 歌
[_]
[KW],秋雑歌,作者:笠金村,滋賀県,塩津,羈旅,土地讃美,枕詞,植物

1533

[題詞](笠朝臣金村伊香山作歌二首)

[原文]伊香山 野邊尓開有 芽子見者 公之家有 尾花之所念
[訓読]伊香山野辺に咲きたる萩見れば君が家なる尾花し思ほゆ
[仮名],いかごやま,のへにさきたる,はぎみれば,きみがいへなる,をばなしおもほゆ
[_]
[左注]
[_]
[校異]
[_]
[KW],秋雑歌,作者:笠金村,滋賀県,塩津,羈旅,望郷,地名,植物

1534

[題詞]石川朝臣老夫歌一首

[原文]娘部志 秋芽子折礼 玉桙乃 道去L跡 為乞兒
[訓読]をみなへし秋萩折れれ玉桙の道行きづとと乞はむ子がため
[仮名],をみなへし,あきはぎをれれ,たまほこの,みちゆきづとと,こはむこがため
[_]
[左注]
[_]
[校異]歌 [西] 謌 [西(訂正)] 歌
[_]
[KW],秋雑歌,作者:石川老夫,旅みやげ,植物

1535

[題詞]藤原宇合卿歌一首

[原文]我背兒乎 何時曽且今登 待苗尓 於毛也者将見 秋風吹
[訓読]我が背子をいつぞ今かと待つなへに面やは見えむ秋の風吹く
[仮名],わがせこを,いつぞいまかと,まつなへに,おもやはみえむ,あきのかぜふく
[_]
[左注]
[_]
[校異]歌 [西] 謌 [西(訂正)] 歌
[_]
[KW],秋雑歌,作者:藤原宇合,女歌,宴席

1536

[題詞]縁達帥歌一首

[原文]暮相而 朝面羞 隠野乃 芽子者散去寸 黄葉早續也
[訓読]宵に逢ひて朝面なみ名張野の萩は散りにき黄葉早継げ
[仮名],よひにあひて,あしたおもなみ,なばりのの,はぎはちりにき,もみちはやつげ
[_]
[左注]
[_]
[校異]謌 [温][矢][京] 歌
[_]
[KW],秋雑歌,作者:縁達帥,三重県,名張,羈旅,序詞,植物

1537

[題詞]山上<臣>憶良詠秋野花<歌>二首

[原文]秋野尓 咲有花乎 指折 可伎數者 七種花 [其一]
[訓読]秋の野に咲きたる花を指折りかき数ふれば七種の花 [其一]
[仮名],あきののに,さきたるはなを,およびをり,かきかぞふれば,ななくさのはな
[_]
[左注]
[_]
[校異]巨 → 臣 [紀][細][温] / <> → 歌 [類][矢][京]
[_]
[KW],秋雑歌,作者:山上憶良,詠物詩,植物

1538

[題詞](山上<臣>憶良詠秋野花<歌>二首)

[原文]芽之花 乎花葛花 瞿麦之花 姫部志 又藤袴 朝皃之花 [其二]
[訓読]萩の花尾花葛花なでしこの花をみなへしまた藤袴朝顔の花 [其二]
[仮名],はぎのはな,をばなくずはな,なでしこのはな,をみなへし,またふぢはかま,あさ がほのはな
[_]
[左注]
[_]
[校異]
[_]
[KW],秋雑歌,作者:山上憶良,秋七草,詠物歌,植物

1539

[題詞]天皇御製歌二首

[原文]秋<田>乃 穂田乎鴈之鳴 闇尓 夜之穂杼呂尓毛 鳴渡可聞
[訓読]秋の田の穂田を雁がね暗けくに夜のほどろにも鳴き渡るかも
[仮名],あきのたの,ほたをかりがね,くらけくに,よのほどろにも,なきわたるかも
[_]
[左注]
[_]
[校異]歌 [西] 謌 [西(訂正)] 歌 / 日 → 田 [矢][京]
[_]
[KW],秋雑歌,作者:聖武天皇,動物,季節,叙景

1540

[題詞](天皇御製歌二首)

[原文]今朝乃旦開 鴈鳴寒 聞之奈倍 野邊能淺茅曽 色付丹来
[訓読]今朝の朝明雁が音寒く聞きしなへ野辺の浅茅ぞ色づきにける
[仮名],けさのあさけ,かりがねさむく,ききしなへ,のへのあさぢぞ,いろづきにける
[_]
[左注]
[_]
[校異]
[_]
[KW],秋雑歌,作者:聖武天皇,動物,季節

1541

[題詞]大宰帥大伴卿歌二首

[原文]吾岳尓 棹<壮>鹿来鳴 先芽之 花嬬問尓 来鳴棹<壮>鹿
[訓読]我が岡にさを鹿来鳴く初萩の花妻どひに来鳴くさを鹿
[仮名],わがをかに,さをしかきなく,はつはぎの,はなつまどひに,きなくさをしか
[_]
[左注]
[_]
[校異]歌 [西] 謌 [西(訂正)] 歌 / 牡 → 壮 [定本] / 牡 → 壮 [定本]
[_]
[KW],秋雑歌,作者:大伴旅人,太宰府,植物,動物

1542

[題詞](大宰帥大伴卿歌二首)

[原文]吾岳之 秋芽花 風乎痛 可落成 将見人裳欲得
[訓読]我が岡の秋萩の花風をいたみ散るべくなりぬ見む人もがも
[仮名],わがをかの,あきはぎのはな,かぜをいたみ,ちるべくなりぬ,みむひともがも
[_]
[左注]
[_]
[校異]
[_]
[KW],秋雑歌,作者:大伴旅人,太宰府,植物,恋情

1543

[題詞]三原王歌一首

[原文]秋露者 移尓有家里 水鳥乃 青羽乃山能 色付見者
[訓読]秋の露は移しにありけり水鳥の青葉の山の色づく見れば
[仮名],あきのつゆは,うつしにありけり,みづどりの,あをばのやまの,いろづくみれば
[_]
[左注]
[_]
[校異]歌 [西] 謌 [西(訂正)] 歌
[_]
[KW],秋雑歌,作者:三原王,季節

1544

[題詞]湯原王七夕歌二首

[原文]牽牛之 念座良武 従情 見吾辛苦 夜之更降去者
[訓読]彦星の思ひますらむ心より見る我れ苦し夜の更けゆけば
[仮名],ひこほしの,おもひますらむ,こころより,みるわれくるし,よのふけゆけば
[_]
[左注]
[_]
[校異]歌 [西] 謌 [西(訂正)] 歌
[_]
[KW],秋雑歌,作者:湯原王,七夕

1545

[題詞](湯原王七夕歌二首)

[原文]織女之 袖續三更之 五更者 河瀬之鶴者 不鳴友吉
[訓読]織女の袖継ぐ宵の暁は川瀬の鶴は鳴かずともよし
[仮名],たなばたの,そでつぐよひの,あかときは,かはせのたづは,なかずともよし
[_]
[左注]
[_]
[校異]
[_]
[KW],秋雑歌,作者:湯原王,七夕

1546

[題詞]市原王七夕歌一首

[原文]妹許登 吾去道乃 河有者 附目緘結跡 夜更降家類
[訓読]妹がりと我が行く道の川しあればつくめ結ぶと夜ぞ更けにける
[仮名],いもがりと,わがゆくみちの,かはしあれば,つくめむすぶと,よぞふけにける
[_]
[左注]
[_]
[校異]歌 [西] 謌 [西(訂正)] 歌
[_]
[KW],秋雑歌,作者:市原王,七夕

1547

[題詞]藤原朝臣八束歌一首

[原文]棹四香能 芽二貫置有 露之白珠 相佐和仁 誰人可毛 手尓将巻知布
[訓読]さを鹿の萩に貫き置ける露の白玉あふさわに誰れの人かも手に巻かむちふ
[仮名],さをしかの,はぎにぬきおける,つゆのしらたま,あふさわに,たれのひとかも,て にまかむちふ
[_]
[左注]
[_]
[校異]
[_]
[KW],秋雑歌,作者:藤原八束,旋頭歌,比喩,恋歌,動物

1548

[題詞]大伴坂上郎女晩芽子歌一首

[原文]咲花毛 <乎曽>呂波Q 奥手有 長意尓 尚不如家里
[訓読]咲く花もをそろはいとはしおくてなる長き心になほしかずけり
[仮名],さくはなも,をそろはいとはし,おくてなる,ながきこころに,なほしかずけり
[_]
[左注]
[_]
[校異]歌 [西] 謌 [西(訂正)] 歌 / 宇都 → 乎曽 [類][紀]
[_]
[KW],秋雑歌,作者:坂上郎女,比喩,恋歌

1549

[題詞]典鑄正紀朝臣鹿人至衛門大尉大伴宿祢稲公跡見庄作歌一首

[原文]射目立而 跡見乃岳邊之 瞿麦花 總手折 吾者将去 寧樂人之為
[訓読]射目立てて跡見の岡辺のなでしこの花ふさ手折り我れは持ちて行く奈良人のた め
[仮名],いめたてて,とみのをかへの,なでしこのはな,ふさたをり,われはもちてゆく,な らひとのため
[_]
[左注]
[_]
[校異]歌 [西] 謌 [西(訂正)] 歌
[_]
[KW],秋雑歌,作者:紀鹿人,大伴稲公,奈良県,桜井市,みやげ,別れ歌,地名,植物,旋頭歌

1550

[題詞]湯原王鳴鹿歌一首

[原文]秋芽之 落乃乱尓 呼立而 鳴奈流鹿之 音遥者
[訓読]秋萩の散りの乱ひに呼びたてて鳴くなる鹿の声の遥けさ
[仮名],あきはぎの,ちりのまがひに,よびたてて,なくなるしかの,こゑのはるけさ
[_]
[左注]
[_]
[校異]歌 [西] 謌 [西(訂正)] 歌
[_]
[KW],秋雑歌,作者:湯原王,植物,動物,叙景

1551

[題詞]市原王歌一首

[原文]待時而 落<鍾>礼能 <雨>零収 開朝香 山之将黄變
[訓読]時待ちて降れるしぐれの雨やみぬ明けむ朝か山のもみたむ
[仮名],ときまちて,ふれるしぐれの,あめやみぬ,あけむあしたか,やまのもみたむ
[_]
[左注]
[_]
[校異]歌 [西] 謌 [西(訂正)] 歌 / 鐘 → 鍾 [類][温][矢] / 雨令 → 雨 [万葉集新考]
[_]
[KW],秋雑歌,作者:市原王,季節

1552

[題詞]湯原王蟋蟀歌一首

[原文]暮月夜 心毛思努尓 白露乃 置此庭尓 蟋蟀鳴毛
[訓読]夕月夜心もしのに白露の置くこの庭にこほろぎ鳴くも
[仮名],ゆふづくよ,こころもしのに,しらつゆの,おくこのにはに,こほろぎなくも
[_]
[左注]
[_]
[校異]
[_]
[KW],秋雑歌,作者:湯原王,動物,季節,叙景

1553

[題詞]衛門大尉大伴宿祢稲公歌一首

[原文]<鍾>礼能雨 無間零者 三笠山 木末歴 色附尓家里
[訓読]時雨の雨間なくし降れば御笠山木末あまねく色づきにけり
[仮名],しぐれのあめ,まなくしふれば,みかさやま,こぬれあまねく,いろづきにけり
[_]
[左注]
[_]
[校異]歌 [西] 謌 [西(訂正)] 歌 / 鐘 → 鍾 [類]
[_]
[KW],秋雑歌,作者:大伴稲公,奈良,地名,季節

1554

[題詞]大伴家持和歌一首

[原文]皇之 御笠乃山能 秋黄葉 今日之<鍾>礼尓 散香過奈牟
[訓読]大君の御笠の山の黄葉は今日の時雨に散りか過ぎなむ
[仮名],おほきみの,みかさのやまの,もみちばは,けふのしぐれに,ちりかすぎなむ
[_]
[左注]
[_]
[校異]歌 [西] 謌 [西(訂正)] 歌 / 鐘 → 鍾 [類]
[_]
[KW],秋雑歌,作者:大伴家持,奈良,地名,植物

1555

[題詞]安貴王歌一首

[原文]秋立而 幾日毛不有者 此宿流 朝開之風者 手本寒母
[訓読]秋立ちて幾日もあらねばこの寝ぬる朝明の風は手本寒しも
[仮名],あきたちて,いくかもあらねば,このねぬる,あさけのかぜは,たもとさむしも
[_]
[左注]
[_]
[校異]歌 [西] 謌 [西(訂正)] 歌
[_]
[KW],秋雑歌,作者:安貴王,季節,恋情

1556

[題詞]忌部首黒麻呂歌一首

[原文]秋田苅 借蘆毛未壊者 鴈鳴寒 霜毛置奴我二
[訓読]秋田刈る刈廬もいまだ壊たねば雁が音寒し霜も置きぬがに
[仮名],あきたかる,かりいほもいまだ,こほたねば,かりがねさむし,しももおきぬがに
[_]
[左注]
[_]
[校異]歌 [西] 謌 [西(訂正)] 歌
[_]
[KW],秋雑歌,作者:忌部黒麻呂,動物,季節

1557

[題詞]故郷豊浦寺之尼私房宴歌三首

[原文]明日香河 逝廻<丘>之 秋芽<子>者 今日零雨尓 落香過奈牟
[訓読]明日香川行き廻る岡の秋萩は今日降る雨に散りか過ぎなむ
[仮名],あすかがは,ゆきみるをかの,あきはぎは,けふふるあめに,ちりかすぎなむ
[_]
[左注]右一首丹比真人國人
[_]
[校異]歌 [西] 謌 [西(訂正)] 歌 → 謌 / 岳 → 丘 [類][紀] / <> → 子 [類][紀][温]
[_]
[KW],秋雑歌,作者:丹比国人,飛鳥,宴席,豊浦寺,尼,地名,植物,季節

1558

[題詞](故郷豊浦寺之尼私房宴歌三首)

[原文]鶉鳴 古郷之 秋芽子乎 思人共 相見都流可聞
[訓読]鶉鳴く古りにし里の秋萩を思ふ人どち相見つるかも
[仮名],うづらなく,ふりにしさとの,あきはぎを,おもふひとどち,あひみつるかも
[_]
[左注](右二首沙弥尼等)
[_]
[校異]
[_]
[KW],秋雑歌,作者:沙弥尼,飛鳥,宴席,豊浦寺,動物,植物

1559

[題詞](故郷豊浦寺之尼私房宴歌三首)

[原文]秋芽子者 盛過乎 徒尓 頭刺不挿 還去牟跡哉
[訓読]秋萩は盛り過ぐるをいたづらにかざしに挿さず帰りなむとや
[仮名],あきはぎは,さかりすぐるを,いたづらに,かざしにささず,かへりなむとや
[_]
[左注]右二首沙弥尼等
[_]
[校異]
[_]
[KW],秋雑歌,作者:沙弥尼,飛鳥,宴席,豊浦寺,植物

1560

[題詞]大伴坂上郎女跡見田庄作歌二首

[原文]妹目乎 始見之埼乃 秋芽子者 此月其呂波 落許須莫湯目
[訓読]妹が目を始見の崎の秋萩はこの月ごろは散りこすなゆめ
[仮名],いもがめを,**みのさきの,あきはぎは,このつきごろは,ちりこすなゆめ
[_]
[左注]
[_]
[校異]歌 [西] 謌 [西(訂正)] 歌
[_]
[KW],秋雑歌,作者:坂上郎女,奈良県,桜井市,植物

1561

[題詞](大伴坂上郎女跡見田庄作歌二首)

[原文]吉名張乃 猪養山尓 伏鹿之 嬬呼音乎 聞之登聞思佐
[訓読]吉隠の猪養の山に伏す鹿の妻呼ぶ声を聞くが羨しさ
[仮名],よなばりの,ゐかひのやまに,ふすしかの,つまよぶこゑを,きくがともしさ
[_]
[左注]
[_]
[校異]聞 [類][紀](塙) 門
[_]
[KW],秋雑歌,作者:坂上郎女,奈良県,桜井市,地名,動物

1562

[題詞]巫部麻蘇娘子鴈歌一首

[原文]誰聞都 従此間鳴渡 鴈鳴乃 嬬呼音乃 <乏>知<在><乎>
[訓読]誰れ聞きつこゆ鳴き渡る雁がねの妻呼ぶ声の羨しくもあるか
[仮名],たれききつ,こゆなきわたる,かりがねの,つまよぶこゑの,ともしくもあるか
[_]
[左注]
[_]
[校異]歌 [西] 謌 [西(訂正)] 歌 / 之 → 乏 [万葉集略解] / 左 → 在 [万葉集略解] / 守 → 乎 [定本]
[_]
[KW],秋雑歌,作者:巫部麻蘇娘子,恋情,恋歌,大伴家持,動物

1563

[題詞]大伴家持和歌一首

[原文]聞津哉登 妹之問勢流 鴈鳴者 真毛遠 雲隠奈利
[訓読]聞きつやと妹が問はせる雁が音はまことも遠く雲隠るなり
[仮名],ききつやと,いもがとはせる,かりがねは,まこともとほく,くもがくるなり
[_]
[左注]
[_]
[校異]歌 [西] 謌
[_]
[KW],秋雑歌,作者:大伴家持,和歌,巫部麻蘇娘子,恋歌,比喩,動物

1564

[題詞]<日>置長枝娘子歌一首

[原文]秋付者 尾花我上尓 置露乃 應消毛吾者 所念香聞
[訓読]秋づけば尾花が上に置く露の消ぬべくも我は思ほゆるかも
[仮名],あきづけば,をばながうへに,おくつゆの,けぬべくもわは,おもほゆるかも
[_]
[左注]
[_]
[校異]曰 → 日 [紀][細][温] / 歌 [西] 謌 [西(訂正)] 歌
[_]
[KW],秋雑歌,作者:日置長枝娘子,大伴家持,恋歌,恋情,植物

1565

[題詞]大伴家持和歌一首

[原文]吾屋戸乃 一村芽子乎 念兒尓 不令見殆 令散都類香聞
[訓読]我が宿の一群萩を思ふ子に見せずほとほと散らしつるかも
[仮名],わがやどの,ひとむらはぎを,おもふこに,みせずほとほと,ちらしつるかも
[_]
[左注]
[_]
[校異]歌 [西] 謌
[_]
[KW],秋雑歌,作者:大伴家持,日置長枝娘子,恋歌,恋情,比喩,植物

1566

[題詞]大伴家持秋歌四首

[原文]久堅之 雨間毛不置 雲隠 鳴曽去奈流 早田鴈之哭
[訓読]久方の雨間も置かず雲隠り鳴きぞ行くなる早稲田雁がね
[仮名],ひさかたの,あままもおかず,くもがくり,なきぞゆくなる,わさだかりがね
[_]
[左注](右四首天平八年丙子秋九月作)
[_]
[校異]歌 [西] 謌
[_]
[KW],秋雑歌,作者:大伴家持,天平8年9月,年紀,動物,季節,叙景

1567

[題詞](大伴家持秋歌四首)

[原文]雲隠 鳴奈流鴈乃 去而将居 秋田之穂立 繁之所念
[訓読]雲隠り鳴くなる雁の行きて居む秋田の穂立繁くし思ほゆ
[仮名],くもがくり,なくなるかりの,ゆきてゐむ,あきたのほたち,しげくしおもほゆ
[_]
[左注](右四首天平八年丙子秋九月作)
[_]
[校異]
[_]
[KW],秋雑歌,作者:大伴家持,天平8年9月,年紀,動物

1568

[題詞](大伴家持秋歌四首)

[原文]雨隠 情欝悒 出見者 春日山者 色付二家利
[訓読]雨隠り心いぶせみ出で見れば春日の山は色づきにけり
[仮名],あまごもり,こころいぶせみ,いでみれば,かすがのやまは,いろづきにけり
[_]
[左注](右四首天平八年丙子秋九月作)
[_]
[校異]
[_]
[KW],秋雑歌,作者:大伴家持,鬱屈,奈良,雨隠,天平8年9月,年紀,地名,季節

1569

[題詞](大伴家持秋歌四首)

[原文]雨晴而 清照有 此月夜 又更而 雲勿田菜引
[訓読]雨晴れて清く照りたるこの月夜またさらにして雲なたなびき
[仮名],あめはれて,きよくてりたる,このつくよ,またさらにして,くもなたなびき
[_]
[左注]右四首天平八年丙子秋九月作
[_]
[校異]
[_]
[KW],秋雑歌,作者:大伴家持,天平8年9月,年紀

1570

[題詞]藤原朝臣八束歌二首

[原文]此間在而 春日也何處 雨障 出而不行者 戀乍曽乎流
[訓読]ここにありて春日やいづち雨障み出でて行かねば恋ひつつぞ居る
[仮名],ここにありて,かすがやいづち,あまつつみ,いでてゆかねば,こひつつぞをる
[_]
[左注]
[_]
[校異]歌 [西] 謌 [西(訂正)] 歌
[_]
[KW],秋雑歌,作者:藤原八束,奈良,鬱屈,雨隠,地名,恋情

1571

[題詞](藤原朝臣八束歌二首)

[原文]春日野尓 <鍾>礼零所見 明日従者 黄葉頭刺牟 高圓乃山
[訓読]春日野に時雨降る見ゆ明日よりは黄葉かざさむ高円の山
[仮名],かすがのに,しぐれふるみゆ,あすよりは,もみちかざさむ,たかまとのやま
[_]
[左注]
[_]
[校異]鐘 → 鍾 [類]
[_]
[KW],秋雑歌,作者:藤原八束,奈良,地名

1572

[題詞]大伴家持白露歌一首

[原文]吾屋戸乃 草花上之 白露乎 不令消而玉尓 貫物尓毛我
[訓読]我が宿の尾花が上の白露を消たずて玉に貫くものにもが
[仮名],わがやどの,をばながうへの,しらつゆを,けたずてたまに,ぬくものにもが
[_]
[左注]
[_]
[校異]歌 [西] 謌 [西(訂正)] 歌
[_]
[KW],秋雑歌,作者:大伴家持,植物

1573

[題詞]大伴利上歌一首

[原文]秋之雨尓 所沾乍居者 雖賎 吾妹之屋戸志 所念香聞
[訓読]秋の雨に濡れつつ居ればいやしけど我妹が宿し思ほゆるかも
[仮名],あきのあめに,ぬれつつをれば,いやしけど,わぎもがやどし,おもほゆるかも
[_]
[左注]
[_]
[校異]歌 [西] 謌 [西(訂正)] 歌
[_]
[KW],秋雑歌,作者:大伴利上,恋情

1574

[題詞]右大臣橘家宴歌七首

[原文]雲上尓 鳴奈流鴈之 雖遠 君将相跡 手廻来津
[訓読]雲の上に鳴くなる雁の遠けども君に逢はむとた廻り来つ
[仮名],くものうへに,なくなるかりの,とほけども,きみにあはむと,たもとほりきつ
[_]
[左注](右二首)( / 天平十年戊寅秋八月廿日)
[_]
[校異]歌 [西] 謌 [西(訂正)] 歌
[_]
[KW],秋雑歌,宴席,橘諸兄,天平10年8月20日,年紀,動物

1575

[題詞](右大臣橘家宴歌七首)

[原文]雲上尓 鳴都流鴈乃 寒苗 芽子乃下葉者 黄變可毛
[訓読]雲の上に鳴きつる雁の寒きなへ萩の下葉はもみちぬるかも
[仮名],くものうへに,なきつるかりの,さむきなへ,はぎのしたばは,もみちぬるかも
[_]
[左注]右二首( / 天平十年戊寅秋八月廿日)
[_]
[校異]
[_]
[KW],秋雑歌,宴席,橘諸兄,天平10年8月20日,年紀,植物

1576

[題詞](右大臣橘家宴歌七首)

[原文]此岳尓 小<壮>鹿履起 宇加O良比 可聞可<聞>為良久 君故尓許曽
[訓読]この岡に小鹿踏み起しうかねらひかもかもすらく君故にこそ
[仮名],このをかに,をしかふみおこし,うかねらひ,かもかもすらく,きみゆゑにこそ
[_]
[左注]右一首長門守巨曽倍朝臣津嶋( / 天平十年戊寅秋八月廿日)
[_]
[校異]牡 → 壮 [定本] / 開 → 聞 [代匠記精撰本]
[_]
[KW],秋雑歌,作者:巨曽倍津嶋,宴席,橘諸兄,天平10年8月20日,年紀,主人讃美,動 物

1577

[題詞](右大臣橘家宴歌七首)

[原文]秋野之 草花我末乎 押靡而 来之久毛知久 相流君可聞
[訓読]秋の野の尾花が末を押しなべて来しくもしるく逢へる君かも
[仮名],あきののの,をばながうれを,おしなべて,こしくもしるく,あへるきみかも
[_]
[左注](右二首阿倍朝臣蟲麻呂)( / 天平十年戊寅秋八月廿日)
[_]
[校異]
[_]
[KW],秋雑歌,作者:阿倍虫麻呂,宴席,橘諸兄,天平10年8月20日,年紀,主人讃美,植 物

1578

[題詞](右大臣橘家宴歌七首)

[原文]今朝鳴而 行之鴈鳴 寒可聞 此野乃淺茅 色付尓家類
[訓読]今朝鳴きて行きし雁が音寒みかもこの野の浅茅色づきにける
[仮名],けさなきて,ゆきしかりがね,さむみかも,このののあさぢ,いろづきにける
[_]
[左注]右二首阿倍朝臣蟲麻呂( / 天平十年戊寅秋八月廿日)
[_]
[校異]
[_]
[KW],秋雑歌,作者:阿倍虫麻呂,宴席,橘諸兄,天平10年8月20日,年紀,主人讃美,動 物

1579

[題詞](右大臣橘家宴歌七首)

[原文]朝扉開而 物念時尓 白露乃 置有秋芽子 所見喚鶏本名
[訓読]朝戸開けて物思ふ時に白露の置ける秋萩見えつつもとな
[仮名],あさとあけて,ものもふときに,しらつゆの,おけるあきはぎ,みえつつもとな
[_]
[左注](右二首文忌寸馬養 / 天平十年戊寅秋八月廿日)
[_]
[校異]
[_]
[KW],秋雑歌,作者:文馬養,宴席,橘諸兄,天平10年8月20日,年紀,植物

1580

[題詞](右大臣橘家宴歌七首)

[原文]棹<壮>鹿之 来立鳴野之 秋芽子者 露霜負而 落去之物乎
[訓読]さを鹿の来立ち鳴く野の秋萩は露霜負ひて散りにしものを
[仮名],さをしかの,きたちなくのの,あきはぎは,つゆしもおひて,ちりにしものを
[_]
[左注]右二首文忌寸馬養 / 天平十年戊寅秋八月廿日
[_]
[校異]牡 → 壮 [紀]
[_]
[KW],秋雑歌,作者:文馬養,宴席,橘諸兄,天平10年8月20日,年紀,動物,植物

1581

[題詞]橘朝臣奈良麻呂結集宴歌十一首

[原文]不手折而 落者惜常 我念之 秋黄葉乎 挿頭鶴鴨
[訓読]手折らずて散りなば惜しと我が思ひし秋の黄葉をかざしつるかも
[仮名],たをらずて,ちりなばをしと,わがおもひし,あきのもみちを,かざしつるかも
[_]
[左注](右二首橘朝臣奈良麻呂)( / 以前冬十月十七日集於右大臣橘卿之舊宅宴飲 也)
[_]
[校異]朝臣 [類] 宿祢 / 歌 [西] 謌 [西(訂正)] 歌
[_]
[KW],秋雑歌,作者:橘奈良麻呂,宴席,天平10年10月17日,年紀,植物

1582

[題詞](橘朝臣奈良麻呂結集宴歌十一首)

[原文]<希>将見 人尓令見跡 黄葉乎 手折曽我来師 雨零久仁
[訓読]めづらしき人に見せむと黄葉を手折りぞ我が来し雨の降らくに
[仮名],めづらしき,ひとにみせむと,もみちばを,たをりぞわがこし,あめのふらくに
[_]
[左注]右二首橘朝臣奈良麻呂( / 以前冬十月十七日集於右大臣橘卿之舊宅宴飲也)
[_]
[校異]布 → 希 [万葉集略解]
[_]
[KW],秋雑歌,作者:橘奈良麻呂,宴席,天平10年10月17日,年紀,植物

1583

[題詞](橘朝臣奈良麻呂結集宴歌十一首)

[原文]黄葉乎 令落<鍾>礼尓 所沾而来而 君之黄葉乎 挿頭鶴鴨
[訓読]黄葉を散らす時雨に濡れて来て君が黄葉をかざしつるかも
[仮名],もみちばを,ちらすしぐれに,ぬれてきて,きみがもみちを,かざしつるかも
[_]
[左注]右一首久米女王( / 以前冬十月十七日集於右大臣橘卿之舊宅宴飲也)
[_]
[校異]鐘 → 鍾 [定本]
[_]
[KW],秋雑歌,作者:久米女王,橘奈良麻呂,宴席,天平10年10月17日,年紀,植物

1584

[題詞](橘朝臣奈良麻呂結集宴歌十一首)

[原文]<希>将見跡 吾念君者 秋山<乃> 始<黄>葉尓 似許曽有家礼
[訓読]めづらしと我が思ふ君は秋山の初黄葉に似てこそありけれ
[仮名],めづらしと,あがおもふきみは,あきやまの,はつもみちばに,にてこそありけれ
[_]
[左注]右一首長忌寸娘( / 以前冬十月十七日集於右大臣橘卿之舊宅宴飲也)
[_]
[校異]布 → 希 [万葉集略解] / <> → 乃 [類][紀][温][矢] / <> → 黄 [西(右書)][類][紀][細]
[_]
[KW],秋雑歌,作者:長娘,橘奈良麻呂,宴席,天平10年10月17日,年紀,主人讃美,植 物

1585

[題詞](橘朝臣奈良麻呂結集宴歌十一首)

[原文]平山乃 峯之黄葉 取者落 <鍾>礼能雨師 無間零良志
[訓読]奈良山の嶺の黄葉取れば散る時雨の雨し間なく降るらし
[仮名],ならやまの,みねのもみちば,とればちる,しぐれのあめし,まなくふるらし
[_]
[左注]右一首内舎人縣犬養宿祢吉男( / 以前冬十月十七日集於右大臣橘卿之舊宅宴飲 也)
[_]
[校異]鐘 → 鍾 [類]
[_]
[KW],秋雑歌,作者:縣犬養吉男,橘奈良麻呂,宴席,天平10年10月17日,年紀,地名 ,植物,奈良

1586

[題詞](橘朝臣奈良麻呂結集宴歌十一首)

[原文]黄葉乎 落巻惜見 手折来而 今夜挿頭津 何物可将念
[訓読]黄葉を散らまく惜しみ手折り来て今夜かざしつ何か思はむ
[仮名],もみちばを,ちらまくをしみ,たをりきて,こよひかざしつ,なにかおもはむ
[_]
[左注]右一首縣犬養宿祢持男( / 以前冬十月十七日集於右大臣橘卿之舊宅宴飲也)
[_]
[校異]
[_]
[KW],秋雑歌,作者:縣犬養持男,橘奈良麻呂,宴席,天平10年10月17日,年紀,植物

1587

[題詞](橘朝臣奈良麻呂結集宴歌十一首)

[原文]足引乃 山之黄葉 今夜毛加 浮去良武 山河之瀬尓
[訓読]あしひきの山の黄葉今夜もか浮かび行くらむ山川の瀬に
[仮名],あしひきの,やまのもみちば,こよひもか,うかびゆくらむ,やまがはのせに
[_]
[左注]右一首大伴宿祢書持( / 以前冬十月十七日集於右大臣橘卿之舊宅宴飲也)
[_]
[校異]
[_]
[KW],秋雑歌,作者:大伴書持,橘奈良麻呂,宴席,天平10年10月17日,植物

1588

[題詞](橘朝臣奈良麻呂結集宴歌十一首)

[原文]平山乎 令丹黄葉 手折来而 今夜挿頭都 落者雖落
[訓読]奈良山をにほはす黄葉手折り来て今夜かざしつ散らば散るとも
[仮名],ならやまを,にほはすもみち,たをりきて,こよひかざしつ,ちらばちるとも
[_]
[左注]右一首<三>手代人名( / 以前冬十月十七日集於右大臣橘卿之舊宅宴飲也)
[_]
[校異]之 → 三 [細]
[_]
[KW],秋雑歌,作者:三手代人名,橘奈良麻呂,宴席,天平10年10月17日,年紀,地名 ,奈良,植物

1589

[題詞](橘朝臣奈良麻呂結集宴歌十一首)

[原文]露霜尓 逢有黄葉乎 手折来而 妹挿頭都 後者落十方
[訓読]露霜にあへる黄葉を手折り来て妹とかざしつ後は散るとも
[仮名],つゆしもに,あへるもみちを,たをりきて,いもはかざしつ,のちはちるとも
[_]
[左注]右一首秦許遍麻呂( / 以前冬十月十七日集於右大臣橘卿之舊宅宴飲也)
[_]
[校異]
[_]
[KW],秋雑歌,作者:秦許遍麻呂,橘奈良麻呂,宴席,天平10年10月17日,年紀,植物

1590

[題詞](橘朝臣奈良麻呂結集宴歌十一首)

[原文]十月 <鍾>礼尓相有 黄葉乃 吹者将落 風之随
[訓読]十月時雨にあへる黄葉の吹かば散りなむ風のまにまに
[仮名],かむなづき,しぐれにあへる,もみちばの,ふかばちりなむ,かぜのまにまに
[_]
[左注]右一首大伴宿祢池主( / 以前冬十月十七日集於右大臣橘卿之舊宅宴飲也)
[_]
[校異]鐘 → 鍾 [類]
[_]
[KW],秋雑歌,作者:大伴池主,橘奈良麻呂,宴席,天平10年10月17日,年紀,植物

1591

[題詞](橘朝臣奈良麻呂結集宴歌十一首)

[原文]黄葉乃 過麻久惜美 思共 遊今夜者 不開毛有奴香
[訓読]黄葉の過ぎまく惜しみ思ふどち遊ぶ今夜は明けずもあらぬか
[仮名],もみちばの,すぎまくをしみ,おもふどち,あそぶこよひは,あけずもあらぬか
[_]
[左注]右一首内舎人大伴宿祢家持 / 以前冬十月十七日集於右大臣橘卿之舊宅宴飲也
[_]
[校異]
[_]
[KW],秋雑歌,作者:大伴家持,橘奈良麻呂,宴席,天平10年10月17日,年紀,植物

1592

[題詞]大伴坂上郎女竹田庄作歌二首

[原文]然不有 五百代小田乎 苅乱 田蘆尓居者 京師所念
[訓読]しかとあらぬ五百代小田を刈り乱り田廬に居れば都し思ほゆ
[仮名],しかとあらぬ,いほしろをだを,かりみだり,たぶせにをれば,みやこしおもほゆ
[_]
[左注](右天平十一年己卯秋九月作)
[_]
[校異]歌 [西] 謌 [西(訂正)] 歌
[_]
[KW],秋雑歌,作者:坂上郎女,奈良県,桜井市,望郷,天平11年9月,年紀,地名

1593

[題詞](大伴坂上郎女竹田庄作歌二首)

[原文]隠口乃 始瀬山者 色附奴 <鍾>礼乃雨者 零尓家良思母
[訓読]隠口の泊瀬の山は色づきぬ時雨の雨は降りにけらしも
[仮名],こもりくの,はつせのやまは,いろづきぬ,しぐれのあめは,ふりにけらしも
[_]
[左注]右天平十一年己卯秋九月作
[_]
[校異]鐘 → 鍾 [類][矢]
[_]
[KW],秋雑歌,作者:坂上郎女,奈良県,桜井市,天平11年9月,年紀,季節

1594

[題詞]佛前唱歌一首

[原文]思具礼能雨 無間莫零 紅尓 丹保敝流山之 落巻惜毛
[訓読]時雨の雨間なくな降りそ紅ににほへる山の散らまく惜しも
[仮名],しぐれのあめ,まなくなふりそ,くれなゐに,にほへるやまの,ちらまくをしも
[_]
[左注]右冬十月皇后宮之維摩講 終日供養大唐高麗等種々音樂 尓乃唱此歌詞 弾琴者 市原王 忍坂王[後賜姓大原真人赤麻呂也] 歌子者田口朝臣家守 河邊朝臣東人 置始連 長谷等十數人也
[_]
[校異]歌 [西] 謌 [西(訂正)] 歌 / 謌 [温][矢][京] 歌 / 歌 [西] 謌 [西(訂正)] 歌
[_]
[KW],秋雑歌,天平11年10月,年紀,光明皇后,誦唱

1595

[題詞]大伴宿祢像見歌一首

[原文]秋芽子乃 枝毛十尾二 降露乃 消者雖消 色出目八方
[訓読]秋萩の枝もとををに置く露の消なば消ぬとも色に出でめやも
[仮名],あきはぎの,えだもとををに,おくつゆの,けなばけぬとも,いろにいでめやも
[_]
[左注]
[_]
[校異]歌 [西] 謌 [西(訂正)] 歌
[_]
[KW],秋雑歌,作者:大伴像見,恋愛,植物

1596

[題詞]大伴宿祢家持到娘子門作歌一首

[原文]妹家之 門田乎見跡 打出来之 情毛知久 照月夜鴨
[訓読]妹が家の門田を見むとうち出で来し心もしるく照る月夜かも
[仮名],いもがいへの,かどたをみむと,うちいでこし,こころもしるく,てるつくよかも
[_]
[左注]
[_]
[校異]歌 [西] 謌 [西(訂正)] 歌
[_]
[KW],秋雑歌,作者:大伴家持,恋愛,恋情

1597

[題詞]大伴宿祢家持秋歌三首

[原文]秋野尓 開流秋芽子 秋風尓 靡流上尓 秋露置有
[訓読]秋の野に咲ける秋萩秋風に靡ける上に秋の露置けり
[仮名],あきののに,さけるあきはぎ,あきかぜに,なびけるうへに,あきのつゆおけり
[_]
[左注](右天平十五年癸未秋八月見物色作)
[_]
[校異]歌 [西] 謌 [西(訂正)] 歌
[_]
[KW],秋雑歌,作者:大伴家持,天平15年8月,年紀,植物,季節

1598

[題詞](大伴宿祢家持秋歌三首)

[原文]棹<壮>鹿之 朝立野邊乃 秋芽子尓 玉跡見左右 置有白露
[訓読]さを鹿の朝立つ野辺の秋萩に玉と見るまで置ける白露
[仮名],さをしかの,あさたつのへの,あきはぎに,たまとみるまで,おけるしらつゆ
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[左注](右天平十五年癸未秋八月見物色作)
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[校異]牡 → 壮 [紀]
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[KW],秋雑歌,作者:大伴家持,天平15年8月,年紀,動物,植物

1599

[題詞](大伴宿祢家持秋歌三首)

[原文]狭尾<壮>鹿乃 胸別尓可毛 秋芽子乃 散過鶏類 盛可毛行流
[訓読]さを鹿の胸別けにかも秋萩の散り過ぎにける盛りかも去ぬる
[仮名],さをしかの,むなわけにかも,あきはぎの,ちりすぎにける,さかりかもいぬる
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[左注]右天平十五年癸未秋八月見物色作
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[校異]牡 → 壮 [紀]
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[KW],秋雑歌,作者:大伴家持,天平15年8月,年紀,動物,植物

1600

[題詞]内舎人石川朝臣廣成歌二首

[原文]妻戀尓 鹿鳴山邊之 秋芽子者 露霜寒 盛須疑由君
[訓読]妻恋ひに鹿鳴く山辺の秋萩は露霜寒み盛り過ぎゆく
[仮名],つまごひに,かなくやまへの,あきはぎは,つゆしもさむみ,さかりすぎゆく
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[左注]
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[校異]歌 [西] 謌 [西(訂正)] 歌
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[KW],秋雑歌,作者:石川広成,植物,動物,季節

1601

[題詞](内舎人石川朝臣廣成歌二首)

[原文]目頬布 君之家有 波奈須為寸 穂出秋乃 過良久惜母
[訓読]めづらしき君が家なる花すすき穂に出づる秋の過ぐらく惜しも
[仮名],めづらしき,きみがいへなる,はなすすき,ほにいづるあきの,すぐらくをしも
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[左注]
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[校異]
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[KW],秋雑歌,作者:石川広成,宴席,植物,季節

1602

[題詞]大伴宿祢家持鹿鳴歌二首

[原文]山妣姑乃 相響左右 妻戀尓 鹿鳴山邊尓 獨耳為手
[訓読]山彦の相響むまで妻恋ひに鹿鳴く山辺に独りのみして
[仮名],やまびこの,あひとよむまで,つまごひに,かなくやまへに,ひとりのみして
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[左注](右二首天平十五年癸未八月十六日作)
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[校異]歌 [西] 謌 [西(訂正)] 歌
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[KW],秋雑歌,作者:大伴家持,天平15年8月16日,年紀,孤独,恋情,動物

1603

[題詞](大伴宿祢家持鹿鳴歌二首)

[原文]<頃>者之 朝開尓聞者 足日木篦 山<呼>令響 狭尾<壮>鹿鳴哭
[訓読]このころの朝明に聞けばあしひきの山呼び響めさを鹿鳴くも
[仮名],このころの,あさけにきけば,あしひきの,やまよびとよめ,さをしかなくも
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[左注]右二首天平十五年癸未八月十六日作
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[校異]項 → 頃 [紀] / 乎 → 呼 [類][紀][矢][京] / <> → 壮 [西(右書)][紀]
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[KW],秋雑歌,作者:大伴家持,天平15年8月16日,年紀,動物,季節

1604

[題詞]大原真人今城傷惜寧樂故郷歌一首

[原文]秋去者 春日山之 黄葉見流 寧樂乃京師乃 荒良久惜毛
[訓読]秋されば春日の山の黄葉見る奈良の都の荒るらく惜しも
[仮名],あきされば,かすがのやまの,もみちみる,ならのみやこの,あるらくをしも
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[左注]
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[校異]歌 [西] 謌 [西(訂正)] 歌
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[KW],秋雑歌,作者:大原今城,奈良,荒都,地名

1605

[題詞]大伴宿祢家持歌一首

[原文]高圓之 野邊乃秋芽子 此日之 暁露尓 開兼可聞
[訓読]高円の野辺の秋萩このころの暁露に咲きにけむかも
[仮名],たかまとの,のへのあきはぎ,このころの,あかときつゆに,さきにけむかも
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[左注]
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[校異]歌 [西] 謌 [西(訂正)] 歌
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[KW],秋雑歌,作者:大伴家持,奈良,地名,植物